呑気な悪魔の日常   作:ケツアゴ

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第二十三話

 えげつない、ヴァーリとリェーシャの一連のやりとりを見ていたザナクの感想はそれだけであった。反応から彼の境遇は察したし、リェーシャが記憶の継承によって理解していたことも分かっている。だが、末路には何一つ感じない。彼にとってヴァーリはテロリストでしかないからだ。

 

(母親は死んだか、我が子を見捨てて逃げるかなりして思い出を大切にしているのか。……どっちにしろどうなっても構わないんだろうね)

 

 今後テロが進めば少なからず世界に影響がでる。三竦みだけに止まらず、他の神話や人間にも大きな被害が出るだろう。侮辱されて怒り狂うほどに母のことを想っているなら害が及ぶ、もしくは顔向け出来ない様な真似はしないはずだ。実の両親を失っているザナクはそんな理由でヴァーリの母は死んだか変わってしまったのだろうと判断した。

 

 尚、ヴァーリの裏切りの動機は強い相手との戦いだと思っているし、実際にそうだ。ヴァーリにとって母はその程度の存在だったのだろう。

 

『貴様っ! よくも白いのの宿主をっ!』

 

 ヴァーリはアザゼルが連れてきた場で裏切った者であり、本来ならアザゼルは謝罪と無事に始末した事への感謝を述べるべき立場にある。だが、ヴァーリを我が子同然に育ててきた彼は感情を隠して取り繕う事が出来ない。グッと怒りをこらえて震えるだけで、リェーシャも呆れたような視線を向けるだけ。そんな中、ドライグの声が響いた。神器から発せられるのは世界でトップクラスに力を持つドラゴンの怒気。

 

「あら、彼が弱かっただけよ。どんな力を持っていても、生き残れなければ弱者。それに今までだって他の者に殺された宿主は居たはずでしょうに何を言っているのかしら? 今回はそこの坊やの勝ちよ」

 

 そんな者を浴びても何処吹く風、リェーシャは優雅に椅子に腰掛けると校庭に視線を向ける。先程から絶え間なく転移してきた魔術師の数が着実に減ってきていた。

 

「ヴァーリの記憶ではカテレアが来る予定だったけど、騙されていたのかしら? 普通に考えて来るわけないもの」

 

「え? 最初はどんな予定だったの、リェーシャちゃん?」

 

「……服装は兎も角話し方に問題ありね。旧校舎の半吸血鬼の神器を暴走させて護衛の動きを停めて、ヴァーリや後から来るカテレアがトップ陣を殺す予定だったのだけど……クルゼレイがしたドーピングを考えても魔王クラスの上程度よ、彼女」

 

 来るなら正気を疑う、と呆れた様子のリェーシャ。実際、この場にいる魔王の片方は前魔王の百倍近い魔力を秘めているし、アザゼルやミカエルとて魔王クラスと戦える力を持っている。アザゼルを勧誘する予定だったらしいが、それでも無謀といった内容だ。

 

「そうよ! ギャスパーを助けに……」

 

 展開に飲まれ動けずにいたリアスがサーゼクスに救援の許可を得ようとした時、袖をクリスティが掴んで二回ほど軽く引く。こんな時に何だと思いながら視線を向けると天井を指さしており、出現した魔法陣からギャスパーが出て来た。

 

「ふぎゃっ!?」

 

 天井の魔法陣から吐き出された彼は受け身もとれずに床に体を打ち付けて悲鳴を上げるが、クリスティは無表情のまま彼を指さして胸を張った。

 

「クリス、襲撃有ったって此奴の体に入れた蛇で分かった。だから一番偉そうなの除いて全員蛇で絞め殺した。偉い?」

 

「ああ、お手柄だ。じゃあ、口封じをされる前に捕らえに行かなくちゃね。えっと、リアスさんなら未使用の駒を使ってキャスリングが出来るよね?」

 

「え、ええ。じゃあ、お兄様」

 

「あ、ああ、行ってきなさい。念のためにもう一人同行出来るようにしよう」

 

 流されるまま、言われるまま、リアスはクリスティが倒した魔術師の捕縛に向かう。この後、カテレアはヴァーリが死んだのを察知したのか、元々来る気がなかったのか姿を現さず、襲撃者は全員死ぬか捕縛されるかして終わり、三竦みの同盟は無事結ばれる。会談の場所を記念され『駒王協定』と名付けられた協定締結後、会談の場で暴れる様な裏切り者を出した堕天使に不利な内容にしなかった事を突っつく上層部への対応に四苦八苦するサーゼクスの元にリェーシャがやってきた。

 

 

 

 

「これ、ゼクラム達には話を通したから貴方達が進めなさい。眷属悪魔に関する今後の法の草案よ」

 

 唐突に差し出された書類には、はぐれ悪魔を出すことで同盟間での悪魔の地位が下がるのを防ぎ、悪魔や堕天使との不戦協定に対する悪魔祓いの不満を減らす為の法案が記されていた。

 

 例えば反乱の恐れのある下僕悪魔の収容施設だが、悪魔至上主義の上層部の目を誤魔化す為の口実で、魔王が全責任と権限を持つ事によって虐げられている者達を保護する場所になっている。

 

 その他にもリアスとゼノヴィアの件を前例にすることで新たな眷属を引き込む際の事前審査制度の設立。これによって無理に引き込むのを防ぐことに繋がる。問題は殺してから眷属にするケースだが、テロリストに神滅具持ちや旧魔王の子孫、首領がオーフィスであると言う情報をヴァーリの記憶から得ているので監視できない遠方での行動に規制を掛ける口実にするようにしていた。

 

 今まで理不尽な契約や不当な扱いを受ける眷属悪魔の存在を知って嘆いていたサーゼクスだが、戦闘力で選ばれた象徴としての魔王である彼には貴族達を止める事が出来なかった。外敵が多く、政府内でも派閥争いが激化する中でその様な真似をすれば空中分解からの滅亡が待っていただろう。

 

「テロリストの件を口実に出来たのは不幸中の幸いね。説得に足るだけの理由と私に流れる血の権威が有れば楽に進められたわ。……私は忙しいから帰るけど、此処までお膳立てしたのだから失望させないで頂戴ね。民の全てを背負うのが指導者よ。力が無くて背負い切れません、なんて言わせないわ」

 

 言いたいことを言い切るとリェーシャは去って行く。実際、彼女は忙しい。リゼヴィムやヴァーリから得た情報をまとめ、普段の治世に加えてテロリストの対策、同盟を結んだ堕天使との話し合いなど、こなすべき仕事は山積みだ。

 

 

 

「どうせアザゼルの事だからヴァーリの事を逆恨みしているだろうし、領地が接する貴族として大使を選んで交渉をさせなきゃ駄目ね。……ザナクの実績づくりとして任せて、補佐官は……」

 

 国のこと、民のこと、そして娘の事を思いながらリェーシャは今後の方針を決定する。彼女が去る際、、サーゼクスはそっと頭を下げ続けていた。




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