呑気な悪魔の日常   作:ケツアゴ

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第二十話

サーゼクスが警戒する相手にリゼヴィムという男が居る。フルネームをリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。ルシファーの実子であり、超越者の一人にして扇動の天才。血統、実力ともに優れている彼は性格破綻者で、実に悪魔らしい。

 

 そんな彼は今、独房に居た。ユークリッドによって隠れ家を暴露された彼は無気力な顔で抵抗せずに捕まり、独房に入れられた。独房と言っても上級貴族の私室に匹敵する程の豪奢な部屋で、古い悪魔の贈り物として多くの酒や娯楽の品が用意されている。そんな彼の部屋を深夜に訪ねる者が居た。

 

「おやおや、これはリェーシャちゃんじゃんか。夜中にパパの所に来るなんて、ご本でも読んで欲しいのかい?」

 

「はっ? 貴方から本を読んで貰った覚えはないわよ? 耄碌しちゃったわね。無様、本当に無様」

 

 実の娘からの辛辣な言葉に対してヘラヘラした笑い顔を崩さずに差し出されたワインに視線を向ける。只の差し入れ……ではないと察していた。

 

「おい、酷いんじゃねぇの? 心は残るし、魂も受け継げるけど、死んだら終わりだ会えないんだぜ?」

 

「あら、それは幸いね。態々好きな酒を用意してあげたのだから感謝しなさい」

 

「うへぇ、辛辣ぅ。お前、本当に魔王に向いてたよ。パパンもママンも俺じゃなくってお前をルシファーにしたがってたしな。あっ、そうそう。結局アルシエル家に嫁いだんだってな。いやいや、良かった良かった。もともと嫁ぐはずだったのに、終戦後に相手を刺激しない為に領地ギリギリに嫁ぐ訳にはいかないからってご破算だもんな。ぶっちゃけ、あの男が好きだっただろ、お前」

 

「ええ、そうね。初恋だったわ。じゃあ、そろそろ死んでちょうだい」

 

 リゼヴィムの言葉に僅かに眉を動かしながらも平然とした口調でリェーシャはワインをグラスに注ぐ。リゼヴィムは少し詰まらなさそうにしながらもグラスを手に取り、香りを楽しんだ。

 

「これこれ、この芳醇な香り! いやー、リェーシャちゃんは親孝行だね。臆病なバカ息子とは大違い! 才能全部掻っ攫って生まれたんだな、きっと。あっ、そうそう。お前の所にも孫が生まれたんだって? 写真とかねぇの?」

 

「孫を気に掛ける心があるなら今すぐ飲んでくれないかしら」

 

 最後まで態度を崩さない娘に対して悪戯気に舌を出し、そのままワインを口に含んで一気に飲み干す。態々選んで持って来ただけあって満足が行く味であった。

 

「んじゃ、お休み」

 

「お休みなさい、()()

 

 リゼヴィムは一杯飲んだだけでワインのコルクを戻し、ソファーに持たれ掛かって目を閉じる。この日、古くから生きる悪魔の一人が旅立った……。

 

 

 

 

 

「ザナク、ご飯食べながら書類読むの駄目」

 

 朝食を食べながら書類を呼んでいたザナクだが、手から強引に奪われる。普段から無表情なクリスティだが、付き合いが長い者達にはまるで眉をしかめた不機嫌な顔に見えた。

 

「ごめんごめん。ほら、一応報告書が来たから読んでおかないとさ」

 

 特に内容に興味はないが、送られてきた以上は読んでませんは通じない。だからパッとだけ読んでおこうとしたのだが、料理を作ったクリスティからすれば不満だった様だ。

 

 報告書の内容はイリナ達の今後に関する報告。この数日で事態が動いていた。

 

 

 紫藤イリナ・父親は教会の関係者だが母親は違う為、父親の立場を考慮して離婚した上で母親が引き取るとの事。

 

 ゼノヴィア・両親はいない為、一旦保護として今後の動向次第でリアスの眷属になる可能性も。現在、教会への未練が強く、魔王や貴族への敬意に問題有り。

 

 

 

「……まあ、昨日の敵は今日の友とは行かないか。簡単に敵対組織に馴染む方が信用できないよ」

 

 最後にエクスカリバーの破壊を行って復讐を遂げた木場が転生悪魔に多い燃えつき症候群に陥ったという記載を読み飛ばし、報告書を近くの棚に投げ入れた。

 

 

「こんな些事よりも今は開かれる予定の三すくみの会談だよね。この街で戦争が起きるかもしれないし、準備だけはしとかないと」

 

「……主様、その場合はリアス…様達は守ってあげるの? 正直面倒だけど……」

 

「僕も同感だ。無理に連れ戻さない限り、退去しそうにないぜ、あの我が儘姫。結局プライドの為に冥界に連絡してなかったじゃん」

 

 リアスに一応様を付けてはいるが心底嫌そうなリュミネル。アレイシアも同調しながらピーマンを花月の皿に移そうとするがクリスティに腕を掴まれて止められる。

 

 

「まあ、その場合は自己責任って事で放置しよう。僕達が何を守るべきなのか忘れないようにね。大切なのは領地と領民だから。仲間を全員守るとか夢だよ、夢。手綱は夢を見ながら握るもんじゃないのさ」

 

 

「ザナク、トマト残したら駄目。アレイシアみたいに今夜の焼き肉、白米だけ食べる?」

 

「え? 僕、白米だけ?」

 

「うん。……文句有る? 有るならクリスに言え」

 

 この日、アレイシアは焼き肉の香りをおかずにご飯を三杯食べた。

 

 

 

 

 

 それから数日後、一誠に最近出来た契約のお得意様が実は堕天使総督のアザゼルだったなどのイベントが有ったがザナク達にはさほど興味もなく、戦争になったら神器を抜き取ってサーゼクスに持たせるのが一番ではないかと思った程度だ。それほど元から強い者が持った方が限界値も違うので敵に奪われるのは心配だったが。

 

「もう屋敷に軟禁して訓練漬けにした方が……反抗心まで芽生えるか」

 

 そんなこんながありながら駒王学園の公開授業の日がやって来た。中等部や初等部、その親類が参加できる大掛かりな行事であるが、ザナクの授業を見学しに今までリェーシャが来たこともないし、メアリーが見学するメリットも無いので当然来ない。

 

 

「若様、隣のクラスでは英語の授業で粘土細工の上にリアス様の裸の像のオークションまで開かれたそうですが……」

 

「あっ、大丈夫大丈夫。不安なのは分かるけど、普段は普通だから」

 

 その代わり、リュミネルの保護者となっている執事のチャバスが来たのだが、どうも隣の授業内容を知って少し不安な様子。悪影響がなければと心労を重ねそうな使用人に平気だと笑いかけるザナクだが、内心では引いていた。そんな授業を行う生徒と教師、口出しをしない保護者達は何を考えているのかと……。

 

 

 

 

 

 

「……若様、実は当主代行様が来ております。会談に参加するため、会場となる予定の学園の下見だとか……」

 

「会場、別の場所になるんじゃないかなぁ……」

 

 戦争が勃発する可能性や既に判明している不穏分子の存在から街中での会談など変更になるだろう、ザナクはそう確信していた……。




次はダンマチ サイヤ優先かな? 

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