呑気な悪魔の日常   作:ケツアゴ

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昨日寝付けなくてさぁ 辛かった 休みでよかった


第十三話

「お、おひさしぶりです、ぜくらむ様」

 

「これはこれはメアリー姫。随分と大きくなられましたな。お母上の幼い頃にそっくりですぞ」

 

 初代バアル、名をゼクラム・バアル。貴族の頂点である大王家の初代であり、引退した今も絶大な影響力を持っている純血主義。悪魔とは純血の貴族のみを指すと言い、現政権においては大王家こそが悪魔社会の中心で、魔王は象徴であるとする彼だが、三歳にも満たないメアリーに敬意を向けていた。

 

 但し、メアリーを通して別の誰かを見てはいたが……。

 

「リェーシャ様、此度はご令嬢の婚約成立おめでとうございます。リアス姫の件で色々とありましたが、まずは安心ですな」

 

 リェーシャに対しても然り。彼女に対しては本人に対しての敬意を持ってはいるものの、やはり何処か誰かを重ねて見ている。彼女はそれを察しているが何も言わない。都合のいい存在だと思われていた方が利用するのに都合が良いのだ。

 

「それで将来的にはミリキャス・グレモリー()眷属になるので?」

 

「うん! くぃーんになるんだっておかー様が言ってた……ました」

 

「当然でしょう。あの子の母親はルキフグス。この子が眷属になるのは道理が通らないもの。あの我が儘姫の件でだいぶ有利な条件を引き出せたわ。……まあ、公爵を継ぐ子が次期ルシファー選出の際までに生まれていなかったらの話だけれども。それまでは女王は不在ね」

 

 流石にルシファーが誰かの眷属というのは権威が揺らぐ、とリェーシャはこぼす。他の魔王の名がどれだけ落ち潰れても彼女は気にしないが、ルシファーの名が失墜するのは気に食わない。だからこそリェーシャはサーゼクスに容赦する気が皆無であった。

 

 そして、ゼクラムからすれば非常に都合が良い。これから提案しようとしていた事があるのだ。

 

 

 

「そもそも転生悪魔にも最上級悪魔の地位を与えるのです。……ならば、女性がなれるのがレヴィアタンだけという事に固執するのも妙な話です」

 

「あら、面白そうな話ね。頭の固い方々に提案しても無駄だと思っていたのだけれど、どうやら過少評価だったみたいだわ」

 

 これだけでリェーシャはゼクラムの提案の内容を察し、既に準備が秘密裏に進められている事も感づく。

 

 

 

「次期ルシファーはメアリー様が成るべきです。ルシファーの名は悪魔にとって特別。……なら、納まるべき方が納まるべきだと、我々生き残った初代は思っているのです。メアリー様は既にリアス姫の倍近い量の魔力を持っていますし、成長すればどれ程になるのやら楽しみですな」

 

 その暁には後見人やら何やらと理由をつけ、自分達が理想とする魔王になって貰う気だとリェーシャは見破る。それが我欲ではなく、少なくても忠誠心からくるという逆に厄介な理由だとも……。

 

 無論、その思惑すら利用する気であったが。

 

 

 

 

(今日はおにー様、泊まるのかなぁ? また遊んでほしーな)

 

 幼い少女は老臣と母の思惑など知らず、腹違いの兄のことを思う。厄介な政治の世界の話は幼すぎる彼女にはまだ早過ぎた。それでも何時かはその世界を知り、渡って行かなければならない。生まれ持った地位に対する責任は辛くても重くても背負わなければならないのだ……。

 

 

 

 

 

「……おや? 今日は随分と騒がしいようで。ああ、そういえば、その様な時期でしたな」

 

 遠くから聞こえてきた音と僅かに届いた振動にゼクラムは窓の外、大森林の方角を見る。リェーシャは分かっているなら早く帰れ、老害が、等という事を考えていても全く表情には出さない。

 

「しかし毎年毎年大忙しですが、領地に殆ど被害が出ないのは素晴らしい。余程人材がそろっておいでなのでしょうな。集まるべき者の下に使える者は集まるようで」

 

「ええ、役に立つであろう者達を集めて育てていますから。人材とは集めるだけでなく、育てるもの。この土地に愛着を持たせ、仲間意識を植え付け、忠誠心を捧げさせる。ただ集めるだけでは限度が有りますもの」

 

 再び森の方角から轟音が響き、鳥が無数に飛び立った。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、封印、勝手に解いて良いの? 怒られても知らないからね」

 

 森の中、地面の下から困った様な声が響く。このままでは監督責任を問われたり連帯責任を食らって自分まで怒られるけど、積極的に止めるのも面倒だから止めたという事実だけでも作っておこうという魂胆が見え隠れした声。その声の主の意識の先は山積みにされた猪の魔獣。

 

 その一体の脚を小さな手が握りしめた。鋼など遥かに凌ぐ硬度を持ち、針の如く鋭利に尖った毛に覆われた体は軽自動車程もあり、手足もそれに見合って太く長い。掴んだ手は幼子のものを思わせる白く華奢なものであり、薄い皮膚は毛に簡単に貫かれ、白い肌は鮮血で直ぐ様染まってしまうだろう。

 

「固い事言わんでええやないの。うちとあんたはんの仲やない」

 

 だが、そうはならなかった。細い足が仰向けになった猪の腹を踏みつけ、脚を掴んだ手に力が籠められるとブチブチという音と共に肉が引き千切られて行く。皮が裂け、巨体を支えるに相応しい強靭な肉や骨が毛が加えられた力に耐えきれずに断裂する。周囲に血の香りが漂う中、露出した肉に少女の歯が立てられた。

 

「ん、美味し。やっぱ肉は生に限るなぁ」

 

 口元を血で汚しながらその少女は片手で持つ猪の肉に齧り付く。肉を食らい血を啜り骨を噛み砕き、その全てを小さな肉体の胃袋に収めた。最後に指に付いた血を嘗め、口の周囲の血を舌で綺麗に嘗めとると声のした方を振り向いた。

 

「ほな、血の香りに誘われて来たのは任せたで? うち、あんさんの事を信頼しとるさかいになぁ」

 

「えー? ボク、戦いは嫌いなんだって」

 

「そない謙遜せんでもええよ? あんさん、旦那はんの眷属の中でもトップクラスに信頼されとるやないの。うちとは大違いで羨ましいわぁ」

 

「そう? ボク、そんなに頼れる? えへへー! じゃあ、張り切っちゃおうかなぁ」

 

 声の主が調子に乗る中、少女はお腹が一杯になって少し眠いのか木に凭れ掛かりウトウトとしだす。十歳ほどのおかっぱ頭の少女であり、日本人形を思わせる姿だ。

 

 

 

 

「ああ、暇やなぁ。堕天使はんでも攻めて来たら面白いのに。手足を捥いで、目玉を抉って歯を全部へし折って、羽を順番に引き抜いて……想像するだけで楽しいわぁ」

 

 そんな物騒なことを実に楽しそうに呟く少女の視線の先では五mはある巨大な大熊猫が何やら張り切っていた。

 

 

「よーし! 何でも来い。ボクが相手だー! ……って、沢山来たー!? 旭吉(ひよし)ちゃん、ヘルプミー!」

 

「旦那はん、今日少し用事が出来たって言うとったなぁ。リュミネルはんとでもしけこむ気やろか?」

 

「おーい!? 聞こえてるんでしょ、ちょっとー!? こうなったら必殺の……パンダビィィィィィムッ!!」

 

 

 

 

 

 張りきった大熊猫の様な何かが調子に乗った挙句、猪全てを吹き飛ばしてしまった事で朝からまだ怒られ続けている夕方、オカルト研究部の部室にザナクの姿があった。隣にクリスティを座らせ、暇なのか野球ボール程の魔力の球を眼前に浮かせて形を変え続けている。

 

「……そろそろかな? 悪魔祓いが来る時間ってさ」

 

 眷属である桃十郎が話を持ってきたという事もあり、ザナクは面談の場に参加させるように言って来た。恐らく堕天使が絡んでおり、ならば領地が接している自分は一早く情報を得る必要があると言って。ふと腕時計を見て呟いた彼に部室内の者の視線が集まった。

 

「そもそも貴方はどうして堕天使が絡んでいると思うのかしら?」

 

 堕天使が絡んでいると聞き、少し考え事をしている様子の自分の女王に視線を向けたままリアスが訪ねる。少なくとも桃十郎から聞かされた話ではそのようなヒントはないと思ったからだ。

 

「消去法かな? 悪魔への宣戦布告だとしても態々話し合いが有るって言ってくるのも妙だし。ほら、一応正義ぶりたいからさ、教会側って。他にも可能性があるけど、消去法でね。……クリスティ、一応蛇は除けておいてくれるかい」

 

「別にクリスが戦うから必要ないと思う」

 

 思い出したようにした提案は即刻却下されるが、蛇とは何のことかという視線を向けられたザナクは袖を巻くって腕を見せる。そこには蛇が巻き付いているような模様が存在した。

 

「僕の修行の為にこの子に使って貰っている術があるんだけど、例えるなら魔力という名の水が入ったタンクの蛇口を強制的に開く感じかな? そしてこの蛇はタンクを同じ大きさの穴の開いた袋でもある」

 

 分かりやすいように適当なビニール袋の底を破いたザナクは水の魔力をその中に流し込む。空中に留めた魔力は袋から流出する事はなく中に留まり続けた。

 

「学校のある日は登校から帰宅まで流れだし続ける魔力を蛇に留め続ける事で総量とコントロールを鍛えるんだ。最初は魔力枯渇で死ぬほど辛かったし、今も容赦なく流出量を上げられているけどさ。……でもまぁ、それだけやって鍛えた僕の半分ほどの魔力をもう直ぐ三歳の妹が持っているんだけどね。うちの妹、凄いよねっ! 何が凄いっかていうと才能だけじゃなくて、才能があるのに素直でさ。僕の姿を見ると笑顔で寄って来るんだ。何時も何時も別れる時間になると袖を掴んで寂しそうにしてさ。それでそれで……」

 

「ステイ」

 

 ザナクの後頭部をクリスティの小さな手が叩く。それはペチリという音がする生易しいものではなく、上級悪魔の総魔力の半分ほどが籠められた強力な物だった。

 

「ちょっと大丈夫っ!?」

 

 リアスが慌てて駆け寄ろうとした時、前のめりに倒れていたザナクは平然と立ち上がる。さすがに頭を痛そうに摩ってはいたが怪我一つなかった。

 

「まあ、さっきの様に攻撃を受けても魔力を瞬時にその個所に集中させて盾にすれば威力を軽減できるんだ。っと、来た様だよ」

 

 ノックの音と共にドアが開かれ、悪魔祓い二人が姿を現す。彼女達が何故来たのか、それが語られようとしていた。

 

 

 

 

 

 

(教会からのエクスカリバーの強奪、それも犯人はコカビエルかぁ。……あの人、本当に厄介だからなぁ)

 

 ゼノヴィアとイリナの用事は堕天使幹部のコカビエルの手によって七本あるエクスカリバーの内三本が盗まれてこの街に持ち込まれた、という内容。領地の都合上ザナクは堕天使幹部についてある程度把握しており、コカビエルとは面識があった。

 

(二人と……殺されている先遣隊からして悪魔側を刺激するのは避けたいって所かな? それを見越して此処なのか、僕やリアスさん達も目当てなのか。……それより先ず問題は)

 

 話を聞きながらクリスティに視線を送る。お前達弱いから殺されるだけ、などと挑発するような事を平然と言い出しかねないが、強いので用心の為に連れて来た眷属の動向に注意する中話は進んでいく。

 

 途中、我々だけで相手をするから手を出すな、と要求してきた時に余計な事を言おうとしたクリスティの口に黍団子を突っ込んで黙らせ静観するザナクだったが、リアスが言おうとしなかったので一応口を挟んでおいた。

 

 

「そっちは手を組むのを危惧しているようだけど、僕達も堕天使とは敵対している。まさか向こうから攻めて来た時も手を出すなとか言わないよね? 魔女狩りの時も揚げ足取りがお得意だったそうだし、一応確認させて貰えるかな?」

 

「随分とご挨拶だな。まあ、それなら別に気にしないさ。コカビエルに手傷の一つでも負わせてから死んでくれればこっちも助かるしね」

 

 ニコニコとした笑みを崩さないザナクと敵意を隠さないゼノヴィア。空気が張り詰めたが、イリナがもう帰ろうと言い出してゼノヴィアは敵意を引っ込めた。

 

 

 

 

 

 

 

「待ってくれよ。少し君達の力を試させて欲しいんだ」

 

 だが帰ろうとした時、二人の前に木場が立ち塞がる。明確な敵意を向ける理由、それを既にザナクは知っていた。

 

 

 

 

 

(まあ、銃撃事件で被害を受けた人が銃を憎んだりしたりするし、先端恐怖症の聖剣バージョンと思えば当たり前かな? ……あっ、そろそろ時間だし帰らなきゃ)

 

 情報は必要だと集められる情報は大体集めているのでザナクは彼の過去を知っていた。エクスカリバーの適合者の実験において失敗作とされて処分された者達の生き残り、それが彼だ。

 

 

 

 

「今日の夕食何? 家で食べるんだよね」

 

「クリス特製クラムチャウダー。パンもオーブンにセットしてから来た」

 

 帰って良い空気でないと感じながらもザナクはどうしようかと迷う。今日は大侵攻に対する討伐の夜間の当番が当たっているのでどっちにしろ帰る気でいたのだが……。




次は辛いの予定

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