『最終回2点差の場面1アウトランナーなし』
『ここでバッターは埼玉のホームランアーチスト村中由太郎くん』
『あのミスターフルスイング村中紀洋さんを父に持つサラブレッド』
『この由太郎くんは昨年の決勝戦でもこのような窮地で打席に立っています』
『あの時は1点を追うツーアウトランナーなしの場面で内野安打を放ちました』
『今年はどうなるでしょうか』
猿野「ちょんまげ頼むぞ!」
御柳「しっかり繋いでくれよ」
由太郎「……」
猿野「お、おい」
十藤「猿野、ちょっと」
猿野「ん?」
村中由太郎はとても元気で明るい選手である。
打席に入る時もチームメイトと2.3言葉を交わして向かう。
内容は「おれがんばるから見ていてくれ」「繋ぐから任せてくれ」といったもの。
これは不安を払拭するために退路を断つためでもあった。
大事な打席の前では特にそれが顕著だった。
ただ今は違う。
男は背中で語る。
そうして去年の夏以降も結果を出してきた。
ただ今回のは少し違う。
既に由太郎に意識は無い。
打とうと思うことも、ボールを見ようと思うことも、野球をしていることすらわかっていない。
ほぼ生まれた瞬間から体に馴染んでいるこの遊びを無意識下に落とし込んだ。
由太郎「……」
村中監督「由太郎…」
羊谷監督「打ちそうだな」
“明鯱止水”は打とうとする相手選手の投げたという時空間を抹消するボール。
無意識の相手に通用するはずが無かった。
カキンッ
嗚「え?」
沼崎「あ?」
清池「お?」
『打ったー!初球を捉えた起死回生のヒット!』
『あの半速球を初めてスイングしましたね』
十藤「うぉぉぉ!由太郎ー!!」
斎柳「由太郎さんサイコー!」
猿野「よっしゃちょんまげ!」
御柳「さーて続いてやるか」
「由太郎さーーーーーん」
「いける!いけるぞ埼玉ーー!!」
怪しい雰囲気を醸し出していた埼玉スタンドが一気に息を吹き返す。
さらに次打者は一発のある猿野、一気に同点ホームランの可能性も出てきた。
沼崎「まさか打たれるとはな」
嗚「全国にはあんなバッターもいるんだね」
「たぶん無意識でスイングしてたよ」
沼崎「まじか」
嗚「昔ながらの習慣ってやつかね」
沼崎「それなら猿野は大丈夫そうか」
嗚「同じやり方は無理だろうね野球始めて1年ちょっとだし」
沼崎「改めて意味わかんねえな高校から野球って」
嗚「だからこそ意外なやり方で打たれるかもね」
沼崎「嗚…」
「ずっとタメ口じゃねえか」チョップ
嗚「痛っ」
沼崎「三振で頼むわ」タッタッタッ
嗚「ふふん、了解」
『ここでヒットを打った由太郎くんに代走の十藤くんが送られます』
『足が速い選手、同じ高校の同級生ですね』
十藤「ナイス!」
由太郎「後はよろしく!」
パチンッ
十藤(打つ気なんてない、走るだけなら見られるだろ)
由太郎「さるのーお前じゃおれの打ち方は無理だ!自分の打ち方でいけ!」
猿野「!」
(どうすりゃいいんだ)
(今のも当たった瞬間、急にボールが現れたし)
(これ打席へ向かったら意識なく三振で帰ってくるだけなんじゃ…)
「なにか、なにかないか」ブツブツ
子津(考えすぎてるっすね、ここは…)
「猿野く…」
御柳「おい、猿野!」
猿野「!?」
御柳「無様に三振して来い」
猿野「んだとテメー」
御柳「もともとこの大会はオレたち華武以外邪魔なだけだ」
「まずオレの一発で同点、延長でサヨナラ打って終わりだ」
猿野「ふざけんな、オレが打つ!」
御柳「じゃあ打て」
猿野「あ?」
御柳「無い頭で考えすぎてんな」
「どうせお前にあんのは力っぷしくらいだろ」
猿野「まあ確かにパワーでオレの右に出る日本人はいないな」
御柳「けっ、その顔でいいんだよ」
猿野「?」
御柳「あとスタンドを見てやってもいいんじゃねえか」プクー
凪「猿野さん!」
猿野「凪さん、去年と同じですね」
「大丈夫、見ていてください」
「オレが試合決めるわけじゃないっすけど」
「オレが誇れる埼玉というチーム全員で優勝旗を持ち帰ります」
剣菱「はあ、びみょ〜に熱くなったな」
黒豹「言うやんけあいつ」
兎丸「たまーにかっこいいんだよね」
子津「猿野くんはこういう場面でほんとに頼りになるっす」
『さあ2対0、1アウトからランナーがヒットで出塁!』
『昨年試合を決めた超高校級猿野天国くんに注目しましょう』
猿野「オレらしく行くか」
主人公の打席に期待しましょう。
次回は明日の夜に投稿したいと思います。