呑気な悪魔の日常   作:ケツアゴ

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新クロモンドさん なろうでの名前なんでしたっけ? 消えるときに活動報告に書いてたのに忘れちゃって


第十話

 お婆さんが川で洗濯をしていると川上から大きな桃が……この文章からどの話か、それがどんな内容か分からない者は少ないのではないだろうか。そう、桃太郎である。多くの者が寝物語に聞かされた通り、桃から生まれた桃太郎は三匹のお供と共に鬼を退治する。

 

 絵本によって宝を持ち帰ったり攫われたお姫様を助け出したりと結末は微妙に違うが、内容はほぼ同じ。さて、桃太郎自体が特別な存在ゆえに鬼を退治するのも、獣の言葉を理解するのも構わないだろう。だが、お婆さんが持たせた黍団子を食べると力が湧いて来たというような内容の物もある。お婆さん自体は普通の人であろうにだ。

 

 だが、絵本になる前の元の話の通りならば、この団子の力も納得が行くのではないだろうか……。

 

 

 

「本日は私の我儘を聞いてくださり感謝します」

 

 放課後、女王である真羅椿姫のみを連れてアルシエル領にやって来たソーナはザナクに会釈をする。彼女が見詰める先に建てられた巨大な建物群、アルシエル領の政策の一つとして経営される学校の見学こそが今日の目的であった。

 

「小さい子達は知らない人が来たら落ち着かないし、魔術科と戦士科の見学だけで済ますけど良いよね? まずは戦士科に行こうか。今頃、桃十郎が指導をしている頃だから……」

 

 ザナクの案内に従いソーナ達は学園内へと入っていく。小規模な街ほどもある内部を見るソーナの目は輝いており、理想の対象を見る目をしていた。事実、この学園が彼女の夢に似ているからと前々から根回しをして今回の見学に漕ぎ着けたのだ。

 

「この学園に居るのは皆……」

 

「あっ、うん。下級悪魔を始めとした人外やハーフの孤児や、神器を不気味がられて社会から追い出された子達だよ」

 

 時折、すれ違う子供達がザナクに気付いて手を振ったりお辞儀をしたりしている。ソーナの姿を見て少し驚いたりしている子供達だが、悪魔や妖怪、人間が入り混じるなど少々奇異な光景だ。時折教員や用務員らしき大人の姿も見られるが、圧倒的に子供の数が多い。遠くからも子供の声が聞こえて来ていた。

 

「皆、笑っていますね……」

 

 神器の影響からか、退魔の家柄に生まれたにも関わらず鏡から異形の存在を呼び出す力を持っていた為に軟禁されていた椿姫は少々信じられない光景を見る目をしている。遠目に神器を使って遊んでいる子供達の姿も見えた。

 

「実は少し前まではここまでの規模じゃなかったんだけどね。あの人が家に入ってきてから大改革が始まってさ。笑顔が溢れているって嬉しいよね。っと、あっちの第三グラウンドだね」

 

 何やら気合の入った叫び声が少し離れた場所まで届いて来る。三人が向かうと異様なまでの熱気が伝わって来た。グラウンドに整列しているのは逞しい肉体の若者達。バーベルを担ぎながらスクワットをしている彼らを先導するのは桃十郎であった。

 

 

「四千九百九十八! 四千九百九十九! 五千! よーし、終了! 筋肉が喜んでいるぞ、お前達! 戦いにおいて最も大切なのは下半身の筋肉だっ! よーくストレッチして、筋肉が喜ぶ栄養素が豊富な特性ドリンクで水分を補給しておけっ!」

 

「おっす!!」

 

 とても暑苦しく汗臭い光景だ。男女問わず筋肉(マッスル)で、見栄麗しさの欠片もない。筋肉に美を見出す者からすれば垂涎物なのではあろうが……。

 

 一糸乱れぬ動きでの鍛錬の熱気にソーナと椿姫が圧倒された時、桃十郎が漸く三人に気付く。指導に熱中し、筋肉に集中していた為に眼中に無かった様だ。

 

「これはシトリー家の令嬢とその女王ではないかっ! そう言えば今日が見学の日であったな」

 

「その言葉からすれば忘れていたでしょ……」

 

「はははははっ! では、折角来たのだから少し体験してみようではないかっ! なぁに、生徒用だからほんのぎ五百キロだっ! 軽く百回行ってみようかっ!」

 

「無理です」

 

「遠慮する事はないぞっ! はははははははっ!!」

 

 ザナクが呆れても、ソーナが真顔で拒否しても桃十郎は動じない。最初から最後まで豪快に笑うだけだった。声を上げるたびに逞しい筋肉が脈動し力強さをアピールする。その筋肉は生徒を凌駕するが、汗臭さも生徒の比ではなかった。

 

 

「よしっ! 今から組手を行う。隣にいる者と組んで他の組を全て倒せっ! 最後まで残った者達が優勝だっ!!」

 

「おっすっ!」

 

 桃十郎の無茶苦茶な課題に生徒達は不平不満の欠片もなく、繰り広げられるのは力任せではなく洗練された技が光るまさに戦士の物。今まで戦いの経験がゼロではないソーナだが、その戦いに言葉も出なかった。

 

 

 

「実に素晴らしい戦いでしたっ! あれ程の人数があの錬度とは……」

 

「他の指導官の方にお話をお聞きしたいですね」

 

 見学後、何とか鍛錬に参加するのは回避した二人は興奮した様子で魔術科の校舎へと向かいながら話をしている。遠くの研究科の校舎からは獣の嘶きが聞こえるがザナクだけではなく中庭を歩く子供達も動じた様子がないので二人も気にするのを途中で止めた。

 

「優秀な人材は集めるより育てる方が良いからね。特に此処の生徒は大体不幸で、そこに衣食住や仲間を与えられ、存在価値を認められる。……これで裏切るようなら、そんなのが仲間に居ても獅子身中の虫にしかならないよね」

 

 最後は少し怖かったが、ザナクの言葉に生徒達の熱意やザナクに対する反応に納得が行く二人。今まで居場所が無かった者達が居場所を与えられ、必要にされる。とても嬉しい事だろう。だから彼ら彼女らは強い意欲を持って鍛錬に励むのだ。

 

「今の時間は……捕縛の為の魔術の授業中だね」

 

 時計を見て授業スケジュールを確認するザナク。中学生ほどの者達が座学をしている教室を横切り先ほどとは別のグラウンドに向かうと巨大なドラゴンを複数の生徒が囲んでいる。凶暴な唸り声をあげて暴れようとするドラゴンだが、空中から出現した鎖がその動きを完全に止めていた。

 

 

「あら? 皆さん、若様とソーナ様がお見えです。並んでご挨拶をしましょう。まず私から。リシャーナ・ラインハルトと申します」

 

「……貴女があの」

 

 リシャーナの名にソーナは聞き覚えがあった。紫の瞳、明るめの青い長髪、前髪で目元を隠し後ろは太股辺りまで、噂で聞いた通りにローブを被っていて顔がよく見えないが、感じる魔力も魔法力も高い。魔法使いの名門に生まれ、捕縛魔法にのみ特化した魔術師。異能や神器さえも封じるとされ、最上級悪魔クラスのはぐれ悪魔さえ生け捕りにした事さえある。

 

「ええ、先代に拾って頂けるまでは落ち零れだの蔑まれていましたが、今はこうして教職を頂いております」

 

「そんな落ちこぼれなどと……」

 

「でも、実際そうでしたから。では、皆さん、ご挨拶を」

 

 リシャーナはソーナの言葉に笑みを浮かべて謙遜すると生徒達に顔を向ける。この間も拘束は続き、暴れようとするドラゴンは微動だに出来ずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

「リェーシャ様、本日はお招き有難う御座いました。その上、晩餐会にまでご招待頂けるとは……」

 

 魔術科の授業見学を終えたソーナは貸し出されたドレスに着替えて晩餐会に参加していた。目の前のリェーシャは同姓でさえ見惚れてしまいそうな美貌に笑みを浮かべている。ザナクに対する態度が嘘のようだ。

 

「構いませんよ。貴方の夢はザナクから聞かされていますし、やや早計かとは思いますが必要な事でしょう。純血保持は貴族の権威の為に必要ですが、それだけでは先細りですからね」

 

「早計…ですか?」

 

 ソーナの夢はレーティング・ゲーム、貴族が眷属と一緒に戦う実戦方式の試合、の学校、それも下級悪魔の為の物を建てる事だが、否定しそうな純血悪魔、それも血筋が最高位のリェーシャから認められた事に戸惑いすら感じた。その上で彼女は訊ねる。早計とはどういう事なのか、と。

 

 

「簡単な事です。ゲームを取り仕切っているのは上層部。彼らからすればゲームは権威を民衆に誇示する為の物です。馬鹿正直に下級悪魔の為の夢を語っても否定されるだけですよ。……そうですね。人材発掘、もしくは民衆のガス抜き目的の娯楽とでも言って下級悪魔だけの競技大会でも開きなさい。学校はそれが盛り上がった後でそのための学園とでも言えば良いでしょう。行き成りゲームに参加は一足飛びが過ぎますよ?」

 

 ソーナの夢を聞き、肯定した上で時期尚早と断ずるリェーシャ。娘のメアリーに領地を継がせたいからと刺客を送る様な非情で野心家な面こそあるものの、民衆の事を想う慈悲深い面も持っている。実際、彼女は大戦後の内乱前、兄や父を裏切り現政権に着いたのも民の為を想っての事であった……。




感想お待ちしています

こんな感じで投稿キャラが時折出てくる予定 生徒や教師としてが大半かな?
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