第六駆逐隊と廃線跡を辿る男の話   作:黒廃者

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第1話 廃線跡を辿る者達


1-1

鎮守府本館 執務室

「よろしかったのですか提督?」

「ああ、あの男は性格に少々問題はあるが、年下の世話は得意なんだ。彼女達はうちの駆逐艦の中でも特に幼い。第六駆逐隊のみで外出させようなら心配事でいっぱいだ。かといって私や他の艦娘を引っ張り出すのも()にバレれば面倒だ。大学にも行かずに引きこもっているニートには社会復帰の鍛錬になるし丁度いいかと思ってね」

「いえ、その話ではなく砂糖多めに入れて飲ませた緑茶の件です」

「あ、そっち」

「健康に良いかと思いついでに蜂蜜も大量に投入してしまいました」

「私が命令しておいてなんだけど加賀って時々すまし顔でとんでもないことするよね。彼、甘ったるいの苦手だから今頃グロッキーだと思うよ。それから間違ってもお偉いさんにはやめてくれよ?首が飛びかねない」

「提督の首が飛ぶのを想像すると気分が高揚します」

「ははは。その時は君も道連れだから覚悟しとけよ」

執務室での会話は、およそ常人のそれではなかった…。

 

 

 

 

 

 

「……気持ち悪い。何入れやがったんだあの女」

一方、秘書艦特製健康ブレンドの緑茶を無理やり飲んだせいで、義文の足取りは重い。

なんとか愛車まで辿り着くとシートに腰掛けて背もたれを倒す。早く気持ち悪さを取り除きたかった。

幸い回復傾向にあり、少し良くなった義文は加賀から言われたことを思い出す……。

 

 

 

 

 

『第六駆逐隊と共に廃線跡を調査せよ』

 

 

 

 

 

は?と口から飛び出しそうなのを必死に抑えた。

加賀の言うところ、ここ数日間、第六駆逐隊は度々あの場で廃線跡を眺めているらしい。歳相応の好奇心というものだそうだが、彼女らは艦娘であり、おいそれと外に出すわけにもいかないそうなのだ。

しかし指揮官である木ノ本は、艦娘だって一人の人間なのだから多少好き勝手やらせてやりたいという気持ちがあるそうで、できる限りの自由を部下に与えているそうで……。

つまるところ、

(俺を保護者代わりにしようというわけか)

義文はフクザツな気持ちになって、車内の天を仰いた。

クソったれ提督様にいい様に使われているわけなのだが、義文自身子供の相手は嫌いではない。加えてここに来るまで見た放置された廃線跡にも、若干の興味があった。

 

必要性が失われ、残されたのは、ただ朽ち果てていくだけの長い、とてつもなく長い時間。

 

 

まるで、空っぽな自分自身の写し鏡を見ているような気分だった。

 

 

 

そんなことを考えていると、コンコンと誰かが窓を叩いた。

思巡を止め、そちらに視線をやると。

 

 

キラキラと瞳を輝かせた4人の少女が義文を覗き込んでいた……。

 

 

顔を引きつらせ、恐る恐る窓を開ける。

 

「暁よ。一人前のレディーとして扱ってよね!」

「響だよ。貴方が司令官のマブダチの人?」

「雷よ!何か困ったら私を頼りなさい!」

「電です。初めまして相良義文さん……なのですよね?」

 

「…………いかにも、自分が相良です」

開けた途端に四者四葉の自己紹介が元気良く飛び込んできたために耳の穴を小指で塞ぎ、治りかけていた気持ち悪さがぶり返してきたことに苛立ちつつも、なんとか返事を返すことに成功する。

「ねえねえ、ちゃんと連れていってくれるのよね!?」

「どこに?」

「廃線跡。加賀さんから聞いた」

「ああ、なるほど。君たちが第六駆逐隊か」

はあ……と聞こえないくらい小さくため息を吐き、ドアに張り付く暁と雷を下がらせて車から降りた義文は、何も言わず廃線跡の方へと向かう。

杖をついたぎこちない歩みに、第六駆逐隊は驚きを隠せなかったが、彼女達が何かを言う前に義文は、

「昔、事故っただけだ。気にしないでいい」

吐き捨てるようにそう言うと、4人の表情は少しだけ和らいだ。

 

 

彼女達はこの辺りから眺めていたのを思い出し、フェンスの目の前で足を止め、同じように視線を景色へと向けた。

雲が穏やかに流れていく空の下、自分が越えてきた深緑の山が小さく見える。さらに視線を下に向けると、道中にあった小さな町と、そして錆びたレール。

 

不思議な感覚だった。

 

退屈なのか、感動なのか、郷愁なのか……彼は形容しがたい胸の窮屈さに戸惑いながら、潮風に揺られる雑草の中から伸びる錆び付いた線路を見つめる。

「こいつは鎮守府専用の線路で、街から山一つ越えて必要な物資を届けるためのもんだ」

「それはもう知ってるわ」

暁がふんぞり返った。

「私が教えた」

響が付け加える。

「楽しいもんなんてないと思うぞ」

「そんなの、鎮守府を出てみないとわからないことよ!」

雷が反論する。

「私達は見てみたいのです。外に広がっているいろいろなものを」

電は訴えた。

 

どうやら、引き下がってはくれないようだ。

 

「……まあ、仕方ないか」

 

好奇心は止められない。

それに、期待させておいてそれを裏切るのも気分が悪い。

性格は酷いものだが、それでも友人の好みで命令に従ってやるとしよう。

 

観念したように、義文は再びEK9へ戻ると、4人に声をかけた。

 

「乗りなよ。先を見せてやる」

 

 

 

 

杖をつく青年と第六駆逐隊の、廃線跡を辿る小さな冒険が始まる。

 

 

 

 

第1話 廃線跡を辿る者達 終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに。

 

 

「一人前のレディとして暁が助手席に座るわ!」

「ずるいわ!助手席は景色がよく見えるから私が座りたいのに!」

「後ろのシートより落ち着ける……」

「け、喧嘩しちゃダメなのです!ここは公平にじゃんけんで決めるのです!」

「……早くしてくれ」

「3分間待ってくださいなのです!」

「時間だ。置いてくぞ」

 

EK9の助手席をめぐる仁義無きじゃんけんを制したのは暁。




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第2話 鎮守府→花畑の駅

廃線跡とその周囲の新鮮な景色に第六駆逐隊が感動する中、人のいなくなった町で異様な雰囲気を放つ廃駅を見つけます。

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