港町ラ・ロシェール。
峡谷に挟まれたこの町は小さく、人口も三百人程度だ。
しかし、アルビオンへと続く交通の要所であり、多くの人が闊歩している。
その多くは旅人や商人で、並ぶ店舗も旅籠や露店など、彼らの需要にあったものになっている。
現在、十六夜とギーシュはその入り口に立っていた。
「・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・。・・・少しは加減したらどうだね!」
「ハハッ、面白かったろ」
「どこがだい!?僕は死にかけたんだぞ!?」
亜音速を体験したギーシュはまさに死に体であった。
当然である。
常人があの速度に耐えられるわけがないのだ。
空気摩擦による火傷を負っていないことが不幸中の幸いだろう。
「大体君は・・・・・・」
「お、何か来たみたいだぜ?」
話を逸らさんばかりのタイミングで空を見上げる十六夜をギーシュはねめつけた。
が、意に介した様子もないので追従して同じ方向に視線を移す。
瞬間、目を丸くした。
「あ、あれは!」
「ああ。竜だな」
なるほど。
それは蒼い竜だった。
東洋の長く蛇のような龍と違って、西洋の伝説に出てくるような、胴があり四肢もある竜だ。
陽光に輝く鱗は美しく、神秘的だと言えるだろう。
「こんな町中で暴れられたら大変なことになる!」
「だろうな」
「だろうなって、君!あれだけの力があるんだからドラゴンくらい―――」
多くの人の危機だというのに泰然としている十六夜がギーシュには信じられなかった。
民の命が危ないのだ。
貴族である自分と力ある君が立ち上がらなくてどうするッ!
「まあ、待てよ。あれは暴れない」
「何でそう言い切れ―――って、ああ!」
憤慨しかけたギーシュだが竜に跨っている人物の姿を認めて、驚きの声を上げた。
「タバサにキュルケじゃないか!」
青髪の小柄な少女と赤髪の魅惑的な少女は間違いなくギーシュのクラスメイトであるタバサとキュルケだった。
この時になってようやくギーシュは使い魔召喚の儀でタバサが竜を召喚していたことを思い出したようだ。
納得のいったという顔をしている。
「会いたかったわダーリン!」
竜から飛び下りるや否やキュルケは十六夜に駆け寄ってきた。
そして、抱き付く。
もちろん、十六夜は躱さない。
抱擁を受け止めている。
(ふむ。この感触はなかなか・・・・・・)
しっかり楽しんでもいた。
キュルケの胸囲は年相応以上に発達しており、その辺にいる青少年なら楽しむどころではないのだが。
現に見ているだけのギーシュが鼻息荒くして熱い羨望の視線を送っている。
残念だから、だからフラれるのだとツッコむ人物はこの場にいなかった。
ややあってキュルケが十六夜から(名残惜しげに)離れた時、すでにタバサは竜の背から降りていた。
というより、タバサの氷のような無の視線のおかげで収拾がついたといった方が正しい。
ギーシュが『僕もしてほしい』とでも言いたげな目をしていたが、当然のように無視された。
だからモテそうでモテないんだ。
「で、お前らはどうしてここに?一応、察しがついてはいるが、俺の予想通りの理由だとするとアホらしすぎてな」
「もちろんダーリンを追いかけてきたのよ!」
胸を張って答えるキュルケから視線を移し、十六夜はタバサを見た。
意図を正確に理解したタバサの頷きという確かな肯定に十六夜は若干呆れたような顔をした。
「マジかよ。草食系とか言われてる日本人に見せてやりたいくらいだな」
「・・・ニホンジン?」
「気にすんな。ちょっと東の方の民族だ」
正確には異世界の民族なのだが、ここでは言わない。
説明がややこしい上に信じてもらえる可能性も低いからだ。
「・・・あなたはどうして?」
「そうよ!どうして急にこんな田舎まで?」
一応は極秘任務だ。
誰それと気楽に話して良いことではない。
それを踏まえた上で十六夜が出した返答は、
「王女様のパシリだ。いや、郵便局もどきとも言える」
「パシリとは何だね、パシリとは!」
本心のままだった。
隠す気など毛の先ほども感じられない。
いっそ清々しい。
いとも気軽に話したため、危険のない普通の任務だとキュルケとタバサは判断し、興味を失ったように見えたが、
次の瞬間、エアブレイカーが放った一言によって豹変することになった。
「我らが王女殿下様がお与えくださった極秘任務をそんな言い方はないだろう!例え戦場に手紙を回収しに行くだけだとて、軽視していいものじゃない!」
ばれた。
完全無欠にばれた。
馬鹿のせいでばれた。
キュルケはいつもの蠱惑的な表情を驚愕に染めており、タバサはピクリと眉を持ち上げる。
当の馬鹿は粉々にブレイクされたエアーに気づいていないようで、『言ってやったぜ!これが貴族の誇りだ!』という満足げな顔をしている。
完璧な間抜け面であった。
「ヤハハッ!別に隠しちゃいなかったが、ここまで盛大にばらされるとおもしれえな!」
笑っているのは(ギーシュを除いて)十六夜1人である。
本当に隠す気はなかったのだろう。
心の底から楽しそうだ。
「え?本当なの?それ?」
「ああ。もはや極秘じゃなくなっちまったけどな」
幸いなことに、十六夜達の周りに一人を除いて人はいなかった。
そう。
一人を除いて。
オリキャラ出します!いつか!