呑気な悪魔の日常   作:ケツアゴ

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第十六話

「あの、申し訳御座いません。今、なんと……?」

 

 コカビエルにエクスカリバーを奪われ切り札であるデュランダルも通じず、体も満足に戦える状態ではないゼノヴィア達が行ったのは本部への連絡だった。だが、連絡の際、ショックのあまり口にしてしまった質問がある。神が死んでいるというのは本当なのですか、と。

 

 返答に対し、ゼノヴィアは我が耳を疑って聞き返す。だが、仕方のない話だ。神の為、教会の為に人生を捧げて来た彼女にとって受け入れられる物ではない。

 

「……もう一度言おう。もう君達二人は帰って来なくて良い。後日、デュリオかストラーダ卿を派遣する。その間出る犠牲は……仕方ないな」

 

 通話が切れ、ゼノヴィアの手から受話器が零れ落ちる。膝から崩れ落ちた彼女の背後では聞こえて来た会話にイリナは顔面蒼白になっていた。

 

「ゼノヴィア、嘘よね? 主が死んだなんて嘘で、私達が追放されたなんて聞き間違いよね?」

 

「ははっ…、はははははははっ!」

 

「うわぁあああああああっ!!」

 

 平穏な生活を捨て、鍛えてきた肉体も剣技も通じなかった。唯一の居場所であった場所からも追い出された。信じて来た全てが嘘だったと知らされた。もう笑うしかない、泣くしかない。崩れ落ちた二人は絶望を感じながらみっともなく笑い、泣いた。

 

 

 

 

 

「さて、駒王学園とやらは何処でしょうか? あの二人に聞いてみましょうか……」

 

 そんな二人に近付いて行く青年が一人。銀の髪をした彼は目当ての人物と会うべく、通っている学校を目指していた。

 

 

 

 

 

「さて、皆。アーシアが持って帰って来た調査隊の資料からして……」

 

 皆、固唾を飲んで資料から映し出された立体映像を見詰める。森の中を群れを成して進軍するのは熊ほどの巨体を持つ芋虫。体色は黄土色、巨大な一つ目は血走し、口の中には鑢の様な歯が奥までビッシリと生えている。

 

 だが、異様なのはそれだけではない。背中の中心、そこから木が生えているのだ。一メートルほどの大きさの木には瑞々しいリンゴが生っている。それを見たアーシア以外の目の色が変わった。

 

「今から狩りに行く? クリス、久々にアレ食べたい」

 

「ニャニャニャ---!!(訳:金だっ! 金の生る金で出来た木がやって来たっ! 大狩猟祭だっ!!)」

 

「これは高いツマミを取っておかないとねぇ」

 

 巨大な芋虫というグロテクスな見た目に少し引いているアーシアは思わずアレイシアの背後に移動していたが、その反応に戸惑う。

 

「有用な薬効か何かですか?」

 

 ある程度領地の事を学んでいるので大森林から採れる植物が他と比べて規格外な薬効を持っていると知っている。なら、この芋虫もその類なのだろうと予想したアーシア。答えたのはレイヴェルであった。

 

「ええ、そうですわね。あの芋虫は根っ子が変化した物らしく、ある程度成長すると土の中から出て直接獲物を探し、捕食して栄養にするらしいですわ。付けられた名は『アップルトレント』リンゴは他の果物が暫く食べられない程美味で、貴族の中で最低価格一個十万で取引されていますわ」

 

「リンゴが一個十万ですかっ!?」

 

「ええ、香水やリンゴ酒にしても評判が良く、木は香木、芋虫は灰にすれば上質な肥料。……傷が少なければ一匹につき最低でも三千万、最高品質になれば一億以上の価値があるとされています」

 

 アルシエル領の次期当主の婚約者として学んでいる途中のレイヴェルだが、元々頭が良いので多くの知識を手にしている。

 

「ちなみに目玉は珍味としてリンゴ酒に合うんだよ、これがっ! 薄くスライスして炭火焼にしたのが最高でねぇ」

 

「まあ、弱くても中級悪魔レベル、過去には最上級悪魔レベルの個体も確認されているんだけどね。被害が出たのは堕天使側だから別に良いけどさ」

 

「良くない。ザナク、正気?」

 

 クリスティの声が部屋に響く。ザナクの言葉を非難するように珍しく感情が込められた声に部屋の者達の視線が集まった。

 

 

 

「強い個体はその分美味しい。高く売れる」

 

 そして、直ぐに注目が途切れた。

 

 

 

「さて、そろそろ私は帰らせて貰おう。立場的に事態を悪化させそうだし……最悪、クリスティが全部終わらせるだろう?」

 

「ん。クリス、敵全部殺す。でも、今から仕事。討伐のシフト入ってる」

 

 同じく桃十郎も今から大侵攻によって被害が出ないように前線に出なければならない。今回のように利益は大きいが、それ以上に予想される被害は絶大。事実、堕天使の街が襲われたときは大勢が食い殺されて街は壊滅に追い込まれたそうだ。

 

「では、私もこの辺で。家庭教師が来る時間ですもの」

 

 レイヴェルも帰って行き、レティは今回のようなケースでは自分の出番はないと大欠伸でペット用のベッドに向かっていく。残ったメンバーも夜のシフトに備えて仮眠を取ろうという流れになったのだが、寝室に向かうザナクの袖をリュミネルが指先でそっと摘まむ。

 

「……あのね、主様。ボク、抱き枕になってあげようか?」

 

 自分で言って恥ずかしいのか俯いて耳まで真っ赤になるリュミネル。その腰にザナクの手が回され引き寄せられた。

 

 

「うん。これは良い抱き心地が期待できそうだ。じゃあ、寝ようか?」

 

「……うん。寝よう」

 

 眷属達の前で平然と同じ部屋に入っていく二人。アーシアはその背中を見つめた後、同じ様にアレイシアの服の袖を摘まんだ。

 

 

「あ、あの、アレイシアさん。そ、そ、添い寝しましぇんか……」

 

 途中で噛んでしまいより恥ずかしいアーシア。言われた方も何を想像したのか真っ赤になってしまっている。

 

 

 

「……また今度にしよう。僕、アーシアが直ぐ隣に居たら嬉しいやら恥ずかしいやらで眠れそうにねぇし、今度昼寝を一緒にして練習をさ……」

 

 こっちもこっちで恥ずかしいのか後頭部を掻きながら目を逸らす。アーシアも更に恥ずかしそうにしており、非常に初々しかった。

 

 

 

 

「……うーん。こりゃ乱入して男女揃って食っちまうのは野暮ってもんさね。酒でも飲んで寝るか……」

 

珍しく空気を読んだ花月も自室に戻り、掻い巻きを体に被せてチビチビと燗冷ましを楽しむ。七本ほど空にしてから眠り、三時間ほど経過した時、花月がバッと跳ね起きた。

 

 

 

 

「全員起きなっ!! やっこさんが動き出したよっ!!」

 

 

 

 

 

 

 時間は少し遡り、休日の駒王学園にて部活動に勤しむ学生や仕事がある教員が当然の様に校舎に居た。故に見知らぬ老人や白髪の少年神父が剣を持って校庭に現れれば疑問や警戒の視線を向ける筈だ。だが、全員それが当然のように騒がず、それどころか練習を切り上げて校庭から去っていった。

 

 

 

 

 

「なあ、バルパーの爺さん。全部殺せば良いんじゃね?」

 

「馬鹿者。儀式には時間が掛かる。被害を出せばもう戦争は止まらんだろうからこの時間帯にしたが、途中で止められれば元も子もない。私はエクスカリバーの結合のために力を貸したのだからな」

 

「……随分と戦力を揃えたし、大丈夫だと思うけどな」

 

 フリードは背後からやって来た援軍に視線を向ける。数にして十人程、皆上級堕天使だ。元々コカビエルは幹部であり、手駒といえる直属の部下は存在する。彼のように戦争の続行を望み、アザゼル達よりも彼に忠誠を捧げる者が一人も居ない筈が無いからだ。

 

 

 そして、その全員が片手に龍のオーラを放つ籠手を装着していた……。

 

 

 

「では始めるぞ、フリード。六本の聖剣を一つにする儀式をな」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、奴は来るか? 魔王の軍が来ても良いが、先に相手をしたいものだ」

 

 コカビエルは駒王学園には行かず、リアスに宣戦布告した後で拠点にした森の廃墟に残っていた。彼の目当てはザナク。堕天使の天敵であるアルシエル家の彼を倒すことで同胞を勢いづかせようとしていた。軍の編成まで時間があるから自分の足止めに誰かが来るであろうし、来るとすればザナクの可能性が高い。

 

 

「……負け犬が何の用だっ?」

 

 今か今かと楽しみにしていたコカビエルは背後に現れた人物に不愉快そうな視線を送る。気分を非常に害された、そう言いたそうだ。

 

 

 

 

 

「負け犬だとっ!? 真なる魔王の一族である俺を負け犬と呼んだかっ! 良いだろう。貴様をこのクルゼレイ・アスモデウスの実験台にしてやる!」

 

 クルゼレイは懐から小瓶を取り出して中身を飲み込む。途端、彼の魔力が跳ね上がった。

 




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