某日、雄英高校敷地内。
プレゼントマイクによる
俺、物部諦は実技試験会場で開始の時を待っていた。先程聞いた試験概要を思い返し、自分の個性との相性の悪さに思わず苦笑する。ロボットには物欲無いもんなぁ…。そう心の中で独りごちた後、気持ちを切り替え、表情を引き締めた。
周囲を観察すると、他の受験者も緊張を和らげようとしていたり集中力を高めていたりと、思い思いに試験開始の時を待ち構えている。きっと俺と違って今回の試験におあつらえ向きの、如何にもヒーローといったような個性を持っている人もこの中にたくさんいるのだろうな、と考えるとやはり少しだけ羨ましい。
だが俺の個性は“物欲センサー”だ。
到底ヒーローらしいとは言えない個性だ。
それでもどんな力だって使い方次第だと俺は思う。
俺はヒーローとしてこの個性を振るおう。守るべきものを守るために、この力を使おう。その為の第一歩を今日、確かに踏み出そう…
「《ハイ、スタートォ》」
え、という戸惑いの声を上げたのは誰だったか。
余りにも緊張感の無い合図に殆どの受験者が動きを止める中スピーカーからはプレゼントマイクのこちらを急かす声が聞こえてくる。慌ててスタートを切る受験者達だが、物部諦はというと最初の合図に反応して逸早く動き出した
……なんてことは無く、普通にその他大勢と同じように出遅れた。
物部諦はひたすら会場の奥を目指して走り続けていた。
___俺の個性は
だから一見、今回の試験は為す術もないように思えるかもしれない。だがどん詰りに見えて実は抜け道があるのだ。どの個性もそうなのかもしれないが…俺の個性には弊害があるから、それを利用させて貰う。
考えてみろ。欲しい物が手に入らないということは?
思い返してみろ。ガチャ爆死した時の記憶を。
そう。
欲しい物が手に入らないということは、
出力を調整しながら丁寧に個性を発動する。ロボットを
「《標的確認》」
「《標的確認》」
「《標的確認》」
「「「《ブッコロス!!!!》」」」
ゴキブリホイホイならぬロボットホイホイの出来上がりなんですよねー!!
複数体のロボットに追いかけられながら必死に足を動かしてフィールドの奥へと突き進む。これが可愛い女の子達だったら良かったのに…後ろを見てもあるのは無骨な鉄の塊、というか後ろを見た時点でやられるという殺意100%仕様なのだから理想と現実のギャップが酷い。
…全力で走ったおかげで余裕を持って目的地に辿り着けた。くるりと向きを反転し、ロボットの群れを正面に捉える。
背後は壁、そして俺の右側にもまた壁。俺の正面から左手側にかけてぐるりと扇形状にロボットが囲んでいる。かなりの数だ…が、自分の視界に収まる範囲に固まってくれていれば問題ない。
__今の俺は、はたから見たら絶体絶命の状況に見えたりするのだろうか。俺としては他の受験者を巻き込まず、楽に仮想敵を殲滅できる状況に持っていけたのでピンチどころかむしろだいぶリラックスしかけているくらいだが。
ロボットが攻撃を仕掛けようとこちらへ接近してくるのを視認して、こちらも個性をいつでも切り替えられるように集中する。あまり接近を許してしまうと視界が塞がって撃ち漏らしが出てしまうので、この辺りで行動に移そうか。
俺は個性を切り替えた。欲しくない物に限ってやたら手に入ってしまうという力から、欲しい物が手に入らないという個性本来の力へと。個性の対象はまたしても俺。俺は俺に対して個性を使い、こう強く意識した。___この場にいるロボットをよく見たい、と。
彼の個性は、欲したものを決して手に入れさせない。そして彼は、ロボットの姿をその目に映すことを願った、求めた、欲した。
結果、彼の個性は何が何でも“物部諦にロボットを見させない”ために因果にすら干渉する。
個性を発動した一瞬後、ロボットの群れは再び物部諦の視界に入る前に跡形も無く消え去った。
同日、某所にて。
彼ら…雄英高校教師陣はモニター越しに実技試験の様子を見ていた。そのモニターと試験の結果…成績順位のデータを見比べながら、ヒーローとして相応しいか各々の所見を述べていく。
総合1位の受験者やレスキューポイントのみで合格した受験者など特に目立った者が何名か話題に上った。物部諦も、その中の1人である。
「彼、10体以上の仮想敵を一瞬で倒すなんて凄いじゃない」
「だがあれ程の威力だとオーバーキル…現場では扱いづらいのでは?」
賛否両論の声が上がる中、1人が彼の個性届けの情報に目を通す。
「物欲センサーという個性…かぁ、初めて聞く個性だ」
「かなり珍しい個性である上、コントロール能力も、断続的に個性を使うタフさも持ち合わせているようじゃないか」
「レスキューポイントも高いし、精神性についても文句ないのでは?」
「あぁ…」
先程見た試験の映像を思い返す。
彼…物部諦は、10体以上の仮想敵を殲滅した後、元来た道を戻るように走った。その道中で彼は見つけた様だった。その時まさに絶体絶命の状況にあった受験者の存在を。
彼は即座に仮想敵へと突進していった。
「ロボットをこの目で見ることが俺の最大級の望み!!!!!!」
そう叫びながら、恐らく個性を使ったのだろう。
一瞬で仮想敵は消失した。
同様の手段で彼はピンチの受験者を助け続け、着実にレスキューポイントを積み重ねた。
しかし誰かを助ける度に「ロボットを見たい何としてでも!!!!」「ロボットを!!この目で!!舐め回すように見たい!!」「ロボットォォオオ!!ちょっとその面よく見せろお!!!!」などと叫び回っていたため周囲の彼を見る目は完全に不審者に対するそれである。当然だ、周りの受験者達は彼の個性の事情など知らないのだから。
「…………自分の名誉よりも人々の安全を優先すべき場合もあるさ!!!!」
「確かにその通り!彼はヒーローの自己犠牲の精神を示したといえるね!」
「(物は言いようだな…)」
斯くして、物部諦は雄英高校ヒーロー科に無事合格したのであった。