ありふれていて欲しかった異世界転移   作:水原 日助

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前3話に対して変更箇所が激減した為、単純な加筆・修正版として上書きします。
以降も同様になると思われます。


改訂版:見込まれる男

「食料を渡す。持って行け」

 

 放心状態の俺へと、短刀の男と杖の女から、それぞれ小袋が投げ寄越される。突然の事だったが、身体は自然と反応した。腹と手で押さえ込むようにして掴んだのは、ふたつの皮製の袋。ひとつは固い何かの欠片がいくつか入ったもの。もうひとつはぶよぶよとした感触。特徴的な口の形状から、どうやら水筒のようだった。

 

「乾燥肉と飲み水だ。俺たちの持ち合わせは無いに等しい。これ以上は用意できない。まだ足りない、まだ欲しいってんなら、別の奴にあたってくれ。探せば見つかる、拒まれやしないさ」

 

 親切心からじゃない。これは手切れ分の貢物。これをやるから目の前から消えてくれ、そう言いたいのだ。

 前時代的生活どころか荒廃したこの過酷な環境の中で、現代的生活しか知らない俺たち異世界人が手っ取り早く食料を確保するには、こうやって誰かに恵んでもらうしかない。何が食べられるかなんて、どう入手してどう処理するかも知らない。それが嫌ならば飢え死ぬか、あるいは力を使って奪うか作るかして捻じれ死ぬか。

 強請られる度に渡していては食い分がなくなってしまう。死ぬまでつけ回されて、搾取され続ける。だから他の誰かへ擦り付けるように仕向けるのだ。蹴り飛ばせれば楽なのに、それが出来ないから、こんな損しかない真似をしなければならない。

 

「……ありがとう、ございます」

「礼するだけの思いやりがあるんなら、是非とも身投げして貰いたいところね」

 

 取り敢えずの礼など、逆撫でにしかならないか。杖の女の冷たい目線を受け流しつつ、今度は俺から話を切り出す。これからどうするかを考える上でも、知っておかなければならない事はまだまだある。話から得られた情報は大いにあった。後はそれの補強、実際に目で見て確かめる必要がある。

 目下、最も興味を引き、かつ最も問題であるところの"歪曲"を見ておく必要があるだろう。各地に点在しているというから、この周辺にもあるのかもしれない。

 

「歪曲がどういうものかを見ておきたいんですが、どこかいい場所を知っていますか?」

「あぁ、よく見える場所がある。とっておきのがな。向こうにある山々、その山頂だ。歪曲の影響や昇りやすさを考えると、一際低い中央の山がいいだろう。登る時は木々が生えている場所を掻き分けて進んで行け。そこは多少なりともまともな空間の筈だ」

 

 短刀の男はそう言って、自分の右後方を指差す。砂を含んだ風のせいでよく見えないが、おおよその方向はわかった。見てわかる特徴も教えてくれたし、間違える事はないだろう。

 俺がそちらへと身体を向けると、短刀の男が言い忘れたように付け加えてきた。

 

「歪曲は危険だ。捻じ曲がった環境は、近付いただけでも悪影響を与えてくる」

「それってのは、例えば?」

「肉体の老化速度が一律じゃなくなったりする」

 

 そう教えてくれたのだが、いまいち想像がつかない。一部だけが他より早く衰えたり、あるいはその逆であったりする、という事だろうか。そうなった人は、ちぐはぐな印象を持つ外見になりそうだが、例えばどんな風なのだろう。

 思いを巡らす俺へと、残る二人も具体例を述べてくれる。こっちは想像し易くて、しかも思い当たる症状だった。

 

「顔が引きつって治らなかったり、眼球が歪に変形したり」

「耳が横に鋭く伸びたり」

 

 そこまで聞いて、俺はようやく察した。表情に出たのだろう、短刀の男が自虐的に笑う。

 

 「これが、この世界で生きるって事なのさ」

 

 やっぱり、目はちっとも笑っていなかった。

 

 

 

「ここからその山までさした距離はないが、着くまでに色々なものを見るだろう。その中でも特に目を引く妙なものは全部、異世界人によるものだ」

「岩と木と人が混ざったようなやつとか、びくびくと脈打つピンク色の泥とかな」

 

 短刀の男の発言に、弓の男がそう付け加える。

 聞いた感じ、嫌な方向にわかりやすいようだ。そして恐らく、捻じれて死んだ異世界人がそれらなのだろう。かなり多様性のある、しかし特徴的な死に様のようだ。

 きっと、力を使えば俺もそうなる。自然と強張る俺へと、短刀の男は声を掛ける。当然、別れを惜しむ訳でも、労い励ます言葉でもない。

 

「気をつけろ、なんて言うつもりはない。だって俺たちは、お前さんに死んで欲しいと思っているんだからな。そして、それとは別に、絶対に言っておくべき言葉がある。わざわざ言い直さなくてもわかると思うが、改めてな」

 

 もういい加減わかっている。予想も付くよ。そう顔に出してみるけれど、男は言うのを止めなかった。彼らにとって最も重要な事。言ってしまえば、俺たちが生きようが死のうが、そんな事などどうでもいいのだ。そんな瑣事など、改めてでも言わねばならぬ事に比べれば。

 

「力だけは使うなよ。例え死にそうになってもな」

「……ははっ、流石にそれは無理ですよ」

 

 思わず笑ってしまった。てっきり「力を使うな」だけかと思ったが、まさか"死んでも"が付くとは。

 命がかかれば、人は何だってするだろう。自分が生き残る為ならば、誰が傷付いても構わない。例え自らが死ぬとしても、諦める事だけはきっとない。周囲に不幸を振り撒くとしても、垂らされた救いの糸に縋らずにはいられない。

 まして自分が訪れたばかりの、それも敵意しか向けてこない世界の事など、どうでもいいと切り捨てられる。

 杖の女は俺を睨む目を強くしたが、短刀の男は変わらない。どころか否を突きつけてくる。「お前さんは見込みがある、あれらを見れば、きっと考えを改めてくれるさ」と。

 その見込みってものが気になって、素直に尋ねてみたら笑い声が帰ってきた。またも乾いてしゃがれた、笑っていない笑い声。

 

「自ら望んで死を選んでくれる見込みさ」

 

 お前さんは優しそうだからと、取って付けたようにそう言って。

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