呑気な悪魔の日常   作:ケツアゴ

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第十一話

 親が居るから子が居る訳で、当然親にも親が居る。それこそ人造人間でもない限りは生死は関係なく当然の事だ。

 

「ねぇ、主様。ボクにして欲しい事、何か有るかな?」

 

 夜中、ザナクが体に掛かった重量に目を覚ますと寝間着姿のリュミネルが翼を広げて跨っていた。差し込む月明りに照らされた彼女の顔は照れからか赤みが差し、彼女が勇気を出して今の状況に持ち込んだ事が伺える。月明りに照らされ、悪魔の駒を入れられても失わなかった天使の羽が輝いて見えた。

 

「やっぱり君の羽は綺麗だよね。手触りも良いし……」

 

 ザナクが手を伸ばして羽に触れるとリュミネルはくすぐったいのか身動ぎする。どうも感度が高いらしく、声を押し殺さないと変な声が出るようだ。

 

「……うん。この羽は好き。ボクと両親の繋がりだから。奇跡の子に生まれて良かったと思うよ」

 

 奇跡の子、天使と人の間の子をそう呼ぶ。本来天使は自然繁殖しない。それどころか欲望に負けると堕天使になってしまう。だが、特別な儀式を施した場所で欲望に負けずに行為をする事で天使と人の間に子供は誕生するのだ。当然、天使と接触する、天使と子供を作る関係になる、その儀式を行ってもらう、等、たとえ教会関係者でも容易ではない。

 

 つまり、リュミネルの両親は特別な立場に居たという事であり、悪魔に拉致され両親を殺された彼女をもとの世界に返さなかったのも、その事が原因で大きな問題になるのを避ける為である。本来は殺して全てを闇に葬るのが貴族として正しいのだろうが、彼女を保護したチャバスも、その主であるザナクの両親もそれが出来なかった。

 

 

「……レイヴェル様と違ってボクは只の眷属だし、先に経験しても良いよね?」

 

 そんな両親の影響か、はたまた養父である老執事チャバスの教育の賜物か、リュミネルは悪魔であるが初心であった……のだが、花月に何か吹き込まれたのか此処最近では一杯一杯になりながらも大胆に迫って来ている。顔を見れば今にも火を噴きそうな具合なのだが……。

 

「そうだね、先ずはキスを。君が満足するまで続けたら自分で服を脱いでくれるかな。一枚一枚じらすようにさ……」

 

「う、うん……」

 

 だが、ザナクは容赦しない。相手が良いって言っているんだからと要求を行い有難く頂いてしまおうと考えていた。人差し指を何度か曲げてリュミネルを招くようにし、それに応じるように彼女は目を瞑りながらザナクの頬を両手で挟んでゆっくりと顔を近づける。やがてカーテンの隙間から差し込む月明りに照らされた二人の顔が接近し、唇が触れた。

 

 

 

「ちょいとごめんよっ! 緊急事態だっ!!」

 

 突如乱暴に扉が蹴り開かれる。入って来たのは花月だ。風呂上りなのかほんのり上気した肌が湯あみ着から覗く肌は色気を醸し出し、漂う香の香りに混じった酒臭さが鼻を刺激する。一瞬交じりにやって来たのかと辟易するリュミネルだが、どうも違うようだ。

 

「……何があったの?」

 

「グレモリーの嬢ちゃんには内緒で他所モンが忍び込んで拠点にしそうな場所に蜘蛛を送ってたんだけど、森の中の廃墟の蜘蛛がやられちまったんだ」

 

 先程までの甘い空気から一変しザナクとリュミネルの表情が真剣な物へとなる。普段偵察に使っている花月の蜘蛛は彼女が妖術で作り出した存在。隠密性に優れており、よほど探知能力に優れているか強くないと普通の蜘蛛ではないと見破れない存在だ。無論、普通の蜘蛛と思ったまま殺された可能性もなくはないが、それは楽観的過ぎる。

 

 二人はベッドから起き上がると入口付近に立つ花月の下へと近寄った。

 

「相手は見た?」

 

「……不甲斐ないねぇ。流石に広いから全部と感覚を共有してなくてさ。でも、何でやられたのかは分かってる。聖剣さね」

 

 聖剣、文字通り聖なる力を宿した剣であり、そのオーラは悪魔や堕天使、魔獣の弱点となる。アルシエルの特性は光を無効化できても聖剣のオーラは別だ。そして悪魔の縄張りに少なくても聖剣を持った者が居る者、若しくは者達が入り込んだとなると普通ではない。

 

「教会関係者か、聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)の使い手か、フリーの使い手か。リアスさんにはピクニックの下見にとでも言えば蜘蛛を送った理由を誤魔化せるけど、あの人の手には余るよね」

 

「多分自分で解決したがるだろ、あの嬢ちゃんは。流石にアーシアの時みたいにレイヴェルがうっかり……、とかは使えないよ、もう。どうすんだい、一体さ」

 

 流石に勝手に上層部に報告などは縄張り関係で厄介になる。これから親戚関係を結ぶにあたり、ライザーの件で得た優位性を失うのは惜しい。だが、何か問題が起これば責任はリアスに行くだろうが、グレモリー家と親戚になる時に痛手だ。

 

「まっ、どうにかなるんじゃない? それより大侵攻の時期だし、そっちに集中しようよ」

 

「……主様」

 

 主の呑気さにリュミネルは深い溜息を吐く。助けるように花月に視線を向けるのだが期待は裏切られる。そもそも酔っ払いに何かを期待するのが間違いであった。

 

「そりゃそうだっ! ウダウダ考えても仕方ないさっ! よしっ! 此処は三人で楽しもうじゃないかっ!」

 

「え、いや、あの……」

 

 花月は二人の肩を掴むと強引にベッドに連れ込む。ここから先は年季が違う。覚えたての若者二人と長年花魁として過ごして来た花月では経験の差があり過ぎた。手練手管を尽くし花月は二人を堪能して夜を過ごす。そして次の日……。

 

 

 

「それは厄介ですね……」

 

 次の日、勝手に監視の目を広げていたなど弱みになる事は口に出さず、聖剣使いが町外れの森に居るらしいと説明を受けたソーナも悩む。リアスとは長い付き合い故に自分で解決しようとする光景が頭に浮かんでいるようだ。相手の目的が分からない以上、下手に手出しは出来ず、そもそもリアス達は斥候に向いた者が居ない。

 

 何より姉であるセラフォルー・レヴィアタンの暴走が怖かった。彼女も公私混同がみられるが、サーゼクスのように体面を保つ様な事をしない。もし天界や堕天使側の者が侵入者だった場合、事態がどうなるか予想もつかなかった。

 

「リェーシャ様に相談してみては? あの方は当主代行ですし、指示を仰ぐべきかと」

 

「あー、うん。そうだね」

 

 自分に刺客を送った事で眷属に嫌われている継母に相談した後の事を思うと面倒臭くなるザナクであった。

 

 

 

「……分かりました。では様子見をなさい。何時でも此方に退避する準備を。可能なら異能力者の保護をするように。契約を結んで街にいる以上、何かあれば信用に関わります」

 

 時期が時期だけに大規模な戦闘に備えた援軍の準備は無理だとリェーシャは告げる。只、どうも堕天使の動きが妙だと言うのだ。

 

「普段は大森林の調査中に遠目にでも見掛けるのが、ここ最近はまるで此方を刺激しない為のように見掛けないそうです。気を付けなさい。どうも焦臭いですので。……もしもの時は私が動きましょう」

 

 結局、リアスに教えても事態は改善しない上に、本来監視する義務もないからと今回の件は報告しない事となった。

 

 

 

 そして数日後、時折街で教会関係者らしき者が殺される中、ザナクは眷属達に不要の外出を控える様に指示を出す。どちらにせよ魔獣が活発する時期なので学校からマンションに戻るなり領地に帰って魔獣との戦いの日々なのではあるが。

 

 

 

 

「貴様、悪魔だな? この街の管理者と話がしたい。話を通してくれ」

 

 そんなある日の事、学校から帰る際の用心として学園近くまで迎えに来ていた桃十郎の前に怪しい二人組の少女達が現れた。人目を避けるように小声であり、通行人からは桃十郎を挟んで見えにくくしている。どうも訳ありのようだ。

 

 

「如何にもっ! だが、お前達が何処の者か知らなくては願いに応えられぬなっ!」

 

「……取りあえずあっちで話そう。目立ちすぎだ」




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