キャルト・ア・ジュエ   作:黄金馬鹿

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いざダンジョン


第二十二歩

 ルーシーを連れての外出はフード付きの服を着せてフィルの後ろにピッタリと付かせれば何とかなった。それを見てレオンはかなり不思議そうに首を傾げていたが、フィルよりも小さなルーシーが後ろにくっ付き、フィルが自身の羽根で彼女を包むようにしているのは何だか絵になったので聞かない事にした。

 というのは冗談で、明らかに何かしらの理由がある。それも、あまりこちらから探るのは不躾な理由があると何となく察していたのでレオンは聞きはしなかった。彼女達の間には、レオンへの秘密があるというのはフィルにルーシーの部屋の前で服を奪い取られた時にはもう察した。

 だがきっとこれは女の子同士でないと共有できないような秘密なのだろう。気になる事は気になるがその結果ルーシーに嫌われたりフィルに朱雀失墜をお見舞いされたらたまったものではないので黙る。もしかしたら時間の経過と共に話してくれるかもしれないと信じて。話してくれなかったらそれは女の子しか共有できない秘密なのだと割り切る。自分へのディスりなら泣く。

 深追いすると痛い目に合うというのをこの歳でもう知ってしまっているレオンはそっと二人の後ろをニコニコしながらついていくのだった。そのせいで若干フィルに気持ち悪い物を見る目で見られたが。

 ルーシーを連れた二人はそのままダンジョンの入口へと着いた。ここからは六層へと向かうのだが。

 

「そういえばルーシーって連合員なの? そこら辺何も聞いてないけど……」

 

 ルーシーが駆除連合に入っているかどうか。それを未だに聞いていなかった。

 別に駆除連合に入っていなくてもダンジョンに入れる事には入れるのだが、もしもバレたら大目玉をくらってしまう。だから、もしも入っていないのなら急いで駆除連合支部へと彼女を連れて行かないといけない。

 

「あ、大丈夫です。この前姉さんに連れていかれたので」

 

 と言ってルーシーは懐から連合員としての証であるカードを取り出した。フィルの背中にくっついたままなのでフィルが見えていないがレオンが確認すれば問題なし。

 ならいいや、とルーシーのカードを見てからレオンはフィルwithルーシーと共にダンジョンの六層へと向かう。

 本来なら一層からの方がいいのかもしれないが、レオンとフィルの二人ならルーシーを確実に守れる上に相手は植物。三人ならそこまで苦戦するような相手でもないのだ。麻痺薬を自ら浴びに行かない限りは。なので二人は五層へ向かいそのまま六層へ……と思ったのだが。

 

「……あれ? ルーシーは?」

「いない? ……って、ルーシーって一度も転移装置使ってないからここまで来れないんじゃ……」

「そうだった……っ!!」

 

 そう、ダンジョンの転移装置には生体認証等があり、簡単に言えばその人が攻略した階層でないと転移が出来ないのだ。

 なのでレオンとフィルは五層奥の転移装置まで転移できるが、ルーシーは出来ない。ルーシーと共にここに来れるのは第五層のボスをルーシーと共に倒した時のみだ。

 二人はそれに気づいて一分も経たないまま転移装置をもう一度使いルーシーを迎えに行った。二人が光に包まれて消えてしまったので呆然としていたルーシーを隠し部屋で見つけ、すれ違う連合員に道を譲ってもらいながらレオンとフィルはルーシーを連れての一層再攻略へと踏み切った。

 

「ごめんなさい……わたしのせいで……」

「いいよいいよ。こっちも勘を取り戻せるし」

「なんやかんや一か月と一週間戦ってなかったし。肩慣らししなきゃね」

 

 腕を回しながら首を曲げ音を鳴らすフィル。キャルトを片手に火炎瓶を忘れていないかどうかチェックするレオン。そして、腕に手甲と一体化したクロスボウを取り付け調子を確認するルーシー。

 

「じゃあ適当な小石を……」

 

 そしてルーシーはギフテッドを使用。白衣を身に纏い落ちている石ころを握る。

 等価錬金。落ちている小さな石をそのまま強い衝撃を与えれば爆発する小型の爆弾へと作り替えてクロスボウにセットする。このクロスボウもルーシーがギフテッドで作成した物なので通常の矢は射れないが、こうして作り出した小型の爆弾を撃ちだす事に特化しているので問題なくセットできる。

 明るいが、日光ではないためルーシーもトラウマスイッチをオンにする事無く対応できる。

 そうしてルーシーを連れてのダンジョンアタックは開始された、のだが。

 

「流星、朔光、骸ォ!!」

『スペード1、ハート1、スペード2、ハート2。ツーペア』

「フウウウウウウッ!!」

 

 流星、朔光、骸の黄金コンボで敵を即死させていくフィル。前衛で剣を振れるという事に何か快感でも覚えたのかツーペアを使って前でキャルトから生えた剣をブンブンしタレントの暴力で相手をぶっ殺していくレオン。

 暴力、暴力、暴力の暴力だけの頭使っていないチンパンジーみたいな戦術を使い二人はルーシーを忘れて前へ前へと突っ込んでいく。しかもそれで無傷な上に血まみれで笑っているので時々すれ違う新人達が皆物の怪の類を見たかのような表情でそっと距離を取っていく。

 それを観戦しているルーシーは。

 

「この人たち頭おかしいよ……」

 

 と呟いた。

 姉の話では前へ出てヘイトを稼いでいくフィルと後ろで的確な援護をするレオンの二人が良い感じに噛み合った結果誕生した非才の中では上位に食い込めるであろう、将来性のあるペアとの事だったがなんか二人とも鬼のような形相で前で血しぶきを作り上げている。血のせいで自分のトラウマを軽く刺激されているルーシーだが、死体が残らないので問題ない。ただ、二人の鬼のような形相の方が怖い。

 なんで後衛が前に出ているのか。というかあの銃何だ。そしてフィルはなんで拳だけでそこまで相手を粉砕できているのか。もう訳が分からなかった。一週間前まで入院していた人間の動きじゃなかった。

 

『ダイヤ13、クラブ13、ダイヤ12、クラブ12。ツーペア』

「まだまだ僕のターン!!」

 

 そして絶好調のレオン。タレントを持って前に出るという今までは出来なかった、少し憧れていた戦い方にテンションが爆上がりしている。ツーペアを既に十三回。つまりトランプのカードを全て使って前に出ている辺り、かなり前に出る事が楽しいのだろう。そして、タレントの補助によって普段の自分では出来ない行動が全て出来てしまう事も。

 狼が飛びかかってきた所に反応して潜り込み、下から首を刺しそのまま斬り飛ばし、その後ろから走り込んできた狼の脳天にキャルトを突き刺し魔弾を放ち脳を完全に破壊し、狼が消える前に後ろから襲ってきたもう一体の狼を蹴りを顔面に叩き込んで吹き飛ばし、キャルトが自由になった所で全力で走り、立ち上がったばかりの狼の頭にキャルトを突き刺す。

 今までの自分なら出来なかった動き。それが出来る事に最早快感すら覚えてしまう。

 なんだか魔力がもう二割程度しか残っていないがまだ二割もある。既に十三回目のタレント付与を促してくれる剣は消えてしまった。

 なのでもう一回発動しようとして……

 

「……あれ?」

 

 しようしたのだが、魔力を流し込んでもキャルトがウンともスンとも言わない。

 もしもーし? とキャルトを振ってみると、一枚だけホルスターからカードが排出された。そのカードは。

 

「……ジョーカーだけ?」

 

 それも、一枚だけ。

 どうしてジョーカー一枚だけが。これじゃあスキャンしても何にもならない。

 

「うぉあっぶね!?」

 

 突っ立っている間に真正面から狼が襲ってきたので避けてからもう一度魔力を流し込んでみる。が、駄目。キャルトからカードは排出されない。なので仕方なくカードを魔力に戻すため手の中で握りつぶす。これが唯一キャルトから排出されたカードを魔力に戻す方法だ。

 襲ってきた狼をフィルが物凄い怖い笑顔で粉砕するのを見てから考え、一つの結論に至る。

 もしかしてこれ、一回の戦い。もしくは一日に一種類のカードを一回しか使えないのではと。

 時々フィルとの喧嘩にキャルトを使っていたので魔力に戻す方法は知っていたがカードの制限までは考えてもいなかった。

 

「ごめんフィル、燃料切れだから後ろでサポートする」

「了解ィ!!」

 

 あの有翼メスゴリラ、聞いてるのか? なんて思いながら出来る限り気配を消しつつルーシーの元まで後退する。

 

「あれ? もう前で暴れないんですか?」

「燃料切れた。あとその人外見る目はやめてもらっていいかな。フィルにはしてもいい……」

「そぉい!!」

「あっぶね!!? あの有翼メスゴリラ、死体投げてきやがった!!」

 

 有翼メスゴリラというフレーズにちょっと笑いかけた原木ウサギ。

 しかし、とレオンは考える。こうしてツーペアを乱発するだけならかなりの時間戦えるが、もしもフラッシュを何度も使ったらすぐにガス欠してしまうと。フラッシュを何度も使えば自分の方が先にガス欠するが、ワンペアやツーペアを何度も使ってしまったらキャルトの方が先にガス欠を起こす。

 自分の魔力が続く限り永続的な強化を持ち込んでくれると思っていたキャルトの意外な弱点に少し意気消沈するレオン。消えていく魔獣の遺物を回収しながら血まみれで嫌な笑い方をしながら迫ってくるフィルを両手をあげながら迎える。

 

「ご機嫌だねぇ」

 

 皮肉だ。

 

「そろそろ奥義一発受けて反省するか? ん?」

 

 脅しだ。

 

「ごめんってば」

 

 胸倉を掴みながら額に青筋を浮かべて脅してくるフィルに苦笑しながら両手をあげて降参の意を示す事でフィルの脅しから逃れる。しかし若干顔がにやけていたからか顔面を軽く殴られた。

 痛む顔を抑えながら奥へと進もうとする。が。

 

「ふ、ふふ」

 

 ふと聞こえたルーシーの声を聞いて視線をそっちに向けた。ルーシーは二人を見て小さく笑っていた。

 どこか可笑しいところでもあったのかと不思議に思うが、この二人の距離感は異性の仲間としてはかなり近い物で、それでも親友に対する物のような態度を取っていたからか、それがちょっとルーシーのツボに入っただけだ。

 二人は顔を見合わせて首を傾げる。そんな二人を見てまた笑ったルーシーはすぐに声を出した。

 

「仲、いいんですね」

「そう? 普通じゃない?」

「うん。別段変わってるとは」

 

 そう思っているのは二人だけでその距離感が近すぎるのは誰が見ても分かる事だ。

 

「もしかして付き合ってるんですか?」

 

 ルーシーはそのまま爆弾を投げつける。その爆弾は見事に起爆しフィルの顔が一瞬で赤くなる。思い出してしまうのは何かの気の迷いであろう物のせいでやってしまったキス。レオンの事は好きだがそれがまだ異性に対してなのか友人としてなのか。分からない内からやってしまったからか未だ恥ずかしい思い出として残っている思い出。

 顔にベットリとこびり付いた血潮の間から見えるフィルの肌は赤く染まり今にも熱を帯びて沸騰してしまいそうだ。対してレオンはあまり気にしていない……というか意図的に思い出さないようにしている。しているのだが、やはり多少は思い出してしまっているのかレオンの顔は少し赤が差している。

 

「え、っと……いや、そんな事ナイヨ?」

「最後がちょっと片言ですけど?」

「いや、まぁ、その……ちょっとね? 事故的な物がありまして……心の事故とでも言うべきかなんというべきか……」

 

 顔を真っ赤にしてフリーズしてしまったフィルを小突きながら自分達は付き合っていないと言い切るレオン。そりゃそうなれれば嬉しいけど……と呟きもするが、付き合っていないのは事実。そう言う事に予想以上に初心すぎるフィルのせいで勘違いは加速するが、本当に付き合ってはいないのだ。

 兄と義姉には勘違いされたままなのでどうにか弁明しなければならないが、まずは目の前の少女の勘違いを訂正しなければ。十三歳の少女がするには優しすぎる笑顔を浮かべる少女に対してどうやって弁明しようかと思っているとようやくフィルが復活する。

 

「そそそそそそんなことあるわけなななな」

 

 もうお前黙れとフィルの口を塞ぐレオン。

 この子の、色恋沙汰になると混乱しまくる癖をどうにかしなければと思いながら、さてどうした物かと考える。もうこうなったら本当に恋人になった方が色々と面倒も省けるのだが、彼女がこちらに好意を持っているのかはまだ不明だし、レオン自身まだ彼女を意識しきれていない面がある。

 好きではある。だが、それが友愛なのか恋愛なのか、彼も判別できていないのだ。というかこうやって自身の気持ちを確認するの何度目だ。

 そろそろ彼女に抱く気持ちもしっかりと判別しなければならない。なんて思いながらも目の前の生暖かい視線を向けるウサ耳少女への対応を考えるのであった。




なお戦うのはレオンとフィルの模様。

そしてキャルトの弱点判明。持久戦は得意じゃないので短期決戦を仕掛けないとすぐにカードを使い切ってただの起爆銃となってしまいます。

果たしてレオンとフィルの関係はこれ以上になるのか。それとも原木ウサギが何かするのか。もしくは第三者がやってくるか。
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