呑気な悪魔の日常   作:ケツアゴ

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第二十二話

「おっ! 俺達が最後か。悪い悪い」

 

 三すくみの会談はコカビエルが儀式に選んだ駒王学園で行われることに警備や周辺への被害の被害から異論の声が挙がったが、だからと言って他の勢力に関わりのある場所に自分達のトップが向かうのを容認できるのなら今回の会談はもっと早期に行われている。結局、尤もらしい理由が付けられるのがこの場所だけだったのだ。

 

 そんな会場だが、各勢力から選ばれた警備隊、破談になれば即座に戦争の兵士となる者達を除き、会場に入ったのはザナク達若手悪魔三人と眷属達であった。領地を受け継いでもいない下の者が指導者を待たせるなど悪魔の品位を疑われるとして、制御訓練が終わっていないギャスパー及び、聖剣の一件に関わっていない普段から冥界に常駐しているザナク眷属残り二名を除き、出席者が揃うまで立って待っていた。

 

(自分達が優位だって示したいのか、もしくはただ遅かっただけか…‥)

 

 そんな中、悪魔天使両方のトップが揃った室内に漸くアザゼルが到着する。トップを座って出迎えるなど礼儀を疑われるので立っていたが、クリスティが痺れを切らし始めたので焦っていたザナクは安心しながらアザゼル、そして護衛として同行したヴァーリを観察していた。

 

「さて、もう座って良いわよ」

 

 今回、リェーシャが出席したのは長年敵対していた相手との会談に貴族派や旧政権に関係のある者が一切関われないのは反発を招くと、何かやろうとしていたクルゼレイの事を口実の一つにしてねじ込んだ形だ。そんな彼女に許可を出されザナク達は漸く席に着き会談が始まった。

 

 

 

 

「アレはコカビエルが勝手にやったことで、其処のアルシエルの跡取りが始末を付けた。むしろ俺より悪魔側の説明の方が詳しいだろ」

 

 アザゼルの態度は幹部が戦争を起こそうとしたという最大級の監督不行き届きを無視したもので、地なのか政治的手法なのかザナクを惑わせ、嫌でも自分が未熟だと知らされる。実際、隣のリェーシャは眉一つ動かしていなかった。

 

 

 

(さて、其れは兎も角…‥)

 

 先程から気になっていたのだが、どうもヴァーリはリェーシャに敵意を向けて居るように見える。其れはアザゼルも気付いているのか気にした様子だ。そんな中でも会談は進み、アザゼルが戦力を集めている理由が問いただされた。実際は悪魔も力を持つ者を眷属として集めているが種族激減のためと表向きでも理由がある。だが、堕天使が神器持ちを集める理由は明かされていなかった。

 

「クルゼレイが妙なパワーアップをしたって報告書にあっただろ? 其れについての心当たりが理由だ。各勢力の裏切りモンが集まって禄でもねぇ事をやろうとしてんだ。其れの対策だよ。……所でさっきから気になってんだが聞かせてくれ。そこの黒髪の小さい嬢ちゃんからオーフィスに似た気配がするのはどうしてだ?」

 

 アザゼルが指さした先、先程から話を殆ど聞かずにボーッとしていたクリスティに会場の視線が集まる中、ザナクに促されてクリスティが口を開いた。

 

 

 

 

 

「クリス、不老不死の秘薬を食べた蛇。次元の狭間でオーフィスとグレートレッドの戦いに巻き込まれて修復と崩壊を繰り返した。治る時、何度も二匹の力が体内に残って、クリスは変質した。……ザナク、説明これで良い?」

 

「うん。十分だ。……その後、私の母と出会い、最終的に私の眷属になりました。其れが全てです。……どうかした?」

 

 クリスティが小首を傾げながら尋ねるとザナクが頷いて補足を加える。その時、クリスティの目元が僅かに動く。会って間もない者には動いたことさえ分からない些細な違いだが、ザナクには其れが何か理解できた。警戒である。

 

 

 

 

 

「……敵。あの半吸血鬼のギャ、ギャ……ギャラクシー? の所に魔女の群れが来た」

 

「何ですってっ!?」

 

 流石にギャスパーの事だと理解したリアス達が立ち上がる中、校庭に魔法陣が出現し、無数の魔術師らしき集団が現れた。

 

 

「ちっ! やっぱ来るよな。こういう話し合いが気に入らない奴らはよ。おい、ヴァーリ。俺達は逃がさないためと校舎を守るために出られねぇ。お前がちぃっと戦って来て……ヴァーリ?」

 

 予期していたのか慌てることなく指示を飛ばすアザゼル。警備隊は烏合の衆だが勢力ごとに協力して魔術師を撃退するが、次々にやってくる上に急造の連携など足を引っ張り合うばかりで邪魔になるだけ。連合軍が徐々に不利になる中、ヴァーリは動こうとしなかった。

 

「……当初はギャスパー・ウラディの神器を暴走させる予定だったのに失敗したようだね」

 

 その一言でアザゼルはヴァーリが裏切ったのを理解する。彼は神器である翼を出現させ、リェーシャを睨み付けた。

 

 

「此処で名乗らせて貰おう。俺はヴァーリ・ルシファー! 前ルシファーの末裔だ! 貴様、よくもリゼヴィムを殺したなっ!」

 

「あら、間違った情報が入っているのね。あの男は自害したのだけど。妙な噂を信じるのね」

 

 実際、その公式発表をアザゼルは信じていないし、ヴァーリも彼女が殺したと信じて疑わない。彼が知るリゼヴィムは自分から毒を用意して死ぬ男ではない。だから心底心外だと言い足そうなリェーシャの態度は彼の怒りを更に高めるだけであった。

 

 

 

「俺はずっとリゼヴィムを探していたんだっ! それを貴様はっ!」

 

 ヴァーリにとってリゼヴィムは祖父であり、憎い相手だ。父は母を愛しておらず、ただ気まぐれに攫ってヴァーリを生ませただけだった。だが、高い才能と神滅具を併せ持つヴァーリを恐れた父はリゼヴィムに唆されて母と彼を虐待、最後には唯一の味方であった母と引き離された。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、そんなにお祖父さんに会いたかったの? 随分と慕っているのね。ああ、お母さんにでも虐められた時に助けてくれたのかしら?」

 

 だからこそ、挑発と分かっていながらもその言葉は聞き逃せない。愛していない父に生まされた自分を、虐待される理由であった自分を愛してくれた母を侮辱し、あまつさえリゼヴィムを慕っているなど、絶対に絶対に絶対に絶対に許せる筈がなかった。

 

 

 

 

「うぁああああああああああああっ!!」

 

「止めろ、ヴァーリッ!!」

 

 叫びながらリェーシャに掴み掛かったヴァーリは神器を発動させる。十秒毎に相手の力を半減させ自分に取り込むという白龍皇の光翼は赤龍帝と対をなす強力な力を持ち、アザゼルの制止も聞かずリェーシャに触れるなり発動する。リェーシャの力が即座に半減……しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ…がっ!?」

 

「あら、憎んでいたなら悪いこと言ったわね。でも、あの男の力を知っているのに神器中心に鍛えている様に見えるのは何故かしら? アザゼルから聞いていないの? ……超越者である私の力についても」

 

 リェーシャの細腕はヴァーリの首を掴み万力のような力で締め上げる。彼が必死に外そうともがくも外れず、空いた方の手がヴァーリの胸にそっと当てられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の持つ超越者としての力は『継承』。私に忠義を誓った者、そして血縁者が死んだ時、その知識も記憶も魔力も技術も身体能力も引き継げるの……当然、リゼヴィムは父だから受け継いでいるわ。神器無効化能力も。……じゃあ、ご機嫌よう」

 

「おい、待てっ!」

 

 アザゼルが制止しようと必死に手を伸ばし、リェーシャの魔力は躊躇なくヴァーリの心臓を吹き飛ばす。

 

 

「母さ……ん」

 

 ヴァーリは最後に母を呼び、その生涯に幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これで裏切り者、それも神滅具、しかも時間制限有りとはいえ二天龍と同格の力を出せる者を被害を出さずに消せたわね。……アザゼル総督、彼を殺して何か問題でも? 裏切ったばかりの新参者が大した情報も持ってないでしょうし、消せる時に消して正解でしょう?」

 

 怒りに満ちた顔で睨んでくるアザゼルに対してリェーシャは優雅に微笑み返した……。

 

 

 




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