スタードライバー 煌めきのシキ   作:崇藤仁齋

8 / 8
Mission08 月光ダンシング

 フレイアのデビューステージ、そしてウィンダミアの宣戦布告から数時間。

 “ワルキューレ”とΔ小隊の面々はブリーフィングルームへと集められていた。

 

「ウィンダミア。ラグナから800光年の距離にあり、その周囲を次元断層に囲われた惑星。7年前、新統合政府に独立戦争を仕掛け今は停戦状態となっている……いや、なっていた」

「そしてそのウィンダミアの主力が新型機Sv-262ドラケンⅢとコイツを操るウィンダミアの空中騎士団。王家に仕える翼の騎士たちだ」

 

 プロトカルチャーの後継者を名乗り銀河に覇を唱えたウィンダミア。

 皆に説明をするアラドとアーネストに取っても因縁浅はかならぬ相手であり、何よりフレイアの出身国である。

 そんな母国の全銀河への宣戦布告にルンも心なしか元気のないフレイアに美雲は挑発的な笑みを向けた。

 

「フレイア。貴女、ウィンダミアのスパイじゃなくて?」

「えぇえっ!? ス、スパイ!?」

 

 ウィンダミア出身なので疑われるのは当然といえば当然だ。

 とは言え、この程度で動揺するようではスパイは務まるまい。

 

「まあ、その様子じゃあり得なさそうね。残念、チームの中にスパイが潜んでいるというのもスリリングで面白いんじゃないかと思ってたんだけど」

 

 どこまでが本気でどこまでが冗談か判断に迷う発言である。

 まぁ、それはそれとして。気を取り直しシキが手を挙げアーネストとアラドに質問を投げかける。

 

「今回のヴァールシンドロームはこれまでの暴動とは違い統制されていました。しかも空中騎士団の攻撃に合わせる形で。となるとこれまでのヴァールについてもやはりウィンダミアが関与を?」

「どこからウィンダミアが関与していたかは不明だが少なくともここしばらくのヴァールシンドロームはウィンダミアが噛んでいたとみるのが自然だろう。幾度かのヴァール騒動でデータを取ることでついにはヴァール化した者をコントロール化に置くことに成功したのではと上層部もみている」

「惑星ヴォルドールでも新統合軍の多くが操られ、ほぼ無血降伏だったらしい」

「そんな、いったいどうやって?」

 

 ヴォルドール陥落の衝撃の事実にミラージュが言葉を失う中、声を上げたのは“ワルキューレ”の面々だった。

 

「歌が聞こえたわ」

「うん。誰かが歌っとった」

「綺麗な声だったけど……」

「ひりひり、痛かった」

「確かに私にも聞こえた」

 

 そしてそれは当然シキにも聞こえていた。

 

「あれは、そう。少年の声だった」

 

 “ワルキューレ”メンバー以外は聞こえていなかったようでシキたちの言葉に皆が首を捻る中、唯一ハヤテだけは聞こえていたようであの時の感覚を思い出しながら胸に下げたフォールドクォーツのペンダントをいじる。

 

「ああ。俺にも聞こえた……。いや、聞こえたと言うよりアレは感じた……というのか。すまん、上手く言葉にできない」

 

 そんなハヤテの所感に思い当たるものがあったフレイアが声を上げる。

 

「光よりも早く時空を超えて届く歌声。何だかウィンダミに伝わる風の歌い手みたいやね」

「風の歌い手……。天使か、悪魔か。あれだけの観客(ヴァール)を一瞬で虜にしてしまうなんて感動的じゃない」

 

 フレイアの語った風の歌い手の伝説に美雲が興味深そうに呟いたところでアラドが今回のブリーフィングのまとめに入る。

 

「相手が何であれ、ここからは正真正銘の戦争だ。ウィンダミアがヴァールを操れるとなればヴァールに抗体のある俺たちΔ小隊やヴァールそのものに対抗できる“ワルキューレ”は最前線に立つことになるだろう。後日隊員全員に契約更新の意思確認があるがお前たちも今のうちに心を決めておけ。戦うにしろ、ここを去るにしてもな」

 

 そうして、その日はそのまま解散となった。

 それから約一ヶ月。

 少年少女たち(ハヤテやフレイヤ、ミラージュ)がそれぞれ戦う(歌う)意味について考え、自分なりの答えを出し、その答えの結果に傷つき、それでも互いを支え、乗り越えられなくても背負う覚悟を決める中、シキは美雲に連れられ海が一望できる高台へと来ていた。

 

「貴方とこうして二人で話すのって初めてね」

「ええ、そうですね。それはそうとこんなロマンティックなロケーションで、しかも二人きりでの話って何です? もしかして愛の告白ですか?」

「あら、正解よ」

「そうですか。美雲さんが僕に愛の……告、白……って、うえぇぇぇええっ!?」

 

 美雲のあっさりとした肯定の言葉にそのまま流しかけたシキだったが改めてその言葉の意味を理解したところで驚きの声を上げた。

 そんなシキの様子に美雲はころころと上機嫌に笑う。

 

「ふふ。貴方でも驚くとそんな顔をするのね」

「さすがにその返しは僕でも驚きますよ! ですが、その……本気、ですか?」

「今の言葉、貴方は冗談に聞こえた?」

 

 言外に冗談ではないと言う美雲の回答にシキの頬に赤が差す。

 

「……その言い方はズルいです」

「ズル賢しこさもイイ女の魅力の一つよ」

 

 それからしばらくの静寂が訪れる。

 よせては返す波の音が遠くに聞こえる中、意を決したようにシキが美雲に問いかけた。

 

「一つ聞いても?」

「なにかしら?」

「どうして僕を好きになったんですか?」

 

 シキとしても自分の容貌が非常に整っているのは自覚しているし、モテるモテないではモテる方だとの自負もある。

 だが、相手はあのミステリアスレディ美雲である。何が彼女の琴線に触れたのか、それが今一つわからないでいた。

 そんなシキに対しての美雲の答えは――。

 

「言われてみれば、どうしてかしらね?」

「あららっ」

 

 まさかの答えにさすがのシキもズッコケかける。

 

「まあ、いいじゃない。少なくとも私は貴方のことが気に入っているんだから。それに貴方、青春の謳歌を謳っているのでしょう。なら恋愛も謳歌しないといけないのではなくて」

「……まぁ、確かに恋愛は青春の一ページとして経験する予定でしたが、それにしたって順序と言うものがあると思うんですがいかがでしょう?」

「私はCから始める恋愛も燃えると思うわ」

「い、いいい、いきなりCからですか!?」

「あら、何を想像したのかしら。顔が真っ赤よ」

 

 そう言って微笑みをたたえる彼女は本当につかみ所のない人だとシキは思う。

 

「でもね。正直な話、歌以外にこんなにも心惹かれたのは貴方が初めてなの」

 

 でもそれが彼女の一番の魅力で、そんな彼女からの好意に心の奥底から暖かい気持ちが沸き上がってくるのをシキは感じる。

 

「もしかするとこれが恋心というのかもしれないわね、銀河美少年さん」

 

 彼女の微笑みと言葉に心が傾きそうになる。

 だが、シキはその恋心に身をゆだねることは許されない。

 

「(レシュのシルシ、その第一フェーズが見せた銀河(セカイ)の終わり。そこには甦った星の歌い手とタウとザメク、そして四方の巫女のシルシを継承した一人のスタードライバーの姿があったと言う。だからこそご先祖様(じいちゃん)たちは血を重ねて備えた。本当に星の歌い手が銀河(セカイ)を壊す存在なら、それを止めるために――星の歌い手を殺すために)」

 

 それがツナシ・シキと言う存在。

 これから遠くない未来で目の前の女性を討つかもしれぬと予言されたのが自分だ。

 だからこそ美雲の告白に応えることはできない。

 

「(けれど――)」

 

 それでも自分を好きと言ってくれた美雲の気持ちが純粋に嬉しい。

 現状では美雲の思いに応えることはできなくても、せめてこのほのかに胸に灯った暖かな気持ちを彼女に伝えたい。

 そんなシキの下に風が吹いた。

 

「夏の風だ。今年も来た」

 

 なら歌おう。今この思いのままに。

 そしてシキは風に乗せるように歌を歌い出す。

 それは爽やかな海の青と空の蒼を謳う夏の歌。日死(ニシ)の方角を司る巫女が謳った歌。

 曲名“イノセント・ブルー”。

 

「これは西風の……。そう、夏の歌ね」

 

 返事を返さないシキに少し膨れ面の美雲だったがシキの新しい歌に心地よさそうに肩を揺らすとステップを踏み始めた。

 月明かりの下で舞う美雲の舞はさながら天から舞い降りた女神が踊るよう。

 その女神がこちらを誘うように手を伸ばしてきた。そんな美雲にシキも笑顔で応える。

 

「(いつかは対峙する時が来ようとも今はまだその時じゃない。なら今だけ、今この時だけは恋人同士のように踊るのも悪くない)」

 

 歌をメロディーを口ずさむのに変えてシキは美雲の手を取る。

 月光の下、二つの影は重なりステップを踏むのだった。

 

 

 




 人生という冒険は続く。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。