「と、言うわけで――」
「本日からお世話になります。ツナシ・シキです。皆さんよろしくおねがいします」
アラドの紹介に大正女学生ルックの上に“ケイオス”の制服の上着を羽織ったシキが“ワルキューレ”とΔ小隊の面々に頭を下げる。
今日はシキの出社初日。最初の業務は生死を共にする同僚たちとの顔合わせだ。
「うっひょぉぉお! 超美少女! お嬢さん今夜よろしければ俺の“
「ちょっと、チャック! いきなり失礼でしょう」
「口説くのは結構だが彼は男性で、しかも我が“ケイオス”を創業時から支えていただいている名家の御当主様だ。失礼働いてクビが飛んでも知らんぞ」
「うっそぉ!? えっ、こんなに可愛いのにオトコォォ!?」
「それは本当ですか!?」
極上の美少女の登場にテンションの上がっていたチャック・マスタングと彼を諫めていたミラージュ・ファリーナ・ジーナスは衝撃の事実に揃って驚きの声をあげる。
「私たちは知ってた……。けど……」
「でもでもお金持ちのVIPってのは私たちも初耳かも」
とはいえ、性別は知らされていたレイナとマキナもシキの出自までは知らなかったようで若干眼を白黒させていた。
「それと基本は音楽部門の“ワルキューレ”所属だが彼の希望でΔ小隊にも籍を置くことになっている」
「Δ小隊にも籍を置くと言うことはパイロットに? 失礼ですが彼はVFを操縦できるのですか?」
アラドの発言に眉をしかめるメッサー・イーレフェルトに直接シキがその質問に対し答えを口にする。
「お金持ちの道楽と言われるかもしれませんが自家用機にVFを持っていまして、実機で80時間ほど飛んでいます。アクロバットなスタント軌道は大丈夫ですが戦闘軌道はまだ経験がないのでご指導よろしくお願います、中尉」
「ちなみに扱う機体が特殊なことと彼の立場的な関係から階級はないが少佐待遇となっているので各自留意するように。それと機体搭乗時の彼のコールサインはブリュンヒルデだ」
「っ! これは失礼しました少佐。自分でよろしければいつでも訓練のお相手になります」
アラドの少佐待遇発言にメッサーは元よりチャックとミラージュも居住まいを正してシキに敬礼を送る。
「あ、いえ、やめてください。確かに僕は立場的には皆さんより上かも知れませんが、この中では一番年下ですし、それにこれからは共に背中を預け合う戦友になるのです。階級や家のことは気になさらず気軽にシキと呼び捨てにしてください。“ワルキューレ”の皆さんも」
気さくなシキの態度にΔ小隊の面々はほっとする。
“ケイオス”創業時からの出資者だの少佐待遇だのと聞かされた時はどうなることかと思ったが話してみれば中々どうして話の分かる、人当たりのいい美少年――それがΔ小隊の面々が抱いたシキへの感想だった。
「じゃあシキシキって呼んじゃうよ。私はマキナ・中島、よろしくね! ねぇねぇ、シキシキが乗るVFってどんな子? キャワワ?」
「レイナ・プラウラー……。同い年。よろしく、シキ……」
「まぁ確かにチームである以上、壁はないにこしたことはないものね。改めてよろしくシキ。カナメ・バッカニアよ」
“ワルキューレ”の面々もシキを囲み挨拶を交わしていく中、壁に背を預けていた美雲もカツカツとヒールの音を立ててシキに歩み寄る。
「貴方とまた一緒に歌える日を楽しみにしていたわ」
「美雲・ギンヌメール……さん」
「美雲でいいわ。これからよろしくね銀河美少年さん」
* * *
「オーディション受けられんて、どういうこったねぇ!」
マクロス・エリシオンの麓にある総合受付でフレイアの叫びが木霊する。
飛べば飛べると故郷を飛び出して来たはいいものの、どうやらオーディションに予選があるのを見落としていたらしい。
まるで魂が抜けたかのように放心するフレイア――ルンも弱々しく明滅を繰り返している――だったが捨てる神あれば拾う
「あの、どうかしました?」
顔合わせを終えた後チャックとミラージュに連れられ関連施設の案内を受けていたシキが急に上がった大声にフレイアに声をかけたのだ。
そんな彼の羽織る“ケイオス”の制服につけられたΔ小隊のエンブレムを目聡く見つけたフレイアはすがるようにシキの手を取った。
「Δ小隊の人ぉ! オーディション受けさせてくれんかねぇぇ!」
「え、えぇぇ?」
かしましく懇願するフレイアと彼女に詰め寄られるシキを後目にチャックとミラージュは彼女に随伴していたもう一人の人物――ハヤテへと歩み寄る。
「おっ! あんたもしかして例のダンスしてたVF-171のパイロットか」
「わざわざこんなところまで。まさか私に苦情を言いに?」
「ハッ、自意識過剰」
「なっ!?」
こちらはこちらで一触即発の雰囲気。
かたや涙眼で美少年に懇願する少女。こなた挑発する男と噴火5秒前の女。チャックはチャックで夫婦喧嘩はクラゲの神様も喰わないという顔で肩をすくめるばかりだ。
なんともはや
「きゅ」
「きゅ?」
そんな中、不意にシキの方から聞こえた鳴き声にフレイアが首を傾げた次の瞬間――。
「きゅー、きゅきゅー」
シキの髪の中に隠れていたナニかがフレイアめがけて飛びかかった。
「にゅわぁぁああ! な、なんねぇ、いったい!?」
いきなり顔に飛びつかれ視界を奪われたフレイアはパニックに陥る。
シキの髪より出てフレイアの顔に張り付くモノ。それは――。
「狐!?」
「というかシキ、いつから連れていたんですか!?」
「ええっと、朝からずっとだけど」
小動物とは言え体重は結構ありそうで、朝からアレをずっと髪の中に忍ばせて重くなかったのだろうかと見当違いなことをミラージュは考えていた。
「だ、誰かぁぁあ! 助けてくれんかねぇぇ!」
「なぁ、アレ。おたくのペットならそろそろ何とかした方がいいんじゃねぇか」
「ああ、そうだね。副部長! そろろそ戻ってきてください」
シキの声に副部長はきゅーきゅー言いながら彼の肩に戻っていく。
そんな副部長をハヤテは微妙な顔つきで見やる。
「てか、副部長ってまた変わった名前だな。しかもペットに対して敬語って」
「はは、それはよく言われる。えっと彼女さんの付き添いかな?」
「冗談。拾った責任ってことでコイツを目的地であるラグナに連れてきただけだ。あとコイツがオーディションに落ちるところを見にって目的もあったんだがコレじゃあな」
ハヤテがそう言ったところでシキは心の中でアレと首を傾げる。
「(あれ? そういえばこの娘って、確か僕以外にアル・シャハルで確認されたもう一人のフォールド
誰かの思惑通りというのは少し気にくわないが、与えられた役割を演じるのは得意な方だ。
「わかりました。出資者権限で特別にオーディション本戦への参加を許可します」
「ほえ?」
「ですから、特別にオーディション参加を許可します。これでも多少のワガママなら通せる立場にあるんですよ、僕」
あからさまなエコヒイキでは“ケイオス”の音楽部門の信用に角が立つ。なら出資者のワガママを泣く泣く聞いたという体にすればいいということだ。アーネスト艦長あたりの差し金だろう。やってくれる。
「それに副部長が懐いたってことは――うん。
「きゅー」
副部長をなでながらのシキの言葉にフレイアは安心感から腰が抜ける。
「ほ、ほんとかねぇぇぇ」
そんなやりとりに眼を白黒させるのはハヤテだ。
「おいおい、いいのかよ」
「いいんじゃねぇの。天下の出資者さまがいいっていうんだ。ウーラサーと従っておくのが宮仕えのお仕事ってね」
「出資者ってマジなのか。そんな人がたまたま通りかかって、その人に直接頼み込んで、受けてもらえるってどんな確率だよ、ったく。運のいい奴」
とは言え、こうして無事フレイアはオーディションに望むことと相成ったのである。
君の銀河はもう煌めいている。