ここら辺から話がどう分岐するのか?
朱治は荀攸の教鞭によって着実に力を伸ばしていた。
試験を行えば、いつも荀彧に少し届かず次席。だが象棋盤においては荀攸ですら遠く及ばない実力に成長した。一年たった今でも度々荀彧からの再戦の申し込みは絶えることなく続いており、それに朱治は飽きもせず付き合っていた。いや、飽きもせずとは語弊があるかもしれない。再戦の申し込みという言い方も優しく言い直したものである。なんとなく予想できているとは思うが…………、
「あんた、当然暇よね!?今日こそ目に物を言わせてあげるから家に来なさいよ!」
「もうしつこすぎませんかね……。勝ちが500を過ぎたあたりで数えることをやめたわけだが、さすがに飽きてきたよ。」
「あんたが飽きてきていても私が勝っていないんだから、意味ないのよ!おとなしく来なさい!当然勝つまで返さないから。」
「いやだよ!荀家に行き過ぎて門番さんとは顔なじみみたいになってるし、最初とか強面で仕事しつつ警戒した目で見ていた人たちが最近は笑顔で挨拶からの素通りだぞ!慣れすぎだろ!」
「あんた笑顔が好きだって普段からしつこいくらい言っているじゃない!問題はないでしょ?」
「笑顔でもあの温かい保護者のような目線はなんだよ!それこそ荀緄様なんてもう『息子が一人増えたようなものだよ。』なんて言って笑いながら通り過ぎて行ったんだぞ。しかも外でも話をしているのか市場とかだとなんか婿候補がなんとやらとか噂がたってて行きにくいんだよ!」
「その話はやめなさいよ!私も買い物の時に質問攻めにあったのよ!父様に言っても笑って流されから、気にしないようにしてたのにあんたのせいで思い出しちゃったじゃない!どうすんのよ!」
「それこそ知るかよ!なら家に呼ばなければいいだろ!」
「嫌よ。そんなことしたら私が噂について意識しているみたいじゃない!そんなこと考えられないわ!」
「ああ言えばこう言うな、くそ…。もう考えること自体が面倒だよ……。」
「ならおとなしく行くわよ。行くときは私と距離をとって歩きなさいよ!」
「なんだかんだ気にしているんじゃねーかよ…………。はいはい、行きますよ。行けばいいんだろ。」
辟易しながらも先に行く荀彧についていく朱治。この軽い口喧嘩も含めて噂を助長していることを二人は当然知らないが、朱治も荀彧も荀家で徹夜をすることに違和感を感じなくなってきている。おそらくこのことに気づくことはないのだろう。
…………
……………………
………………………………
荀緄はその日仕事を終わらせて珍しく飲み屋に来ていた。普段は自宅でひとり飲むことが多い荀緄も今日は連れがいた。
「ははは、いい飲みっぷりですな荀緄様!正直朱治から飲みのお誘いの話を聞いた時には柄にも合わず緊張してしまったものです。」
「様なんて堅苦しい呼び方はやめましょうよ。私のことは苑樹《エンジュ》と呼んでください。」
「それは光栄ですが、いきなり真名とは急ですな……。」
「いえ、もともと機会があれば渡したかったわけです。一度あなた方の芸をお忍びで見に行ったことがありまして。あのような素晴らしい芸を見せられるあなたは間違いなく善人でしょう。それに朱地君には荀彧がお世話になっていますし、その朱治君が尊敬されている両親方なら信頼できましょう。」
「息子の朱治を気に入ってくれているみたいで何よりです。そういうことなら私も楽風の名を託します、苑樹様!」
「様はいらないですよ?」
「まあまあ、ひとまず飲みましょう!」
「それもそうですね。不自然な話の逸らし方ですが流されておきます。」
「では………、」
「「乾杯!」」
苑樹も楽風も実は今回が初対面だったりするわけだが、似たような年に近い年の子供を持つ親同士話が話す話題は自然と子供の話になっていく。
「それにしても朱治君には本当に荀彧がお世話になっているよ。私の浅慮から男嫌いにしてしまった負い目があったわけだが、朱治君と話しているときはとても楽しそうにしているように見える。」
「それを言うなら荀彧ちゃんにも感謝していますよ。朱治の才能の話は荀攸先生から聞きましたが、競う相手がいなければ少し浮いてしまっていたかもしれない。そういう意味ならあの強気な態度で勝負してくれている荀彧ちゃんは朱治の恩人ですね。」
「そう言ってくれると私も助かります。」
「……それにしても朱治はどういう道を進むのでしょうか。あの才能はまだ伸び続けるはずですし、親としてどうすればいいんでしょうね。」
「現実的なところだと地方の文官。実力的には軍師も余裕で目指せるでしょうね。」
「まあ、そんなところになりますよね。もう少しで私塾も終わりですから決断するときなのか……。」
「なにかお考えがあるのですかな?」
「旅に出そうかと。場所ははっきりと決めてはいませんが、あの才能と向き合うためには必要なことだと思っています。多くの人に触れてたくさんのことを知ることができるはずです。」
「あの年で旅ですか。まだ齢10歳ですよね?さすがに誰か共に行く大人が必要なのでは?」
「そこらへんは大丈夫ですね!朱治はもう家内よりも強い子ですから。」
「……え、えっとそれが本当のことだとすると朱治君は軍師より将軍の方がむいているのでは?」
「ははは、それはさすがに過大評価過ぎますが、自衛は問題ないと思います!ですが確かに一人旅という点には私もつっかかるものがあります。家内は当然仕事ですし、まず家族がついていったら旅の意味がなくなってしまう。」
「そこらへんは朱治君に話してから詰めていけばでいいと思いますよ。私塾もあとひと月ちょっと。荀彧も仕官の話がちらほら出始めてきたのでそろそろ話そうと思っていたところです。」
「そうですね。ありがとうございます、苑樹様!相談にのってもらっちゃって。」
「いえ、かまいませんよ楽風。真名を交換した仲ではないですか?それと様はいりません。」
「湿っぽいのはここら辺で終わりにして飲みなおしましょう!まだまだ夜は長いですよ!」
「それはいいですね。私の様付けを外すまでやりましょうか…!?」
「おっと、苑樹様も酔いが回ってきたみたいで!これは楽しくなってきましたな~」
「ええい、人の話を聞けーーーーーーーー!」
それから朝まで飲み続ける二人。先ほどまで落ち着いていた荀緄の騒ぐ姿に荀彧ちゃんは父親似なのかな~、と能天気なことを考えつつも帰って朱治に話す内容を考える楽風だった。
というわけで8話でした。
皆様からのご指摘であとがき編集という形になり、すみません。
活動報告に改めて同じような内容を載せるので気が向いた方はよろしくお願いします。
これからも駄文ですがお付き合いください!