第十八話 また何かが起ころうとしているようですよ?
あの盗賊の事件からいくらか経ったある日。
現在ゼロな魔法使いの使い魔をやってる・・・かどうかは微妙な、最強問題児―――十六夜は学院内に騒々しい空気を感じていた。
なにか事件が起きたという様子でもなく、『喜ばしいことだけど、いきなりのことだから浮き足立っている』といった雰囲気だ。
おそらく、というか確実に、生徒達や教師達といった学院関係者が皆一斉に校門へと向かっている理由がそこにあるのだろう。
騒ぎやイベントを好む十六夜にとってそれは参加するに十分な理由になった。
整列した生徒達の間をかき分けながら進んでいく内に、急に視界が開けた。
視線の先にはこちらと同じように整列する生徒達がいる。
どうやらここを身分の高い人物が通るようだ。
(貴族のメイジ達が道を開けるってことは、王族の人間が来るのか?トレステインの王族はアンリエッタ・ド・トリステインのみのはず)
随分と大物じゃねえか、と半分驚くと同時にここに来る理由について思考を進める。
(若い王女っていうのは一部例外を除いて政治の傀儡になることが多い。特に中世ヨーロッパと酷似したこの世界ではなおさらだろう。いい例が早期の政略結婚とか、な)
十六夜の脳が高速で回転する。
(傀儡だろうと人間。意志や思考もある。なら、王女の個人的な目的は?)
この世界で得た知識が脳内を反芻する。
(ヴァリエール家とトリステイン王家は親戚の家系。御チビ様と王女が友人関係を結んでいてもおかしくない。そうすると、王女は友人に会いに来たということになるがそれだけではない気がする。じゃあ、何かを頼みに来たのか。そう考えるのも自然だ)
周囲に歓声が上がる。
(十中八九公にできないことだろうな。じゃなきゃ、兵ではなく友人に頼む意味はない。現在の情勢で・・・・・・)
「アンリエッタ姫殿下のおな―――――り――――ッ!」
衛兵らしき男が叫ぶのが十六夜の思考を中断した。
希少金属で装飾された豪勢な馬車が正門を通り、生徒達の作った道をゆっくりと進む。
やがて止まり緋毛氈の絨毯が敷かれると、開いた扉の中から貴族らしき老人とうら若き王女―――アンリエッタが現れた。
決して少なくない数の兵で守られた中でアンリエッタが微笑みを皮膚に張り付けて手を振っている。
そんな作られた表情を見ながら十六夜は自分の考えが間違っていない確率が高いことを確信した。
そして夜中。
十六夜は寮の前で来るであろう高貴な侵入者を待ち構えていた。
いや、実際もう来ている。
十六夜がいるから、近づけないだけで。
「オイ、いるんだろ?出て来いよ」
返事は返ってこない。
「言っとくが、かくれんぼじゃ負けなしだぜ?」
徹底的に無視する所存らしかった。
「出て来ねえならこっちから行くぜ」
言うが早いか、十六夜は軽く跳躍し一足飛びに木の影へ着地した。
「ッ!!」
侵入者が慌てて立ち去ろうとするが、遅かった。
侵入者の腕はがっちりと十六夜の手に握られている。
声を上げようとするのを先に言葉で制す。
「叫んでもいいが、困るのはお前だろ?」
「・・・・・・離してください。私は―――」
「アンリエッタ姫殿下」
「―――ッ!何故それを!?」
警戒心むき出しの視線を向けてくるアンリエッタに十六夜はいつもの不敵な笑みで返す。
「安心しろよ。俺はお前の親友の知り合いだ」
「ルイズの!?」
このセリフが十六夜の推測を決定づけることになったとはアンリエッタも夢にも思わなかっただろう。
「そのルイズの元まで連れてってやるよ」
「本当ですか!?」
見つからずにたどり着けるかどうか不安だったアンリエッタにとってその誘いは渡りに船だった。
「ああ。だからちょっと俺に捕まってろ」
「え?」
十六夜はアンリエッタの脚を持ち上げ伝説のお姫様抱っこ(当然恥じらいなどあるべくもない)をし、
「きゃ―――」
「口空けてると舌噛むぜ!」
「―――――――――――――ッッッ!!!」
ルイズの部屋の真下まで一足で飛んだ。
抱えられているアンリエッタはあまりの勢いに意識を刈り取られそうになり、
再度の跳躍で完全に刈り取られた。
窓枠に着地した十六夜はコンコンと窓を叩く。
少しすると、窓が開かれ、ルイズが何かを言う前に中に滑り込んだ。
「むぎゅぅ・・・・・・」
中に入った瞬間にアンリエッタを抱えさせられたルイズは身長差のせいで押しつぶされる。
幸いにも両方無事だ。
怒りで顔を真っ赤にしたルイズが十六夜を睨みつけて怒鳴る。
「いきなり何するのよ!それにいったいこの人は―――」
彼女は自らが抱えている人物に目を向けた。
そして、さぁっと顔が青ざめていく。
「―――ってアンリエッタ姫殿下じゃない!どこから拉致してきたのよ!犯罪じゃない!」
「犯罪とは失礼だな、御チビ様。連れて行ってほしいって言うから連れて来ただけだぜ」
いけしゃあしゃあと言っているが、本人の了解なしで危険なことをするのは立派な犯罪である。
十六夜の場合、危険とは言えないかもしれないが。
「それにしても無礼じゃない!姫殿下にこんなことする時点で極刑になるわよ!」
「ヤハハ、俺が兵隊なんかに捕まるかよ」
「そういう問題じゃないわよ!」
魔法使いと使い魔の不毛な言い争いはアンリエッタが目覚めるまで続いた。
更新速度もっとなんとかしたいです。