呑気な悪魔の日常   作:ケツアゴ

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第十八話

「私を殺すだと? 貴様程度が大きく出たものだ」

 

 妹を殺す手伝いをしろと上から目線で言われた事にキレたザナクに対し、クルゼレイも額に青筋を浮かべる。傅かれて当たり前、自分に従って当然、王族である彼はその様に育ち、反乱の末に辺境へと送られた。屈辱の日々を過ごし、こうして表舞台に出てみれば若造に逆らわれた事に元々我慢など知らない彼が耐えられる筈もない。

 

「その選択、もはや撤回は許さんぞっ!」

 

 クルゼレイは内戦で負けた側だ。だが、その血統は確かに本物で、努力など他の上級悪魔にもれずにする筈もないが生まれ持った力だけで最上級悪魔クラスの力は持っている。元々上級悪魔は下級悪魔とは別物だ。ライザーが数千倍に強化した一誠と渡り合えたように肉体も、当然魔力も。並の努力では到底追いつけないほどの差が生まれつき存在し、だからこそ彼の尊大な態度も仕方がないのかもしれない。

 

 ザナク達が居る方向へと両手を突き出すクルゼレイ。先程の直進するだけの力任せの一撃とは違い、散弾のように放たれた無数の魔力は上下左右に分かれてザナク達へと迫る。先程のように正面から受け止めるための頑丈さを追求した障壁では防ぎきれないだろう。

 

「集合っ!」

 

 ザナクの号令と同時に三人は彼の元へと密集する。クルゼレイの魔力が複雑に軌道を変えながら迫る中、ザナクの放った魔力は四人を包み込んだ。黒い球体になったザナクの魔力へと無数の散弾が殺到し衝突音が響く。徐々に、だが確実にザナク達を守る防壁は削れ、やがて穴が開き始める。

 

 

「よく持った方だ。その年でよくも其処まで成長したな。私に従っておれば新世界でそれなりの地位をやったものを」

 

 ザナクは高い魔力を持つ。妹のメアリーは彼を超える天才ゆえに今の時点で彼の半分ほどの魔力を保有し、ゼクラム曰くリアスやソーナの倍ほど、つまり彼女達の四倍ほどの魔力を持つがまだ若い。成長によって自然と最上級悪魔クラスへと上り詰めたクルゼレイには今は届かない。

 

「では、さらばだ」

 

 見下しながらも実力を認めたクルゼレイは渾身の一撃を放ち向後の憂いを断とうとする。右手に高まっていく魔力。だが放つよりも前に右肩にザナクの魔力が叩き込まれた。

 

「ぐっ!?」

 

 短刀の形をした魔力は根元まで突き刺さり先端が突き出している。ザナクは正面に居て、其処から放ったのなら分からないほどクルゼレイは油断していない。

 

「一体何処から……まさかっ!?」

 

 ザナクの一族は堕天使対策として国境に接する場所を領地として任されており、大戦にも当然参加している。当時は跡取りだったクルゼレイも箔付の為に参加しており、彼の戦う姿は目にしている。

 

 そう。周囲に魔力を浸透させ遠距離から放つという技を披露する姿を確かに目にしていた。

 

「……ふぅ。何とか成功」

 

「此処に来る前に浸透させといて良かったな」

 

 痛みと動揺からクルゼレイが硬直した隙を狙い、防壁に空いた穴から銃口が突き出される。クルゼレイは詳しくないが、アンチマテリアルライフルと呼ばれる大口径弾を発射する狙撃銃。声に反応し発射音と同時に張った障壁に当然のように防がれる。いや、防がせさせられた。彼は先に肩に刺さった短剣を外すべきだったのだ。

 

 あくまで短剣の姿をしているだけであり、本来は魔力。彼が自分の失策に気付いた時、短剣の形が崩れる。内包された黒炎が解放され彼の右腕を吹き飛ばした。

 

「ぐぁあああああっ!? き、貴様っ!」

 

 失った腕を抑えながら叫ぶクルゼレイだが、不意にその口角が吊り上がる。視線の先、ザナク達の更に後方に存在する街の姿を捉えていた。

 

「しっかり守れよ? じゃないと大勢人間が死ぬぞ」

 

 王の血に相応しい行いをするのではなく、自分の行いこそが王に相応しい、そう言わんばかりに街に向けて特大の魔力を放つ。彼の立場からして守るしかないと理解しての行動だ。自分にとっては取るに足らない存在でも、目の前の相手にとっては違うと理解していた。

 

「ぐっ!?」

 

 目の前の敵を意識しての行動。だからこそ、視界の外から放たれた光の玉に咄嗟に反応出来なかった。それは中級程度の威力しかないが、弱点である光の直撃を受けた彼の魔力のコントロールは乱れて消え去る。背中から煙が上がり痛みが走る中、クルゼレイは森の中、地上から光を放った瀕死のコカビエルを睨んだ。

 

 もう立つ力もないのか気にもたれ掛かったまま骨が突き出した手を向け、虚ろながら目に宿った闘志は消えはしない。

 

「……おい、アルシエルの小僧。俺を糧にさせてやるっ!!」

 

 その瞳が向けられるのはザナク。大戦で激戦を繰り広げた魔王、その子孫など視界にさえ入れていなかった。

 

「戦いの中で死ぬのは別に構わんっ! 俺が弱かっただけだっ! だがっ!! 借り物の力を誇る様な奴に負けるのだけは気に食わんのだっ!!」

 

 声を出す度に口から大量の血が吐き出される。意識は朦朧とし、えぐれた脇腹から内臓が覗いているがコカビエルは叫び、クルゼレイの瞳に焦りが浮かんだ。

 

「流石に最上級堕天使を食えばどうなるか分からんっ! 貴様はここで死ねぇええええっ!!」

 

 押せば倒れてそのまま死にそうな状態のコカビエルに先程と同様の特大の魔力が迫る。コントロールなど無視して広範囲高威力だけを求めた一撃。

 

 

 

「ニャ」

 

 その目前に、口を大きく開けたレティが飛び出した。仮にも最上級悪魔が放った魔力、それが全てレティの口の中に消えていく。雑草一本、小石一つ破壊することもなく……。

 

 

「……ゲップ」

 

「んな……何が起きた?」

 

 理解が追い付かない、彼の常識の範疇外、当然、固まる。ザナクの魔力がコカビエルを包み込むには十分な時間だった。

 

 

「色々せこいとか思ってたけど、最後は格好良かったよ、コカビエル」

 

「……ふん。一言余計だ、クソ餓鬼が」

 

 最後の讃辞に不快そうに鼻を鳴らし、聖書にも記された堕天使は生涯を終える。その魂は黒炎によって完全に焼き尽くされ、ザナクは力が漲るのを感じた。

 

 

「流石最上級堕天使。桁が違う」

 

 これがクルゼレイが焦った理由、アルシエルの黒き太陽の魔力のもう一つの特性。魂を燃料にし、燃やし尽くした相手の力を吸収する。相手の質によって上昇率は変わるが、遙か昔から生き残ったコカビエルの質が悪いはずがない。

 

 

 

「じゃあ終わらせようか、クルゼレイ」

 

「そんな力で……真なる魔王の血筋に勝てると思うなぁああああああああああああっ!!」

 

 正面からの魔力の撃ち合い。中心で衝突した魔力は互いに放出を続ける事で拮抗する。片手でも尚クルゼレイが均衡を保てると言うことは未だ格上。だが、戦いは一人の力できまるものではない。

 

 

 

 

 

「バズーカ……二連!」

 

 アレイシアが両肩に担いだバズーカを発射する。

 

「……秘技・聖剣突き・飛燕(せいけんづき・ひえん)

 

 リュミネルの手から発せられる光はビリヤードのキューの様に構えられた刀の切っ先に濃縮される。眩い光が発せられた時、リュミネルは突きを放つ。高濃度の光の刃がクルゼレイに飛来した。

 

「ンナァアアアアアアア!」

 

 クルゼレイを見上げたレティの口内にエネルギーが集まる。先程クルゼレイが放った魔力が子猫の口の大きさに銃口を絞られ放たれた。

 

「くっ! だが、当たらなければ……」

 

 即座に回避しようとするクルゼレイ。背後に飛び退こうとするが、透明な障壁に阻まれた。攻撃が殺到する中、クルゼレイが目を向けたのはアーシア。見るからに攻撃手段を持っていないので眼中になかった下級悪魔に足をすくわれる形となり、アスモデウスの末裔は命を落とした。

 

 

 

 

 

「ふぅ。さて、事後処理終わらせてお茶にしようか。レイヴェルから良い茶葉を貰ってるんだ」

 

 

 額に滲んだ汗をふき取り、ザナクは眷属達に笑いかける。取り敢えずシフトの時間が迫っているので仮眠をとりたかった。

 

 

 

「……うん。調べて貰った今回の赤より彼らの方が面白そうだ」

 

 上空に浮かぶ白い鎧を着た青年は愉快そうに呟くと飛び去っていく。堕天使幹部による計画、旧魔王の行動、そして死んだはずのルキフグスの帰還。身内とのんびりできればそれで構わないという願いとは裏腹に、ザナク達は大きな渦に巻き込まれて行くことになる。




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