フレイアがヴァール化した暴徒を前に臆せず歌えるかという
マクロス・エリシオンが左腕、空母アイテールの格納庫にて、搬入されて来た一機の機体にマキナは頬を紅く染めていた。
「VF-31ジークフリード。慣性制御システム標準装備。大気圏内での運動性に優れた前進翼にYF-30クロノスに搭載されていたマルチパーパス・コンテナユニットを採用。フォールドカーボンで代用しているVF-31カイロスと違い貴重なフォールドクォーツを搭載した最新鋭機。しかも射撃武装がオミットされた超激レアな民生用の一品もの。つまりは――きゃわわ!」
「いい仕事……してる」
白地の機体に赤いライン、アクセントに黄が入ったトリコロールカラー。キャノピーも透明ではなく緑の色付きガラスというヒロイックなカラーリングにレイナもビシリとグッドサインを持ち主に送る。
「ははは。ありがと」
「“ケイオス”の出資者ってことでまさかとは思っていたけど、VF-31カイロスじゃなくてVF-31ジークフリードとはね」
今のところΔ小隊にしか配備されていないVF-31ジークフリードを個人所有していたシキにカナメは肩をすくめてみせる。
「そこはほら、前進翼ってクロースカップルデルタ翼よりもカッコいいじゃないですか」
「あら、そう言う発言が出てくるあたり可愛い顔していてもやっぱり男の子なのね」
シキの少年らしい一面に美雲が微笑みを湛えるなか、そんな彼女を意外そうな表情でカナメが見やる。
「それにしても珍しいわね。美雲がこんなところまで来るなんて」
「いけないかしら。Δ小隊もいるけれど本当の意味で私達専属のVFなんて素敵じゃない。だから見ておきたいと思ったのよ」
「私達の――と言うよりはVIPであるシキ自身の自衛のためだけどね」
「そこはそれ。私達も守ってくれるんでしょう銀河美少年さん」
「ええ。皆さんは必ず僕が守ります」
「ふふ、頼もしいわね」
そう言って笑みを浮かべる美雲に作業中の端末から顔を上げたマキナが問いかける。
「そう言えば、何でクモクモはシキシキのこと銀河美少年って呼んでるの?」
「だって彼、とても綺羅星じゃない」
「美雲の言うことはたまに意味不明……」
答えになっていない美雲の答えにレイナがいつもの毒舌を吐いたところでリーダーであるカナメがパンパンと手をたたいた。
「さて、お喋りはそれくらいにしておきましょう。マキナ、シキ専用機の改修内容は?」
「はいはーい。とは言ってもシキシキのジクフリちゃん、
「でも
「そう! 何とシキシキは歌って踊りながら遠隔でジクフリちゃんを操縦しちゃうって言うんだからスゴイよね。コンマ何秒かラグが出ちゃうからドッグファイトは難しいかもだけど戦闘時には手薄になっちゃう私達の護衛やエアショーのスタント飛行なら十分!」
「チクチクいやらしい電子ジャミングも特製ECCM専用のコンテナユニットを纏って対策バッチリ……!」
「作業自体は数日で終わる予定だよ。後は実際に飛ばしてみて遠隔操縦システムの誤差修正ってところかな。レイレイよろしくね」
「オーケー……。まかされた」
そう仕様を案内されたところで、ふとシキはこの場にもう一名のメンバーがいないことに気がついた。
「あれ? そういえばフレイアは?」
「フレイアなら先に帰ったわ。少し気落ちしてるみたい」
「フレフレ、今日のダンスレッスン調子出てなさそうだったしね」
「ダンス、フレイアへなへな。シキの方がキレキレ」
「ああ、そう言えば確かにミスが目立ってたけどダンス初心者でしょ彼女。数日だけのレッスンで皆のレベルにまで達していないからってそこまで気に病むことかな」
「同じダンス初心者のはずなのに数日のレッスンで私達のレベルに追いついた貴方が言っても説得力がないわ」
「美雲の言うとおりよ。そしてそんな貴方を見て焦りもあるのでしょうね。同じ時期に入って、自分と同じ未経験、けれど横に並んでいたはずの相手がいつのまにか先を走っている……。私も経験あるからフレイアの気持ちもわからなくはないわ」
自身にも覚えのある体験談を眼を伏せて語るカナメのその台詞に、シキはすぐさま踵を返した。
「シキシキ!?」
「ごめんマキナ、レイナ。ちょっと行かなきゃならない所ができた。僕の機体よろしくね! カナメさん、美雲さん、そう言うことですのでお先に失礼しますっ!」
そう言って格納庫から駆けていくシキの後ろ姿を、美雲は眩しいモノを見るかのように目元に手をかざす。
「本当に眩しいわね。銀河美少年さん」
* * *
夕日に照らされる海辺の街を歩くフレイアは、しおれたルンを摘みながらため息をつく。
「はぁぁ……。今日もルンルン来なかったなぁ……あっ」
そんな彼女に声をかける影が一人。
「よっ! 今帰りか?」
「ハヤテ!」
「そっちはレッスンどうなんだ?」
「うん! ゴリ楽しいよ、毎日ルンルンで疲れちゃうくらい」
ウソだ。
あの時自分にチャンスをくれた出資者の人。“ワルキューレ”の新メンバーで数日の差で加入した自分とは同期ともいえる立ち位置の人。――ツナシ・シキ。
最初は自分の立場を利用してオーディションも受けずに“ワルキューレ”に加入したズルい人かと思った。
でも違った。
彼の歌を聴いて感じたのだ。アル・シャハルでも聞いた綺羅星煌めく歌声を。美雲の虹の歌声と共にこの
それに身体能力で勝るはずのウィンダミア人である自分よりも――シキが男性であることを差し引いても――早く上達し、今や他のメンバーと比べても遜色ないレベルで踊るダンス。
“ワルキューレ”の皆もそんなシキを認めている。共に肩を並べて
それに対して自分はどうか。
戦場ではオーデュションでは歌えた歌が歌えず、ダンスもいまいち。
“ワルキューレ”になると言う夢は叶ったが、自分は本当の意味で“ワルキューレ”に――シキのように皆に認められる
しかし、そんなことはおくびにも出さないフレイアの様子を額面通りに受け取ったハヤテは羨ましげに呟いた。
「羨ましい話だ」
「そういや、今度最終試験あるんやろ? いいんか遊んどって」
ハヤテもハヤテでΔ小隊への正式入隊のための試験が迫っている。
VFの操縦に未だ四苦八苦している状態――航空実技以外の教練に全て不参加と言う自業自得な面もあるが――で、しかも相手が
ハヤテ自身もこのままではダメだという実感はある。ただ――。
「なんかしっくり来なくてさ」
「うん?」
「あの時はさ、初めて空を飛んだときお前の歌が聞こえて、風が吹いて、すげぇ気持ちよかった」
「……っ!」
あの時感じた風。アレに乗って飛べるならとVFに乗ってみたはいいが未だあの時と同じ感覚は感じられないのだ。そう言った意味のハヤテの言葉であったがしかし、ある意味ではストレートな好意にとれる表現にフレイアのルンと頬に熱が灯る。
そんなフレイアの乙女心を知る由もなく、愚痴をこぼして心が軽くなったハヤテはよしと腕を振り上げた。
「ま、ここで終わる訳にも行かないし、
「うひ、うひひひひひひっ!」
空元気とはいえ自身を鼓舞して試験に臨もうとする前向きなハヤテの様子にフレイアは笑みを漏らす。
そんなフレイアの笑みを見たハヤテは――。
「お前、笑うと気持ち悪いよな」
「な、なんてぇ!?」
乙女に対しかなり失礼だった。
「なぁにをヘラヘラしてんだか」
「あんたが試験に落ちるところを思い浮かべてたんよ!」
「絶対落ちねぇ」
「っあ、待たんかねぇ!」
かしましく夕日の街を往く二人。
苦しい中、足掻いているのは自分だけではない。それでもハヤテは前に――
そう思えたフレイアのルンはキラキラと煌めいていたのであった。
* * *
「どうやら僕の出る幕はなかったみたいです。副部長」
「きゅー?」
夕日に延びる二つの影法師を見守りながらシキは副部長の首筋をなでる。
「今は無力な雛鳥でか弱い翼かもしれないけれど、あの二人は二人だからこそ飛べるんだ。だって今、彼らの銀河には確かに綺羅星が煌めいているんだから」
「きゅー」
「それにしても……うん。青春の謳歌ってヤツですなぁ」
二人の背を見送りながら眩しそうに手をかざしたのは、決して夕日が眩しかったからだけではないだろう事を追記しておく。
君の銀河はもう煌めいている。