ラグナの空を二機のVF-1EXと一機のVF-31ジークフリードが飛ぶ。今日はハヤテのΔ小隊正式入隊を賭けた最終試験だ。
マクロス・エリシオンの艦橋で今試験のルールをアラドが説明する。
『制限時間は5分。一発でもミラージュに当てればハヤテの勝ちだ。ハンデとしてハヤテの方は何発くらってもよしとする。審判はメッサー。各機左右に旋回、すれ違った瞬間から試験スタート、だったんだが……ハヤテ、ミラージュとやる前にボーナスステージだ』
含みを持たせた物言いにハヤテとミラージュが首をひねる中、空を切り裂いて白地に赤のラインと黄のアクセントが入ったVF-31ジークフリードが試験会場へと乱入してきた。
「なっ!?」
「コイツは!?」
『その機体はシキが遠隔で操作していてな。実戦形式のテスト飛行にちょうどいいと言うことでハヤテ、お前さんに白羽の矢が立ったという訳だ。もちろん、タダでとは言わん。対ミラージュと同じルールで一発でもシキのVF-31ジークフリードに当てればミラージュとやるまでもなく合格だ』
「ちょっと待てよ! 遠隔操作って言っても相手は最新鋭機だぞ!」
『その相手が歌って踊りながら操縦していてもか?』
そう言ってハヤテのキャノピー内のスクリーンに一室の映像を表示させる。
どうやらそこは“ワルキューレ”のレッスンスタジオのようで、そこに“ワルキューレ”の面々に見守られながら“僕らの戦場”を歌い舞うシキの姿が映し出されていた。
彼の手足の動きに連動するようにラグナの空を舞うVF-31ジークフリードも華麗なスタント軌道を披露する。
『どうだ? しかもシキ自身、戦闘軌道に限って言えば数日前までお前さん同様素人だった。最新鋭機相手というのを差し引いても十分なハンデだと思うぞ。それとも何か? 正式隊員であるミラージュに負けたのならまだしも、歌って踊りながらVFを操縦する御大尽様相手に負けたんじゃ言い訳の一つもできないから戦えませんってか』
「はっ! おもしれぇ冗談いってくれるじゃねぇか。いいぜ! 歌って踊ってようが天下の出資者様だろうがやってやるよ!」
『オーケー。と言うわけだミラージュ、お前もメッサーと同じ高度まで上がれ。シキとハヤテ、すれ違った瞬間に戦闘開始だ』
「了解しました」
ミラージュのVF-1EXが高度を上げて場をシキのVF-31ジークフリードに譲る。
シキとハヤテの機体は共に大きく旋回。互いに機首を返し向かい合うと、徐々に距離を詰め――今、すれ違った。
「ぐっ、この、なにっ!?」
開始早々、操縦にまごつくハヤテに対し綺麗な旋回を見せたシキは回避もままならないVF-1EXに射撃。機体の真ん中にペイント弾が着弾する。
実戦なら致命傷の一撃だ。
しかも一度取られた後ろをハヤテはなかなか振り切れないでる。
そうしている間にもシキの第二射、第三射が的確にハヤテを捉える。
「ぐあぁ! っ、本当にコイツ、歌って踊りながら操縦してるのかよ!?」
まるで熟練パイロットもかくやの操縦にハヤテは追い立てられるばかりであった。
* * *
「ハヤテ……」
そんなハヤテの様子をフレイアはモニターを通して心配げな表情で見つめる。
隣を見れば華麗に歌い踊るシキの姿。
とてもあそこでハヤテを追いつめているVF-31ジークフリードを操縦しているなんて思えない優雅さで舞うシキと対照的に手も足もでず翻弄されるしかないハヤテの姿にフレイアは胸が締め付けられた。
先日、気落ちしていた自分を――本人は意識していたとは思えないが結果として――元気づけてくれたハヤテ。その彼の危機に自分は何もすることができない。
そんな思いに押しつぶされそうなフレイアだったが、ふと誰かの視線を感じた。
「――――」
「っ!」
視線をくれていたのは未だ歌い踊りながらVF-31ジークフリードを操縦するシキ。
その彼の眼がフレイアに訴えていた。
君は――君たちはそのままでいいのか、と。
「(いい訳ない。届けなきゃ……。私もハヤテもまだ飛んでない。飛べば飛べる、飛びさえすれば後は自由なままにどんな空でも飛べるんだって、この気持ちを、この思いを、ハヤテに届けなきゃ!)」
そう心を決めたフレイアはルンを煌めかせながらシキの歌に重ねるように“僕らの戦場”を歌い出す。
「フレイア!?」
「っ!? フレフレのフォールド
「すごい……胸にチクチクくる」
「ふふ、ようやくお目覚めのようね」
急に歌い出したフレイアに驚く“ワルキューレ”の面々だったが、心をふるわすフレイアの歌声にいつしか皆は――シキも含めて笑顔をフレイアへと送っていた。
* * *
「っ、フレイア!?」
胸に下げたフォールドクォーツのペンダントを通してフレイアの歌が――フレイアの
「……っ。よおぉぉし!」
歌に乗せられたフレイアからのメッセージを受け取ったハヤテは、己の心のままに飛ぶためにAIによる補助を――自身にとっての命綱であるオートパイロットを切った。
この暴挙にミラージュが声をあげる。
「VFのオートパイロット、オフ!? 何をやっているんです、ハヤテ・インメルマン候補生!?」
「ぐ、ぅぅう、見て、ろって……! アイツが……フレイアが、歌ってるんだ……。なら、俺だってぇぇぇええっ!!」
バランスを崩し墜落していくVF-1EX。
しかしフレイアの歌が、思いが、乗るべき風を教えてくれる。
海面スレスレでガウォーク形態に変形、最大出力で衝突を回避すると流れるような動作でファイター形態に戻り風に乗って急上昇。見事に体勢を立て直した。
「おおっ!」
「ここに来て風をつかんだか!」
今までとは打って変わった操縦に観戦していたチャックとアラドは感嘆の声を漏らす。
しかし、墜落から機体を戻したせいで未だシキに後ろを取られたままだ。
残り時間もあと僅か。相手は今の自分では一撃入れることさえ叶わない強敵。
なら、次の一撃に全てを賭ける!
ロックオン警報が鳴り響く中、ハヤテはタイミングを計ると操縦桿を倒した。
「ここだぁぁぁああっ!」
それはウミネコが水中で取る急制動の姿勢の再現。
今まで誰も試したことのない前代未聞の回避マニューバー。故にその回避先は誰にも予測できないモノとなる。
「うぉぉぉおお! 当たれぇぇぇええ!!」
そうしてシキの後ろを取ったハヤテは、そのまま機体をバトロイドへ変形させると武装のガンポッドを乱れ撃った。
「っ!」
シキもハヤテの行く先を人並み外れた動体視力でもって見抜き機体を捌く。
だが、コンマ数秒が生死を分ける高速戦闘。無線での遠隔操作故に避けれないラグがそのコンマ数秒の遅れを生む。
直接搭乗していれば回避が間に合ったであろうシキのVF-31ジークフリードの翼の端にハヤテの放った無数のペイント弾の内一発が当たった。
「いい、よっしゃぁぁぁああ!」
勝利の雄叫びを上げ、ハヤテは空中でVF-1EXをバトロイドのままに踊りを舞う。
ハヤテの姓を取ってインメルマン・ダンスと名付けられるソレにスタジオで歌うフレイアも動きをあわせるのだった。
* * *
マクロス・エリシオン艦内、複雑な立場故与えられた士官室の個室シャワーでシキはシャワーを浴びながらシルシが宿る胸に手を当てていた。
「(
サリナや父母から聞いた、かつてのシルシ持つ人。
たくさんの人を笑顔にし、愛する人を守り、友を守り、そして世界を守ったスゴい人。
「やりたい事とやるべき事が一致する時、
その人が遺した言葉をシキは寂しげな表情で苦しげに口にするのだった。
人生という冒険は続く。