IS〈インフィニット・ストラトス〉 紫雷の獅子王 作:天狗鞍馬
ショッピングモール『レゾナンス』はその日、これ以上に無い程の賑わいを見せていた。原因は、
「待てぇ―――!!」
レイピアを振り回す、流れるような長い黒髪の少女。
「止まらないと撃ちますわよ!」
スナイパーライフルで急所を狙う、宝石のように煌めく金の髪の淑女。
「ええい、あんたじゃまよ!」
大量の飛刀と脚技によって全員を圧倒する、ツインテールの仙女。
「……蒼、じゃない、葵を、離して!!」
二丁のハンドガンを乱射しながら近接戦を挑む、儚い水色の髪の乙女。
「だが断る!!蒼、じゃない、葵は私のモノだ!!」
左手に最後の一人を抱えながら右手に持った日本刀で迫りくる攻撃をいなすポニーテールの戦乙女。
「……何でこうなったんだっけ……」
戦乙女に守られながらも時折自分に飛んでくる流れ弾を弾く、青味のかかった黒髪の麗しい姫。
そう、この数名の少女による舞闘劇。彼女たちはショッピングモール内で凄まじい程のデッドヒートを繰り広げ、野次馬たちを賑わせているのだ。
店の方も普通は止めるはずなのに武器になる物(怪我人が出ないようにエアガンやおもちゃのナイフ等)を投げ入れたり、関係のない客に被害が出ないよう通行規制をかけたり、野次馬から見物料を取ったりしていた。商売魂のたくましい店である。
BB弾が飛び交い、剣戟が激しさを増す。そのたびに野次馬たちはおおいに沸き、新たな観客を呼び寄せる。
だが、野次馬たちは知らない。少女のうちの一人が男と言う事を。
事の発端は二時間ほど前に
~♢~
「~♪~~~~~♪~♪」
「……はぁ」
「?どうしたの?葵」
「……なんでもないよ。後、その呼び方は、」
「葵葵葵葵葵葵葵……」
「ぎゃあああああああ!?」
簪と共にショッピングモール『レゾナンス』へと赴いた、俺こと水無月蒼也(現在女装中に付き、偽名として水無本葵と名乗っている)は現在簪と腕を組みながら店内を練り歩いていた。IS学園の制服を着ているため目立ってはいるが、それでもナンパなどが来ないのは助かる。というか男になんて口説かれたくはない。なぜか3組ぐらいの女性グループにナンパみたいな事されたが。
正直なところ、声を掛けられるたびに簪の機嫌が悪くなるからもう声をかけてきて欲しくない。
そんな願いを断るかのように、ガシッ、と空いている手をつかまれた。
「ッ!?」
突然の事態に驚く。セシリア……ではない。彼女の場合は手をつかむだけでなく、体のどこかに手錠をかけて動きを封じてくるはずだ。……正直、そんな判断をすぐ下せるようになった自分が悲しい。
(……じゃあ、誰だ?)
ゆっくりと、後ろを向く。そこには大和撫子と呼ぶにふさわしい少女がいた。
艶やかな長い黒髪に、陶器のように白い綺麗な肌。
……もしかして、
「一夏?」
「やっぱり蒼也だ!」
織斑一夏。千冬さんの妹で俺の幼馴染の一人だ。小学校の頃は剣道を習っていて、同門の子を圧倒するほど腕前である。子供の頃はただ生意気なだけだった瞳は、凛とした大人の女性を感じさせるものに変わっていた。俺が気付けたからか、数年ぶりの再会だからか、一夏は嬉しそうに顔を綻ばせて抱きついて来たぁあああああああああああああああ!?
メキメキメキメキメキィ!!
一夏の抱きついて来た逆方向の腕がものすごい音を立てる!原因は、もともと腕に抱きついていた簪様!目からハイライトが消え、腕にシャレにならない握力が加えてきていらっしゃる!?
「ぎゃあああああああああ!?」
「……葵から離れて……!」
「ちょ、蒼也に何をしてるの!というか貴女誰!?そっちこそ離れてよ!」
すぐさま口論を始める二人。出来ることなら、万力のごとく握りしめてきている両手を離してほしい。じゃないと、もれなく俺の両腕が死ぬ。
「一夏、一体どうしたというのだ?……む?」
「何なのよ、いきなり走り出して……あれ?」
一夏の後ろから二人の少女がやって来た。一夏がいるなら見間違いではなく、俺が思っている通りの二人だろう。1人は鋭い目に髪を結ってポニーテールした侍のような少女、
「箒!鈴!助けて!」
「!?もしや蒼也か!?」
「嘘!?どこからどう見ても女の子じゃない!」
ああ、それについては後で説明するから、早く、早く俺の両腕を助け、
ボキボキッ
「「「「あっ」」」」
両腕から響く異音。それと同時に発生した痛みによって、俺は意識を手放した。
~♢~
程なく俺は無事に生還した。……はずである。気を失っているときにサンズリバー的なものが見えてしまったが……大丈夫だよね?俺、生還したんだよね?
「あ、蒼也!大丈夫だった?」
「ん、無事だったか。うわごとで何か言い出した時はもう駄目かと思ったぞ」
「右斜め45度チョップが効いて良かったわー。アレ以外に方法思いつかなかったし」
「……ごめんなさい」
「あー、良いよ、良いよ。で、一夏が俺の偽名を知ってるって事は、和解と自己紹介と俺が置かれてる現状の説明は終わったのかな?」
「うん、ばっちりと教えてもらったよ……葵」
「お前も苦労するな……葵」
「いつも災難な目にあってるわよねー……葵」
「
3人がうなずく。いえーい、とハイタッチする姿としてやったり顔が凄いむかつく。
ちなみに幼馴染三人組は全員IS学園に入学するため、昨日IS学園の寮に入寮していたらしい。……全然気が付かなかった。今日は足りない物の補充に来たら、一夏が俺を発見。今に至るというわけだ。
「まあ、とりあえず。久しぶり、皆。元気そうでよかったよ」
「久しぶり。さっきはごめんね」
「ああ、久しぶり。……長いあいだ会わなかったはずなのにそんな気がしないな」
「これからよろしくね。ところで、その恰好」
「?」
「なんで着ているのがIS学園の制服という、露出の低い服なのよ!?もっと露出の高い服着なさいよ!」
「「「「…………」」」」
空気が凍った、いや、死んだと言った方が良いかもしれない。全員鈴から距離を取る。俺はドン引きだったがしかし、この時の女子たちは内心、
(……悪くないかもしれない。ミニスカメイドとか。……失敗した)
(確かに、肩が露出してるワンピースとか良いかもなぁ……フリルがあるとなお良いかも)
(ろ、露出が高いというと、あれか?『裸エプロン』と言うやつか?仕事で疲れて帰ってきたところで『お帰りなさい、ご飯にする?お風呂にする?それとも……わ・た・し?』
というシュチュエーションに使うあれを着させるのか!?……ゴフッ!!)
と、ぶっ飛んだことを考え、箒にいたっては、俺にばれないよう吐血していた事に俺は気が付けないのだった。
「…………今のセリフ、無しで!」
「無理だ、バカ!インパクトがメテオすぎる!」
どうあがいてもアウトなセリフである。しかし、ここまで幼馴染がブっ飛んでいるのは俺のせいなのだろうか?
「というわけで撫でさせて」
「会話が成立してない!?」
「大丈夫よ、悪いようにはしないから」
「信用できんわ、そのセリフ!!」
「撫でさせてくれれば黙るから!一生のお願い!」
「嫌だ。つーか、一生のお願いをこんなところで使うな」
「10秒だけでいーからあぁぁあ!」
駄々っ子のようにゴロゴロする鈴。……子供かお前は?
「……仕方ない」
「いいのッ!?」
「0.1秒な」
「短い!?せめてあと9.9秒ちょうだい!」
「駄目に決まってるだろ」
「ならば強行するわ!ひゃっはぁあああああああ!」
奇声をあげながら鈴は飛びかかるように迫ってきた。
「葵……もう(ピ―――)はしたの?まだよねェ、初めての相手は他でもないッ!この凰鈴音よッ!」
「お前ちょっと全国のJ●JOファンに謝ってこい!そしてその呼び方はヤメロ!」
残念ながら俺はそんな行動に痺れもしないし憧れもしない。色々アウトな思考をしながら飛びかかってきた鈴の顔面を問答無用でぶん殴る、
「ちぇぇぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」
よりも早く、横合いから現れた何者かに蹴り飛ばされた。その人物は――――
「見付けましたわよ、蒼也さん!」
「セ、セシリア!?なんでここに!?」
そうIS学園にいるはずのセシリアだった。もう学園を脱出したことがばれたのか……楯無先輩、もうちょっと根回しとかして欲しかったです……。
「くっ、何者よあんた!?」
「蒼y、いえ葵さんの
「「「な、なんだってぇえええええ!?」」」
「嘘つくな!そしてその呼び方はヤメロ!」
「……っ、なぜ、ここが……?」
驚く俺と簪に対し、腰に手を当て鼻を鳴らすセシリア。そのまま優雅に髪を掻き揚げる。
「葵さんへの愛をもってすれば、簡単な事ですわ」
と懐から何かを取り出すセシリア。出てきたのは――盗聴器だった。
「愛全く関係ないぞ!?」
「お姉ちゃんたちが、そんなものを見逃すはずが……まさか!」
「そのまさか、襟の後ろ。ルパンはいつもそこに隠すそうですわ」
「何時の間にそんな物を……ないぞ?」
「隙あり、ですわ」
ガシャン、と手足に手錠をかけられた。って早っ!?
「ちなみにこれは偽物ですわ」
「騙された!」
そして始まる六日前の
あの時と違うのは、セシリアの動きに遠慮が無いという所か。首筋に舌を這わせてきたり、耳を甘噛みしたり、太ももを撫でたりと卑猥な迫り方をしてくる。
そのまま彼女は俺の唇を奪おうとして、
「「「でりゃあああああああああああ!!」」」
「ぶふぅー!?」
一夏、箒、簪の3人に蹴り飛ばされた。……ってあれ?鈴はどこ行った?
「動くなぁっ!!」
「「「!!」」」
探そうとしていつの間にか近づいてきていた鈴に捕まった。人質を取った悪党のようなセリフではあるが、その手には何も握られておらず、左手が顎に添えられているだけだった。
そして鈴はよくある脅し文句を、
「動いたら、顎を撫でるわ!!」
訂正、果てしなくアホらしい脅し文句だった。
「ッ!鈴、貴様ぁ……!」
「ダ、ダメ……!それだけは……!」
「葵を盾に取るなんて……恥を知りなさい!」
「……もうわけが分からないよ。そして一夏、その呼び方はヤメロ」
がっくりと肩を落とす。何がしたいんだこいつらは?
「動いたわねッ!」
「あれぇ!?俺もカウントされるのか!?」
普通、人質の動きはカウントされないと思うのだが……?
「や、やめろ!」
「もう遅い!脱出不可能よッ!」
箒の制止を無視して鈴は行動を起こそうとする。が、そうはさせるか!
「ふんっ」
「げふぅ」
少し屈んで輪の腹に肘鉄を打ち込む。いい感じにクリーンヒットし、鈴の拘束は弱まった。脱出を……と思っていたら視界の端にセシリアが映った。どうやら鈴に見つからないように反対側から移動して近づくつもりらしい。そしてセシリアが瞬時に俺と鈴に詰め寄り、
「「よぉ~しよしよしよしよしよしよしよしよしよし」」
「ふにゃ~♪…………ハッΣ(゜ロ゜)!!」
ムツ●ロウさんみたいなセリフを言いながら鈴は頭と顎を、セシリアは太ももを撫でてきた。ヤロウ、顎だけみたいなこと言っておきながら頭も撫でてきやがった。思わず猫のような声を出してしまったじゃないか。
「くっ、何と言う事を……!」(ダバダバダバダバ)
「落ち着かなきゃ……『素数』を数えて落ち着かなきゃ……」(ダバダバダバダバ)
「ふふっ、甘いわね。まだあたしの撫でフェイズは終了してないわよ?」
「も、もうやめて!私たちのライフはもう0だよ!」(ダバダバダバダバ)
鼻を押さえながらも目を離さない三人。押さえている手が真っ赤になるぐらい鼻血が出ているが……大丈夫なのか?一方、鈴とセシリアはもう周りを気にせず一心不乱に俺の体を撫でまわしてきている。うん、とりあえず……離せ!
「うらあっ!!」
「あふぅん♪」「はふぅん♪」
俺に殴られながらも嬉しそう顔をして倒れる鈴とセシリア。……仲がよさそうで何よりだ。ついでに手錠を引きちぎっておく。そして瞬時に痛みから回復した鈴は、あまり長い時間撫でる事が出来なかったせいだろう、セシリアを親の仇のように睨み付けて文句を垂れる。
「ちぃ、あんた!なんで初めに太ももを撫でるのよ!上から下に撫でていかないと殴られるってアイコンタクトで教えたじゃない!」
「欲望に従ったまでですわ!というか、初対面でアイコンタクトなんて通じるわけがないでしょう!」
「なんですってぇ!?」
ぎゃあぎゃあと言いあう鈴とセシリア。そして平行線な言い合いは続き、
「――――――どうやら、ここで白黒つけておいた方が良いようですわね」
「――――――そのようね」
二人はいつのまにやら足元に投げ込まれていた物体をつかむ。気付けば俺以外のメンバー全員が武装していた。どうやらショッピングモールの店員たちが面白がって投げ入れたらしい……何て事を。
とりあえず一夏はレイピア、セシリアはスナイパーライフル、鈴は中国の手裏剣こと飛刀、簪はハンドガン、箒は日本刀を手にしている。このままでは巻き込まれそうなのでせめて盾になる物が欲しいが……と、視界の端に何かが映った。よく見ると円柱状の箱みたいで中に何か入っているみたいだ。
「葵!その貞操、貰い受けるわ!」
と、鈴が飛刀を投げながら飛びかかってきた。その呼び方はヤメロと言ってるだろうが!ひとまず、中身が何かわからないがひとまずこれでどうにかするしかない。瞬時にそれをつかみ取り、盾代わりにして飛刀をはじく。そして円柱の箱のふたを開け、中から爪楊枝を出して反撃を、
「って爪楊枝で反撃できるかぁ!」
なんで!?みんないい武器貰ってるのになんで俺だけ爪楊枝!?凄い貧相なんだけど!?慌てて店員たちを見ると全員でサムズアップをしてきた。えええええ!?ちょっと待て、なにその『自分頑張りました!』みたいな顔は!?こんな装備じゃ大問題だ、一番いい装備を頼む!
「隙あり!」
「チェスト!」
「ぎゃあああああああああ!目が、目がぁああああああああああああ!?」
さりげなく近づいていた一夏の両目に2本の爪楊枝を放つ。ぐさりと目に刺さった痛みで一夏はのたうち回った。よし、効果は抜群だ!(非常に危険ですので絶対に真似しないでください)
「「う……」」
それを見た鈴とセシリア、簪はちょっと怯んでいた。俺はそのまま爪楊枝を手に3人からじりじりと距離を…………3人?箒はどこ行った?
探そうと視界を右に向けた瞬間、誰かに持ち上げられた。
「ふぁっ!?」
「ふふ、相変わらず軽いな、蒼也は……」
少し視界を下げるとそこには満面の笑みをした箒の顔がすぐそばにあった。軽いって……俺体重50はあるんだけど?
「私にとっては無いに等しいぞ?」
「ナチュラルに心読まれた!?」
「愛は不可能を可能にする。恋する乙女もまた、不可能を可能にできるのだ」
「なにそれ怖い!」
「そういうわけでサラバだ!」
箒はスカートのポケットから何かを取り出すと地面に叩きつける。ボン、という音と共に大量の煙が吐き出された。……どうでもいいことかもしれないが、スプリンクラー作動しないよな、これ?
と同時に、箒は俺を抱えて走り出した。……って早っ!?ショッピングモールの端っこの方にいたのに10数秒で反対側に辿りつきかけてる!?
「「「「待ちなさーい!」」」」
どうやらダメージ等から復活した4人が追いかけてきたよう……ってこっちも早い!自動車どころかISの瞬間加速超えそうな勢いなんだけど!?
と、箒が足を止め4人に向き直り、またボール状のものを地面に叩きつける。4人は箒が足を止めたことを好機と思ったのか止まらず煙の中に突っ込んできて、倒れた。
「……え?」
慌てて確かめると全員規則正しい呼吸をしていた。……というか全員寝てた。どうやら睡眠作用のある煙球だったらしい。
「この程度は恋する乙女の嗜みだ」
ドヤ顔で自慢する箒。正直そんな嗜みは知りたくなかった。
「ああ、そうだ蒼也」
「何さ」
「ふんっ」
「ぶふぅー!?」
不意打ち気味に腹に重い一撃を入れられ、俺の視界はブラックアウトして行った。
……何で声かけたし。
~♢~
「ふむ……ここなら大丈夫か?」
気絶した(させた)蒼也をわきに抱えて、素早く目を覚ました鈴たちから逃走すること数分、箒はスタッフ用のバックルームにたどり着いていた。中には誰もいないようなので隠れるには打って付けだろう。部屋に入ってドアの鍵を閉め、蒼也を備え付けの仮眠用ベッドの上に横たえる。その寝顔は同性も異性も関係なく引き付けるくらい愛らしいものだった。そして現在の箒の理性はゼロに近い。
「ああ、蒼也……」
(ああ、最高だ。この頬!この胸!この太もも!そしてこのモチモチ感!パーフェクトだ!肌に傷があって少々痛々しいが、あえて言おう。そこがいいと!)
全身をなめまわすようにさわり、顔を胸にうずめた。温かく、心地良い感触が肌に伝わる。だが、心臓の鼓動を意味する心音は無かった。いや、あると言えばある。が、それは無いに等しいくらい小さい。なぜなら、そこに心臓と呼ばれる臓器が無いからである。生きるために絶対に必要なものが無いのに、それでも動く。
何故、彼が動けるのか。それは数十年前に突如として現れたある生物の核となる部分を心臓の代わりとして移植しているからだ。その生物は、絶対的な強さから、日本に古来から伝わる八百万の神々になぞらえて、こう呼ばれる。――すなわち、『アラガミ』と。
極端な話、ゾンビにされたと言ってもいい。そして体の傷は、確認のためについたものだ。その過程で蒼也は3ケタを超える勢いで殺され、その都度蘇生される。その繰り返しだった、と蒼也本人から聞いていた。
だから彼は普通じゃない。だが、彼は自分達と全く同じように泣いて、笑って、怒って、喜んで……そんな当たり前が出来る、人間だった。だから箒は、その笑みと優しさに、包み込むような温かさに惹かれて、今に至るのだ。
「蒼也ぁ……」
両頬に手を当てる。そのまま唇を奪う、
「でりゃああああああ!」
「ぶふぅー!?」
よりも早く、ドアをぶち破って現れた一夏によって蹴り飛ばされた。しかしすぐさま体勢を立て直す。
「ちぃいっ!!おのれ一夏!!私と蒼也の蜜月を邪魔するとは!!」
「させるわけないでしょう!蒼也とイチャイチャするのは私なんだから!」
「あーやっと追いついた。さぁ、蒼也を返してもらうわよ!」
「……既成事実だなんて許さないッ……!」
一夏に続き鈴と瞳からハイライトを消した簪が追いついた。
「……OH、目覚めたらそこは戦場だったか……」
目が覚めた蒼也は取りあえず、飛んできた流れ弾をポケットの中に入っていた爪楊枝の容器で弾く。そのまま壁沿いに移動を開始するために一番ドアに近い壁に近づこうとするが、
「葵さんと結婚するのはこのわたくしですわ!」
近づいた壁から生えるように、にょきっ、とセシリアが現れた。
「いろいろ突っ込みたい出方してきたなぁ、おい!そしてその呼び方はヤメロ!」
「葵さんへの愛をもってすればこの程度は余裕ですわ!」
「愛ってすごい!でも絶対に一回は人類止めたろう!てか、いい加減諦めてくれ!」
「お断りします!」
と、セシリアは懐から何かを取り出した。出てきたのは書類、いわゆる婚約届である。しかも一枚と言わず、十枚ぐらい束になっている。
「あなたがッ
判を押すまでッ
追うのをやめませんわッ!!」
婚約届とスナイパーライフルを片手に駆けるセシリア。しかし、
「「「「でりゃああああああああああっ!!!」」」」
ビリビリッ、と箒、一夏、鈴、簪の四者四様による一撃によって引き裂かれた。蒼也は不参加、というか爪楊枝では紙を破るほどの威力がない。
「ああ!?なんてことを!?」
「結婚なんてさせないよ!蒼也は私が好きなんだから!」
「何を言っている一夏!蒼也愛してるのは私だ!私も愛しているから相思相愛だ!!」
再び箒に抱かれる。その行動に一夏と簪は殺気立つが、鈴はフフン、と微笑んでいた。
「甘いわね!今は愛だけでは生きていけない!求められているのは撫でテク!蒼也を満足させられるのはあたしだけよ!」
「……押しつけはよくない。皆の場合、脅したのか、『友達として』だと思う……あと、鈴のは絶対無い」
鈴のアホな発言に少し冷静になった簪が呟く。その眼にはハイライトが戻っていた。
「よくもわたくしと蒼也さんの愛の結晶を!ですがコピーした婚約届がまだありますわ!」
「……それ、役場に提出して、受理されるのか?」
蒼也の言葉にセシリアはフリーズしたが、すぐさま元通りになった。
「蒼也さん!今すぐ婚約届に判を!そして二人で婚前旅行に行きましょう!!」
「そんなことさせるか!蒼也の裸エプロン姿は私のモノだ!!」
「デートを、邪魔した上に、貞操を奪おうとしたり、婚約しようとするなんて……コロス」
「蒼也はだれにも渡さないよ!蒼也は私のこ、恋人なんだからぁ!!」
「何言ってるのよ!蒼也はあたしの性奴隷よ!!」
「「「「「異議ありッ!!!」」」」」
言い合いをしながらも乱戦は続く。しかし、終止符はここで撃たれる。
カツン、と足音が鳴った。
「「「「「「――――――ッ!」」」」」」
その音に全員が動きを止める。音源からそれなりの距離があるはずなのに、超至近距離で当てられているような
「何を、」
その手握られているのは店に置いてあった模造刀。だが握っている人物によって、それは妖刀にしか見えなくなっていた。そしてそれを構え、
「やっとるかこのバカ者ども!!」
瞬く間に、全員を打ち伏せる。
こうして、アホらしいとしか言えない乙女たちの戦争は、最終兵器千冬の介入によって終了したのだった。
その後、IS学園に戻った蒼也たちに、地獄の説教が待っていたのは言うまでもない。