前回のお話から実に1年以上経過しての投稿になります。お待たせして申し訳ありません。
前回までご覧いただいていた方も今回初めて見るという方もお楽しみいただければと思います。
ではどうぞ。
「じゃあ神代君、今日はこの地域の清掃をお願いね。」
「うぃーす、了解です。」
場所は変わり、悠吾は今アルバイト先の事務所に来ていた。トップス地域の清掃と1言と言っても1人で全域を掃除するわけではない。担当する職員が区画毎に決められている。今回悠吾が担当するのはある公園のようだ。
事務所からでると修理が終わったDホイールに乗りトップスを目指す。
『やっぱトップスってすげえ…ネオドミノシティ全体が近未来て感じだけどここは特にその色が強いし何より大きい建物が多いな』
そしてその警備も強固なものだった。トップス区画に入るだけでセキュリティが駐在するゲートを通らなければならない。
『えーっと…指定された住所はここだな。うおっ…でっけぇ公園だな、見た感じは綺麗だけど意外にゴミとか汚れてるとこあるっていってたっけ』
事務所から支給された掃除道具を手に早速掃除に取りかかる悠吾。確かに見えないところにゴミが結構落ちている。外側からみると分からないことがあるものだ、そんなことを考えながら手を動かす。
ゴミ掃除のバイトなど前の世界にいたときもやったことがなかったので少々不安であったが、作業中誰とも喋れず少し寂しく感じる以外は順調に進んでいった。案外自分はこのバイトが向いているのかもしれないとすら思った。
あらかた作業を終え、あとは出たゴミを片付けて帰るだけ、となったとき公園の前に如何にもお金持ちが乗っていそうな大きなリムジンが停まる。トップスにいるのだからリムジン自体は珍しくないが、ドアが空き中から見知った顔の人物が出てくる。
「アルバイトお疲れ様です。それにしても奇遇ですね。こんなに早くまた会えるとは」
ニコニコと胡散臭い笑顔を浮かべてリムジンから出てきたのはなんと北条エリだった。それを見て悠吾は唖然として固まる。
「な…なんでここにいるんだよ!?まさか…後つけてきたんじゃねーだろな!?」
「私がそんなストーカー紛いの真似をすると思いますか?家がこの近くでたまたま通りかかっただけですよ。」
確かにエリの実家がこの近くだということは嘘ではないだろうしそんな偶然もあるかもしれない。しかし悠吾の今までのエリに対する印象からするとその言葉を素直には受け入れられなかった。
「あ。そー…んで、何の用?見ての通り俺バイト中なんだけど」
「そうなのですか?確かそろそろシフトの時間が終わると聞いたのですが」
「そうなんだけど……ってなんで俺のバイトのシフト時間知ってんだよ!?」
「まあ、細かいことはいいじゃないですか。」
手元の手帳を見ていたかと思うとそれをパタンと閉じて笑顔で答える。今まで生きてきてこれほど人の笑顔が怖いと思ったことはない。校内ではお嬢様で誰に対しても平等に接する人格者という噂を聞いたのだが猫を被っているようだ。
『マジでこの人は敵に回したらいけない人だ……!!』
つい最近決まったバイトの情報を知っているとは思いもしなかった。これが権力の力といったところか。エリの持っている手帳にどれだけの人間の情報が載っているのか考えただけでも恐ろしい。
「ん?今何か失礼のことを考えていませんでしたか?」
「い、いや…何でもない。」
下手なことを言ったら何をされるか分かったものではない。ここは黙っておこうと口を紡ぐ悠吾。
「まあいいでしょう、それよりこれからデュエルで対決といきませんか?」
「いきなり来たと思えばデュエルかよ…お嬢様つってもワガママは大概にした方がいいぜ。」
自分に用事があるとしたら放課後デュエルを挑まれた件以外に思い付かない。しかし悠吾はバイトで疲れていた上に気が進まなかった。
「つまり断るということですか?」
「そういうことだ。ワリーけどこれで俺は帰らせてもらうわ。」
そう言うとくるりと背を向けて公園から出ていこうとする。それを見るとエリはやれやれといった表情をし、再び手帳を開く。
「神代悠吾君、年齢17歳、出身地はネオドミノシティ。成績は中の上ですが、最近急にデュエルの腕が急激に上がったとか…好きな女性のタイプは年上キツめでしっかり者…成る程、見かけによらずドMなんですねぇ。」
「ちょ、ちょっと待ってやコラァ!」
猛スピードで振り替えるとこれまた目にも止まらぬ早さでエリに詰め寄る。
「年齢とか住所は兎も角なんでそんなことまで知ってんだ!」
「あら?違いましたか?」
「いや…確かにあってる……じゃなくて!どっからそんな情報仕入れてきてんだよ!」
「それら企業秘密というやつです。しかし困りましたね、デュエルを受けてもらえないとなるとうっかり口が滑って全校生徒の前であらぬことを喋ってしまうかも…」
『こ、この女……』
どうやらあの手帳には個人情報以外にも他人に知られたくないような恥ずかしいことまで記されているようだ。いよいよ本格的に恐怖を感じるが、ここで歯向かうと何をされるか分かったものではない。喉まで出かかった悪態をぐっとこらえる。
「わ、分かったよ。デュエルすりゃあいいんだろ!」
「快く受けて頂いて何よりです。」
そう言ってペコリと頭を下げるが脅されているようなものだ。気は進まないがこうなった以上デュエルを受けないわけにはいかないだろう。
「やるならさっさと始めようぜ」
Dホイールに内臓されているデュエルディスクを取り外し腕にセットする。それを見たエリも鞄からデュエルディスクを取り出し構える。その表情は先程の柔らかい笑顔ではなく、まるで獲物を前にした肉食獣のような目をしている。
『北条エリ、か…雰囲気から察するに間違いなく実力者だ。《クリアウィング》、今回も頼りにしてるぞ』
ツァン戦の時のように心のなかで《クリアウィング》に声をかけて願掛けをする。しかし前回と違い白竜が悠吾の呼び掛けに答えることはなかった。
『《クリアウィング》……?』
「さあ、始めましょう!デュエル!!」
「デュ、デュエル!!」
エリ
LP4000
悠吾
LP4000
若干違和感を覚えつつもデュエルをスタートさせる。懸念はあるが今は目の前の相手に集中すべきだろう。
「私の先攻ですね、ドロー!」
その華奢な見た目とは裏腹に勢いよくカードをドローする。エリのデッキ内容が分からない為、油断は禁物だ。下手をすれば先攻1ターン目で大量のモンスターを展開され、手をつけられなくなってしまうだろう。
「あまりいい手札ではないですね、まずは手札交換といきましょうか。魔法カード《天空の宝札》を発動します。手札の《光神機ー轟龍》を除外してカードを2枚ドローします。」
素早く手札交換をするエリ。除外した《光神機ー轟龍》は強力なモンスターだが高レベルな為手札では腐ると判断したのだろう。そして直ぐにドローしたカードを発動させる。
「さて、下準備といきましょうか。《神秘の代行者アース》を通常召喚!」
神秘の代行者アース
ATK1000
先程の《轟龍》と同じ天使族モンスター。男性なのか女性なのか分からない中性的な見た目をしている。これまででプレイしたカードの枚数は3枚だがどのようなデッキかを特定するには十分だった。
「【代行天使】か…こりゃまた厄介なデッキだな」
「正解です。では《アース》の効果でデッキから《創造の代行者ヴィーナス》を手札に加えます。もう少し展開したいですが…《天空の宝札》の効果で特殊召喚はできませんのでカードを1枚伏せてターンエンドです。」
エリ
LP4000
モンスター
神秘の代行者アース
ATK1000
魔法・罠
伏せ1枚
「俺のターンドロー、さてどうするかな…」
エリのフィールドには《アース》が攻撃表示で棒立ちしており戦闘破壊は容易だが、伏せカードも気になる上にコンバットトリックの可能性もある。
悠吾の手札も良いとは言えないうえに手札交換カードもない。
『この手札じゃシンクロ召喚はムリだな…墓地も肥えてないし手堅くいくか』
「俺は《SRパチンゴーカート》を召喚!」
SRパチンゴーカート
ATK1800
「【SR】ですか…聞いたことのないテーマですがおもちゃをモチーフにしていて可愛いですね」
「見た目で判断しない方がいいぜ!《パチンゴーカート》の効果発動!手札から機会族の《SR電々太鼓》を捨てて《アース》を破壊!」
キリキリと音をたて《パチンゴーカート》が《アース》に狙いを定めると勢いよく弾を発射する。そのまま着弾しアースは破壊される。
『伏せカードは発動なし…か。』
「バトル!《パチンゴーカート》でダイレクトアタック!」
「攻撃宣言時、永続罠、《奇跡の降臨》を発動して除外されている《轟龍》を特殊召喚します。」
光神機ー轟龍
ATK2900
除外されていた《轟龍》を直ぐに呼び戻す。恐らくこの展開も考えて先程除外したのだろう。
「2900…!攻撃はやめてメイン2にはいる。カードを2枚伏せてターンエンドだ。」
悠吾
LP4000
モンスター
SRパチンゴーカート
ATK1800
魔法・罠
伏せ2枚
「私のターン、ドロー。さて、そろそろ本気で行きましょうか。」
明らかにまとう雰囲気が変わる。手札は5枚、打てる手はいくらでもある。
「《創造の代行者ヴィーナス》を通常召喚して効果を発動します!何かありますか?」
「いや…発動するカードはない」
やはりと言うべきか、前のターンにサーチした《ヴィーナス》を召喚し、効果を発動させる。出来るなら止めたいが、その術は悠吾にない。
「ではライフを1500支払いデッキから《神聖なる球体》を3体特殊召喚します。」
エリ
LP4000→2500
神聖なる球体×3
DEF500
ライフポイントを削ってしまうがデッキからモンスターを直接リクルートできるのは強力だ。あっという間にエリのフィールドがモンスターで埋め尽くされる。
「ワラワラ出てきやがって…まるであいつらみてーだな。」
1ターンで複数体を並べるのはゴーストが使用する機皇帝を彷彿とさせる。
「普通は低攻撃力だとバカにする人が多いのですが貴方は違うようですね。ではもうひと押し、《神聖なる球体》を除外することでチューナーモンスター、《異次元の精霊》を特殊召喚します。」
異次元の精霊
ATK0
「チューナーにそれ以外のモンスター、くるか…」
「私はレベル2の《神聖なる球体》2体とレベル3の《ヴィーナス》にレベル1の《異次元の精霊》をチューニング!」
4体にもよるシンクロ召喚、合計レベルは8
「大いなる閃光、星々の輝きを束ね断罪の剣閃となせ。シンクロ召喚!力を貸してください!《神聖騎士パーシアス》!」
神聖騎士パーシアス
ATK2600
「オイオイ、手加減無しだな」
「ええ。貴方には全力でお相手させていただきます。私のエースモンスターもご覧にいれましょう。
墓地の《創造の代行者ヴィーナス》を除外しモンスターを特殊召喚します。」
「この召喚条件…代行天使のリーダーのおでましか」
天空から光が降り注ぐ。
「天空に住まいし、太陽神よ。矛向ける敵を焼き払え!来てください、《マスター・ヒュペリオン》!」
マスター・ヒュペリオン
ATK2700
これでエリのフィールドには上級天使が3体。その1体1体が高い攻撃力と強力な効果を備えている。
「流石にやるな、一気にケリつける気か?」
「そうですね、ですがその前に邪魔な伏せカードを除去させてもらいます。《マスター・ヒュペリオン》の効果!墓地の《ヴィーナス》を除外して伏せカードを破壊します。」
破壊されたカードは《聖なるバリアー・ミラーフォース》ドンピシャで攻撃反応型トラップを撃ち抜く。
『《ミラフォ》が…!』
「《ミラーフォース》ですか、物騒な罠をしかけていたようですがこれで安心ですね。バトル!《パーシアス》で《パチンゴーカート》を攻撃!そして効果を発動します!」
《パチンゴーカート》が防御の姿勢を取り、守りにはいる。
SRパチンゴーカート
DEF1000
「なるほど、表示形式変更効果か…でもそれじゃあ戦闘ダメージは与えられねーぞ?」
「焦らないでください。《パーシアス》は貫通効果を持っています」
表示形式を変更できるうえに貫通効果を持っているということは攻撃力、守備力が2600未満のモンスターを戦闘破壊した上でダメージも与えられる。中々に優秀な効果を持っている。
悠吾
LP4000→2400
勿論《パチンゴーカート》の守備力が届く訳もなく呆気なく破壊されてしまう。しかしまだエリには天使2体の攻撃が残っている。
「これで終わりですか?《マスター・ヒュペリオン》でダイレクトアタック!」
《マスター・ヒュペリオン》が発した炎が悠吾に襲いかかる。
「クッソ…!罠発動、《ピンポイント・ガード》!墓地から《パチンゴーカート》を蘇生し、このターン如何なる方法でも破壊されない!」
「まだ踊れるようですね。《轟龍》で《パチンゴーカート》を攻撃!《轟龍》も《パーシアス》と同じ貫通効果を持っていますよ。」
「んだと!?ぐぅぅ……!」
悠吾
LP2400→500
あっという間にライフポイントが500まで追い込まれる。これがライディングデュエルだったらデッドラインを越えていて危ないところだった。
『畜生……ライフが尽きねえように立ち回るので精一杯だ』
「私はこれでターンエンドです。そろそろ例のドラゴンを見せていただけますか?」
エリ
LP2500
モンスター
マスター・ヒュペリオン
ATK2700
神聖騎士パーシアス
ATK2600
光神機ー轟龍
ATK2900
魔法・罠
奇跡の降臨
「俺のターンドロー…どうやらお望み通りあいつを呼べるみたいだぜ」
ドローしたカードを見てニヤリと笑う悠吾
『今引いたのは《三つ目のダイス》。こいつと《パチンゴーカート》で《クリアウィング》を呼べる…!』
「俺は《SR三つ目のダイス》を通常召喚!そしてレベル4の《パチンゴーカート》にレベル3の《三つ目のダイス》をチューニング!」
レベル合計は7。呼び出すシンクロモンスターは勿論決まっている。
「その美しくも雄々しき翼翻し、光の早さで敵を討て、シンクロ召喚!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!」
エクストラデッキに手を伸ばし当然のようにそのモンスターを召喚しようとするが、一向に召喚時のエフェクトが起こらない。
「え……?どういうことだ!?おい、《クリアウィング》!何で召喚できねえんだよ!」
何度もディスクに反応させようとするが《クリアウィング》がその呼び掛けに答えることはなかった。
『こんな時にディスクの故障か!?他にレベル7のシンクロモンスターはいないってのに』
「どうしました?シンクロ召喚はしないのですか?」
「クソッ…俺はこのままターンエンドだ…」
シンクロ召喚は出来ない上にこれ以上モンスターを展開することもかなわない。手札をみたが、伏せカードで逆転も難しそうだ。例えブラフで伏せたとしてもエリは躊躇しないだろう。
悠吾
LP500
モンスター
SRパチンゴーカート
DEF1000
SR三つ目のダイス
ATK300
魔法・罠
無し
「私のターンドロー…聞いていた話と随分違いますね」
エリのターンとなりゆっくりと自分のデッキからカードを引く。そして少し期待はずれと言った表情をしていた。
「どういう意味だよ?」
「もっと歯応えのあるデュエルを期待していたのですが…さっきターンの立ち回りといい、正直期待外れですね。」
散々な言われようだが確かに悠吾も思い当たる節がある。ゴーストとのデュエル以降どうしても気持ちが半歩下がってしまう。クリアウィングを召喚できなかったのもこのことが原因かもしれない。そう思い何も言い返せずに項垂れてしまう。
「……残念です。興が冷めました。悪いですがデュエルはここまでとさせてもらいます。」
「な、何!?」
そういうとエリはデュエルディスクの電源を落とす。それと同時にモンスターも消える。しかし悠吾はそのエリの行動に納得していないようだ。
「なんでデュエルを…」
早々に立ち去ろうとするエリの背中に向かって悠吾が叫ぶとエリは立ち止まり振り返ると冷たくいい放つ。
「先程も言った通り今のあなたに戦意を感じません。何があったかは知りませんが心に迷いがあるようですね。無理矢理誘ってしまいすいませんでした。また機会があればお手合わせ願います。」
「あぁ…そうかよ…」
迷いがあるという図星をつかれてしまってこう言い返すのが精一杯だった。確かに無理矢理誘われたという形とはいえ、デュエルになった以上は本気で相手をしようと考えていた。しかし実際にデュエルをして、思っていた以上に自分は上の空だったようだ。そのせいかクリアウィングも呼びかけには答えてくれない。
『どうすりゃいいんだよ…』
大好きだったデュエルがゴーストとの一件以来『恐怖』を感じる対象へと変わってしまった。そのせいで満足にデュエルを出来なくなってしまった。どうすれば解決できるか考えたところで何も思いつかなかった。
エリが去った後もしばらくその場に立ち尽くしているとポツポツと雨が降り始めた。空を見上げると先程までの快晴とはうって変わって曇天の空が広がっていた。
まるでそれは悠吾の心を表しているかのようだった。
最後までご覧いただきありがとうございました。
エリさんのデッキは【代行天使】にさせていただきました。代行天使は私もかなり思い入れのあるデッキとなっています。マスターヒュペリオンカッコいいですよね。
さて、物語の方は悠吾君がスランプに入ってしまいましたね。彼はこの逆境を乗り越えれるのか、それともこのまま潰れてしまうのか。気になる方は次回もお楽しみに!
感想などお待ちしてます。