IS〈インフィニット・ストラトス〉 紫雷の獅子王   作:天狗鞍馬

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入学初日

「……きついな、これは」

 

それがようやく俺の口から小声で出せたセリフだった。

今日は高校の入学式。新しい生活の初日。喜ぶべき一日だと思うんだが……。

 

(なんで睨まれてるんだっけ?)

 

 そう、なぜか隣に座っている――いや、隣だけじゃない。クラスメイトほぼ全員に睨まれている。まだ悪印象を持たせるようなことはしてない筈だが……。それだけ女尊男卑の壁は大きいと言う事だろうか?

 

(……いや、世界で初の『ISを動かせる男』なんだから当たり前と言えば当たり前か)

 

俺がISを動かせると言う事はニュースや日本総理の特別会見などで伝えられ、昨日のうちに世界中に知れ渡った。もっとも各国の首脳やIS企業たちはこの事を六年前から知っていたが、それはどうでもいい事だろう。

 

しかし、今までその事を知らなかったIS企業からの勧誘がウザイ。アメリカとか中国とかロシアとかのIS企業がもの凄い勢いで電話をかけてきた。なぜ俺の電話番号を知ってるんだと問いたい。切っても二秒後にかけ直してくるとか、どんな執念してやがる。

 

千冬さんの説教を食らった後に対応させられたから、箒が淹れてくれたお茶を飲む気にもならないぐらいに疲れた。その時の俺の本能はそれを絶対に飲むな、と告げていたが……なぜだ?

 

後、何故か知らんが箒と相部屋になっていた。その時それを山田先生から聞いた知り合い四名+千冬さんの顔が物凄い事になっていて、どうにか宥めてちょっとしたパーティのようなものを催し、全員満足したところで解散、事なきを得ることに成功した。寝る少し前に、箒がベッドの上で俺のエプロンを抱きしめてニヤついていて、洗濯すると言っても離してくれなかったのは少し困ったが。

 

「全員揃ってますねー。それじゃあSHR(ショートホームルーム)をはじめますよー」

 

声の主は山田先生だった。どうやら少し、ぼけっとし過ぎたようだ。ちなみに担任は千冬さんらしいが、会議があるらしくまだ来ていない。

 

「それでは皆さん!一年間、よろしくお願いしますね!」

 

普通ならここで反応があるだろう。が、しかし。

 

「………………」

 

教室の中は妙な緊張感に包まれていて誰も反応を返さない。まるで通夜だ。

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 

誰も反応しなかったせいか、山田先生はちょっとうろたえる。そして妙な空気のまま自己紹介が始まった。

 

ちなみに俺の知り合いたちは一夏とセシリアが一組、鈴が二組、箒が三組、簪が四組と言う感じで割り振られる事になった。箒と鈴、簪はこの結果に納得がいかなかったのか、箒は江戸時代より代々伝わる名刀『緋宵』を携えて、鈴と簪はISを展開して職員室に殴り込みに行った。千冬さんによって二秒で鎮静されたのは言うまでもない。

 

「織斑さんっ。織斑一夏さんっ!」

 

「は、はい!?」

 

大声をかけられたためか、一夏は動揺して声が裏返った状態で返事をした。案の定くすくすと笑い声が聞こえて一夏はさらに狼狽、山田先生は怒ったのかと勘違いし、しきりに頭を下げて一夏になだめられていた。

 

「えー…えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

しきり直して一夏が立ち上がって自己紹介をした。が、それだけでは満足しなかったらしい。『もっと色々喋ってよ』という感じの視線が一夏に突き刺さる。しかし、

 

「……い、以上です」

 

がたたっ、と思わずずっこけた女子が数名。何か言えばよかったのかもしれないが、この状況では少し難しいだろう。ってアレ?千冬さん、いつ来たんですか?なんで音もなく一夏の背後に回って出席簿を構えてるんです?

 

そして次の瞬間、パァン!とおおよそ主席簿からは出ないであろう音を立てながら一夏の頭にクリーンヒットした。しかも角で。

 

「うわぁ!?関羽!?」

 

「いや、どっちかって言うと楊貴妃とか貂蝉とかじゃない?」

 

バシン!と再び一夏の頭が引っ叩かれ、その片手間に俺の顎を引き寄せ唇を奪おうとした。当然、俺はされる前に手を割り込ませて防いだが。

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者。そして躱すな水無月」

 

「いやいやいや、そもそも自然な流れで唇奪おうとしないでください」

 

「ちっ、お前もくだらん倫理に縛られるようになったか」

 

「好意を向けてもらえるのは嬉しいんですけど、個人的にはもうちょっとソフトなのがいいです」

 

正直な話、毎度毎度唇奪われそうになったり貞操奪われそうになったりすると身の危険しか感じない。というか、何故少し油断したらすぐさまこんな事になるのだろう?

 

「まぁいい。水無月、放課後に寮長室に来い」

 

「?はぁ、了解です」

 

何故か本能が「逃げるんだよォオ!」と告げてきたような気がするが、多分気のせいだろう。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。

私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。出来ないものには出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五才を十六才までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことだけは聞け。いいな」

 

先生、それは教師ではなくハートマンな鬼軍曹の言うセリフだと思います。だがしかし、教室には黄色い声援、否、音響兵器が響き渡った。

 

「キャ―――――――!千冬様、本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!九州から!」

 

「ふ、ふぬぉぉぉぉぉぉ……」

 

とっさに耳を塞いだがそれでも特大ダメージを受けた。よく見ると窓ガラスにヒビが入っている。何という威力だ、誰が弁償するんだろう。

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

 

「お姉様のためなら死ねます!」

 

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

いやいや千冬さん、さすがにそれは言いすぎ、

 

「きゃあああああああっ!お姉様!もっと叱って!罵って!」

 

「でも時には優しくして!」

 

「そしてつけあがらないように躾をして~!」

 

……でもなかったようだ。千冬さん、もっときつく言ってやってください。

 

「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。

その後実習だが、基本動作は半月で体に染みこませろ。いいか、いいなら返事をしろよ。

良くなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

おぉふ、何という鬼軍曹なセリフ。この人の場合、人間の限界を知っているからタチが悪、

 

「水無月」

 

「はい?」

 

「私の所へ来るときは必ず裸エプロンになってこい」

 

「生徒に向かって何言ってるんですか!?」

 

今ほど知り合いだったことを激しく後悔したことは無い。というか、縁を切ってしまった方が良いだろうか?

 

「しょうがない、ならばリードだけで来い」

 

「ほぼ全裸!?グレード上がってるじゃないですか!?」

 

首の一部が隠れて終わりという最悪装備とか、俺の人権は犬レベルと言う事か?

 

「では……どちらか選べ」

 

そういって取り出されたのは、メイド服とナース服。それを見た瞬間、俺は瞬時に土下座する!

 

「勘弁してくださいお願いします!」

 

「お前に拒否権は無い。……ふむ、甲乙つけがたいが、メイドでいいだろう」

 

「理不尽すぎる!」

 

「それではこの時間では実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

「そして何事もなかったかのように授業開始!?」

 

「うるさいぞ水無月。授業中の私語は控えろ」

 

「な、納得いかねぇ……」

 

渋々ながらも、席に座り直してノートを取り出す。それなりに重要なことだからか山田先生もノートを手にとっていた。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなきゃいけないな」

 

ふと、思い出したように千冬さんが口にする。

代表者とはまんまの意味で、クラス対抗戦をはじめ、生徒会の開く会議や委員会への出席などの仕事を受け持つ、委員長のような存在だ。千冬さんの事だから「自薦他薦は問わん」と言うだろう。

 

「はいっ。水無月君を推薦します!」

 

「私もそれが良いと思いますー」

 

「わたしも!」

 

デスヨネー。物珍しさで選びますよねー。でも俺、そんな強くないんだけど。それに事務仕事とか嫌なんだよなぁ。って隣の子が凄い目をキラキラさせてこっちを見てる!?『彼ならきっとやってくれる!』って感じの目線が痛い!ゴメンナサイ俺そんな強くないです!……よし、セシリアに押し付けよう。仮にもイギリス代表候補生だ。専用機も持っているし、実力的にも申し分ないだろう。

 

「自分は、オルコットさんを推薦します」

 

推薦されると思ってなかったのか、セシリアが目に見えて驚いていた。クラスの女子たちは『何でセシリア?』みたいな顔をしている。

 

「では候補者は水無月とオルコット……他にはいないのか?自薦他薦は問わないぞ」

 

若干思案するようなしぐさをする生徒がいたが、手を挙げることは無かった。

 

「ふむ、では今名の上がった2人に模擬戦をしてもらいその結果で決定しよう。勝負は一週間後の月曜。第三アリーナで行う。オルコットと水無月はそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」

 

ぱんっと手を打って千冬さんが話を()めた。

 

 

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