呑気な悪魔の日常   作:ケツアゴ

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第二十五話

「さあ、僕の顔をお食べ。甘くて美味しいよ」

 

 一体どうしてこうなった? ゼファードル・グシャラボラスは目の前で自分の頭を引き裂いて渡してくるパンダの姿に恐怖を感じ、そのまま口の中にパンダの頭の一部が捻じ込まれる。確かに甘い、甘いのだが、それは想像を絶する甘さだった。

 

 例えるならチョコクリーム大福。少しくどいくらいに甘いチョコレートクリームが柔らかく甘い餅に包まれ、それに粉砂糖を塗した上で羊羹で包み、黄粉と黒蜜を上からたっぷり掛けたのについでとばかりにソフトクリームを乗せる。歯が溶けて無くなりそうな胸焼け間違いなしのパンダの頭の一部、それが生暖かいゲル状になって口の中に広がり、飲み込んでも歯や口の中に付着して味が消えない。

 

 この日、ゼファードルは思った。もう甘い物なんか絶対に食べない、と……。

 

 何故こうなったのか、それは少し時間を遡る。

 

 

 

 

 

 

「いやー! さっすが貴族の為の待合室だよ。飲み物が美味しー」

 

 首都ルシファードで行われる次期当主達の顔合わせの会場の控え室にて、少し離れた場所で後々の遺恨になりそうな口論が勃発するも気にせずに部屋の隅で寛ぐザナク達。特にネイリアは用意された飲食物で上機嫌だ。

 

「……前から思ってたけど味覚有るの?」

 

 ネイリアの見た目は植物で構成されたパンダであり、普段は存在しない口の部分が大きく裂け、其処から内部へジュースを流し込む光景は不気味ささえ感じさせる。リュミエルの質問は当然であり、この場の数人が思っていた事だ。

 

「えー? 味覚有るから美味しいって言ってるのに、リュミちゃんは相変わらずお馬鹿さんだね。ぷっぷぷっぷー! 胸に栄養行ってるって奴ー?」

 

 口に該当する穴なんかなかったのに、わざわざ口を作り出して吹き出す真似をする珍獣にリュミネルの眉間に皺が寄り、流石に今は携帯していない刀が欲しくなる。具体的に言うと脳天から股に掛けて一刀両断したかった。意味はないけれど、ムカついたから。

 

「ほら、落ち着いて。ネイリムも余計なこと言わないの。何か問題起こしたら連帯責任で全員の夏のボーナスカットするからね」

 

「え~? やだやだ、ボーナスカットやだー! 皆、僕を見習って大人しくしてよね!」

 

 リュミネルを背後から抱き締め殴りかかるのを止めるザナクは眷属達に容赦のない宣告をする。顔を赤らめながらも嬉しそうに手の上に手を重ねる。そして言葉を聞いた瞬間の眷属達の動きは迅速だった。

 

「……動くな、動いたらぶっ放す」

 

「クリス、買いたい物沢山ある」

 

 自分の言動を顧みないのか、敢えて煽る気なのか一番の問題児であるネイリアが仲間に注意した瞬間、クリスティの右腕がネイリムの胸に突き刺さり、肘まで突き進む。それでも動じないのだが、背中にアレイシアが二丁拳銃を突きつけると流石に両手を挙げて降伏のポーズだ。不満そうに不貞腐れるあたり反省はしていないし、する気はない。

 

「ぶー! まるで僕が問題児みたいじゃない」

 

「……そうだよ。主様に迷惑掛けたら許さないから」

 

「そないな事より、降ろして貰えへんかなぁ、桃十郎はん。ウチ、大人しくするで?」

 

 ネイリアが余計な事をしないように眼を放そうとしないリュミネルの背後では桃十郎に腰に手を回されて抱えられた旭吉がけらけら笑っている。彼女はネイリムと違って煽る気はないようだが、信用も無いので降ろして貰えないだろう。

 

「うむ! 顔合わせが始まれば流石に降ろすぞ。お前も其処まで馬鹿ではないだろうからな」

 

「え? それって熱湯風呂の押すなよ押すなよって奴……冗談だって。それより本当に止めなくって良いの?」

 

 反省の欠片もないネイリアが指差した先ではシークヴァイラ・アガレスとゼファードル、共に今回の顔合わせに呼ばれた次期当主の若手悪魔、が口論をしていた。口論といっても全身タトゥーで如何にもチンピラといった感じのゼファードルが気の強いシークヴァイラにセクハラをかましながら絡んでいるだけであり、共にプライドが高いから引く気がないだけだが。

 

「放置放置。間に入って良い事ないし、家の格が上のシークヴァイラさんは公私の分別つく人だから。嫌いな相手でも家の仕事で必要なら取引が出来る人。ゼファードさんは次期当主に成れてテンションが上がってるだけで、家の仕事は旧臣の人達がフォローするだろうからね」

 

 だから下手に関わるなとザナクはリュミネルを抱きかかえたまま椅子に腰掛ける。その隣に花月が座って周囲から見えないようにセクハラを行い、ネイリアだけは何やら企んでいる様子でゼファードルを見ているがクリスティ達によって下手に動けない。

 

「次期当主になれたってどういう事なん?」

 

「ああ、旭吉は知らなかったっけ? 前の次期当主が急死して、グシャラポラスの凶児って呼ばれていた彼が次期当主に成れたんだ。実際、大きな転機だと思うよ。調子に乗るくらい当り前さ」

 

 ゼファードルは以前の次期当主が亡くなった事で繰り上げになる程度には一族での序列が高かったのだろうが、それでもスペアはスペア。小競り合い程度の争いしか起きていない現代では病死や事故死でもない限りは丈夫な悪魔は簡単に死なない。凶児などと呼ばれ、今は同じ若手悪魔に過ぎないとしても格上のアガレス家に喧嘩を売る、具体的に言うと抱かせろと上から目線で告げる、等では彼の矜持を満たせる婿入り先が見つかったかどうか疑わしい。

 

「まあ、今は自由にできてもその内……」

 

 ザナクの視線の先では放置しておけなくなったサイラオーグに喧嘩を売ったゼファードルが一撃で叩きのめされていた。上に噛みついて叩き潰される、ザナクはそう言う積もりだったが、実際に起きたので言うのを止めておいた。その代わり、恩を売る方向に持って行く気だ。

 

「ネイリア、『誰が為の献身(サクリファイスエナジー)

 

「オッケー! じゃあ、僕の体の一部を食べさせて来るよ」

 

 誰が為の献身(サクリファイスエナジー)、それははぐれ悪魔から奪いネイリアに与えられた神器。自らの体の一部を無色のエネルギーに変えて他者に与えるという自己犠牲の奇跡を起こす。

 

 ゼファードルが助けられた事を感謝するとは思っていないザナクだが、上層部の前に怪我をした状態で出たとなれば将来に響くし、グシャラポラス家の者は怪我をさせたサイラオーグへの悪感情も抱くだろう。故に彼らに貸しを作る為にゼファードルを助けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談ではあるが、ゼファードルを苦しめた異常な甘味などはネイリアの趣味である。悪戯の為だけに経口摂取が可能な上に味のコントロールまで可能なように神器を進化させたのは凄い事だろう。こうして無事にボーナスカットが決定する。なお、後で文句を言われた際には甘くした云々はそういう物だと誤魔化した。

 

 

 




話が進まない 眠い・・・


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