キャルト・ア・ジュエ   作:黄金馬鹿

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一応ヒロインと主人公なのでたまにはイチャイチャと。


第八歩

 道具屋へと向かった二人は様々な連合員向けの品揃えをその目で見て確認していた。ポーションを初めとした毒薬、麻痺薬等の魔獣が使う様々な毒に対する万能薬も置いてあり、その他にも毒薬に漬けた投げナイフ。そして火炎瓶や矢に塗るための毒薬。様々な物騒な品が置いてある。

 だがポーション系列を除いたこれらは物騒な品は連合員の証明カードがあれば買える物。レオンもフィルもこれらは全て金さえあれば買うことは可能だ。

 しかし、この中でレオンとフィルでも買うことが可能な程の値段なのは品質の低いポーションと万能薬、そして火炎瓶程度だ。特に万能薬は品質が低いと治らない可能性すらも出てきてしまうため買うのなら今買える物よりももう少し高いものでないといけない。

 ポーションを二個ずつ買い、それと貰ったポーションをポーチに入れて合計四つを常備用とすることにする。

 そしてその他に何か買おうかと商品を眺める。

 

「……そういえば」

「ん?」

 

 毒薬等が並んでいる場所を二人で見ているとふとフィルが声を上げた。

 それに対してレオンは声を投げかけた。その言葉は一体何を思い出したのか、と。

 

「師匠が言ってた。地面と火は素人でも使える強力な武器だって。毒は仕入れに難があるけどそれでも強いって」

「地面と火って……」

 

 だがその言葉はあながち間違ってはいない。むしろその通りなのだとすら思えた。

 それこそ硬度が人外、もしくは化け物である相手にそれらが通じる事はまず無いだろう。だが、素人が使うのならそれらは強力な武器となろう。特にレオンやフィルのような才能がない人間ならば。

 レオンやフィルが戦うような相手にならまず効き、特に炎は一度当たれば生物であれば確殺できる武器だ。火炎瓶のように相手に燃え移りそのまま殺せるように仕立て上げた物は。地面に関してはフィルのようなインファイターくらいしか使わないが、それでもその強度は少女の力であろうと相手に重傷を与えられる。相手の顔を掴んで自分の体重を全て乗せて叩き付けるだけでもいいのだ。

 なるほど、とレオンは呟いた。これならレオンでも魔獣を蹴散らせるようになるだろう。

 

「じゃあ火炎瓶買っておこうかな」

「……ま、巻き込まないでよ?」

 

 だが、火炎瓶には弱点がある。味方を巻き込む可能性があるのだ。

 液体に火を付ける武器という関係上、その容器が割れて炎がそのまま液体とともに飛び散り味方が巻き込まれる可能性があるのだ。それ故に投げるとしたらかなり気を付けないといけない。

 しかも巻き込みを防いだとしても味方に火が付いた敵が飛び掛かり文字通り味方に燃え移る可能性がある。

 

「ぜ、善処はするよ」

「巻き込まれたら死ぬから本当に気を付けてよ!?」

 

 射撃はできても投擲技術はレオンが今までしてきた努力ではどうしようもできない。故に今のレオンにはどうにもその言葉に対して絶対に巻き込まないと断言は出来ない。だがその言葉がフィルを不安にさせる。

 レオンの射撃術には絶対の信頼をフィルは置いている。自分のミスを全て帳消しにするような射撃を彼は見せつけてくれている。しかし、投擲に関してはこう言われてしまうと不安が募ってしまう。フィルはぶつくさ言いながらも結局火炎瓶を買うことを許可した。恐らくあるとないとでは戦闘の難易度は天と地ほどの差にもなるだろう。レオンはこれから夜中は石を投げたり空瓶を貰ったりして投擲の練習をしようと決めた。

 

「巻き込まれて死んだら末代まで呪ってやる……」

「僕が末代の可能性」

「レオンは勿論対象」

「ですよねぇ……」

 

 そもそも巻き込んだら恐らく首を吊る、とレオンはもしもが起こった際の自分の未来を想像して苦笑いを浮かべる。

 笑うな、と脇腹に弱い拳を叩き込んでくるフィルにごめんごめんと謝りながらレオンとフィルは道具屋から退出する。まだ出会ってから五日も経っていないのに二人の仲は背中を預けあった故かかなり縮まっていた。二人は自覚していないがアビーがあんな事を言うのも納得な距離感だった。

 

「さて、次はどこ行こうか」

「うーん……武具屋?」

「いいよ」

 

 しかしそういう仲の男女にしては行く場所が物騒すぎる、という言葉を受ければ否定はできないが。

 もうすぐ昼食時。こんなゆったりとした時間を最近は生きていなかったこと。特にフィルは実家を飛び出してから戦闘術の訓練にその時間のほとんどを使い、そしてここに来てからもずっとダンジョンアタックを繰り返していた事からこんな真昼間にこんなゆったりとした時間を生きることはまず無かった。だからこういう時間に私服で街中を歩くことがなんとなく新鮮だった。

 それはレオンもであり、今までは自由に外に出ることすら叶わない場所で生きていた上にこの間までダンジョンアタックをしていた事からこんな時間は新鮮だった。

 

「そういえばフィルって僕と組むまでのお金って何で稼いでいたの?」

「……知ってる? 変態って女の子の使用済みの下着にお金を払うんだよ?」

 

 適当に口にした質問の答えとしてとんでもない言葉が返ってきた。そして一瞬妄想してしまう。自分の下着を泣きそうな顔で売るフィルを。ちょっと興奮した。

 

「さ、流石に冗談だよね?」

「イエス」

「この羽ゴリラ……ッ!!」

 

 男の純情を弄びやがって、と拳を握りながらやり場のない怒りを態度で表す。だがフィルはどこ吹く顔。実際は限界まで金を節約して食料を酒場の廃棄された食品を貰って食いつないでいた。しかしレオンと会った時にはもう金も尽きて野宿寸前だったのだが。

 羽ゴリラが面白そうにコロコロ笑っているのを見てレオンはちょっとイラついた。だがそんな様子もなんだかフィルなら絵になるのでレオンはぐっと堪えた。

 

「今度思いっきりセクハラしてやる……!」

「カウンター必殺技、サモン衛兵を使用せざるをえない」

「その技は僕に聞く、止めてくれ」

 

 セクハラ直後にサモン衛兵をされれば見事にレオンは社会的敗者へと成り下がるだろう。だがこれは別に真剣な話でもないおふざけなので別にレオンは根に持っている訳ではない。ないのだが何時か仕返ししてやるとだけ誓った。

 今日はこれくらいにしてやると拳を握りながら耐える。男は耐えるのも仕事の一つだ。今度訴えられない程度にセクハラしてやると誓って今日はいきなりフィルの羽を触る程度で勘弁しておく。

 

「……なんで羽?」

「いや、なんやかんやで触り心地良さそうだったし」

「まぁいいけど。なんで皆羽を触りたがるんだろう」

「そういうものだよ」

 

 やはり先ほどから当たっていたためどういう触り心地かは分かっていたが触ってみるとかなり心地よい。というかもふもふしている。鳥獣人の中には自分の羽を触られる事が嫌な者もいるためちょっとドキドキではあったがフィルは触られても気にならない人だったのでほっと一息をついた。

 犬や猫だったら触ったりする機会はあるが鳥に関してはあまりないためレオン的には結構新鮮な触り心地だった。鳥獣人の羽の色は人によって違うが、こうも真っ白で汚れのない羽は触っていて楽しい。

 

「あ~……枕にして寝たい気分」

「重いからやだ」

「だろうね」

 

 勿論鳥獣人の羽には神経が通っているため頭なんて乗せたらかなり辛いのは乗せなくてもわかる。鳥獣人の子供は親の羽に包まれたり枕にしたりして寝ているらしいので羨ましいところだ。

 ちなみに鳥獣人と人間、もしくはそれ以外の犬獣人、猫獣人、兎獣人とのハーフは人間だったら片翼になるか両翼とも生えるか生えないかの三択になる。他の獣人との子供はキメラ化する……という事はなくどちらかの種族の外見的特徴が出てくる。

 レオンはおふざけに触っていた羽に抱き着いた。

 

「ひゃっ!?」

 

 その結果女の子っぽい声を出したフィルがレオンの頭を殴った。痛い。

 

「流石にそれはくすぐったい!」

「ご、ごめん……」

「それにもうすぐ着くから離れて!」

「わかってるさ……」

 

 流石に調子に乗りすぎたと反省。

 そんな他人から見たらイチャイチャしているとしか思えない事を繰り返しながら二人は武具屋に辿り着いた。店先には武具屋には無料で駆除連合が配っているタレントの有無を判別するための特殊な武器、選別機が置いてある。

 金色の剣の柄だけしか無いように見えるが、これを握るとタレントがある人間の場合はそれが武器の形に変化する。しかし、ない人間は何も変化しない。魔法が使えない人間の中でも三割の人間だけが持っていると言われるタレント。それを判別する武器。

 

「……これには嫌な思い出しかないよ」

「同じく」

 

 魔法が使えないのなら、タレントが。そんな淡い思いは見事にこの武器にへし折られた。

 握るだけなら無料だと思いレオンは鎖につながれたそれを握ってみるが、変化しない。当たり前だ。魔力がある人間はタレントに目覚めないのが常識だから。

 そして、フィルも握ってみるが、勿論変化はしない。鳥獣人は魔力がなかったとしてもタレントがあるという事は今まで一度もなかった。フィルのような鳥獣人は稀に生まれるが、その全員がタレントに目覚めた事は無かった。それ故に二人がタレント持ちという事は万が一にもなかった。

 顔を見合わせて肩をすぼめる二人。そして二人が選別機を置いて武具屋の中に入ろうとすると子供がそれを握って剣に変化させた。殺意が湧いた。

 殺意を消しながら店に入ってフィルが向かったのは防具のコーナー。その中の手甲、籠手が置いてある場所だ。

 殴るための武器なんて何処にも置いていない。だが、腕を守る防具は置いてある。フィルはそれを使って腕の保護をするしかない。拳部分は基本的にテーピングだ。

 

「……あまりいいのはないかな」

「そうなの?」

「これなら全身鎧の腕の部分だけ貰ったほうがいい感じ」

「そんな事言うのは多分フィルだけだよ」

 

 あれはいいものだ、とフィルは言う。殴ってもよし守ってもよし。拳を使うインファイターにとって全身鎧の腕の部分は非常に魅力的なものだった。本当なら殴るために作られた手甲が欲しいところではあるが。

 しかし無い物強請りはいけない。フィルは小さく溜め息を吐きながらもう行こうかと口にした。

 レオンとしては見るものは一切ないので別にいいのだがフィルなら他にも買うべきものはある。胸当てもそうだし脛当てもだ。拳と足が武器故にあまり防具を全身に着ける事は出来ないがそれでもあればマシになる物をもっといい物にする事は可能だ。

 だが。

 

「今使ってるの、師匠の所からパクっ……貰ってきたお古だから使いやすいの。戦闘術を使いやすいように作られてるし」

 

 サラッと盗んできたとか言っていたが気にしないようにしつつそうなんだ、と頷いた。そこら辺は戦闘術関連の問題だ。レオンが口を挟む事ではない。

 だがそれならこの場で留まっている意味はない。二人は武具屋を出た。遊び感覚で選別機を変化させてるクソガキ共に殺意を抱いたが二人はなんとかそれを抑えた。

 

「……これからどうする?」

 

 そんな二人だが、もうこれ以上やる事がない。やろうと思っていた事はこれで全て終わってしまい、二人は本格的に暇になった。今からダンジョンアタックをしてもいいのだがそれだとダンジョンに潜る時間がかなり少ない。それに、ダンジョンへ行くのなら一旦着替えて武装をしてからでないといけないので更に時間がかかる。ついでに言えばダンジョンへ行くための動きやすい服は全部宿の洗濯機(有料)で回っている最中だ。

 蛇足だがこの世界の機械は殆どが大気中の魔力を使って動いており、家電、ではなく魔電と呼ばれている。魔電は大気の魔力の代わりに人間の魔力を使って動かすことも可能であり、そっちの方が構造も単純になり機械そのものの値段も安くなる。それは宿などの貸し出している機械もそうであり、人間の魔力を使って動かす魔電は貸出量が安い。なのでレオンの無駄に多い魔力もそこでなら使用価値がある。

 ちなみに現在回っている洗濯機にはレオンとフィルの洗濯物が一緒にぶち込まれている。魔力と金の節約だ。

 閑話休題。

 やる事が終わって暇だ。だが何もすることがない。じゃあどうするか。そう思っているとレオンはふと太陽の位置が真上に行っているのが見えた。そして腕時計を確認すると既に時刻は昼食時を軽く過ぎていた。それを自覚した瞬間、なんとなくだが空腹がレオンを襲った。腹時計も宛てにならないと考えながらレオンはフィルの肩を突いて自分の腕時計を見せた。

 

「ご飯にしない?」

 

 そう言いながら見せた腕時計を確認したフィルはそうしようか、と声を返した。

 そして二人が入ったのは適当な喫茶店だった。そういう所で昼食を食べる程度の金はある。レオンとフィルは適当な席に座るとメニューを見る。そしてすぐにメニューの目立つところに大きくカップル限定ジュースとかいう物があるのを見たがスルーする。

 

「フィルは何にする?」

「んー……このレディースセットかな」

「レディー……?」

「お? 喧嘩する?」

「ごめんごめん。じゃあ僕はBセットかな」

 

 一瞬フィルが拳を構えたがレオンは笑いながらそれをスルーして自分の食べたいものを決める。ちなみにレディースセットはパスタとサラダ。Bセットはパンとスープ、そして肉を焼いたものとサラダだ。

 店員を呼んで注文を伝える。

 

「レディースセットとBセットを一つずつ」

「あと食後に特製パフェ一つ」

「フィル?」

「いいじゃん、女の子は甘いもの大好きなんだから」

「別にいいけど……じゃあそれで」

「ご一緒にこの限定ジュースは……」

『いりません』

 

 そもそもカップルじゃないしと。

 だが、ふとレオンは思った。あんな物を勧められるという事は、だ。

 

「……これ、傍から見たらデートなのかなぁ」

 

 と。

 思ったことをつい声に出してしまったと気が付いたのは目の前のフィルがいきなり顔を赤くしていたからだ。それを見て暫くして、ようやく今考えていた事が口から出ていたのが分かった。

 自分たちはただ仲間として用事もあったから一緒に出掛けただけなのだと思っていたが男女のペアが一緒に外出したらそれはもうデートなのだという時がある。だからもしかしたらこれは他人から見たらデートに見えたんじゃないかと。それ故にアビーもいきなりあんな事を口にしたんじゃないかと。

 それを無意識にとは言え指摘されてしまった思春期真っ盛りなフィルは自分とレオンがそういう関係に見えると思い、恥ずかしくなって顔を赤くしている。一方レオンは特に気にしていないのでニヤニヤと顔を赤くして口を開閉する機械になったフィルを見る。

 

「なに? フィルは僕と恋人に見られて恥ずかしいの?」

 

 にやにや。がすっ!

 

「いだぁっ!?」

 

 脛を蹴られた。それも思いっきり。やはり有翼メスゴリラのそこそこ本気の蹴りは後衛故に体力はあるがそれだけのレオンにとっては結構な大ダメージになった。

 

「そそそそんなわけないし!?」

「めっちゃ声震えてるけど」

「っ~~~!!」

 

 がすっ、がすっ、がすっ。いだっ、いだっ、いだっ。

 三度脛を蹴られて三度小さな悲鳴を漏らす。顔を赤くしたまま拳すら握っているフィルは可愛かった。ついドキッとしてしまったがそれと同時に当てられた蹴りでこのメスゴリラが……と心の中で罵倒した。

 だが予想以上にピュアなフィルが可愛いのには変わらない。脳内フォルダーに顔真っ赤なフィルをしっかりと高解像度で保存しながらどうどう、と動物を落ち着けるかのようにしてなんとか荒ぶるフィルを落ち着ける。

 

「ま、まったく……アビーさんに揶揄われてからヤケに意識しちゃう……」

「なに? 僕と恋人してるの妄想しちゃった?」

 

 ごすっ! 痛いっ!!

 

「お、折るよ!?」

「何処を!?」

 

 照れ隠しに何処かの骨を折られちゃたまったものじゃない。痣になるかもしれない脛の痛みに耐えながらもなんとかフィルの照れ顔を脳内に保存する。美少女の照れ顔なんて今まで見たことはなかったのでとても眼福だった。

 眼福眼福、と痛みに耐えながら思い、フィルに表面上は謝る。

 

「あの子達、仲がいいわねぇ」

「やっぱり若い子はいいわねぇ」

 

 なんてしているとちょっと遠くの席から声が聞こえた。こっちを見たいい年の女性が微笑ましそうな視線をこっちに向けている。その視線を受けて今まで特に恥ずかしくはなかったレオンもちょっと恥ずかしくなってしまい顔を赤くしてしまう。

 なんやかんやでフィルは美少女だ。そんな彼女と付き合えたら、という妄想をここ数日でしなかった訳ではない。

 

「……あー、なんだか調子狂う」

「同感……」

 

 生まれてから十四年と十五年。どちらも異性との何かしらのイベントが起こったことがないのでこういうイベントには特に弱かった。

 

「まぁ、食べて忘れようか」

「そうする……」

 

 だが、色気より食い気。まだ若い二人は顔を赤くしながらも運ばれてきた食事に口をつけた。




一応二人とも異性としては意識しているけどどちらかと言えば友愛の方が強い感じなので恋しているかと言われたらノー、というのが今の距離感。だけどそういう揶揄いにフィルは結構弱い感じ。

次回はキンクリして一週間後の所とか書く予定。この二人、もう成長限界に片足突っ込んでるので急激に成長しました、とかはありません。
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