ある薬師魔女のお話   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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手で書いたものを打ち直すってクソだるい二度手間してる気がしてる今日この頃。
PC使いたい。


始まり—ユウの思い出—

 私の名前はユウ、悪魔だ。

 翼も牙も爪も無い姿だが、これは私がそういった種族というだけで力がない訳ではない。産まれつきだ。

 私達人魔種は昔から上級悪魔に仕えてきたメイドや執事の様な事をして生きてきた種族である。

 私も魔女(今の主人)に仕える前は魔界でとある悪魔の下で働いていたのだが、ある日その悪魔が武力抗争に負けて死んでしまい、仕えていたもの達は皆散り散りになってしまった。

 別に珍しい話ではない。魔界は実力が全てで、弱いものは強いものに従うか死ぬかのどちらかなのだ。

 ある者は新たな主人に仕え、ある者は悪所と呼ばれるスラムで体を売り、ある者は私の様に当てもなく彷徨っていずれ死ぬ。

 今でこそ人間の社会に慣れて魔界が如何に残酷な場所かを理解したけれど、魔界に住んでいた時はそれが当たり前で仲間が死んでも特に何も思わなかった。

 あの時ロクに食事を得られず、雨風を凌ぐことすら満足に出来ずに死の淵にいたのを覚えてる。

 きっと永遠に忘れることはないだろう。

 初めて死というものを実感し、私は恐怖に震えた。

 今までは死ぬことなんてなんてこと無いと思っていたのに、いざ死にかけてみたら怖かった。死にたく無いと心から思ってしまった。

 助けが欲しくとも、そんな事をする者が魔界にいるはずがない。

 これまで散々仲間を見捨てて来たのは私だ。でも仕方がないだろう。それが当たり前だったのだから。

 絶望に打ちひしがれ、徐々に身体の力が抜けて行くのを感じて私は静かに目を閉じる。

 やがて身体が浮遊感に包まれ、いよいよ私は死んだのだと思い観念して目を開くと私は何処とも知らぬ場所に立っていた。

 色んな物が散乱し、床には本が積み上げられた小汚い部屋で目の前には一人の人間が、いや魔女が居た。

 何が起きたのか理解が追いつくよりも先に、契約を迫られた私は流されるままに魔女と契約し、それが終わると魔女は家の説明を簡単にしてから買い物に行ってくると言って私に片付けと子守を頼んで嵐の様に出て行った。

 後に残された私は少しぼーっとしてから、ようやく事態を飲み込んでハッとする。

 どうやら私は助かったらしい。契約をしたおかげである程度の魔力を貰えたのか身体にある程度の活力が戻っていた。

 あの魔女がどんな者かは解らないが、少なくとも優しいとは思う。

 魔女は私のボロ雑巾みたいな姿を見て自らの服を使っても良いと、それと湯浴み場も好きに使えと言ってくれ、お腹が空いているならレイゾウコと言う箱の中に少しなら食べ物があると言ってくれた。

 その代わりに仕事をしろと言う事らしい。

 片付けは見れば解るが、子守とは誰の事を言ってるのかと思ったら別の部屋に幼子が寝ているのを見つけた。

 先程の魔女とは違い完全な人間の様だが、あの魔女の食物用だろうか?

 ともあれ、今はぐっすりと寝ているので放っておいても大丈夫そうなので片付け、もとい掃除を始めることにする。

 正直に言って掃除をしている形跡はあるものの片付けが出来ていないせいでお世辞にも綺麗とは言えない。

 とりあえず、床に物があっては掃除もなにもないのでそれを片付けてゆく。

 書物の中には魔導書なんかも混ざっていて、研究レポートらしいものなどもあり、この家の魔女が薬師である事が判った。

 薬師魔女は不老長寿や若返り、不死などの生命に関わる術に長けていると聞いた事がある。

 若く見えたけれど、もしかしたらとても長生きしている方かもしれない。

 物自体は粗方片付いたので、まずは上から順に埃を落としてゆく。

 それから掃き掃除をして、濡れ雑巾で拭いて、最後に乾いた雑巾で乾拭きする。

 掃除は前の主人に仕えていた時以来だが、案外身体が覚えているようで迷わずに身体が動いた。

 まぁ、おかげですっかり埃まみれなので湯浴み場を使わせてもらう事にしよう。

 魔界にいた時は私達下級悪魔は水浴びくらいで湯浴みなんてした事が無く、温かい水が身体に当たり汚れが流れてゆくのを感じて思わず声が漏れた。

 なんと心地よいのだろう。まるで、汚れだけでなく疲れまでもが流れてゆくようだ。

 そうして至福の時間をしばしば楽しんでから、私の着ることができる服を探す。

 魔女が着るものなんて黒いドレスとかばかりかと思ったが、そんな事はなく、魔女が着るには少々華美に思えるようなものまで有った。

 いくつか取り出して身体に当てると、サイズは問題なさそうなのが判ったので、仕える上で動きやすそうな服を探す。

 するとタンスの奥の方から白と黒のドレスのような服が出てきた。

 黒を基調した服で腰部や袖部が絞られたドレスの上にレースのエプロンがついた見るからに使用人のためと思われるその服に私は目が釘付けになる。

 なんと、清楚で華麗なのだろう。決して華美ではなく、でも決して地味でも無い。

 タンスの奥にしまわれていたんだし、使っても大丈夫だと勝手に判断して着てみる。

 長い事しまわれていたのか、皺が寄っていたり少し湿気た臭いがするものの虫食いもなく、問題なく使えそうだ。

 しかも、同じものをもう一着見つけたのでこちらは洗濯して皺を伸ばしておくとしよう。

 なんだかいい気分でリビングへ戻ると、どこからか視線を感じた。

 不思議に思って辺りを見回すと、部屋の物陰から私の方をじーっと見ている幼子と目が合う。

 湯浴みの前はまだ寝ていたので湯浴みしている間に目覚めていたらしい。

 どうやら私を警戒しているので軽く手を振ってみると、幼子はビクッと肩を跳ねさせてからトテトテと移動して別の物陰からまたじーっと見つめてくる。

 隠れて様子を伺っているつもりなのかもしれない。

 一応、私は人と変わらない姿をしているはずなんだけど、ちょっと傷つくなあ。

 ともあれ、警戒されたままでは世話なんて出来やしないので、どうにか出来ないものかと思考を巡らす。

 すると、私のお腹からグゥ〜っと音が鳴り響く。そういえば魔力のおかげで元気にはなったが、食事は取れていない。

 閃いた。

 甘い物を与えてみたら警戒を解いてくれるのでは無いだろうか?

 幼子とは言え、姿を見るにジャムやゼリーのような物なら食べられるはずだ。なにより甘い物が嫌いな子供なんて居ないだろう。

 レイゾウコの中に食べ物があると言われていたのを思い出して開いて見ると中には林檎(りんご)葡萄(ぶどう)などの果実がたくさん入っていた。

 その反面、野菜の類は少なく魔女の食生活が手に取るように解る。

 それにしてもこのレイゾウコと言う道具はとても便利だと思う。

 常に箱の中が冷やされているので、これなら果実が多くともすぐには痛まない。

 術式などは無さそうだけど、どうやって冷気を出しているか不思議に思いペタペタと触ったりして仕組みを探っているとレイゾウコがピーピーと言う音を立てて怒ったので、慌てて扉を閉める。

 開きっぱなしにするなと言う事らしい。賢い道具だ。

 もう一度開けて怒られるのも嫌なので、とりあえず手に持っていた林檎を使ってジャムを作ろうと思ったのだが、困ったことに釜戸(かまど)がどこにも見当たらない。

 レイゾウコや水場がある事からここが炊事場のはずなのだが、釜戸になりそうな物がそもそも無い。

 怪しげな道具はいくつかあるのだが、使い方など想像もつかないと言うか、箱状の物が多すぎて違いが解らない。

 とりあえず、最も怪しいと感じた黒い箱に、太陽みたいな形の鉄の輪が二つ乗った道具に触れて見ると、表面は汚れでベタッとしていた。

 この汚れは料理によるものだと言うことはすぐに解った。我ながら良い勘しているな。

 ひとまず汚れを落として再び見ると、鉄の輪の中心に丸いボタンらしき出っ張りが目についた。

 これだ!と思いその出っ張りを押し込んで見ると火が、…付かなかった。それどころか何も起きやない。

 どうやら箱の上部にはこれ以上弄れるものが無さそうなので、箱の手前側面を見て見る。

 そもそもこの箱、台の上にあるのだがこの箱を置くためにあるとしか思えない隙間にピッタリとハマっており、壁と接していない手前側面しか見えない。

 手前側面には左右に動かせる摘みと、押し込んだ時にカチカチと音のなるスイッチらしきものがあった。

 摘みの両端には『弱火』と『強火』と書かれており、明らかに火に関わるものだと言うことが解るが、摘みを左右に動かしても何も起こらず、スイッチらしきものは音が鳴るだけ。

 なんかもう面倒くさいからすり林檎でも良いのでは無いかと折れかけながらも何かないか探り、箱の奥から伸びるホースを見やる。

 怪しいとすれば後はこれしか無い。

 ホースの先は壁に取り付けられた金具に繋がっており、その金具にはまた摘みが着いている。

 今度の摘みは何やら回せそうな形をしていて、表面に『しめる』『あける』と書かれていた。

 そのまま回そうにも何かが引っかかり回せなかったが、力一杯回そうとした際に押し込めることに気づき、押し込みながら回すと特に力を入れずとも回った。

 これで摘みは『あける』の状態になったので改めて強火弱火の印がある摘みを動かすもやはり何も起きない。

 ならばとスイッチらしきものを押すと、今度はカチカチと言う音の後にボッとひがついた。

 おそらくはホースから燃料を補給し、火打ち石の様なものでそれに火をつけているのだと思う。

 『しめる』にしてあると燃料の供給をしなくなり、不用意に火がつかなくなる訳だ。

 よく出来ている。ただ火をつける事を簡略化しただけではなく火の強さも左右に動かせる摘みで調節でき、使わないときは燃料元を閉めておくことで火事の防止にもなる。

 だが、それ故にややこしい。まさか火をつけるだけでこんなに時間を使うなんて思いもしなかった。

 他の道具はもう触らずにおいて、主人が帰ったら使い方を聞こう。

 とりあえずジャムは火が使えれば作ることは出来るので火の上に鍋を置く。

 すると、太陽の様な形の鉄の輪のお陰で置いた鍋が非常に安定する。

 これまたよく出来ていると感じながら鍋の中身を焦がさない様にひっくり返してゆく。

 鍋の中には皮を剥き賽の目切りにした林檎と大量の砂糖が入っており、火が通るに連れて林檎から染み出した水が砂糖を溶かしてゆく。

 砂糖が溶けた所で少しだけ蜂蜜を垂らして、水気が減るまで十分に煮詰め仕上げにレモン汁を数的垂らす。

 後は、幼子が食べやすい様に身をほぐしてもう少し火にかければ完成だ。

 ふと幼子の様子を見るために振り返ると匂いにつられたのか幼子がかなり近くまで寄って来ていた。

 まだ物陰に隠れているものの、際ほどよりは近くなったと思う。

 私はもう少し待ってと伝えて鍋に向き直る。

 そろそろ良いかなと思った時に戸の開く音とともに軽快な声で「ただいまー!」と聞こえた。

 どうやら主人が帰って来たようだ。

 声がしたのに中々部屋に来ないなと思っていたらようやく主人が入って来たのだが、何故か唖然としている。

 火を止めて、駆け寄るとポカーンとした顔で「…誰?」と言い放ったではないか。

 仕方ないので貴女が呼び出した悪魔だと伝えると在ろう事か「女だったの!?」と驚愕の声をあげた。

 流石にこの反応には苦笑いが漏れる。

 確かに呼び出された時はボロボロの布を纏いで髪もボサボサだったかもしれないが、これでも私の胸は他者に自慢できる位には大きく、布一枚じゃ隠れていなかったと思う。

 と言うか少なくとも主人よりは大きい。

 男に間違われたのは百何十年と生きて来た中でも初めての事で少しだけ不満で口を尖らせてしまう。

 しかし主人は私の不満など目にも止めず、物陰に隠れた幼子を手招きした。

 相変わらず私のことは警戒しているようだが、魔女には懐いているようで抱きかかえられると顔を綻ばせてキャッキャと笑う。

 主人は幼子—トモと言うらしい—の目を見つめてこれからは私がお母さんになると言う。

 トモは解っていなさそうな顔をして居たけれど、それでも魔女は満足そうに微笑んでから私の方を向いて「貴女もこれからよろしくね」と優しく言ってくれた。

 名前を聞かれたので主人に付けてくださいとお願いすると、少し考えるようなそぶりの後に『ユウ』と名付けてくれた。

 理由を聞くと、幼子の名前から取ったそうで『ユウ』という言葉には“友達”や“優しい”などの意味があるらしい。

 ユウ。私はユウ。何度も頭の中で反芻させる。

 嬉しかった。生まれて初めて人魔種と言う使用人の種族ではなく“私個人”が必要とされた気がした。

 それから主人に甘い匂いの元を聞かれた私はハッとして鍋に駆け寄る。

 火を止めていたので焦げたりはしてなく、良い感じに冷めていた。

 ジャムを作ったことを伝えると主人はみんなでヨーグルトに乗せて食べようと言って、浮かせた箒にぶら下がった袋を漁りだす。

 ヨーグルトを食べている時に道具の事や主人の事を聞いたのだが、なんと主人は魔女でありながら人として生きていると言った。

 通りで華美な服がある訳だ。それどころか不老長寿なんかではなくまた二十年そこらしか生きてないと言うのだからもう驚きを隠せない。

 でも主人はしっかりと魔女だったし、とても優しかった。

 それからの生活はとても充実していて、私は初めて『生きている』と言う事を知ったのだ。

 

 ——そんな新たに始まったユウとしての人生から十年経った。

 

 

 

To Be Continued

 

 

 

 




今回は悪魔の視点から書かれた1話の裏を書きました。

と言っても、サブタイの通りこれは悪魔の思い出であり時間軸としては十年経っています。
何故かと問われれば、察しのいい方なら気づくかもしれませんが、この次はトモのターンだからです。
だってこうしないと時間進まないんだもん。
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