キャルト・ア・ジュエ   作:黄金馬鹿

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原木系少女の理由

PS.
投稿時間見事にミスってましたねぇ!!
いやほんと大変申し訳ございません。なのでこの時間にこの話を投稿します


第二十一歩

 ルーシーの部屋は結局地下の一室に決まった。太陽の光が入らないのにいいのかと聞いたらそれがいいのだとか。ちょっと理解に苦しんだが本人がそれでいいと言っているのだから構わないという事でその部屋に元からおいてあったベッド等を使えるようにしてその日は終わった。

 そして食事はレオンが作ったのだが、ルーシーはかなり小食だったようでレオンの半分も食べなかった。そして残った分はレオンが気合で食った。

 こうしてたった三人で暮らすには広すぎる豪邸の一日は過ぎ、次の日。そこそこフィルが戦える体を取り戻したので戦いの感覚を取り戻すリハビリのために第六層へアタックする事にした。基本的にその場でその日の予定を決めるのがこの二人だ。勝手で急なのは仕方がない。ないのだが。

 

「いや、あの、ルーシーさん?」

「明日から本気出します。だから今日は寝ます」

「いやだから……」

「わたしはお布団と結婚するんですぅ!!」

 

 なんともまぁ。ルーシーは二人が思った以上にベッドが恋しい……というか引き籠り気質だった。恐らく昨日言ったこともその場限り、とは言わないが三日坊主化するレベルのやっすい言葉だったのだろう。

 レオンとフィルは別にそれでも気にしないし家に引き籠っているなら引き籠っているで構わないと思う人間なのだが、如何せん彼女はカスミから預かっているのだ。多少の運動をさせないとこんな陽の当たらない部屋では本当にキノコが生える。原木となってしまう。

 二人は顔を合わせて溜め息を吐く。どうしようか。

 

「……じゃあ代わりに家事してくれる?」

「……」

「フィル、このニートに鉄拳」

「ひぃっ!?」

 

 確かにルーシーは他人から預かった子ではあるが、流石にニートをこの家に寄生させる程の余裕はない。家事をしてくれるのならハウスキーパーとして迎える気ではある……というかレオンは元々そう思って彼女を引き取る事にしたのだし、この家の家主はレオンなのでフィルはレオンが言うなら従う。

 なので彼がニートへ鉄拳を繰り出せと言うのなら迷う事無く繰り出す。働けと。

 笑顔でパジャマのルーシーの胸倉を掴んでその頭に鉄拳を落とす用意をする。ルーシーは顔を青くするがそんなの知ったこっちゃない。二人にタダ飯を食わせるだけの金は無い。

 対してルーシーは昨日、一発で鼻血を噴き出したレオンを見ているのでその鉄拳はかなり痛いと学んでいる。なので胸倉をつかまれた状態で顔を青くしながら両手をあげて降伏する。

 

「じょ、冗談ですって……!!」

「ならハウスキーパーかダンジョンアタックか。好きな方を選んで」

「うぅ……」

 

 一瞬だがルーシーの表情が曇った。

 その曇り方は昨日と同じ。何処か暗い物を感じる様な。そんな表情。

 それを見たフィルが少しだけ彼女に疑問を持つ。そして、彼女の胸倉を更に掴み上げ持ち上げ、少しの違和感を感じる。

 その違和感はすぐに分かった。

 軽すぎる。

 十三歳と聞いたが、彼女の体重は明らかに身長を考慮しても十三歳の物ではない。十歳かそれ以下か。それぐらいの体重しかないのだ。そして、その体つきを胸倉を掴みながら、彼女に負担がかからないようにと手を動かす振りをして探る。そして、分かった。

 この子は細い。細すぎる。

 

「……じゃあ、その。フード付きの服、貸してもらえますか?」

「え? あぁ、それくらいならいいけど……」

 

 そうしてフィルが探っている内にレオンはルーシーの言葉を聞き、すぐに自分の部屋へと戻った。

 フィルとルーシーの二人きり。何気に初めてではあるが、これがチャンスだとフィルは口を開いた。

 

「……ルーシー。いつもご飯食べてる?」

「そ、れは……もちろん、です」

「嘘吐かないで。流石に分かる」

 

 言葉の詰まり方。間。表情。それでルーシーの言葉が嘘だとすぐに分かった。

 よく考えれば可笑しい。彼女はキノコが生えるまで部屋の隅でずっと引き籠っていたのに、太っていない。痩せている。痩せすぎている。太らない体質だとしても、痩せすぎているのは可笑しい。

 

「……食べるすぎると、吐いちゃうんです」

「その食べ過ぎるの基準は?」

「……一日、二回以上」

 

 たったそれだけで。

 ルーシーの食の細さは昨日見た。なのに、たった二回食べただけで吐いてしまう。

 明らかに食事に対して何かしらの問題を持っている。

 

「……思い出しちゃうんです。物を口に入れると」

 

 物を口に入れると思い出す、何かトラウマとなる物。

 それが何かは分からなかった。幾つか候補は上がったが、それがたった十三歳の少女の心を傷つけるにまで至ると思えた物は、その中でも三つほど。

 虐待か、拷問か、性的虐待か。虐待で何か食べられない物を無理矢理食べさせられたか、拷問で何か口の中にされたか、幼い頃に一度……という事だ。それが記憶に残り過ぎて、口の中に何かを入れただけでそれが想起されるという事、なのだろう。

 フィルはそっと掴んでいた胸倉を離し、そして彼女の服の内を覗く。そしてその顔を驚愕へと変え、無理矢理彼女の服を剥ぐ。引きこもりのルーシーにフィルを止めることなど出来ず、そのままルーシーの服が剥ぎ取られ下着が露わになる。それと一緒に、普通に生きているのなら付かないような傷跡も。

 

「……この傷跡、明らかに可笑しい」

「っ!」

 

 ルーシーが顔を歪めた。

 ルーシーの体にあるのは、痣、火傷跡。ダンジョンに潜っているのならまだ分かる。フィルだってもう消えない傷跡を幾つか腕や肩に残している。

 だが彼女がこんな傷跡を残しているのはハッキリ言って異常だ。ここまでの跡を残しながらも、引き籠っているのは。

 

「……虐待?」

 

 その言葉にルーシーは言葉を返さなかった。

 ここまで傷跡がありながらも戦ったことは無い。となると幼い頃から受け続けていた虐待の跡なのではないかと。そう思った。

 フィルは虐待を受けている子供と会ったことは無い。だが、この傷跡がフィルのような境遇で付いた物ではないというのはハッキリと分かる。彼女が武人だから。武人として、様々な傷を今まで見てきたからだ。だから、これが普通では無い事くらい、ハッキリと分かるのだ。

 虐待を受けていた。それはきっと、カスミからではない。カスミと暮らす前に一緒に生きてきた、彼女の実の母親から。

 

「言いたくない?」

 

 その言葉にルーシーは首を縦にも横にも振らなかった。

 言いたくない、というよりも何も答えたくないというのが正しいか。いきなりこんな事を聞かれて全てを吐露するなんて事はまずないだろう。だから、これはきっとルーシーが隠しておきたかった事実。出来るなら悟られたくなかった事なのだろう。

 カスミはかなり言葉を濁しながら彼女の事情を一から説明したらしい。カスミが、きっとレオンに彼女が引きこもりの少女だと思わせながら。フィルもそう聞かされたのでそう思っていたが、こうして女同士だからと殆ど容赦なしに接近したからこそ分かった。

 

「……いきなりごめんね」

 

 なら、ここから先は踏み込むべきではない。ここからはきっと彼女自身の問題なのだから。

 謝りながらルーシーの服を元に戻す。多少荒く脱がせてしまったが服の方は問題は無かった。というよりもここまで無理矢理彼女の秘密を暴いてしまった自分の方が悪い。

 多少か、それともかなりか。バツが悪いような顔をしてしまったからかルーシーの表情が申し訳なさそうに歪む。

 その顔はこっちの物だと、言いたかったが少しそうやってふざける気にはならなかった。

 

「……外に出たくない理由って、ルーシーの体に関係ある?」

「少なからず、は……」

「そ、っか。ごめんね。いきなり踏み込んで」

 

 君の秘密に。

 隠したかった隠し事に。

 

「い、いえ。いつかは話さなきゃダメって思ってましたから……」

 

 これも事実。

 きっと、これを秘密のままでいる事は出来ないから。きっといつか話さなきゃならないとそう思っていた。が、今はまだその時じゃない。まだ、話すための勇気が無い。

 少しの沈黙が部屋を支配する。

 

「……何か、やりたく無い事とか、出来ない事は?」

 

 最大限彼女を傷つけないための質問。

 彼女から心を開いて自分達に秘密を打ち明けてくれるまでの時間、こちらが配慮する事。

 

「だ、大丈夫ですよ! 気にしなくても……」

「ご飯、食べられないんだよね」

「それは、そう、です、けど……」

 

 きっとこのままでは要らぬ誤解を。そして何かの切欠でレオンにまでこの事が知られるかもしれないと。そう思ったルーシーはフィルなら。彼女ならもう多少だがこちらの秘密を知ってしまっているのだが、自分の出来ない事くらいは知ってもらった方がいいと思い、そしてある程度は自分のトラウマが想起される原因を口にする事にした。

 

「……陽射しと、食事です。陽射しはフードとか被れば。食事は一日一回までなら……」

 

 予想以上にトラウマを踏む原因が身近すぎる。

 陽射しも食事も。どっちも普通に生きていく中で簡単に……というよりも日常的に見てしまう。踏み込んでしまう。取らなければならない物だ。それがトラウマを思い出す原因となるとは、この子はこんな小さな体で相当過酷な人生を歩んできたのだろう。恐らく、フィルなんかよりも。レオンよりも。戦う力を身に付けようとしても出来ないような人生を。

 

「昨日は、大丈夫って思ったんです。ダンジョンまでの道ならって。でも、今朝ちょっと陽の下に出てみたら、その……」

 

 それが、きっと彼女が今日は布団と結婚するとか何とかほざいた事に繋がったのだろう。

 だが、どちらにしろ彼女と共にダンジョンで戦う以上、食事は必要だ。ダンジョンで戦っていくのなら食事が一回。それもレオンの半分以下の量では絶対に倒れる。タダでさえ細い体が更に細くなってしまう。

 

「そっか……じゃあ、今日は止める?」

 

 ダンジョンへ行く事を。いや、今日の間この地下から出る事を。

 だが、ルーシーはそっと首を横に振った。

 

「それだと、多分何も変わらないので……ずっと、甘えちゃうだけになっちゃうので……」

 

 それはその通りだろう。

 その通りなのだろうけども。だが、そんな荒治療。いや、食べる事が出来ないのにそんな事。

 

「ルーシー? フードつきの服持ってきたよ?」

 

 そうしてゴタゴタやっている内にレオンが戻ってきた。

 フィルはなんてタイミングの悪い事を、と軽い舌打ちをした。初めてレオンに対して舌打ちしたかもしれない。だが、それくらいには彼の戻ってくるタイミングはフィルにとって悪かった。

 

「……限界なら言ってね。私がレオン気絶させてでも帰るようにするから」

「……」

 

 その言葉に対して返事はまた無かった。

 ルーシーだって、ありがとうとか言いたかった。言いたかったのだが、やはり同年代の少女にここまで迷惑をかけているという事実が多少なりとも彼女の重みになっていた。

 それが分かったからか。表情か、態度か、目線か。それはフィルにしか分からないが、彼女はそんなルーシーを見て、一回だけそっと抱きしめた。

 

「大丈夫。ここに居る限り、私達は家族だから。遠慮とか、考えなくていいからね?」

 

 家族、というよりも身内なのだが。だが、家族という言葉でも支障はない。

 ここに居る三人が、親元から離れ一人で生きていこうとしている人なのだから。そんな寄せ集めなのだから、家族と言っても支障はないから。

 

「じゃなかったら私、家主の首絞めたり顔面殴ったりしてるただのキチガイになるから……」

 

 だからこれ、身内というか家族のノリだからと予防線だけ張る。

 せめてこの湿っぽい空気が緩んだらいいと思って口にした冗談だったが、予想以上にその言葉はルーシーの笑いのツボを刺激したようだった。

 

「ふ、ふふ。うん。じゃあ、なるべく相談はするね?」

 

 それと一緒に彼女の口調が柔らかくなった。

 フィルはそれに安堵しながらそっと彼女の背中を撫で、離れた。きっとこの問題は暫く付き纏う事になるだろうが、次にカスミが彼女の様子を見に来たときはどうにかトラウマの克服……というよりも、陽射しと食事に関する事はある程度緩和させておきたいと。そう思った。

 

「……あのー? 服持ってきたんですけどー?」

 

 一方レオンは放置プレイをかまされていた。悲しかった。




ルーシーのテンションの振れ幅は基本的にここら辺のトラウマスイッチが関係してます。

ちなみに彼女の体つき、かなり細い感じに設定してます。それこそもう骨と皮だけなんじゃないかってレベルです。なので基本的に長袖の服着てます。

ですがニート思考は案外本心なので原木ウサギなのは変わりありません
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