呑気な悪魔の日常   作:ケツアゴ

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第二十四話

「……少し窶れたな。レイヴェルに搾り取られたか?」

 

 夏休みに入り帰省したザナクを待っていたのはリェーシャによる次期当主としての本格的な指導。領主とは人事経済治安インフラ整備、あらゆる事に二十四時間三百六十五日対処する義務を持っており、地位か高い者ほど責務は重大、優秀な補佐官がいたとしても高い能力が求められる。

 

 そんな激務の合間に与えられた僅かな余暇時間を親友であるマグダランとの語らいに使っている最中、冗談なのか本気なのか分からない問い掛けがなされた。

 

「……違ったか? 父上が話していたが、テロ組織の幹部をしとめた以上はお前が狙われるだろうし、死んだときに備えて両家の結びつきの為にも子を作る様になったと聞いたが……」

 

「うーん、初耳! この後、フェニックス家に行く予定だけど、其処で言われるのかな? そっかー、遂に一線越えちゃうのかー」

 

「俺からすればまだ越えてなかったのかと驚きだが、少し考えれば正式に婚姻をする前に子が出来るのは外聞が悪いか」

 

「まあ、本番一歩手前までは何度もしてるんだけどね。レイヴェルって普段は上品ぶって強気だけど、いざ事に及ぶとなったらさぁ……」

 

 獣も人も悪魔も雄の行き着く先は皆同じと言うべきか、猥談を始める二人。なお、マグダランには未だに彼女すら居らず、リュミネルは照れ屋なのに大胆に甘えてくるとか、花月に襲われた時は本当に疲れるとか、聞いていて少し虚しくなった。

 

 

「……子といえば、アザゼル総督は謀反人のヴァーリを息子同然に扱っていたと聞くが、お前の家の領地と堕天使側との今後の付き合いは大丈夫なのか?」

 

 人伝に聞いた話では、会場にまで連れ込んだヴァーリが裏切ったことでアザゼルに何らかの責任をとらせろ、と、旧い悪魔貴族が叫んだらしいが、サーゼクス達は今後の関係のためにそれを却下する方針だ。一応、慰謝料請求は免除してやるとの上位者としての書状を送る事で渋々諦めさせたらしいが、大森林の共同研究や共同警備等同盟を結んだことで堕天使との関わりが深くなる事を心配していた。

 

「あっ、大丈夫大丈夫。交渉役はシェムハザ様が行うってさ。アザゼル総督は塞ぎ込んでるって密偵が言ってたし、表舞台に出ないし周囲が出させないんじゃない? どうにかなるって」

 

「……相変わらずだな」

 

 逆恨みも甚だしいが領地が隣接する堕天使のトップの恨みを義母が買ったことに対して焦る様子のない友人に、脳天気と呆れるべきか、リェーシャを筆頭に家の者がそれ程信頼出来るのを羨むべきか、マグダランは本気で悩んでいた。

 

 

「そうそう。今度次期当主の顔合わせが有るじゃない。ディオドラが面倒なんだよね。……とっくに陥れた事を知られているのに、何度もラブレターや贈り物をしてくるんだよ? アレイシアとラブラブなのにさ。この前なんて朝起こしに行ったら添い寝してたよ」

 

「バラして文句を言われないか?」

 

「悪魔にとって聖職者を誘惑するのは仕事の内。知り合いが仕事を頑張っているって話すのが何か悪いことかな?」

 

 この時、ザナクが浮かべていた顔についてマグダランはこう思った。リェーシャの腹黒さが伝染したのでは、と。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、あんさんと出掛けるのも久し振りやわぁ。うち、公の催しにはあまり出して貰ってないからなぁ」

 

 遂にやって来た若手の顔合わせの日、普段は領地で防衛任務に当たっているメンバーも引き連れ、今は車に乗って会場がある首都ルシファードを目指していた。

 

「それにしても凄い歓声だね。 ボク、緊張して来ちゃったよ」

 

「うちもやわぁ。人を丸飲みにしはったらよろしかったんやったかなぁ?」

 

「ニャニャニャっ!(止めろ、マジで止めろ。お前が言うと冗談に聞こえないから!)」

 

 植物で編まれたパンダの編みぐるみと和服の少女は外の景色を物珍しそうに眺めている。そんな中、少女の口から何気なく出た言葉。一見すると少し趣味の悪い冗談に聞こえただろうが、レティは少し本気なのではと思っていた。

 

 

 

 

 

 悪魔に派閥があるように妖怪にも派閥が存在する。京都で有名なのは九尾の狐の一派。昔は朝廷とのイザコザがあったが、今では日本神話の傘下に入って大人しいものだ。住んでいる場所も人の子が立ち入れない異空間。言うなれば穏健派だが、正反対に過激派と呼ぶべき者達も存在した。

 

 京都の町を荒らしに荒らし、最後は退治された酒呑童子一味の残党やハグレ者が集まった、人を浚い犯し喰らう悪鬼羅刹の集団。その派閥最後の頭領の息子も人は喰らうもの、弄ぶものとの認識でとある女を浚い、気に入ったのか術で狂わせて生かし続け犯し続けた。やがて女の腹が膨れ、内部から母の肉を食い破って赤子が生まれた。生まれた瞬間に親殺しという罪を背負い、血にまみれて笑っていた赤子に付けられた名は『源 旭吉(みなもと ひよし)』。偶然か必然か、酒呑童子を退治したモノノフと同じ姓を持つ少女は誰よりも鬼らしく、やがて父に恐れられてとある者達への人質に差し出される事となった。

 

 

 

 だが、その者達は手を組むはずだった悪鬼と会ったのは引き渡す契約を結んだ時が最後。それもその筈。迎えに来た時、既に屋敷の奥で一人残らず喰い殺されていたのだから。

 

 

 

 

「ふぅん。あんさんに仕えればええんやな? まあ、おまんま貰えるならうちは構わへんよ。でも、面白くないって感じたら何するか分からへんから覚悟しといてな?」

 

「オッケー。じゃあ、宜しくね」

 

 その後、引き受けた者達を皆殺しにしてさまよっていた旭吉はリェーシャと出会い、ザナクの眷属になることが決定した。今の彼女は大人しい。力の封印も引き受け、命令も聞いている。だが、侮る無かれ。鬼とは理解不能な恐怖の対象の総称だ。何時何が起きるかは本人にさえも分からない。

 

 

「表立って人食うのは止めときな。生気を敵から吸うなら問題ないだろさ。取りあえず桃十郎からでも……」

 

「えー! 桃十郎兄はんは汗臭いから嫌やわぁ。リュミネル姐さんなんか美味しそうなんやけどなぁ」

 

「……ボクは駄目。旭吉は我慢を知らないから、疲れ切っちゃって主様と一緒にいる時間が減る。こんな時こそネイリアの出番」

 

「仲間を差し出すなよ、仲間を。……僕じゃないからこれ以上は黙っていよう」

 

「ぬはははは! 相変わらずだな、旭吉! うん! 人を食ってはいかんぞ!」

 

「……ザナク、クリスもお腹減った。何かない?」

 

「こらこら、人前で人を食べるとか言ったら駄目だよ? 引かれちゃうかも知れないからさ」

 

 

 

 

「ニャーーーーーーー!?(引かれるってレベルじゃねぇだろ!? だめだ、此奴等。ボクが何とかしないとっ!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷぷぷぷ。やっぱり見てて面白いなぁ。さてと、そろそろ到着だね」

 

 ネイリアと呼ばれたパンダの編みぐるみが見詰める先には今回の顔合わせの会場が見えていた。




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