十六夜は読書が嫌いではない。
いや、むしろ好きだ。
元の世界にいたころは退屈しのぎにジャンルを問わず数えきれないほどの本を読んできた。
そのため、世間一般の現代人など足元にも及ばないほどの知識や知恵を有している。
十六夜の知識の中に建築関連や中世の書物もあったのだろう。
図書室はそう時間をかけずに見つかった。
机や椅子を除けば、四方八方どこを見ても本ばかりの室内を十六夜はズンズン進んでいく。
十六夜は立ち止って、適当な本をとり、ページをめくる。
十六夜は少し意外そうな顔をした。
「へえ、言葉は理解できるようになったが文字が読めるようになったわけじゃねえんだな」
言葉の通り、十六夜には手に取った本の文字が読めなかった。
「仕方ねえ。とりあえず解読してみるか」
十六夜はさらにいくつかの本を手に取り、近くにある読書スペースの机に運んでいく。
十六夜が行う解読作業とはかなり単純なものだ。
いくつかの文字のパターンを比べたり、つなぎ合わせたりすることで日本語に翻訳していくのだ。
言うは易し行うは難し、どころではない。
膨大な言語の知識とセンス、そしてバカげた思考力が必要となる。
並の学者程度では何ヵ月かかるかわかったものではない。
しかし、十六夜はすべての条件を満たしているといっても過言ではない。
知識は当然のこと、センスや頭の回転も並ではないのだ。
さらに今は授業の時間であり、ここの学生は自ら本に埋もれて勉強したいという努力家も異常なほどの本好きも少ないので基本誰も来ない。
十六夜が集中できる環境は整っていた。
「さ、始めるか」
十六夜は計二十冊を超える本を机の上におろすとページを開いた。
* * * * * *
「いったいどこ行ったのよ!あの平民!」
集中して静かになった十六夜とは真逆にルイズは怒鳴り散らしながら放課後の校舎をまわっていた。
これでも一時間は探したはずだが、一向に見つからない。
「まさか図書館なんかにいるとは思えないし・・・・・・」
そのまさかだとは夢にも思わないだろう。
ルイズは十六夜の態度から、彼はバカだと判断していた。
生粋の頭脳派だとは知らずに。
「大体何でわたしが使い魔を探さなきゃいけないのよ!普通逆じゃない!」
ルイズの怒りのボルテージはぐんぐん上がっていく。
ルイズが十六夜を探しているのは、十六夜が彼女の使い魔だからというだけではない。
担任の中年男性教師にとある宿題をいいつけられたのだ。
回想するとこうなる。
『ミス・ヴァリエール、使い魔を見失うとは何事か!』
『すみません、ミスタ・コルベール。でも、あの平民、ちょっと目を離した瞬間にどこかに行ってしまったんです』
『言い訳はいいから早く探しに行きなさい!』
という訳である。
ルイズも好き好んで問題児を探している訳ではないのだ。
「しばらくご飯抜きにしてやるんだから!」
十六夜なら自力で何とかするであろうこともルイズは知らない。
「あら、ミス・ヴァリエール、放課後にこんな場所でどうしました?」
ふくよかな頬が優しさを感じさせる中年の女性が後ろから話しかけてきた。
ルイズは慌てて振り返り、
「ミセス・シュヴルーズ!いえ、ちょっと探し物を・・・・・・」
「探し物?手伝いましょうか?」
「い、いえ!自分で探せます!」
「そうですか。では、何を探しているのか教えてくださる?見つけたら教えてあげれると思いますから」
「え、えっと、目つきの悪い平民です!」
ルイズは今の質問に期待していたわけではない。
むしろ、使い魔に逃げられたということを知られたくないため、一刻も早くシュヴルーズの元から離れたかった。
シュヴルーズは思い出したように手を叩き、
「ああ、あの少年ですか。さっき学院長から見つけても気にするなと言われた・・・・・・」
ルイズはすでに学院長まで使い魔の件が知れていることに驚きながらも訊き返す。
「見たんですか!」
「はい。図書館に入っていくところを見ました」
「図書館に?」
「ええ、とても上機嫌な様子でしたよ」
(あいつ、一体何をやらかす気なのよ!)
恐々とするルイズを見てシュヴルーズが心配そうに見つめる。
「どうかしました、ミス・ヴァリエール?」
「何でもありません!」
「そうですか。では、また明日」
「はい。ありがとうございました」
ルイズに背中を向けて歩き出すシュヴルーズに優雅に一礼をし、去るのを見届ける。
途端、憤怒の形相に戻り、
「覚悟してなさい、あのバカ使い魔!」
* * * * * *
「・・・・・・今日はこんなところか。まあ、今週中には全部読み終わるだろ」
当然、覚悟などしていない十六夜はのんきに伸びをしていた。
「さ、そろそろ寝床を探すか」
「待ちなさい!」
バーンと扉が開け放たれ、お怒りのご主人様が現れる。
ルイズは十六夜を睨みつけながらゆっくり近づいていく。
十六夜は肩をすくめた。
「オイオイ、図書室はお静かにって言われなかったか?」
「ふざけないで!ご主人様の命令を無視してどこかに行くなんて、無礼もいいところだわ!」
「聞き捨てならねえな、貴族サマ。俺の主人は俺だけだ。誰にも指図される謂れはないぜ」
「あんたはわたしが召喚した使い魔なの!主には従うべきよ!」
意地でも十六夜を従わせるつもりのルイズ。
そういう相手は十六夜も嫌いではない。
今までにいなかったからだ。
が、言い分が気に食わなかった。
「随分と理不尽で自己中だな。まあ、勝手に言ってろ」
十六夜は興味も無いというようにルイズに一瞥もくれず横を通り過ぎていく。
ルイズは顔をトマトの様に真っ赤にしてプルプル震えている。
十六夜が出口に差し掛かった時、ルイズはハッと顔を上げた。
「そうよ!あんた、ここに来たばかりでしょ!どうやって生きていくつもりよ!」
十六夜は振り返らずに言う。
「こっちの言葉はもう覚えたからな。大体の情勢も把握した。生きていくには十分だ。じゃあな、貴族サマ。こっちに呼んでくれたことは感謝してるぜ」
バタンと扉が閉まる。
取り残されたのはルイズだけだった。
さあ、仲違いしてしまった二人。どうなるんでしょうか?まだ考えていません。