キャルト・ア・ジュエ   作:黄金馬鹿

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全然ストック無いけど更新再開

新キャラ出るよ


第十七歩

「レオン、洗濯物ここに置いておくから後はよろ」

「はいはい」

 

 ロハスから譲渡された豪邸に住み始めてから一週間の時間が経過した。

 初日のアレのせいで三日ほど顔を合わせられないという珍事があったものの一週間もあればこの広い家にも二人の生活感が染みつき始めていた。三階のベッドがあった部屋を自分の部屋としたレオンと二階の天蓋付きベッドがある明らかに女性向けの部屋を自分の部屋としたフィル。宿なんかよりもずっと広い部屋に未だに慣れ切っていない二人だが、この豪邸での暮らしは中々に快適だった。

 暮らしに必要なものは一通り揃っているし部屋も一室一室が広いためスペースを贅沢に使える。そして家に居るのに体を鍛えることが出来る。体が資本の二人にとっては本当に住みやすく有り難い家だ。

 家事をほぼ担当しているレオンはフィルから渡された洗濯物を洗濯機に突っ込む。サラッと下着とか混ざっているのだがフィルが気にしていないのでレオンも気にしないようにしている。ちょっと気になって手に取ってみたりとかもしたのだがそれを見られたらフィルに軽蔑されること間違いなしなのですぐに戻した。だがハッキリと分かるのはフィルの胸はほぼ平野に近いという事。何故なら彼女のブラはスポブラしかないから。

 

「なんか変な事考えてない……?」

「無いからチョークスリーパーは止めようか死ぬ死ぬくえぇぇぇぇぇ」

 

 奇声を発しながらも黒い笑顔のフィルに首を絞められていくレオン。しかし背中にフィルのほんの僅かな膨らみを感じられ、ちょっと嬉しいようなその小ささに悲しいような。そんな気持ちになったところでフィルのチョークの力が増していく。徐々に息ができなくなっていきレオンは顔を青くしながらも慈悲の笑顔でフィルの腕を叩きギブアップを示すという器用な事をやってのけた。

 フィルは顔を赤くしながらもレオンの首から手を放す。そして何事も無かったかのように洗濯機にある指を突っ込む場所に指を突っ込んでボタンを押し魔力が吸い取られていく感覚を感じながら洗濯機が回り始めたのを確認する。

 

「……レ、レオンはさ。やっぱり胸が大きな人がいいの?」

「フィル。そんな事を聞いても胸は大きくならなくええぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 再び首を絞められるレオン。フィルは相当怒っているのか先程よりもかなり強めに首をチョークで絞めてくる。

 こんな煽りをしたレオンの心は、照れくさいし素直に言ったらセクハラになるかもしれないからという感じだったのだが、思い返せばこの煽りが一番セクハラだ。

 何だか最近こっちの事をよく気にかけてくるようになったフィルの腕を叩きながらレオンは奇声を発する。

 フィルは未だに一か月前の決戦から少し変わったレオンへの気持ちが友愛なのか恋愛なのか分かっていない。あのキスも自分と組んで、そしてあんな面倒ごとまで運んできてしまいこの家も自分はレオンの優しさだけで与えられていると分かったからこそのお礼と、そして自分の気持ちを確かめるためだったのだが、もうキスして一週間も経つのに今奇声を発しながら首を絞められている少年への気持ちが分かっていない。

 カッコいい時はカッコいいのになぁ、なんて思いながらも溜め息と同時にレオンの首を絞める腕に込める力がつい増してしまう。

 

「ぎぶぎぶぎぶ」

「オラ貧乳が好きって言えや」

「やっぱ胸は大きければ大きいほどきょええええええええええ」

 

 ちょっとふざけてみたがその結果帰ってきたのはイラッとする言葉だったので更に力を込めた。レオンの奇声が変わった。ちょっと面白いと思ってしまったフィルは何となく負けたと思った。

 だが、男なんてそんなモノというのは分かっていた。こう見えても十年間戦闘術を極めようとする男共の中に紛れていたのだ。男共が胸が大きい者に惹かれていくなんてもう分かっている。何度服の上からでも分かる平野を見て溜め息を吐かれた事か。何度その後斧斬金的破を叩き込んだことか。何度ゴリラと呼ばれたことか。

 フィルは溜め息と同時にレオンの首を解放した。

 

「まぁいいや。じゃ、私トレーニングルームにいるから」

「あいよー」

 

 そして割と本気で首を絞めたのにケロッとしているコイツの耐久はどうなっているのか。

 フィルはちょっと悲しいような寂しいような気持ちのままトレーニングルームへと向かった。それを見送ったレオンは回っている洗濯機を見ながらその音でかき消す事を目的としたいるかのように呟いた。

 

「実は貧乳の方が好きとか言えないっての」

 

 実はレオンは周りに巨乳の女性が沢山いたせいなのかそれとも特に理由もなくなのか分からないが巨乳よりも貧乳の方が好みなのであった。母親も義姉も巨乳でデイヴが連れてくる女も巨乳が九割だったのでもう目が肥えてしまっているとも言うのだが。それがバレないように普段は色々と隠しているのだが。

 

「……さて、フィルが戻ってきたときのためにお風呂沸かしておかないと」

 

 最近は主夫化しているレオンはそのまま流れるように風呂掃除へと向かった。

 この二人、得意な部分がなんだか男女逆転している気がする。

 

 

****

 

 

 フィルが二、三時間の朝の間のトレーニングを終え真昼間の風呂を堪能しレオンの作った昼食。レオンは絶好の洗濯日和故に屋上へ行って洗濯物を干し、フィルは改めてトレーニングをしようと思った矢先だった。門にあるインターホンが押され屋敷の廊下から来客を知らせる音が響いた。

 それに気が付き一足先に玄関へ向かい門を視界に収めたのはフィルだった。

 フィルの視界に入ってきた門とその向こう側で立っていたのはレオンの兄、アルフとその嫁のアビーだった。

 

「あ、アルフさん」

「やぁ、フィルちゃん」

「引っ越し? 祝いに来たよ~」

 

 アルフの手には何かが入っているらしい袋が握られており、アビーは手ぶら。フィルは急いで門を開けて二人を家の中へ招待した。それと同時にレオンが屋上から戻ってくる。

 

「アルフ兄さん? どしたの急に」

「引っ越し祝いを持ってきた。引っ越しなのかは微妙なところだがな」

 

 アビーが引っ越しに疑問符を付けたのはそういう理由だった。

 二人は家が無かった。が、この家は新築という訳でもなくかと言って引っ越しでもない。移住なのだろうかと思ったがよく分からないので取り敢えず引っ越し祝いと銘打っている。

 苦笑するアルフに合わせて苦笑するレオン。アルフは引っ越し祝いの品を渡したらそのまま帰るつもりだったようだがどうせなら上がっていってというレオンとフィルの声で時間もある故にお邪魔することにした。内装にあまり手を加えず二人で生活しやすいようにされた豪邸はアルフが最後に見た時とあまり変わってはいないのだが感じる雰囲気が何処か今までとは違った。

 来客室もあることにはあるのだが、アルフとアビーはレオンの兄と義姉であるのでそのまま居間へと招待された。レオンがお茶とお茶菓子(元から置いてあった高級品)を用意して全員で一息ついたところで雑談タイムとなった。

 

「どうやら二人でもこの家をどうにか出来ているみたいだな」

「家具とかは最初からあったしほぼ新品同然だし。ここまで基盤ができてたら後は維持するだけだから」

「その維持が大変なんだがな」

 

 とアルフは言うが、実は彼、家事が壊滅的にできない。それ故にこんな大きな家を維持するための事なんてとてもじゃないが自分じゃどう足掻いても出来ないと思っているためレオンの家事の腕には素直に感心していた。

 ちなみにレオンも彼が家事が全くできないことを知っているのでアビーとの家を作った後、初めて家の中を見たときはかなりビックリした。もし彼が家事ができない女性を選んでいたらきっとあの家はアルフが暮らしているにしてはかなり悲惨な状態になっていた事だろう。実はアビーがアルフと結婚した後のためにかなり練習していたとはレオンが知る由もない。

 

「フィルちゃん、退院前と比べたらちょっと筋肉ついた?」

「はい。案外衰えてはなかったので結構早く筋肉がついてます」

「よく見る女性の連合員の人みたいにマッチョにはならないでね? ちょうどこれくらいが可愛らしいんだから」

「あれはタレントと特に何も考えてない筋トレが産んだ筋肉の塊なので……」

 

 フィルがアビーに抱き着かれながら会話をする。彼女の羽がパタパタと動いているのはアビーに対してかなり心を許しているから。同年代どころか年上の女性とも十年間交流を持つことがなかったフィルにとってここまで良く接してくれるアビーという女性の存在はかなり心強く、姉みたいな存在だった。

 もしかしたら自分もアビーの事を義姉と呼ぶ時が来るかもしれない。もしもをちょっとだけ想像すると顔が少しだけ赤くなった。心なしか無意識に動いている羽も少しだけ羽ばたく速度が増している。

 そんな二人を見て微笑ましく思っている野郎二人だったがアルフがさて。と口にして立ち上がった。

 

「あまり長居しても迷惑だろう。そろそろ行こう、アビー」

「えー?」

 

 アルフの言葉に文句を垂れるアビー。おいおい、と苦笑しながら呟くアルフだったがあまりアビーに強く言えないのがアルフだった。

 肩を窄めるアルフに苦笑するレオン。既に引っ越し祝いの酒とジュースの詰め合わせは渡してしまったのでこれ以上長居する理由がないのだ。別にレオンとしてはこのまま夜まで居ても全然構わないのだがアルフが変な気を使っているらしい。具体的にはお若い男女の邪魔はすまいという変な気。

 なんやかんやでレオンとフィルの距離感は戦場を共にする仲間だと考えても近い。もうくっついていると思われても可笑しくない位には。それ故に要らないお節介をアルフは回している状態だった。

 

「二人にも迷惑だ。いろんな意味でな」

「……あー、なるほど?」

 

 アルフがまたまた要らない言葉を放つ。それに対してアビーはアルフの言葉を色々と曲解して理解し、二人はいつの間にかそういう仲になっているからお邪魔だと理解した。

 しかしそれに気が付かない二人。まだまだ子供だという事だろう。首を傾げてどういう意味? さぁ。とそんな言葉を返している。

 

「二人とももうそういう関係になってたんだぁ」

「そういう関係?」

「特に前から変わってないけど……」

 

 色恋沙汰をあまり理解していない二人。だからかアルフとアビーの態度を理解できていない。

 そんな二人を見てアルフはもしかしてこれ、まだそういう関係じゃないのではと思考を入れ替え始めたがアビーの方はまだまだ止まらない。彼女は他人の恋愛話は結構好きなほうだし何よりも二人にはくっついてほしいと思っていた。それ故に要らない言葉を口にしてしまう。

 

「え? 二人とももう付き合ってるんでしょ?」

 

 アビーの言葉に首をかしげる二人。そして互いに顔を合わせて再びかしげる。そして互いに指の先を向けあってから自分の方へ向けて、ようやく理解する。

 これ、そういう関係だと誤解されている。

 ようやくその考えに至った瞬間に一週間前のアレが二人の脳裏を走る。そういう事を言われてつい思い出してしまったというだけではあるがそれが二人の顔を赤くし慌てさせるには十分だった。

 普段なら煽って煽って最終的に殴り合いになってフィルが一撃で沈めるのがオチだが、そう思われても否定できない行為をしてしまったという記憶が二人からその余裕を無くす。

 

「そ、そんな訳ないじゃんアビー義姉さん!!」

「え、あ、うぅ……」

 

 必死に否定するレオン。そして顔を真っ赤にして反論する言葉が思いつかず黙ってしまうフィル。

 その態度が余計に二人の勘違いを加速させる。特に一度は違うんじゃ? と思ったアルフがこれは付き合っていると確信した。してしまった。

 

「よし、アビー。お熱い二人に悪いから帰るとしよう」

「そうだね~」

「聞いてよ!!?」

 

 こういう時にフィルが機能不全に陥るとどうにもできない。

 どうしたらこの状況を打破できるのか。というかこの兄と義姉に分かってもらえるのか。それを考えながら二人を引き留めようとするが二人はそのまま家から出ようとする。

 まずい、このまま逃してしまったらこれから先事実でも何でもない関係を弄られ続ける事になってしまう。しかし必死に否定しても恐らく今は無意味。だとしたらどうするべきか。そんな思考が頭の中を巡り巡って、しかしそれが答えを出してくれるわけもなく。

 

「じゃあなレオン。避妊だけはするんだぞ?」

「なに彼女ができた息子を持った親父みたいな事言ってんのアルフ兄さん!?」

「こんな若いのに子供が出来たら大変よ?」

「作るつもりないからねアビー義姉さん!!?」

「そうですよ。望まない妊娠は毒にしかなりませんよ」

「望まない妊娠させる気ない……ん?」

 

 二人の後になんか女性の言葉が付け加わった。

 アビーの物でも悪乗りしたフィルでもない。フィルは顔を真っ赤にして口を開閉する機械になっている。

 じゃあ最後の声は誰だ? 既に門の前に立っているアルフ、アビー夫妻と共にそっと門を見る。向こうが見える鉄柵のような門なので門の向こうは簡単に見えた。

 そこに居たのはつい一か月と一週間前にフィルがぶん殴った女性。長身で、刀を携えた女性。

 カスミだった。

 

「だ、誰だ!?」

 

 いきなり出現したカスミにアルフがビックリしながらも杖を構えアビーの前に立つ。レオンもフィルの前に立とうとしたが肝心のキャルト・ア・ジュエを持っていないのでフィルの手を引いてアルフの後ろに移動する。

 もしかして先月の礼として喧嘩でもしに来たのか、なんてレオンは思いながら未だに本調子じゃないフィルの手を握りいざとなったらアルフに全て擦り付ける準備をする。対してフィルはタダでさえレオン関係で顔真っ赤なのに手も握られているので更に思考回路がショートしている。肝心なところで乙女に戻るメスゴリラだ。

 しかし、カスミは仕掛けてこない。それどころかミイラ化した顔面を全く動かさずに両手を上げて降参を示している。それどころか白旗を片手に持っている。

 

「別に喧嘩する気じゃない不審者なので杖を下げてくれませんか?」

「不審者って自白したぞオイ!?」

「だって顔面ミイラの女ですよ? 不審者じゃないように見えますか?」

「いや、確かにそうだが……」

 

 ちょっとキャラ崩壊を起こしてしまったアルフだったが、相手に戦う気がないのだと理解すると渋々携帯していた折り畳み杖を折りたたんでポケットにしまった。それを見てもカスミは手を下ろさずに白旗を振っている。

 ちなみにレオンが相手をカスミだと理解できたのは一応声を覚えていたし容姿もなんとなくにはなってしまっているが覚えていたからだ。覚えていなかったら顔面だけミイラ女の降参も構わずアルフに一発ぶち込んでもらっている。

 一応の顔見知り。それが訪ねてきている。その理由でアルフに魔法を撃ってもらうように頼むのを止めた。ただそれだけ。

 

「どうやら怪我の方はもう大丈夫みたいですね、お二方」

「え、あぁ、一応は……」

 

 一応重症患者だったレオンとフィルを心配してくれた事に対して違和感を感じながらも答えを返す。フィルの方はまだショートしているので暫く部屋にぶち込んでおいたほうがいいかもしれない。

 

「実は今日は一つお願いがあってここに来ました。アポも無しに失礼だとは思いますが、如何せん少々急ぎの用事でして」

「お願い、ですか?」

 

 はい。とカスミはあまり抑揚のない声で頷いた。

 アルフは知り合いなのかと小声でレオンに聞いてきたが、デイヴの傭兵とだけ答えてアルフに下がってもらった。相手に敵意は無いようだしこのお願いというのもあまり物騒なものでは無いようだ。

 フィルをアビーに任せてレオンは門の前に立つ。先に門を開けてしまおうかとも思って門のロックの部分を見るが、その時にカスミの足元を見て少し異常を感じた。

 足と影が、二人分ある。

 

「まぁ端的に言わせていただきますと、この子と組んでもらいたいんですよ」

 

 そう言い自分の背後に手をやってカスミはそのまま何かを掴むとそれを持ち上げてレオンの前に突き付けた。

 

「え、えっと……兎獣人の女の子、ですか?」

「はい」

 

 そうやって突き付けられたのは、今にも泣きだしてしまいそうな兎の耳が生えた人間。兎獣人の少女だった。




Q:兎獣人って?

A:バニーガール

この子が新キャラです。レギュラーです
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