翌日。
後門の前。
言われた通りやって来たルイズは怒りに震えていた。
彼女はあまり温厚ではない性格である。
ちょっとしたことですぐに機嫌を悪くすることも多い。
だが、この状況を考えれば仕方のないことかもしれなかった。
「起きなさいッ!このバカ使い魔!」
ついに大声を上げたルイズ。
怒られた相手・・・・・・十六夜は本当に気づいていないのか、無視しているのかは不明だが、見事に爆睡していた。
呼びつけておいてこの有様である。
なんと自由なことだろう。
ルイズの怒声むなしく、十六夜に起きる様子はない。
「いいわ。叩き起こしてあげる!」
ルイズはどこからか取り出した皮の鞭(馬用)を振り上げて、躊躇なく叩きつける。
バシンッという音が鳴り響いた。
しかし、それは十六夜の頬から発したわけではなく、
偶然通りかかった少年(ギーシュ)の背中からだった。
「ぎゃあっ」
十六夜はのたうち回るギーシュを離して、欠伸を掻きながら立ち上がる。
彼は微妙に眠そうな目でルイズをねめつける。
「オイ、桃チビ。馬用の鞭で人を叩くのはやめとけ。俺は頑丈だから兎も角、普通の人間じゃあ大怪我に繫が」
「僕を盾に使ったのは君だよね!?」
「ギーシュは黙ってなさい!」
「扱いが酷い!?」
実際、怪我はしていなかった。
赤く腫れたのは間違いないだろうが。
「それで?人の快眠を邪魔したんだから、相応のプレゼンはあるんだよな?」
「プレゼンも何もあんたが呼びつけたんじゃない!」
「ああ、そうだった。素で忘れてた」
十六夜はルイズに近づくと腕を背中にやり、
抱き上げた。
しかも、いわゆるお姫様抱っこで。
「なっ」
「じゃあ、行くぜ!」
理解不能の状況に理性やら思考やらなんやらが飛んで固まるルイズを抱いて、十六夜は跳んだ。
いや、一跳びで百メートル以上も移動するジャンプはもはや飛んだと言うべきだろう。
あっという間に姿が見えなくなっていく。
残されたギーシュは呆然とそれを見ているしかなかった。
後日、彼が変な性癖に目覚めたという噂が学院の一部で流れたという。
* * * * * *
「お、降ろしなさい!主に向かって失礼過ぎるわ!」
「ヤハハ、下見てみろよ!」
言われてルイズは眼下を見下ろした。
とてつもない高さだった。
当たり前である。
何十メートルの高さを跳んでいるのだから。
ここから落ちたらどうなるかは想像に難くない。
ルイズは顔を青くして、
「い、いいわ。しばらくはこのままでいてあげる」
「そうかよ!紐無しのバンジージャンプも悪くないと思ったんだけどな!」
「ぜ、絶対に降ろしちゃだめよ!そんなことしたらお仕置きじゃ済まさないんだから!」
「安心しろよ!もう着いたぜ!」
十六夜は足元に小規模なクレーターを作りながら町の前に着地した。
ゆっくりルイズを地面に降ろす。
ルイズは一言?文句を言ってやろうと口を開く。
「あんたねえ!よくもこの貴族たる」
「なるほど。やっぱり中世レベルの文明か」
一言一句たりとも聞いていなかった。
十六夜は言いながら歩みを進める。
そこには初めての土地での緊張も、ルイズに合わせる気配もない。
「ちょっと待ちなさいよ!」
よって、ルイズは慌てて追いかける羽目になった。
* * * * * *
結論から言うと、ルイズはかなり振り回された。
何せ十六夜である。
超問題児である。
彼の興味や好奇心は町中のものに反応し、それに従って行動するとい事はひっきりなしに移動し続けると言う事である。
文句を言ってもスルーされ、怒って説教をしようとしても逆にからかわれるだけだった。
そして、最後にと立ち寄ったのが、この路地裏にある武器屋だった。
「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」
「客よ」
「こりゃおったまげた。貴族が剣を!おったまげた!」
「別に使うかは決まったわけじゃねえ。ちょっと見物しに来ただけだ」
店主が十六夜を眺めて、
「こちらは?」
「使い魔よ」
ルイズは簡潔に答えた。
十六夜は興味深そうに周りを見て、
「なあ、店主」
「へえ、なんでしょう?」
「この店で一番いい剣はどれだ?」
「ちょっとお待ちを」
店主は店の奥に引っ込むと、一メートル以上は下らない大剣を油布でふきながら現れた。
柄から刀身まで全て金でできており、宝石もちりばめられている。
ザ・宝剣といった感じである。
「この剣などいかがでございましょう?店一番の業物でさあ。貴族のお供をするなら、このぐらいは腰から下げて欲しいものですな。といっても、こいつを腰から下げるのは、よほどの大男でないと無理でさあ。あんたなら、背中にしょわんといかんですな」
「・・・・・・」
十六夜は値踏みするような視線を剣に向けている。
ふと、顔を上げて店主を見た。
「この剣、実用のためのものじゃねえな」
「へ?」
「つなぎも甘いし、もともと金は武器に向いてねえ。そうだな岩でも斬ろうとしたら簡単に折れちまうだろうぜ。つまり、これは観賞用ってこった。といっても見る限り美術的価値も薄そうだが」
適当に講釈を述べる十六夜。
彼は剣や武器の知識はもちろん、金糸雀と世界中の美術館もまわったので感性や見る目も並じゃなかった。
世界は違えど、これが十六夜の美的センスはおろか、一般人の美的センスすらも刺激しないのは彼から見て明白だった。
主人が顔を真っ赤にして何かを言おうとする前に、背後から声が聞こえた。
「やるじゃねえか、お前さん。素人じゃねえな」
「!」
十六夜はサッと振り返るが誰もいない。
しかし、声がどこから来たのかくらいはわかった。
十六夜は動かないそれを目を輝かせて見つめる。
「何だ。何だよ!おもしれえ!剣がしゃべるのかよ!」
そう。
声の主は古びた大剣だった。
多くなりませんでした。