…ところでやっぱ台詞って欲しいですかね?
僕のお母さんは魔女だ。
皆は信じてくれないけれど実際に魔法だって使える。
僕だって浮術と幻影魔法くらいなら使える。…と言うかこれしか使えないんだけど。
これだけは魔導の中でも基礎中の基礎らしくて、割と早く教えてもらうことが出来た。
それでも中学に上がってからなので最近ではあるが、おかげで登下校は非常に楽で重宝している。
今はまだ魔導がいかに危険か理解してないからとそれ以上の魔法は教えてくれない。でも知識や術式の組み立て方、書き方などは教えてもらっている。
母さんは薬術の使い手らしくて教わるのは専ら薬や薬の材料のことばかり。
道端の草から山のキノコに草原の花に至るまでの薬効を知っている中学生なんて全国でも僕くらいのものではないだろうか?
小学生の時はまだ『物知り少年』くらいの称号も今じゃ『草花オタク』になっている。
ちなみに通常の薬では全く無意味な雑草だったとしても魔女の薬に使う事は多々ある。これはそもそも魔女の薬が一般的な薬と違うためで、例え他の人が同じ材料を合わせたとしても魔女の薬は作ることが出来ない。
魔術的な調合により作られる魔女の薬は錬金術の祖と言われ、確かに歴史を辿ると薬は術から派生したもののようだ。
そのため薬術を専攻していると簡単な錬金術にも触れることになり、簡単なものなら錬金術も使えるようになる。
母さんはそんな薬術を使う薬師魔女の中でもかなりのやり手で、他者の助けを借りることを嫌う魔女がわざわざ母さんの薬を買いに来る事があるくらいだ。
まあ、でもそれは母さんが人と同じように過ごしている事も関係していると思う。
現代に魔女はほとんど居なくなってしまったらしく、残っている魔女も過去の怨恨の為か人と関わるのを嫌い山奥などに隠れ済んでいるそうだ。だからか、人の世界で人の様に生きている母さんを悪く言う魔女もいる。
それでも魔女集会に来るのは皆どこか寂しさが有るからだとは母さんはの言葉。
母さんや母さんの使い魔であるユウから話を聞いたり、実際の史実などを比べてみると“魔女狩り”は本当に起こっていた事で、人を嫌うのも仕方のない事なのかもしれないと僕も思う。
彼女らの中には確かに人を襲い、人を食物とする者も居る。でもそれは僕らが牛や豚を食べる様に食物連鎖の上で人が魔女より下というだけで一概に魔女に非があるとは言えない。
そもそも歴史を辿れば魔女が人を食らう様になった原因は人だ。
調べると人が天災などを魔女の仕業と思い違いし魔女に幼子を供物として捧げたのが始まりで、母さんと比較的に交友のある魔女に話を聞いてもやはりそれ以前の食人記録は無い。
つまり、勝手に餌として人を差し出し味をしめた魔女が人を襲って食らう様になったのは人のせいだ。
餌を与えていた野良猫が街で商品を漁って食べてしまうのとなんら変わらない。
母さんとしては、魔女として認められて人の中で生きていければ一番良いと思っているそうだが歴史や時代がそれを許さないのも事実で、僕は物心ついた時から母さんが魔女であることを語るなと言われてきた。
にも関わらず、母さんはママさん会で“魔女”と呼ばれている。なぜかと言われればそれは僕がバラしてしまったからだ。
と言っても、僕が今よりも小さい時の事で別に本物の魔女である事がバレたわけでは無い。
若々しく綺麗な母親の事が魔女と呼ばれるだけ。母さんは言いつけを破った僕を叱りはしたけれど、今じゃ魔女と呼ばれるのを内心嬉しがっている事を知っている。
ちなみに僕のあだ名は魔女の息子だからとその時から「マジョリティー」になった。
多分、アイドルグループの曲から取ったのだろうが、中学生にもなって意味もわからずに呼んでいるのはいかがなものだろう。だって一人なのに多数派なんて可笑しいじゃないか。
まあ最近はちょっと変化して「マジョリー」と呼ばれだしたのだけど…。語感さえ良ければ何でもいいんだと思う。
叱られてからは一度も人に話した事はないけれど、噂と言うものはなかなか消えないもので中学に上がった直後は他校から上がってきた奴らから「魔女の子供なら魔法を使ってみせろ」なんて言われたりもして、その度に
一応、物陰まで逃げてから魔法を使っていたのだが明らかな行き止まりや道に対して隠れられる場所が無いのに消えたりしてしまったため「トモ」は幽霊じゃないかとか馬鹿らしい噂。
もしかしたら僕の登下校姿を見たものが居ないのも理由の一つな気がするが今更徒歩で通うのは億劫だ。だって箒で飛ぶの楽なんだもん。
とか思っているうちは噂が消える事はないだろうな。でも楽を知ると人は流されてしまうものなんだから仕方ないじゃないか。
そう誰に言い訳するわけでもなく呟いて今日も今日とて箒にまたがり大地を軽く蹴る。
蹴った反動でふわりと足が大地から離れ空に向かって舞い上がっていく。次第に眼下の家々がおもちゃの様に小さくなっていき心地良い風が頬を撫でた。
僕はこれが好きだ。身体で風を感じ、鳥と横並びで飛び、空が近く見えるこの景色が。
ゆったりと風に身を任せて自宅の方向へ飛んでいると、下方から声をかけられた。
飛行中はローブを使った幻影魔法で“人”には視認できないため、声をかけてくるとしたら魔女かその使い魔しか居ない。
案の定、声の主は母さんの使い魔であるユウだった。
彼女は人魔種と呼ばれる悪魔で今は飛行魔法の影響で翼が生えているものの、普段は人と何も変わらない姿をしている。
ユウは買い物帰りらしく両手に袋を下げていたので僕はその袋を受け取って箒の柄に引っ掛ける。きっと浮術か何かで軽くしてあるのだろうが、それでも荷物持ちは男の仕事だと思う。ユウも喜んでくれてるし。
ユウはメイド服を愛用しており、今もメイド服姿だ。
ちなみにメイド服と言っても今時のゴシックなエプロンドレスではなく昔から使われている様なメイド服で袖や腰が絞られているので非常に動きやすい。古き良き使用人の制服。とユウに力説された事がある。
それほどまでにメイド服を愛しているのだそうだ。
別にそれは構わないのだが、メイド服のまま学校にくるのはやめてほしい。ユウは身内贔屓を引いたとしてもとても綺麗な女性に見えるから学校中の生徒が騒ぐ。それはもうちょっとしたお祭りレベルに。
おまけに僕は男女問わず「あれは誰だ」「お前のなんなんだ」と言い寄られるし、正直疲れるんだ。それ以降は絶対に忘れ物しないようになったし、ユウにもメイド服では来るなと固く釘を刺した。
そもそも街でもコスプレなどではなく本物のメイド服を着こなしている女性なんて居るものじゃないし、近所では謎のメイドはどこの家に仕えて居るのかと言う七不思議の一つにもなっている。
こうして幻影魔法で姿を消したまま玄関に降り立って家に入ってしまうから誰もこの家に居るなんてわからないのだと思う。ユウも仕事以外で外出するときは流石に普通の洋服を着ているし近所の人もユウが謎のメイドだなんて気づいていないだろう。
家に入った僕は買い物袋を冷蔵庫の前に置いてユウに一言声をかけてから自分の部屋へと向かう。部屋に入ったらまず鞄を放り投げて制服を脱ぎ捨てる。
制服はなんだか窮屈な気分になるから好きじゃない。それに汚さないように気を使わなければならないのは面倒だ。だから僕はジャージの方が好き。何と言っても楽だし。
母さんはジャージの上からローブを羽織る僕をダサいと評したけど家の中に居る分には気にならない。
着替え終わったら僕はまず学校の宿題をササっと終わらせて机の引き出しから分厚い魔導書を一冊取り出す。この魔導書は中学生になった僕に母さんがくれた
ただし、レシピには空欄の部分が多々とありそのままでは使うことができない。解る範囲の材料と薬の効果などをヒントに自分で残りの材料を調べて実際に調合を行い正解ならば空欄が自動で埋まってレシピが一つ完成する。
ひたすらそれを繰り返してこの調合書を丸々完成させるのが母さんから課されたもので、期限こそ無いものの材料は全て己の手で集めなければならない。
勿論、遠出しなくても取れるような素材しか無いし本当にわからなければ母さんもヒントをくれるのだが自然から採集すると言うことは季節なんかも当然絡むため途中まではすんなり行っても今は停滞気味だ。
だが僕は何としてもこの調合書を完成させねばならない。なぜなら母さんはこの課題を合格した暁には僕を魔導師にしてくれると約束してくれているから。
今のように魔女の子供として簡単な魔導に触れているのとは訳の違う本物の人外へしても良いと母さんは
人のまま教えても良いと言ってくれているが、人の身で出来る事というのは限られていて魔力だって大してあるわけでは無いから大きな術は使えない。
だが魔導師や魔女は別だ。身体が完全に人とは違うものになり魔力の量も格段に上がる。これだけなら良い事づくめで悪いことなんてないのだが、人とは時の流れ方が変わってしまう。
不老長寿になるわけでは無いので人と同じように歳はとるが、それでも人よりは遅いそうだ。
それは母さんを見ていれば少し解る気がする。母さんはもう三十路だけど外見だけならまだ二十代前半って所。ママさん会で魔女と呼ばれるのも仕方ないほど若い見た目でも中身は本物の魔女で長生きこそしてなくても知識や振る舞いは人と一線を画する。
例え不老長寿や若返りの魔導を使わなくとも百年ちょっとは余裕で生きるそうだ。
他にも母さんは言いにくそうなことがありそうだったけど、母さんは捨て子の僕を我が子のように育ててくれたし出来ることなら母さんと同じ景色が見たいと思っている。
だから調合書を完成させたいし魔導師にもなりたい。本当ならば学校終わりは直帰したいくらいなのだが部活くらいは入っておけと言う母さんの意見で園芸部に入っているため帰る時間はどうしても遅めになる。
でも良いこともあった。顧問の先生に許可を得て個人的に育てたい草花を育てても良いことになったため調合書を埋めるのに役立てることができる。
今日はその第一陣が採集出来るまで育ったので摘み取ってきたのだ。後はこれを魔女の作る保存液に入れてけば数百年は軽く持つ薬の材料となる。
ものによっては乾燥させるだけで良かったりもするのだけど、今回のは水分を飛ばしてはいけないタイプの素材なので保存液につける必要がある……のだが、この保存液がまた面倒な代物で、作るだけでも数時間はかかるし普通なら作り置きを使うんだけど生憎先日使い切ってしまったばかりだ。
もしかしたらと思ってユウに手持ちがないか聞いて見た所、ユウは母さんの持つ素材を使っているから保存液は作ったことがないらしい。
羨ましい限りだがユウは母さんの使い魔なのだから仕方ない。
となれば母さんに聞きたい所だけどユウが言うには昼過ぎから魔女集会の方へ行っているとの事。つまり遅くなるか下手したら今日は帰ってこないと言う事だ。
僕はため息をつきながら「魔女は助け合いを好まず、助けが欲しくとも薬師をしている魔女はほとんどいない。だから薬師は一人でなんでも出来るようにならなければならない」と言う母さんの言葉を思い出して苦笑する。
魔導師になりたいのなら面倒がってサボる方法を考えている暇があるなら自分で調合して作れば良い。
材料は簡単なものなので持っているものでなんとでもなる。ただどうせ作るなら量を作りたいのだが生憎僕は大きなビーカーを持っていない。
ツボで作るのは非効率過ぎるしどうしようか考えて僕は耐熱ボウルを使ってみてはどうかと思いついてキッチンから訳を話して拝借した。
火はアルコールランプを二つくらい使えば十分だし、スポイトと温度計もある。
まるで理科の実験でもするかの様な物ばかりだが、これでも魔導の知識があるものが使えば立派な魔導具だ。…まだひよっこだけど。
窓をしっかりと開けてから保存液の材料をボウルに入れてアルコールランプの火に当てる。後はひたすら沸騰させない様にきをつけながら煮詰めて行くだけだ。
およそ今の半分の量になるまで煮詰めるのに二時間、そこから薬品を数滴垂らしてもう一時間。食事が出来たとか言われても途中で火から下ろせないのでユウには悪いけど降りられないと伝えてひたすら煮詰める。
煮詰め終わったら火からおろして粗熱を取る。この間にユウの作った飯を掻き込んで部屋に戻り、紙に静止の術式を水性ペンで急ぎつつでも確実に書いていく。
書き終わった紙を粗熱の取れた保存液のに浮かべて紙だけを燃やす。すると水性ペンで書いた術式が保存液に浮かぶので後は手をかざして魔力を込めれば静止の効果が付与された保存液の完成だ。
時間はすでに22時を回ろうとしているので、急ぎつつでも確実に材料を保存液につけて蓋をする。
ようやく終わったことで一息つきたいのだが、時間が時間なのですぐさま片付けに取り掛かることにした。
久々の調合は神経を使ったし、なによりとても時間がかかった。作り方が簡単とはいえもう二十三時前、夕方から作り始めたと言うのに時間がかかりすぎだ。
勿論、食事や風呂につかった時間もあるので全てが全て調合にかかった時間では無いとは言え、たった一つのものを作るだけで疲れてしまう。
だからこそ保存液は大量に作るんだけど。
確かに保存液は時間ばかりかかる薬だが、別にこれに限った話では無い。所詮は初級レベルのレシピしかなく手法も決して難しく無いのにまだ僕が調合書を半分も埋められてないのは、僕の手際が悪いことにも起因している。
素材が季節的なものだったりすることはあるが、それにしたって取り掛かってから一年半も経っているのだから、採集するタイミングはいくらでもあったはずなんだ。
調合に使う時間を削るのは難しいけれど、準備や片付けの時間や判断速度など細かい部分に時間をかけ過ぎているのは改善できる。
例えば、母さんが同じ様に保存液を作ったとしても僕ほど時間がかかることはないだろう。それどころか同時進行で別の調合をしたり家事をやってのけるだろう。
だって、保存液を作る過程のほとんどはただただ沸騰させない様に煮詰めているだけなのだから。僕はまだ慣れない事もあってどうしても沸騰させるのが怖くて目を離せない。
別の調合をやろうにも素材を混ぜてしまったり、工程が混同してしまったりする。
経験の差と言ってしまえば簡単だが、僕にとってはそれがとても歯がゆい事なのだ。
ため息をつきながら飲み物を求めてキッチンに降りると、いつの間にかに帰ってきていた母さんがダイニングテーブルに突っ伏しているのが見えた。
部屋に漂う臭いでお酒を飲んだらしいことがわかったので、とりあえず自分の飲み物を入れるついでに水と母さんの作った胃腸薬を持ってテーブルまで持って行く。
近づくと明らかに酒気を帯びた様子で「うー、うー」と言いながら項垂れているのが解る。弱いくせに随分と飲んだ様だ。
普段、集会に行って飲む事なんて滅多にないのに嫌なことでもあったのだろうか?
薬を飲まそうにも項垂れて寝てるんだかなんだか判らない感じだったので、寝かせるために椅子から降ろしてリビングのソファに寝かせる。体格差なんて魔法さえあればなんと言うことはない。
念のために蓋をしたグラスと胃腸薬とついでに二日酔い用の薬を座卓に置いてから毛布でも取りに行こうとすると、母さんが僕の服を引っ張った。
目が覚めた母さんに目を合わせてしゃがむと母さんは急に僕を抱き寄せて「ごめんね」と言いながら泣き出した。こんな母さんを見るのは初めてでどうしたらいいか判らずにあたふたしてから、とりあえず僕も母さんを抱き返して僕が幼い頃に母さんがしてくれた様に頭をそっと撫でる。
何があったのかは判らないけれど、きっと集会で僕の事を色々と言われたのだろう。
魔女の多くは人間を嫌い、人間は家畜かペット程度と考えているものが多い。そんな魔女の中で人間社会に生きて人の子を育てる母さんは異端そのもので、家に来る他の魔女から聞いた話だと薬師として有名なだけにそうした異端行動を快く思わない魔女が沢山居るのだろうだ。
家に来る魔女はある程度の理解を寄せてくれて居る者ではあるが、それでも僕の存在を認めたがらない者も居る。だから僕はそれを知った時から集会に連れて行って欲しいとは言わなくなった。
僕が魔道士を目指すのにはそれもある。魔道士になってしまえば僕はもう人間ではなくなる。そうすれば母さんは今より少しは立場が良くなると思っているから。
やがて、泣き止んできた母さんは自白する犯人に似た雰囲気で
実子でもない人の子を責められたとか、人としても魔の者としても半端な育て方では僕が可哀想と言われたとか、何より色々言われる中で何も言い返せない母さん自身が悔しいとすすり泣きしながら吐露した。
薄々気づいてはいた。母さんが魔女として、母としてどうするべきなのか悩んでいたことには。だから僕に課題を与えた事も気づいてる。
きっと調合書を完成させてもすぐには魔道士にしてくれないだろう。改めて人を辞める意思があるかきいた上で答えは僕が大人になってからだと言うだろう。何故なら僕はまだ子供で経験も浅いから。
しばらく静かな時が流れて、ふと母さんを見るとどこかスッキリした様な表情で眠っていた。話して楽になったのかもしれない。
僕は起こさない様に注意しながらゆっくりと抱きしめられた腕を解いて、毛布を取りにリビングを出る。するといつから居たのかユウが毛布を持って廊下に佇んでいた。
微笑みながら黙って毛布を渡すユウに小声で感謝の意を述べて母さんに毛布をかける。
時計を見ると短針が一の字に差しかかろうとしており、それを見た途端に眠気が湧いて大きな欠伸が出た。ユウが声を出さない様にクスクスと笑ってるのみてなんだか気恥ずかしくなる。
その後、ユウも小さく欠伸をしてから「おやすみなさい」と言い残して自分の寝室へと消えてゆく。
明日も学校があるので早いところ寝てしまおうと思いながら、すっかり冷めてしまったココアを飲み干して自分の部屋へと向かう。
収穫してしまった薬草を植えていた場所に次は何を埋めようか、なんて考えながら布団に身体を預け、そのまま睡魔に意識を委ねた。
To Be Continued……?
書いていて思ったんですけど、トモの大人っぷりがすごい気がした。
いや、まあ学校での姿を描写してなくて、魔女の弟子としての側面しか書いてないから仕方ない気もするんですけどね。
あ、ちなみに次はまた時が数年分進みます。
正直完結まで数年飛びで書かないとおわらn———