「ようこそお出でくださいました、ツナシ・シキ殿、エンドウ・サリナ殿。マクロス・エリシオン艦長、アーネスト・ジョンソンです」
「戦術音楽ユニット“ワルキューレ”リーダーおよび軍事、音楽部門マネージャーのカナメ・バッカニアです」
惑星ラグナがバレッタシティ。
民間複合企業体“ケイオス”が軍事部門、ブリージンガル球状星団管轄のケイオス・ラグナ支部の拠点たるマクロス・エリシオンの艦内でマクロス・エリシオンの艦長を勤めるアーネスト・ジョンソンはカナメと共にその巨体に見合わぬ礼儀正しさで向かいに座る者たちへと頭を下げる。
一地域の一部門とは言え銀河を股に掛ける大企業の地位ある人物に頭を下げ出迎えられたのは着物袴に編み上げブーツの大正女学生ルックが眩しい、先日美雲を助け“ワルキューレ”と共に歌を歌った少年と彼お付きの
「わざわざご足労いただき申し訳ありません。ツナシ家は当社がベンチャー企業だった頃から多大な出資をいただいている名家。その当主の方を相手に、本来ならこちらから出向くのが筋なのでしょうが――」
「いえ、当主といっても未だ若輩の身です。それに先日の件は僕の方があなた方の作戦行動に介入したのですから、やはり僕の方から出向くというのが筋でしょう」
「ありがとうございます。しかし、あのツナシ家の当主が貴方のようなお若い方だとは思いもよりませんでしたなぁ」
「当主を継いだのは今年の初め、15歳を迎えてのことでしたから。それに昔地球にいたころ、先祖は皆少年少女の年頃でそれぞれの家が負う運命を継いでいたと聞きます。おそらくそれが慣習化したのでしょう。よくある名家の慣わしというヤツです」
「なるほど。名家というのもなかなか大変なものなのですなぁ」
「艦長、そろそろ……」
「おっと、これは長々と失礼しました。では本題に入らせていただいてもよろしいですかな?」
「けっこうです」
「では、カナメ君」
アーネストからの振りにカナメは了解しましたと話を引き継ぐ。
「改めましてカナメ・バッカニアです。ツナシ様にはお話の前に“ワルキューレ”のリーダーとして、美雲の友人としてお礼を言わせてください。先日アル・シャハルで美雲を助けてくださり、ありがとうございました」
「いえ、礼には及びません。か弱き者を守れというのがウチの家訓ですから」
「それは素晴らしき御家訓ですね。さて、ツナシ様はフォールド
「確かヴァールシンドロームの原因とされるフォールド細菌。それに干渉、沈静化させることのできる特別な器官のようなものと認識しています」
シキの模範解答のような返答にカナメは頷きつつ先を話す。
「我々“ワルキューレ”は皆そのフォールド
「話の流れからすると僕にはそのフォールド
「はい。先日のアル・シャハルでの戦闘中、我々以外にも二名、フォールド
「僕、という訳ですね」
「多大な出資をいただいてる名家の当主様にこのようなお願いをするのは大変心苦しい限りですが我々には貴方の歌が必要なのです。ツナシ様、“ワルキューレ”に入っていただけませんか」
「本気ですか? こんなナリをしている僕が言うのも何ですけど、僕は男ですよ」
当の本人は男装よりもこちらの方が似合うからという軽い理由で女装しているに過ぎず性同一性障碍という訳ではない。
それに女性ばかりのメンバーの中に男性を放り込むという暴挙をファンが許してくれるかという問題もある。
「メンバーとも話し合いました。ガールズユニットに男性の方を入れるべきか否か。回答は皆、貴方ならよいと、先日の歌の歌い手なら共に歌いたいとのことでした。もちろん私も同じ気持ちです」
「それにですな、ツナシ殿。ツナシ殿が介入された先日のライブがかなりの盛況でして問い合わせが殺到しているんですよ」
新しい“ワルキューレ”メンバーを決めるオーディション一週間前に新メンバーらしき人物が“ワルキューレ”と共に歌っていたのだ。芸能ニュース各社はこぞって《サプライズ! オーディション前に新メンバー加入》だの《美雲・ギンヌメールに続き直接スカウトの超新星現る!》だのかき立てており、“ケイオス”の音楽部門にも真偽を確認しようという電話が今も鳴り響いている状態であった。
「それにツナシ様は男性とは思えないほどお美しいですし、声も綺麗なソプラノですので私たちの中に入っても何ら違和感はありません。それに美しい歌姫が実は美少年だったと言うのもそれはそれで需要があると見込んでいます」
「ですのでツナシ殿。なにとぞ我々に――いえ、彼女たち“ワルキューレ”に貴方の歌の力、お貸しいただけないでしょうか」
「おねがいします!」
そういって頭を下げるアーネストとカナメにシキは逡巡することなく頷いた。
「わかりました」
「本当ですか!?」
「ええ、いったでしょう。か弱きを守れというのがウチの家訓だと。僕の力が必要とされているのであれば喜んで協力します。契約条件などの詳細はこのサリナとお願いします。サリナ、任せたよ」
「かしこまりました若様。ではジョンソン艦長、バッカニア女史、若様が“ワルキューレ”に加わる契約条件についてですが――」
こうしてシキの“ワルキューレ”入りが決まったのであった。
* * *
「彼をどう見る?」
「直接会ってないので何とも。しかし艦長たちとのやり取りの映像を見る分には何とまぁ、クラゲのようにユラユラとつかみ所のない御仁ですね」
シキとサリナが立ち去った後、アーネストはΔ小隊隊長アラド・メルダースと共にシキという少年について話し合っていた。
「とは言え、“ケイオス”の大口出資者で新統合政府や新統合軍とも太いパイプを持つ名家の当主。民間人ながら生身での戦闘への介入。“ワルキューレ”の面々と同等かそれ以上のフォールド
「仕組まれていると?」
「そこまでは言い切れません。ただ彼には何かがあるのは確かです。それに――」
「謎の巨大な手……か」
「ええ。先日の戦闘、マルチドローンプレートでの防御が間に合わない美雲の前に突如として現れた謎の手。最初は俺の見間違いかとも思いましたが複数名の隊員の目撃情報、そして複数の計器での観測データから確かに巨大な手の形をした質量がそこにあったことは確かです。そして、その謎の巨大な手も恐らく――」
「ツナシ・シキに関わりがあると見て間違いなし……か」
「アンノウンの件もあります。彼が新たな銀河の驚異でないと言い切れない以上、こちらで身柄を押さえて置くという艦長の判断は間違っていないと思います」
「一つ取扱を間違えば俺たちのクビが飛ぶおっかない出資者様ではあるがな」
「銀河が消し飛ぶよりマシでしょう」
「ハハハハッ! それには違いない」
そう笑いながら二人はバレッタクラゲのスルメを噛むのであった。
* * *
そのおっかない出資者様は自宅の邸宅に戻るや否や凝った身体をのばしていた。
「ふぃぃぃいい! 肩凝ったぁ。やっぱりお堅い席ってのには慣れないもんだね」
「はしたないですよ若様」
「うげ、もうそれいい加減やめてよサリナ姉」
心底嫌そうなシキの表情にサリナは従順なメイドの様相を崩す。
「はは、悪い悪い。とは言え対外的には主人と
「義理の姉弟とか、もう少しやりようがあったと思うんだけど……」
「お姉ちゃんがついていないといけない当主様というのも変だろう。まぁ、そこは諦めたまえ少年。私は私で今代のこの役、結構気に入ってるんだ」
スカートを摘みながら綺麗な
「しかし一部とはいえサイバディまで出したのはやりすぎじゃなかったかな」
「いや、あれを見せたことで“ケイオス”の僕に対する警戒度が上がったからこその今回の勧誘だよ。フォールド
「なるほど。じゃあ、アレも君の作戦の内って訳か」
「そう言うこと。お陰で楽に“ワルキューレ”に――美雲・ギンヌメールの側に行けるようになった。まずは作戦第一段階成功ってね」
ちなみにサリナ曰く、夕日に照らされるその悪どそうな表情はかつての
君の銀河はもう煌めいている。