IS〈インフィニット・ストラトス〉 紫雷の獅子王 作:天狗鞍馬
IS学園にやって来てはや六日。俺はどうにかセシリアの魔の手から逃げ切り、安寧を手に入れることに成功していた。初めの二日間は朝昼夜関係なく、寝食無しで追いかけて来て、最後の9時間ぐらいはIS展開した上に、なんと千冬さんを買収して投入してきやがったのだ。しかも千冬さんが悪乗りして学園の教師と生徒をほぼ全員を投入し、『学園内の良心』こと
体力には自信があったが、さすがに二日徹夜で食事も無しの状態での全力疾走は拙かった。そんな心身ともに疲れ果てた俺を助けてくれたのは、二年前に知り合った水色の髪に眼鏡をかけて、儚げな印象を持った少女―――
~♢~
彼女と出会ったのは二年前。彼女が不良に絡まれていた時の話で、カツアゲ風味な事をしていた不良たちに法律を盾にした脅迫をして鎮めようとすると、完全無視で殴り掛かられた。全員ボコボコにして警察に引き渡したが。
その数ヶ月後、俺は彼女と再会した。
――ただし、俺が、女装した状態で。
最悪だったのが頑張ってバレない様に努めたのに、わずか3秒でバレたことだった。その際、素早くジャンピング土下座してバラさないでくれと頼みこんだのは記憶に新しい。
で、仲が悪くなってしまったお姉さんとの関係を良くしようと奔走していたら、友人になって名前で呼ぶ中になっていた。ついで、買い物に行ったり映画を見に行ったりゲーセンに行ったりしたこともある。はたから見たらカップルのデートみたく見えただろう。
そんな感じのことを簪に言ったら顔を赤くして俯かれた。親しき仲にも礼儀あり、と言うし、さすがにアホなことを言ってしまったな、とその日は1人反省会を行った。
色々あったが、『友人として放って置けない』と言ってくれ、憔悴した俺を自室に匿ってくれた。さらに姉でありこの学園の生徒会長、更識
食糧的な面は俺が所属することとなる一年一組の副担任、山田真耶先生が調理道具一式と一緒に食糧を学食から貰って来てくれた事によりどうにかなった。家事能力は両親が家を空けることが多く、ほぼ自炊していたのでそれなりに身についている。
で。勉強したり、簪推薦のアニメ見たりラノベ読んだり、ISの簡易調整したり、お菓子を作って簪に喜ばれたりと、穏やかな日々を過ごしていた。しかし六日目の今日、事件は起きるのだった。
~♢~
「買い物?」
「うん……十時ぐらいに出て、お店を見て、その後お昼にしようかな、って……」
「ん、いいよ。けど――」
朝食後の食器を洗っていたら、久しぶりにインドア派な簪からの外出の提案。彼女としては珍しいけど、引きこもりのような自堕落生活を送っていたし、そろそろ外に出たかったので調度良かった。が、ここで問題が一つ発生する。
「部屋からどうやって出るかなんだよねぇ……」
そう。更識会長の話によると、対俺包囲網は未だに解けていないのだ。卒業生の数が全体の一割を切ったそうだが、それでもまだ血眼になって探索を続けている人がいるそうな。
「……大丈夫、策は、ある」
「どうするんだ?」
「こうする―――――お姉ちゃん!」
バン、と天井が開いた瞬間、俺はベランダに向けて全力ダッシュをしていた。のだが、
「話は聞かせてもらったわ!とりあえずこっちに戻ってきなさい」
ババーン、と言う効果音が出てきそうなセリフを言いながら天井から現れたのは更識会長だった。なんだ、焦って損したや。……しかし、嫌な予感がするのはなぜだ?
「なんだ、会長かぁ。頼みますから心臓に優しい入り方で入ってきてください。無駄にベランダから脱出しかけたじゃないですか」
「簪ちゃんが「お姉ちゃん」と言っていたのだから、逃げる必要なかったと思うけど……?」
「何故だかわかりませんが、俺の本能が逃げろと告げてきたので……」
「……まあ、いいわ。とりあえず変装グッズを持ってきてみたわ!」
そう言って先輩が取り出したのは―――IS学園の女子制服とウィッグと眼鏡だった。
「ぎゃあああああああああああああああああああああッ!?」
俺は悲鳴をあげながら再びベランダに向かってもうダッシュした!嫌だ!女装なんてもう嫌だああああああああ!?しかし、あと一歩という所で二人に首根っこを掴まれて部屋の中央に連れ戻された。
「さぁあ、水無月君?これに着替えてくれる?」
「嫌だぁあああああ!女装は嫌だあああああ!?」
「……大丈夫、問題、無い」
「可愛ければ問題ないでしょ?」
「大問題だよ!!」
ちくしょう!会長は新しい玩具手に入れた子供みたいな顔してるし、簪もめっちゃ目をキラキラさせてやがる!?まさかの身内に敵がいやがった!俺の本能が逃走を告げた理由はどうやらこれの事だったらしい。今度はドアからの脱出を考え始めたところで、
ガシッガシッ
「ッ!?の、
何処からともなく表れた、布仏
「は、離してください!俺を社会的に殺す気ですか!?」
「ごめんなさい……私も見たいの」
「てひひ、あっきらめろー」
「味方がいねぇ!?」
「まあまあ、男は度胸、何でもやってみるものよ?意外と気持ちいいかもしれないし」
「んなわけあるか!」
「さあ、逝こう……?」
「ちょっ、まっ!?それ絶対に字が違ッ……
ア―――――――――――――――――――――ッ!!」
~三十分後~
「……」
「……蒼也、かわいい……」
「いやー、化けたわねー。私得だわー」
大きな姿見に映っているのは、青味のかかった黒の長い髪と瞳を持ち、見るものに儚い印象を与える少女だった。髪は太陽の光を反射して艶やかに輝き、顰められた目は憂いを抱いた陰のある女性像を髣髴させるだろう。
―――が、その正体は世界で唯一ISを動かせる男子、水無月蒼也こと俺である。
「わ、悪くないですね。化粧無しでこれほどとは……可愛らしい……」
「おー、みなみな完璧に女の子だ「……せ」?」
「……殺せ。こんな俺なんか殺せ――!!」
「ダメ。さぁ、葵。買い物、行くよ?」
「その呼び方やめろぉおおおおおおおおおお!!てか絶対無理!!ばれるから!!3秒内にばれるから!!」
「……問答、無用」
「い、嫌だぁ―――……」
「「「いってらっしゃーい」」」
首の根っこをつかまれて簪に連行される俺の叫びはその場にいた全員にスルーされ、むなしく寮の一室に響いて消えていくのだった。