誤字脱字等の報告待ってまーす。
姓は朱、名は治。
この男は何の変哲もないとある村でその生をうけた。両親は父が村で農業を営み、母が地方領主のもとで百人隊長を務めるという少し変わった家系であること以外はどこにでもいる一般的な家族だった。当然少し離れた所に住む母とは毎日顔を合わせることはできなかったが、休みのたびに帰ってきてその分を埋めるかのようにたくさんの愛情を注いだ。家族円満で贅沢ではないが、生活に不自由などなかった。
父は農業をする傍らに趣味として大道芸を見せに街に行くことがあった。もともとは私用で立ち寄った際に出会った女性(未来の母)に会いに行く口実で始めたことだったが、立ち止まって見ていく観客の小さな拍手とむけてくる笑顔にたいそう感動したそうだ。父はとても器用だったので、大道芸にハマって色々と挑戦するうちにいろんな芸を編み出していった。朱治が生まれてから子育てと農業で暇を作ることが難しくなり、大道芸人として街に行くことができなくなっていたが、朱治に簡単な手遊びを見せると朱治はとても元気に喜ぶのだった。
そして朱治が6歳になったころ、父は朱治を連れて街に出かけた。
「父上、見たことのないものがたくさんあります!」
「ははは、そうだろ!だがこんなところで驚いていたら疲れてしまうぞ。」
「はじめて街に出るのですから仕方ないではありませんか!」
「ははは、それもそうか!だが俺の本気の芸を見て他に意識を向けられるかな?」
「はい!楽しみです!」
朱治はこの日をとても楽しみにしていた。父はいろいろな芸を見せてくれたが、どれも簡単なものばかりで道具を使った芸などは今回が初めてだった。
「ここらでいいかな。さあさあ皆様、お立ち寄り!これよりお見せしますは他では見れない大道芸!見るだけならお金はいらねぇ!是非見て笑顔になってくれ!」
父の快活な声に興味をひかれたのか、ちらほらと人が集まってくる。それを見て父は芸を見せ始める。その芸は朱治に見せていた簡単な手芸からはたまた日常で使う箸や装飾された扇まで幅広く、見ている観客はその芸に夢中になっていく。しばらくすると道端にもかかわらず大きな集団が出来上がっており、ひとつの芸が終わるたびに大きな拍手が起こっていた。朱地も人一倍大きな声を出して騒ぎ、とても楽しんでいた。
「さて、これから見せます芸が最後の演目となります!最後までお楽しみを!」
朱治は父の一言からこれが最後の芸になるのことがわかり、期待半分ともう少し見ていたい、という気持ちになった。それが顔に出ていたのか、父は朱治の顔を見て、突然大きな声であることを言った。
「ですが最後の演目の前にその演目を手伝ってくれる助手を紹介しましょう!息子の朱治です。」
「ええっ!?」
朱治は当然驚いた。父からは何も言われていなかったにもかかわらず、これから観客の前で芸のお手伝いをすることになったのである。
「父上、私はまだ簡単な手芸しかできませんが…、大丈夫でしょうか…?」
「問題ない!これは朱治にしかできないことだからな!」
「しかし…、」
「自信を持て、朱治!観客が待っているぞ!」
朱治は振り返ってみて次の芸を心待ちにしている観客の顔を見て、しぶしぶ手伝うことにした。
「さてこれからお見せしますはは何もないところから物を取り出す芸でございます!観客の中に中身の入っていない小さな袋をお持ちの方はいらっしゃいますかな?」
父の呼びかけに数人の観客が手を挙げ、その中から一人を指名し、朱治に袋を渡すよう指示をした。
「ありがとうございます。今ここには小さな袋がございます!見てわかる通り中身は空でございます!これを朱治に持たせます。その際、私は袋には触れません。ですが今から3つ数えた時、袋からはある物が転がり出ます。では、始めます!」
朱治は袋を持って父の前にたち、袋を観客に見えるようにかかげた。朱治からしてもどうやってそんなことができるのか見当もつかず、観客もかたずをのんで見守っている。
「1…、2…、3!」
父の掛け声とともに袋からは1つの桃が転がり落ちた。観客はその桃を確認すると、大きな驚きの声と歓声にわいた。観客は大きな拍手とともに父をたたえ、芸が終わった後には父に笑顔で感想を述べていた。その歓声はしばらくやむことはなかった。
歓声も落ち着き、朱治はと父は村に帰ることにしたが、村に帰る途中でも朱治の興奮は収まらなかった。
「父上の大道芸、とても楽しかったです!」
「ははは、それは何よりだ!俺も久々に芸ができて満足だ!」
「本当にどの芸も楽しくてずっと見ていたっかったです!ですが、最後の助手の話は一言いっておいてほしかったです。」
「いやー、ごめんな。あらかじめ言っていたら緊張してしまうだろ?それに芸には驚きと新鮮さが必要だ。お前も一緒に驚いてくれるから観客も反応しやすいんだ。」
「そういうものですか。」
「そういうものだ。」
そのあと先ほどの芸について話をしながら帰っていたが、話は最後の芸の話になっていた。
「父上、そういえば最後の芸なのですが。」
「ああ、あの芸か。あれは俺の生み出した芸の中で1、2を争うものだからな。種も見ただけではわからないよう工夫してだな」
「桃が出る瞬間に目立たないように裾から手に桃が動いていたように見えたのですが、あれはどのように行っているのですか?」
「…っ!?」
父は朱治の言葉に驚愕した。あの最後の芸は当然締めの芸であるため、どの芸にもまして練習してある自信作である。実際は袋から出てきたように見せるという視覚を使った芸であり、多くの観客から感想や質問は受けたが、誰一人として見破れなかった芸が初見でしかも齢6歳の息子に見破られたのである。確かに今まで見せてきた芸を朱治は見せることができる。しかしこれは手だけで行う手芸であり、練習すればだれでもできるようなものである。この時父は朱治には眠れる才能があることに気が付く。
「いやー、なるほどな。これはおもしろいことになったな!」
「父上?」
「朱治、帰るぞ!帰ったら俺の芸を教えてやる!」
「本当ですか、父上!」
「ああ、厳しくしていくから覚悟しな!」
「はい!」
それからというもの両親は朱治になんの才能があるのか探し始めた。母のつてから軍略の写本を借りることで朱治に読ませてみたり、母は帰ってくるたびに朱治に武を教えていった。そこから朱治には武の才能は並程度だが、知の才能があることに気づく。気づいてからは知を重点的に教えていき、8歳を超えるころには周囲では噂の神童などともてはやされることになる。
前回よりは長めにできたかな?
4000字越えの小説を書く人は尊敬の対象。