キャルト・ア・ジュエ   作:黄金馬鹿

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やっぱ色々と掘り下げようとすると文字数がかさむかさむ。


第十九歩

 カスミ……実はそれが偽名でティファニーというのが本名だという事が判明したがあの女が窓を割ってそのまま逃亡し、その修復をカスミの妹である少女が行い、散らばった細かい破片をレオンが掃除しアルフとアビーはここからはレオン達の問題だと帰っていった。

 未だにフィルは復活していないので居間にいるのはレオンと少女の二人だけ。どうやら家を売り払ったと言うのは本当らしく、カスミが出て行ってから着払いで少女の私物を詰めた箱が届けられた。

 次に会ったらフィルに朱雀失墜を叩き込んでもらおうと決意しながら少女の荷物を受け取った。

 その時、少女の名前もようやくだが判明した。

 

「えっと……ルシル・ラッセルさんでいいのかな?」

「……ルーシーで大丈夫です」

 

 ルシル。それが彼女の名前だった。その愛称として、ルーシー。

 どうやらレオンに対して警戒していたり、生理的に受け付けていないという訳ではなく、人との付き合いが苦手で人見知りが激しいだけらしい。あちらから話しかけてくることはないが、こちらが話しかければ何かしら言葉を返してくれる。

 最低限のコミュニケーションは取れるらしい。らしいのだが、大抵言葉を返す時は垂れた耳で目を隠しながらなのであちらが何を思ってその言葉を口にしているのかがよくわからない。

 しかし、ロップイヤーの兎獣人。それもフィルに負けない位の美少女はそうやっておどおどしているだけでもかなり絵になる。その垂れた兎耳が彼女の可愛らしさを引き立たせている。

 

「じゃあ、ルーシーはこれからどうしたい?」

「……わから、ないです」

 

 カスミには彼女を頼まれた。頼まれてしまったからには見捨てる事が出来ないのがレオンだ。特に、人が。自分と同年代であろう少女がホームレス化するかしないかの瀬戸際なら。

 かと言ってレオンとフィルには三人分の生活費をやりくりする力は無い。そこまでの稼ぎが無いと言った方が正しいが。幾ら一度戦ったとは言え顔見知りの頼みとは言え、流石にニートを置いておく余裕は二人には無い。そもそもフィルが認めてくれるかも微妙なのに。

 自分にしか関係が無い事に関しては思い切った行動を取りやすいのに他人が絡むとそうもいかない。ちょっとした優柔不断が入っている自分に若干の嫌気を感じながら溜め息を吐く。

 

「えっと、ルーシーはダンジョンでお金を稼いだりとか、出来そう?」

「……」

「あー、質問を変えるよ。ダンジョンで僕達と一緒に戦えそう?」

「……無理です」

 

 そこは嘘でも大丈夫って言えよ。なんて思いながらもそう言われると何も言えないためそっか。とかなり苦笑いしながら答えるしかなかった。

 しかし、困った。これで隣にカスミが居るのならカスミに彼女を突きつけて帰ってもらうのだが、今カスミは行方不明ミイラと化したのでルーシーをこのまま家から追い出せば彼女はホームレスになる。流石に名前も知ってしまった少女が自分の言葉のせいでホームレスとなるのは若干心が痛いしそれが原因で彼女の人生が破滅でもしようものなら罪悪感で死んでしまいそうだ。

 だとすると、どうするべきか。頬を掻きながら考えているとルーシーが立ち上がった。荷物を片手に。

 

「そ、その……迷惑ですよね。いきなり見ず知らずの人が住むことになったり仲間になる事になったり」

「え、いや。別に僕としては……」

「出ていきます。ご迷惑、おかけしました」

 

 仲間になってくれるのなら大歓迎なんだけど、とか言おうとした矢先にその言葉を遮ってそんな事をルーシーは言い出した。それが嫌で色々と考えているのだから逃がす訳には行かないと居間と廊下を繋ぐ唯一の扉を自分の体で塞いでルーシーが出ていく事を防ぐ。

 これで出ていきましたなんてなったら彼女がそのままホームレス化するし、もしかしたらカスミがキレて襲撃をかけてくるかもしれない。流石にそれは遠慮願いたいのでレオンは咄嗟に自分の体で扉を塞いだが、どうにも言葉が出てこない。彼女を引き留める言葉が。

 

「出ていったとして生きていく当てとかあるの?」

「……ないです」

「だったら暫くここに居てもいいよ。お金に関しては……あー、なんというか……まぁ頑張るから」

 

 出ていくのなら、せめて一人で生きていく地盤が出来てから。

 レオンもフィルも、そうやって生きていくための地盤を自分で考えそれが実行に移せると思ったから一人で生きようと決意した。結局レオンはアルフに援助してもらったしフィルもそんなレオンにくっ付いただけだが、それでもノープランで生きていこうとするよりは考えておいた方が遥かにマシだ。

 だから、彼女が一人で生きていくための地盤を考える。もしくは整えてからここを出した方が、自分の心の衛生的にもいい。

 

「……どうして」

「ん?」

「どうして、そこまでするんですか?」

 

 なんだか初めてあちらから質問という質問を受けた。

 そんな事を思いながらもその質問に対しての答えを自分の中で探す。

 彼女をこのままここで追い出してしまえば彼女の人生がそのまま破滅一直線になる可能性がある。顔見知りになった少女がそんな事になってしまえば自分が辛い。

 そういう点もあるが、それ以外に思う事と言えば。

 

「まぁ、君が僕達と同じだから?」

「……同じ?」

 

 そう。彼がどうしてもここから彼女を出したくないと思った理由は、彼女が自分達と同じ落ちこぼれだからだ。

 他人な気がしない。そんな言葉が正しいだろうか。

 唯一の家族とも言えるカスミがどこかへ行ってしまい、独りぼっちに。一人じゃ生きていく事も難しいのだと分かるから、彼女がどうにか一人で生きていけるまでは面倒を見ておきたい。そんな何処から目線なのか分からない気持ちが、今彼女をここに繋ぎ止めようとするための行動を取らせている。

 

「僕もフィル……えっと、僕の仲間の女の子ね? その子も落ちこぼれだの出来損ないだの何だの言われてきたからさ。なんとなく君の事、分かるんだよ。まぁ全部分かってるつもりはないけど」

「……」

「僕は家族からいない者扱いされてさ。さっきまで居たアルフ兄さんだけが味方だった。フィルも、同じ門下生と師匠しか仲間がいなかった。不幸自慢なつもりはないけど……それでも、なんとなくは君の境遇も分かるから」

 

 簡単に言ってしまえば、同情。それがレオンの行動元だ。

 似た者同士だから、放っておけないのだと。含めた言葉は伝わったのか伝わっていないのか。どっちかは不明だがルーシーの表情は少ししか変わらなかった。

 落ちこぼれではあるがこんな家に住んでいる。ルーシーは、レオンはロハス家の末息子だからかなり援助してもらっているのだろうと思っていたが、事実は違った。違ったのだが、彼もロハスだ。だからこそ落ちこぼれからここまで来れたのだろう。そんな認識の変化にしかならなかった。

 

「……でも、わたしは」

 

 これじゃあ埒が明かないな。そうレオンは思った。

 恐らく彼女は姉から押し付けられて自分達は迷惑しているのだと思っている。いや、迷惑なのだが彼女が一人で生きる土台を作るまでの時間、ここに居候させる事は何ら問題ない。

 それに、レオンとフィルはもうすぐダンジョンアタックを再開する。そうなった時のハウスキーパーが欲しくなかったわけではない。だから、彼女の生活費を負担する代わりにハウスキーパーをしてもらえば彼女をここに置いておく理由になる。と今考えた。

 だから、レオンは最終手段に出た。彼女をここに引き留める最終手段。

 

「もうそっちの都合どうでもいいからここに居て。じゃないと君のお姉さんに殺される」

 

 あちらの都合ガン無視の脅迫兼命乞い。

 彼女ぐらい卑屈……というか他人に迷惑をかけてまで生きたくないと思っている人間にはこれが最適なのだ。

 お前が出ていけばお前も死ぬしこっちも死ぬぞと。自分達を脅迫の材料に使うと言う何とも間抜けな脅迫と命乞いだがこういうのが何やかんやで一番効くのだ。他人に迷惑を掛けたくないという人間には。

 ルーシーもその言葉を聞いてようやく息が詰まる。何故なら自分が出て行ったあと、もしも路肩で死んだら確実に姉がこの二人を抹殺しに来るだろうと。傭兵としての稼ぎの殆どを趣味に使わず自分に使ってくれたあの姉ならやりかねないと。そう思ってしまった。

 そうして理解する。今日、姉にちょっと出かけるからついて来てと生え始めたキノコをもぎ取って風呂に入って外に出された辺りでもう手遅れだったのだと。誰かに迷惑をかけないと生きていけないのだと。

 そうなれば、もう折れるしかない。今までのニート生活は他人との関わりが無くて楽だったが、もうこれからはそうもいかない。ニート生活に別れを告げて真っ当に生きていくしかないと。一人で生きていける地盤を、彼等のサポートを貰いながら作っていくしかないと。

 

「……じゃあ、分かりました。少しの間、お世話になりますね」

「うん。よろしく」

 

 レオン必死の命乞いは彼女の心にようやく届いた。小さく微笑んで今までよりもちょっと大きな声でここでお世話になると宣言した彼女の声にようやくレオンは一息吐いた。

 これであの人から命を狙われる心配は無くなると。

 

「取り敢えずご迷惑をおかけしちゃうから金塊でも作るのでそれを生活費の……」

 

 と言いながら自分の荷物を漁り、もう使わないのであろう本を片手に白衣を纏ったルーシー。いや、そのサイズの金塊はもうこっちの手じゃどうにもできないと急いで止める。

 

「いや、別にいいから金塊は止めて。貰えないし売れないし」

「え、でも……」

「取り敢えず、物を修復したりする時ぐらいしかギフテッドは使わないで。そのギフテッド、外にバレたら色んな人に狙われるから」

「そうなんですか?」

「そうなんです。あと敬語やめていいよ? これから一緒に暮らす仲間なんだし」

 

 彼女のギフテッドは強力過ぎる。だから、彼女が困った時だけに使わせるのが一番だ。

 そういう事でギフテッドを何か物を壊した時にだけ使うように言い聞かせてレオンはルーシーと改めて椅子に座った。

 

「えっと、もう知ってると思うけど僕はレオナルド・J・ロハス。まぁレオンって呼んでね」

「うん。わたしの事も、そのままルーシーって。あ、歳は十三歳だよ」

「え、マジで?」

「レオンは?」

「十四歳」

「そうなの? 同い年か年下かと思った」

「身長か? 身長低いからそう思ったのか?」

「あと女顔だから」

「身長と男らしさが欲しいなぁ……」

 

 数十分前に出会ったばかりなのに案外レオンとルーシーは息が合うようで改めての自己紹介から話はそこそこ弾んだ。

 ルーシーもその間にレオンにある程度心を許したのか声の大きさも最初は凄く小さかったが今は普通と言えるくらいにまでなった。

 そうして雑談をしながらいつこの家で暮らす上でやってもらいたい事を話そうかと思っていたら、居間にある唯一のドアが開いた。

 

「あー……ごめん。なんか途中から意識飛んで……えっ誰」

 

 そして入ってきたフィルがルーシーを見て呆然とするまで、適当な雑談は続いていた。




追い出されて一人で生きていくという意地を張ったレオンだから、そんな意地がない子をみすみす見逃せない。ただそれだけでした。そして初心すぎるフィルさん復帰。

ちなみにルーシーさん。なんか大人しそうな感じですけど、この子、部屋の隅で体にキノコ生やしたり藻を生やしたりしちゃうヒッキーなんですよ。

あとまたロリッ子です。またぺったんでちっちゃいです。
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