今回の話は書いていて楽しかった分、今まで最高の文字数ですね。
やっと桂花と朱治の対面です。
朱治はとても困っていた。突然の親睦会出席も確かに困った。初めて会う有力者の方たちに粗相がないか心配もした。だが結論から言うと、
「いやー、よくできた息子さんだ。初めまして私は○○というものです。」
「その年でそこまでしかっりされているとは、さすが千人隊長様の息子様だ!おっと、自己紹介が遅れました。私は△△というものです。これからよろしく頼みますね。」
「私は潁川郡を中心に幅広く商売させていただいております、□□といいます。なにかご入用のものがあればぜひともうちのお店をご利用ください!」
これには母の立場を思い返してほしい。母は全体から見たら高い地位にはいるが、それでも何人かいる千人隊長の中の一人である。だが今回の部隊の交換で武官の立ち位置で一番高い地位にいるのは母である。したがって母の周りには大きな人だかりができており、笑顔で対応している母も少し息子から見ると笑顔が引きつってきているように見える。
さて話を戻すが、そんな母と一緒についてきた息子を有力者はほっとくだろうか、いやない!(反語)
しかも朱地自身に自覚はないが、朱治は一般的によく整った顔をしていた。見た目は年若い少年だがその立ち姿からは隙がなく、一見細身に見える体も近づいて話してみるとよく鍛えていることがわかる。何よりその眼光からはすべてを見通すかのような聡明な光が見える。実際母の付き添いで来ただけの子供なら有力者の中でも数人が話しかける程度で済んでいただろう。そんなこととはつゆ知らず、途中で母の立場的な意味のみ気づいた朱治は当初予定していた心労よりももしかしたらつらい外交?をすることになった。後に朱治はこれがもしかしたら最初の仕事だったかもしれない、と酒のつまみに話したりするわけだが、今の朱治には精一杯の誠意を見せて対応するしかなかった。
荀彧は怒っていた。親睦会に出ればどうなるのかわかっていながらあの時しぶしぶ了承した自分を呪った。あの時の自分を呪っていながらも、その実今でも論破できるだけの材料がないことに絶望した。結論から言うと、
「これは荀緄殿、ご機嫌麗しゅう。そちらが噂のご息女ですかな?見ただけで瞳に知性のいろが見えますな!」
「お久しぶりです、荀緄さま。そちらの娘さまは初めてですね。私、☆☆というものです。昔から荀緄さまにはお世話になっております。」
「これは荀緄のダンナじゃないですか。久しぶりですね!おや、そちらがご息女さまですか?奥方に似て別嬪さんですね!」
「あはは……、ありがとうございます。」
どいつもこいつも父様にヘラヘラしながら話しかけ、一緒にいる私を必ずほめてくる。地元で大きな勢力を持つ荀家当主の前だからみな愛想よくふるまっているが、裏ではゲスい欲望にまみれた考えを巡らせているに違いない。考えれば考えただけ寒気がしてくるようだった。いちおう荀家に連なるものとして
荀彧は終始男に対して悪態をついていたが、実際はというと地元では荀彧の性格はある程度認知されていたりする。それこそこの親睦会に出席している有力者の半分は荀家と昔からの仲あるいは顔なじみであり、荀緄の愚痴を聞く流れで知っていたりする。確かに裏でゲスい考えを持っている輩もいるにはいたが、今まで話した有力者のほとんどはそんな荀彧に気を使っていた。そんなことには気づきもせず、決めつけと思い込みを増していく荀彧の様子に荀緄だけが気づき、小さくため息をつくのだった。
怒涛の有力者ラッシュも少し落ち着き、おのおの自分の知り合いとの歓談を楽しみ始めたころ、華照と朱治はそろって疲れた顔を見せていた。
「はー、皆さん元気ね。たかだか千人隊長の私にあそこまで来るとは思わなかったわよ。」
「それを言うなら僕なんてその千人隊長の息子だよ。多分暇なんだろうなと思っていた少し前の僕は確実に甘かったね。」
「確かに陽風は人気者だったわね。初めてのことで疲れたでしょう?」
「疲れてないと言えば嘘になりますが、これも普通では体験できない経験ですから。途中から少し楽しくなっていたかもです。」
「はぁー。陽風はやっぱり文官向きよね。」
「母上、まだ気を抜くには早すぎますぞ。まだ親睦会は終わったわけではありません。」
「それもそうね。そういえばまだ荀緄様とも会っていないし。」
「僕をお誘いしてくれた人ですね。」
「そうよ。あちらも今日はご息女のお披露目だったらしいから多分私たちと似たようなくらい忙しかったかもね。」
そう言っている華照の目線の先には和やかな雰囲気で他の有力者と会話する荀緄の姿があった。華照と同じくらいあるいはそれを越すかもしれないくらいの人と対面していながら変わらないその姿からはやはり経験の差がうかがえる。
一方、朱治はというとその荀緄に付き沿っている少女の方に目が言った。見ただけなら和やかに会話しているだけにしか見えないその顔に朱治は確かな不快感を読み取った。会話の内容はわからないが、どうしてそんな顔になってしまうのか見ていて悲しくなってしまった。人は笑顔の時が一番だ、そう考えながら朱治は思考の海に沈む。
少し時間がたち、会話を終えたのか荀緄と荀彧は朱治のもとに来た。
「先ほどぶりですな。お互いに人気者だったようで。」
「ええ、私も驚いてしまいましたわ。それでそちらがお話にあった?」
「はい、うちの娘の荀彧です。」
「ご紹介にありました、荀彧です。よろしくお願いします。」
「これはご丁寧に。こちらも息子の朱治です。」
「朱治です!初めまして、荀緄様!」
「これは大変元気がいい清々しい挨拶だな!お話にあった通り聡明そうな子ですね。」
「ありがとうございます、荀緄様。お眼鏡にかなったみたいでよかったです。」
そこから4人は何気ない会話をし、そのあと華照と荀緄は先ほどの世間話の続きをするかのように楽しそうにお話を始めた。その間荀彧と朱治は手持ち無沙汰になっていた。
「(よりにもよってここでも男なのね。見た目だけなら優男だけどこいつも他と同じ全身精液男に違いないわ!)」
「あの~、荀彧ちゃん?」
「何でしょうか?」
「少し失礼かもしれないけど、直球で聞くとどうしてそんなに不機嫌なの?」
「……っ、!?」
朱治のいきなりの発言に思考が止まってしまう荀彧。だが荀家が誇る天才は素早く持ち直し、ごまかそうとする。
「き、気のせいじゃない?」
「ううん、今のではっきりわかった。やっぱり何か我慢しているみたいだね。」
ここで来る追撃にはさすがの荀彧も口調が素に戻っていく。
「…………、いつから気づいていたの…?」
「気づいたのは僕たちのところに来る前に他の人と話していた時かな。顔は笑っていても笑っていないように見えたんだよ。勿論、気のせいかもとは思ったけど今話してみて確信したよ。」
「そう……。それで?それがあんたに関係あるの?」
「関係あるさ!目の前に無理に笑顔を浮かべる可愛い女の子がいるんだよ!それをほっとくことなんてできるわけがない!」
「……っ、!?!?」
「ましてや同じ荀攸様に教鞭していただく学友になるらしいじゃないか!これはもう無関係とはいえない!」
まくしたてるように持論を展開する朱治に最初こそ押されていた荀彧だったが、少し冷静になった頭で今の状況を確認して、、、、、、今度こそ頭に血が上った。
「ああもう、頭にきた!黙って聞いていたら言いたい放題!私がどんな立場で笑顔をふるまいていたかも分からないの!これだから口だけの猿はダメなのよ!」
「猿とは失礼な!僕はただその無理に作り出す笑顔が痛ましくて見ていられないだけだ!」
「それが分かっていないのよ!公的な場で見せる社交辞令も知らないの?礼儀も知らない猿じゃわかるはずもないのだけど!」
「また猿と言ったな!社交辞令の大切さくらい僕でも知っている!だが荀彧のそれは明らかに他とは違うものだ!現に母上との会話の時の笑顔は文句なしに可愛いかった!」
「……っ、!?!?恥ずかしいことを大声で言わないでよ、このばか!ええそうよ、あなたのお母さまとの会話は楽しかったわ。なぜなら男じゃないもの!」
「やっと本心を言ったか、この天邪鬼!」
「何よーーーーー!」
徐々に熱がこもっていく二人の喧嘩を見て、華照は荀緄に謝罪をして朱治を止めに行こうとする。が、荀緄はこれを止める。
「荀緄様はどうして止めないのです?」
「そうですね~。ちょうどよかったから、では理由になりませんか?」
「それはどういう…。」
「先ほど話した時にはぼかしましたが、荀彧は男嫌いなのですよ。そしてそのことをここにいる多くは知っています。しかし人はわかってはいても他人行儀な会話しかしない荀彧に当然好感は持ちません。このままだと同世代だけでなく世の中すべてが敵になってしまう可能性もあった。」
「そこに朱治があらわれたと?」
「そういうことです。一見皆の前で喧嘩を始める愚鈍にしか見えない行為も前提条件があることで違って見えます。それこそ今までの他人行儀な態度からあそこまで感情むき出しの喧嘩を見たら、一周回ってほほえましく見えると思いますよ。」
「よい方向に考えるとそうなりますけど、全員がそう思ってくれるとはかぎりませんよね?」
「そうですが、0と1では大きく違いますからね。これはこれでいいのですよ。それに喧嘩していますが、喧嘩している本人たちは少し楽しそうですよ。」
「あら、ほんとですね。口元が笑っています。」
「ですからそこそこ落ち着くまで当人たちの好きにさせておきましょう。」
「分かりました。そういうことにしておきましょう。」
ここから半刻(今でいう1時間)ほどたってこの喧嘩は終わった。最初こそ困惑やいろいろな感情をのせた視線が飛び交っていた場も喧嘩の後半にはかわいいものを見るような温かい目が大半を占めていた。喧嘩が終わり、それぞれが自宅に帰っていくが、荀彧と朱治はそれぞれの家で自分のしでかしたことに身もだえるのだった。
やはり桂花が可愛すぎる。それだけに尽きる。
今回少しだけ長めなので誤字脱字等の漏れがありそうで怖いですw
ではまた次回で。