涙を無効化? 確か他の液体混ぜれば良いんじゃ? でも牛乳と混ぜてたよなぁ・・・
「……主様、好き。キス……して?」
ベッドの中、互いに服を着ずに抱き合いながらリュミネルは甘えた声を出す。ザナクはそんな彼女の前髪を手ですくい上げ、目を合わせるとそっと唇を重ねた。
「勿体ないなぁ。こんな可愛い顔を隠すなんてさ」
「……だって恥ずかしい。主様達が知っていてくれたらそれで良いよ。そんな事より……」
ザナクの体に絡ませた手足に力を込めて強く密着した彼女は何かを期待する様に自らザナクと唇を重ねる。そこで目が覚めた。
「……ボク欲求不満なのかな? シャワー浴びよう……」
上体だけ起こしながら今までを振り返る。レイヴェルと一緒に行った時は途中までで、それから以降は絶妙のタイミングで邪魔が入って不完全燃焼。時計を見ればまだ夜中の一時だった。
夢の影響か下着が少々不味いことになっているのに気付いたので気分転換のためにもと起き上がる。どちらにしろ夢の影響で落ち着いて眠れそうになかった。
「……あれ? まだ誰か起きてる」
クリスティが夜遅くまでゲームでもしているなら一週間は電源ケーブルを隠さないとと思い、足音を忍ばせて扉を開けるとザナクがソファーにもたれ掛って眠っていた。
テーブルの上には今回の報告書の山。ゼノヴィアたちが追放された事は既に当人達から聞いており、後からエクスカリバーを回収しに来る教会側の人間への対処を始めとした事後処理はリアスとソーナにせめてもの仕事と押し付けたが、旧魔王が関わっているだけに現場で起きた事を詳細に報告する必要があったのだ。
「……主様、お疲れ様」
既に書類は完成しており、後は提出するだけだ、ソファーでは疲れが取れないからと眠っているザナクを軽々と持ち上げたリュミネルは寝室へと運ぶ。その途中でコンビニ帰りの花月と出くわした。
「今からお楽しみかい? 混ざっても?」
「……違う。主様、疲れてるから……彼で」
折角寝ているのを起こしたくないし。かと言って自分が相手をするのも嫌だったリュミネルの視界の先、花月の背後のトイレからアレイシアが現れる。即座に自分を指さすリュミネルと酒の匂いが漂う花月を見て状況を察するが、部屋に逃げ込むより前に細い糸によって動きが止まった。
「今日は頑張って気が昂ってんだ。鎮めるのを手伝っておくれよ」
「いや、僕にはアーシアが……」
「はいはい。お熱いこった。んじゃ、たっぷり絞らせて貰おうかね」
有無を言わさず部屋に連れ込まれる同僚の助けを求める目を見て即座に目を逸らし、そのままリュミネルはザナクをベッドに寝かせると掛布団を掛ける。
「……また明日」
最後に夢でしたような優しいキスを唇にして、そのまま寝室から出て行った……。
「相変わらずの様ね。いえ、少し狂ってるかしら?」
「そうですか? 自分では狂っているという自覚はないのですが、貴女様がそう言うのならばそうなのでしょう。お久しぶりです、リェーシャ様」
花月に対して投降の意を示して拘束されたユークリッドは貴族専用の独房で静かにしていたが、リェーシャの姿を見るなり床に膝をついて首を垂れる。その眼には狂気は宿っているが、同時に彼女への畏敬と忠誠心が宿っていた。
「明日、貴方の姉が尋問に来るわ。態々手を回してあげたのだから感謝しなさい」
「ええ、当然ですとも。心の底より感謝いたします。例えリゼヴィム様の事でもお話致します。すべては正当なるルシファーの後継者、メアリーお嬢様の為。それこそがルキフグスの存在理由ですから」
「……そう。あの男はどう出るでしょうね。面白がって抵抗するか、それとも……。まあ、どちらでも良いわ。生きていたらメアリーの為にならないから死んで貰うだけだもの」
実の父親であるリゼヴィムを殺すと平然と言い切るリェーシャ。だがユークリッドはその姿を見て歓喜で震える。
(ああ! なんという事だ。まさに悪魔! まさにルシファーに最も相応しいと称されたお方。悪魔という種を守る為に他勢力を刺激しない必要があるという理由さえなければ貴女様こそが唯一無二の魔王になっていたでしょう!)
このまま協力を続けることで恩赦を得て、ルキフグスとして次期ルシファーに仕える事を自らの使命と信じ、何よりの幸せだと感じるユークリッド。実際、司法取引と流れる血によって彼は無罪放免となるであろうし、そうなればルキフグスとしてルシファーの血筋であるリェーシャやメアリーに仕える事になるだろう。それは彼も理解している。
だからこそ自分に向けられる視線の冷たさに気付かなかった。
(さて、何時死んで貰いましょうか? 悪いけど娘の周りに狂人は不要よ。ルキフグスの役目はミリキャスに努めて貰うし、後顧の憂いは消しておくべきですもの)
実の父親でさえ娘の為に殺すのなら、仕えていた主を裏切ると公言している行方を晦ましていたかつての家臣をどうするかなど容易いのにだ。自分の見たいものしか見ず、信じたい物しか信じない老貴族達と同程度の価値しか感じられていない彼の最期を彼自身は予想もしていないだろう。
「あの二人をどうするか、かぁ。面倒だなぁ」
ゼノヴィア達に接触した事を理由に眷属の監督不行き届きと判断されたリアスとソーナ、この二人と当の本人達は将来的に自主的という形をとって領地の一部を返納する事が決定したが、リアスは結婚式の一件もあって今後眷属を迎える際には親類縁者の審査が必要になった。
結果、将来的に妹がリアスの義理の姪になるザナクにも意見が求められた。なんとリアスは教会を追放された二人を眷属にしたいと言い出したのだ。
「特殊能力・聖剣を使用可能。ただしエクスカリバーは勿論、デュランダルも聖遺物が入っている為に教会側から返還要求が有るだろうと思われる。基本戦闘力・イリナは
判明している情報を報告書に箇条書きにして、最後に一誠達が接触するに至った任務の経費の私的流用について書く。元々悪魔を倒す事を使命として来た者達であり、ゼノヴィアは兎も角、イリナは両親が健在ならば無理に悪魔にする必要はないとザナクは思っていた。
「……リアスさんが眷属にしたら困るよなぁ。ヴァスコ・ストラーダの娘の写真を見た事があったら気付くかもしれないもん。孫の写真は幼い頃のしかないから分からないだろうけど……」
流石にこの件だけは何とかなると呑気に言えないなと考えるザナク。この数日後、今回の一件を機に三すくみの会談が行われる事になったと知らされるのであった。
「……うん。もう誤魔化すのも限界だよね。でも、ボクは主様の傍にずっと居たいな……」
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