「それで、言い訳や申し開きはあるかね?」
学院中が盗賊の噂で花を咲かせていた時、ある少年少女たちが学院長室に呼び出されていた。
当然ながら十六夜とルイズ、なぜかキュルケとタバサまでいる。
実際、『破壊の杖』が盗み出されたのは十六夜が壁を盛大に破壊したせいであるため、オールド・オスマンに目くじらを立てられているのは彼である。普段、温厚であるはずの彼にしては珍しい事であった。
しかし、十六夜はそんなプレッシャーなどものともせずに傲然と言い放った。
「ないね。売られた喧嘩を買ったらこうなった。それだけだ」
十六夜の言い分にオスマンは一層表情を険しくする。
「では、責任をとる気はないと?」
「いや、そんなのは俺の主義じゃねえ。てめえのケツくらいてめえで拭くさ」
オスマンは瞑目し、しばらくすると、
「ならば、フーケを捕まえてくるのじゃ」
十六夜の怪物じみた力はオスマンも聞いていたのである。
十六夜は迷うそぶりも見せず頷いた。
「オーケー。今日中にあんたの前に連れて来てやるよ」
オスマンも頷き、十六夜が部屋を出て行こうとしたところで、一人の生徒が声を上げた。ルイズである。
「あの・・・・・・、わたしも同行していいでしょうか?」
それを聞いた教師たちが目を丸くして何かを言おうとするが、その前に十六夜が口を開いた。
「オイ、御チビ様。これは俺が片付けることだぜ」
「わたしもあの場にいたわ。無関係じゃないはずよ」
「マジで付いて来る気か?」
「ええ。使い魔の責任は主の責任よ。それを放棄する気はないわ」
ルイズの瞳には確固たる意志が込められていた。
十六夜は肩をすくめて、オスマンを見る。
「だ、そうだが?」
オスマンはルイズを見て、
「ミス・ヴァリエール。本気かね?」
「はい」
間髪入れずにルイズは頷いた。
「では、頼むとしよう」
承諾したオスマンに教師たちは何か言いたげな顔をするが、この空気では言い出せ様もなかった。
それに加えて、十六夜の実力が知れ渡っていたのも一因だろう。
* * * * * *
あの後、十六夜が行くということでキュルケが立候補し、加えてタバサも同行することになった。
オスマンと十六夜を除く全員が去った後、十六夜はオスマンに『破壊の杖』の形状や特徴を尋ね、その情報からある推測を立てた。
十六夜の懸念はそれが少々荒唐無稽な想像であるということだ。
思考の海に沈んでいる十六夜には周囲の音(ルイズとキュルケの口喧嘩、馬車の音等)が聞こえておらず、結局、着いてからルイズにはたかれるまで気づかなかった。
当然、避けたので当たったのは馬車の壁であり、痛い思いをしたのはルイズである。
「もう着いたのか。意外に早かったな」
正直、十六夜1人が走った方が何倍も速いのだが、十六夜の推論が正しいと仮定すると、行動に余裕ができたのである。
金糸雀と過ごし、現代社会に適応した十六夜の精神は一応、集団行動もできるようだった。
キーキー喚くルイズをいなしながら、簡素なボロ小屋に歩いていく。
小屋の奥には布で包まれた円柱状のものがあり、布を取り払ってみると真っ黒な筒が現れた。
「はっ、M72かよ。ずいぶん古いじゃねえか」
出てきたのは十六夜の世界の武器―ロケットランチャーだった。
予想通りの事実に退屈を覚えるが、同時に一つの疑問が浮かぶ。
(何でこんなものがここにある?)
普通に考えれば、自分と同じように召喚されたのだろう。
だが、これだけがピンポイントで召喚されるのはおかしい。
つまり、これ以外にも召喚されたもの、もしくは持ち込んだ人間がいるはずだ。
(後であの爺さんを問い詰めてみるか)
ここまで考えて十六夜の思考は中断された。
近くで巨大なものが動く気配がしたのだ。
振り向いてみると、小屋の外にいたのはいつかの土人形―ゴーレムだった。
フーケで間違いないだろう。
タバサが反応し、呪文を唱えた。
巨大な竜巻がゴーレムを襲うが、ビクともしない。
キュルケが炎の呪文を加えるが、それすらも意に介さないようだった。
「無理よこんなの!」
キュルケが叫んだ。
「退却」
タバサが呟く。
2人は一目散に逃げ出した。
小屋の外にいたルイズは成功すらしない呪文を唱え、杖を振りかざす。
が、珍しく成功し、ゴーレムの一部が爆発して欠けた。
ルイズは表情に希望を浮かばせるが、すぐに引き締める。
欠けただけで、倒れてはいなかったのだ。
それも、すぐに再生してしまう。
ゴーレムがルイズの方を振り向いて、近づいてきた。
ゴーレムの拳がうなりを上げようとした時、ルイズの横を疾風が駆け抜ける。
十六夜はまっすぐ向かって来るゴーレムの拳に自分の拳を叩きつけた。
吹っ飛んだのはゴーレムの腕で、十六夜はその勢いのままゴーレムの腹を蹴り上げた。
爆音を立てて木端微塵になるゴーレム。
だが、十六夜の狙いはそれだけではなかった。
方々に飛来するゴーレムの破片の一つが小屋を貫通して、地面に大穴をうがった。
衝撃で小屋が崩れ落ち、廃材の山と化す。
すると、瓦礫の中から音を立てて立ち上がる影が一つ。
「よお。久しぶりだな、黒装束」
全身から殺気を放つ黒い男だった。
まだ、一巻終わらない。終わる気がしない。