呑気な悪魔の日常   作:ケツアゴ

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第六話

 リュミネルには至福の時間が存在する。三日に一度、ザナクが翼の手入れを手伝ってくれるのだ。存在する場所が場所だけに手が届かない部分も存在し、誰かに手伝って貰う必要があると知った彼が眷属とのスキンシップの一環だと言い、今もブラシを使って丁寧に羽を撫でていた。

 

「でさぁ、この前の晩餐会に為に家に帰った時、メアリーがクレヨンで描いた僕の絵をプレゼントしてくれてさぁ。お兄様大好き、だってさ! かーわいいよねぇ」

 

 この前、と言っているように何日も前の話であり、既に何度もしている話だ。聞き飽きたのかレティやクリスティまで話が始まると同時に姿を消す始末。唯一リュミネルだけが嫌な顔一つせずに相づちを打っていた。尚、花月は話が始まると同時に殴って止める。

 

「……でも、いまだに信じられない。アーシアが悪魔になるのを了承するんなんて」

 

「陥れられた可能性を思い切って話してみて良かったかもね。写真であの聖女マニアかどうか確かめさせたら落ち込んだけど、アレイシアがうまく慰めて……彼奴、天然でやってるよね? 僕が知らないだけで彼方此方で女の子をを落としたりしてないよね?」

 

 親友と思っている眷属に浮上した思わぬ疑惑にザナクは不安になる。流石に将来背中を刺されたとか知らされるれる事になるのは御免被るようだ。外聞的にも、個人的にも。リュミネルはどう答えて良いか分からず沈黙する中、レイヴェルからメールが送られて来た。

 

「今度のデートは無理です……メールで済ませるとか珍しい」

 

 何時もなら電話か直接会って予定変更を告げるのが普通なのに、今回に限って中止を告げるだけという事に疑問を覚えるザナクだが、試しに掛けてみても通話が繋がらない。何か怒らせる事でもしたか忙しいのかと考えていた時、リュミネルが少し言いにくそうにしながら口を開いた。

 

「……じゃあ、ボクと一緒に遊びに行こうよ、主様」

 

「予定もないし、君とも行く予定だったしね。良いよ。あっ、それと言い忘れていた事が有るんだけど……」

 

 デートの約束成立にリュミネルの心は弾む。笑みが浮かぶのを長切れず、このままでは鼻歌まで歌いだしそうだと必死に抑え込んだ。この時、彼女は期待していた。今の関係から一足飛びにキス位まで進めるのではないかと。今までハグをされたことはあっても、恋愛ではなく友愛的な物であり、出来れば恋愛的な事を経験したいという年頃なのだ

 

 

 

「天界と何かあった時にただの眷属じゃ君の立場も危ういし、将来僕の側室になる?」

 

「……ひゃいっ!?」

 

「オッケーだね。じゃあ養父のチャバスにも伝えておかないと」

 

 一足飛びどころか二足も三足も飛び越す結果に変な声が出て、それを了承と間違われる。否定はしなかった。将来そういう道に進むのだろうとレイヴェルが思っていたとこの前のお茶の席で言われたし、悪い気はしない。立場があるから正室は諦めていたが、まさかこんなに急に決めるとは想像していなかった。たまに布団の中でザナクに迫られる妄想はしていたが……。

 

「……あ、あの、主様っ! ボボボ、ボク達はそういう関係になるし、学生だし勇気が出ないから最後は無理だけど途中までだったら……練習する? 花月さんほど上手く出来ないと思うけど……」

 

 激しくテンパりながらも今回の事が後押しになったリュミネルはベッドを指差す。何の練習なのかは言うまでもない。不慣れな二人だからと少し不安ではあるが、将来恥を掻かないためと理由を付け、精気を絞るのと趣味を兼ねて花月に色々されていると知っているのでザナクに身を任せる積りであった。

 

「大丈夫大丈夫。……僕がリードするから安心して?」

 

 一瞬はしたなかったかと思ったが、ザナクが肉食系であったので問題はなく、返事する間もなくリュミネルをベッドに運び、仰向けになった彼女に跨り、目元を隠していた前髪を上げる。リュミネルもこの後どうなるのかは漫画や(酔っぱらった)花月の教育で知っている。だが、知っているのと実際に体験するのは別だ。唾を飲み込み、そっと目を閉じてその時を待つ。やがてザナクが覆いかぶさり二人の唇が……。

 

 

「おーっす! アーシアちゃんに用があって来たんだけど留守みたいだし、伝える事だけ伝えて……あっ、ごめん」

 

 触れる寸前にノックもせずに入ってきた死んだ目の上にボサボサ頭の中年男性と目が合い、ザナクの動きが止まった。気まずい沈黙が過ぎ、男性は静かにドアを閉める。

 

「お、おじさん何も見てないから。ごゆっくり……出来ないよね」

 

 当然出来ない。残念ながら失敗に終わってしまった。

 

 

 

 

 

「いやー! ごめんごめん。ほら、悪魔の文字の勉強用にって幼児用の学習絵本持って来たんだ。うちの娘が使ってた奴」

 

 気まずい時間から少し経ちリビングのソファーに座り込んだ男性は数冊の絵本を取り出す。彼が言ったように幼児用の本であり、読み上げ機能がついているので文字の勉強に便利だろう。尚、先ほどの一件は無かった事になっている。でなければ気まずいにも程があるだろう。

 

「ありがとう、ギアさん。この本、人気だから売り切れなんだよね。一から学ぶ転生悪魔が買い込むし、転売屋がそれを狙って買い占めるしさ」

 

 少々機嫌を損ねたリュミネルが入れた薄いお茶と反対側が透けて見える羊羮を食べている彼の名前はギア・マキシマ。ザナクの亡き父親の兵士だった男であり、昇格して上級悪魔になった後も年の離れた親友であった主に義理立てして独立していない。因みに三人の娘がいる。近頃の悩みは長女が反抗期な事らしい。

 

 そして、駒を全て使いきっているザナクの頼みでアーシアを眷属にしていた。

 

「……あの子だけど、ありゃ狙われるわ。見た目は可愛いし、能力も希少。他人を傷付けるのは無理な性格してるけど、攻撃を相殺するくらいは出来るだろうから魔力を扱う才能も無駄にはならない。眷属にしたがる奴は出てくるし、ただ保護するだけじゃ守り切れないって」

 

「だよねぇ。アレイシアの奴、泣きながら謝っていたよ。自分が無力なばかりにってさ。……それで伝える事ってあの人から?」 

 

 お茶のお代わりを煎れようとしたリュミネルの表情が固まり、ザナクとギアは表情を変えない。基本的に家の名誉の為に暗殺の事は内密にしていたが、ギアだけは自力で辿り着いていた。

 

 

「良い事二つと悪い事が有るけど、良い事から言おうか。……メアリーちゃんの婚約者が決まった。ミリキャス・グレモリーだよ」

 

「あの子かぁ……」

 

 現魔王サーゼクスの息子の姿を思い浮かべるザナク。家柄も家族の人柄も本人の才覚にも文句はない。家の道具として婚約を結ぶのが貴族の義務の中、悪くない内容だと言えるだろう。ザナクもシスコンではあるが妹が結婚するのを反対するほど馬鹿ではない。

 

「当主代行様が嫁に行くのは嫌がってたし、尊い血を入れたがる奴らは多いからねぇ。詰まらない争いを終結させると共に自分の発言力を上げたいって現ルシファー様は思ったんだろ。今は上の方々の言いなりだからな。……あっ、羊羹お代わりね」

 

「リュミネル、今度はぶ厚く切ってあげて。あの人、やっと僕の暗殺を諦めたみたいだから。あれでも父さんに本気で惚れてたし、父さんが残した領地を守ろうとはしていたからね。僕を殺して他人に好き勝手にさせはしないよ」

 

 それでも自分の子とメアリーの子を結婚させ、孫をアルシエル領の当主にする気であろうとは予測するザナク。その程度ならと苦笑する中、良い事二つが判明した事で悪い事に予想がついた。

 

 

「そっか……。ミリキャス君とメアリーが結婚して、ライザーとリアスさんが結婚する以上、僕とレイヴェルの結婚に大して意味はない。それよりは別の家との繋がりをってなるよね……」

 

 レイヴェルのメールにもこれで納得がいったザナク。今まで婚約者筆頭候補であり、間違いなく結婚すると思っていた相手との関係が変わった、その事に気が付いてしまった。

 

 

 

 

 

 

「……話は聞いた。あの、なんだ……当たり前だと思っていた物を失う気持ちは俺にも分かる。元気を出せ、とは簡単には言えないが……」

 

「……気を使わせちゃってごめんね」

 

 その夜、話を聞いたマグダランから電話が掛かって来た。彼なりにザナクを励ましたいが何を言えば良いのかも分からない。だが、それでも親友の気持ちが伝わりザナクに少しだけ元気が戻った。自主的に膝の上で丸まっているレティを撫でる中、マグダランからとある話を聞かされ驚くことになる。

 

 

 リアスがライザーとの婚約を嫌がり、話し合いが縺れた末にレーティング・ゲームで決着をつける事になったと……。

 

 

 




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リアス達原作と違う点

アーシア他陣営

ドライク覚醒

フリード・レイナーレ戦無し

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