ある薬師魔女のお話   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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忘れていた頃の更新。
相変わらずセリフはない。


成長―魔女の感嘆―

 

 時が経つのは早いものだ。気づけばあんなに小さかった子供が立派に育っている。

 先日、目出度(めでた)く電車通学圏内の進学校へ入学を果たしてくれた。それどころか、時間がかかるだろうと出していた課題も中学卒業までに提出されたのである。

 我が子ながら天才なのではないかと舞い上がってパーティを開いたらユウに窘められてしまったけど、親って子に対して馬鹿になるもんじゃない?

 まあ、ただ、箒で飛んで通うのは出来たら止めてほしいのだが。

 今まではすぐ近くの中学校だったから何か有っても誤魔化しが効いたけれど、今度の学校はそれなりに離れている。あくまで“電車通学が可能な圏内”というだけ。

 一応、私の作ったローブと幻影魔法を併用しているから一般人に見られる心配はあまりしなくていいけれど、同業者や物の怪(もののけ)(たぐい)からは見えてしまうのだ。

 悪意を持った相手に襲われないとも限らない。特にあの子はまだ正真正銘、人間なのだから。

 強い魔力を持つ人間なんて怪からしたら格好の獲物。同業者は流石に私の事を知っているから大丈夫だと思うけれど、私も嫌われ者の身だ。私に何か出来なくてもあの子になら手を出せる可能性だってある。

 いっその事、ユウを常にお供させるか?などと考えていたらトモから断られてしまった。

 私は心配なだけなのだが。こうなったら何かあった時用に転移魔法を仕込んだお守りをこっそりと持たせておくしかあるまい。

 それにしても、逞しくなったものだ。私に対して「魔女の子供として勉強してきたんだ」なんて、泣けてくるよ。どうにも歳を取ると涙腺が緩んで仕方ない。

 見た目だけなら私もまだ若いが、もうぼちぼち四十が見えてくる歳だし。

 ……結局、子育てに魔女業にで婚活も出来なかったし。そもそも私の仕事、素性を理解してもらわねば一緒に住むことも出来ないなんて無理ゲーだ無理ゲー。

 尚、ユウは知り合いの魔女の弟子に惚れているらしく、たまに会っては頬を染めている。トモも親の贔屓目(ひいきめ)抜きに見たとて見目は整っている方だ。本人は恋愛に興味なさそうだけれどモテているのは知っている。

 私だけ浮いた話が無い。どこかにいい男は居ないものか、コブ付きで使い魔付きでも気にしない素敵な殿方。

 居るわけ無いか。

 そもそも私も師匠基準で考えれば200年近くは若返りの秘薬を使わずとも間違いなく生きられる。普通の人間が一緒に生きていけるはずがない。

 この国には“天寿”と言う言葉がある。還暦(かんれき)が60年ならば、天寿は250年。人間には無理でも魔女や魔道士ならば余裕で生きられる。事実、過去には天皇から天寿を表彰された魔女だって居る。無論、秘密裏ではあるが。

 これはお師匠様の事だったりする。トモを拾う数年前に文字通り天寿を全うしてしまったが。なんなら300年ちょっと生きたので天寿どころでは無いくらい全うしていたが。

 不老長寿の秘術を嫌い、一切の延命をしなかったお師匠様ですら300年以上生きているのだ。だから私はまだまだ若い。魔女基準で言えば。

 誰に言い訳するでも心の中で言い終えた私はユウに今日の来客予定を聞く。

 今日はいつも来る人間のお婆さんに渡す丸薬と、私の所属する製薬会社の部下が書類を取りに来る程度のようだ。

 薬は昨日のうちに用意してあるし、書類も纏めてあるから後は渡すだけ。

 しばらくは同業者の予約も無い。時間が出来るし趣味のお菓子作りとかしようかな?なんて皮算用をしているとその予定は一瞬で崩れた。

 予期せぬ魔女の来客である。と言っても知り合いだが。

 先程、少し触れたユウの想い人を弟子にしている魔女。彼女は黒霊術(こくれいじゅつ)と呼ばれる戦闘や呪いに関連する魔法を扱う魔女で、私と同じく人間を拾って弟子にしている仲間でもある。

 彼女の名前はアリス・キテラという。私は彼女の過去を知らないが、恐らくは本人だ。お師匠様の更にお師匠様、そのまたお師匠様の時代から私達、薬師院(やくしいん)の家に世話になっている。不老長寿の術よりも薬師院に伝わる若返りの秘薬を好み、何世紀も生きているのだとか。

 そんな彼女だが、風貌(ふうぼう)はギャルそのものだったりする。ストレートの長い金髪に青のカラコン、目を大きく見せるメイクにオーバーサイズのパーカーとホットパンツ。歳を考えろと言いたいが、見た目だけなら20代前半くらいなので許されるのかも知れない。大体いつもそんなギャルファッションをしている。

 ちなみに先程出た薬師院と言うのは私がお師匠様から受け継いだ名前で、トモの名字も戸籍上は薬師院になっている。簡単に言うと、この日本で生きていく上で使っている名前であり、私の薬師としての看板でもある。

 閑話休題。

 どうして彼女が来たのか。彼女には先日、秘薬を渡したばかりである。となれば来た理由は恐らく暇つぶし。

 彼女に国境なんて関係ない。先程まで海外に居たとしてもおかしくはない。私の付け焼き刃の転移術とは格が違うのだ。私のは精々50km届くか届かないかだが、彼女は地球の裏にだって飛べると豪語していた。事実、一瞬でアマゾン森林にしか生えていない薬草を取ってきてくれたこともある。

 ユウにお茶を入れてもらいながら聞いてみると、やはり暇つぶしだった。

 どうやら弟子のテオ君が日本の大学に入学したらしく、今日の帰りにここへ寄ると言っていたから来たらしい。

 このテオ君がユウの想い人でもある。彼もトモと同じく捨て子で、アリスに拾われて育っている。特徴は白。彼は先天性白皮症(せんてんせいはくひしょう)を患っており、俗に言うアルビノと呼ばれるメラニン色素に関わる遺伝子疾患だ。そのため美しい薄めの白に近い銀髪を持っている。

 彼はトモとは違い既に人の身を辞めて魔道士へと変容している。そうでもしないと長生き出来ないからだ。初めて会った時には視力もほとんど失い、ローブと日傘無しでは外にも出られないような状態だった。

 今は、視力もほとんど戻り、私の作る紫外線止めクリームがあれば半袖で外に出られるくらいにはなった。魔道士になった今でも私の薬は愛用してくれていて、定期的に買いに来ているのだ。

 聞けば、テオ君が日本の大学に来たのは私の下で薬学を学びたいからだそうで、アリスは少しつまらなそうにしていた。

 今の時代は戦争に魔法が使われることがなくなり、呪術で敵将を呪い殺す。みたいなこともしなくなった。確かに彼女の操る黒霊術はとても強い力を持っている。が、現代社会では廃れてきているのが実情だ。

 アリスが居る限り無くなることは無いだろうが、他の攻撃的な黒魔術の流派の中には潰れた物もある。

 テオ君が人間社会で学び生きていきたいのであれば先人である私のところに来るのもおかしな話ではない。薬師院は古くより人間社会に溶け込んだ魔女でもあるし、私の働く製薬会社は政府と繋がりがある部署があり、魔法のこともある程度は理解されている。というか、そういった場所でないと私達は働けない。

 いくらなんでも何十年と老けないのは怪しまれてしまうから。

 実は、戸籍も数十年毎に変わっていたりもする。そりゃそうだろう例えばお師匠様なんかは明治時代より昔に生まれている訳だが、そんな人間なんて怪しいを通り越して怪異とされてもおかしくない。まあ、元禄(1688~1704)生まれとか誰が信じるんだと思わなくもないが。

 そんなこんなでアリスは私にテオ君をよろしくと頼んだ。人間社会の勉強、人の世で私達が生きるための必要な常識などを教えてやってくれと。

 昔は流派をまたいで修行とか普通だったから、彼女としても面白くないだけで嫌では無いのだろう。

 流石に住み込みは無理だと伝えると、家は別に用意してあるそうだ。安心した。ユウはちょっぴり残念そうだったけど。

 そんな感じでアリスと自分の子達の成長について話していると、予定に会ったおばあさんが来店した。

 おばあさんは店内に居るギャル―アリスの事―を見て少し驚いたような顔をしたが「最近の若い子は本当にべっぴんさんやねぇ……」などと言って流していた。流石の年の功だ。

 軽く、容態を見てから問題ないと見て薬を渡す。帰り際には何か異常があればすぐに病院へ行くようにと声をかけるのを忘れない。

 薬師院で人間の常連さんは貴重な存在になりつつある。それは現代医療が進化したからとも言えるが、かといってオカルトが消えるわけではない。常連ではない人間の客はそこそこ来るのだから。大抵が、仮病薬、惚れ薬、仮死薬目当てだけど。

 前にあったのは感度3000倍の薬がほしいと言う男性だったが、本人の身体に感度5倍くらいになるの薬を投与してカプサイシンを肌に塗った所、悶絶して逃げ帰っていった。

 3000倍とか風が当たるだけで激痛が走りショック死しかねないのではなかろうか。多分、痛風より酷いと思う。

 おばあさんと入れ替わりで部下も来店、書類を渡すついでに軽くお茶していったらどうかと言ったのだが、アリスを見てキョドりながら「遠慮します」と言って帰った。

 これだから童貞は。いや、私も処女なんだけど。

 アリスは面白そうに部下をからかおうとしていたけれど、止めてほしい。彼女は現代じゃもう迂闊に人を殺せないから安心しろと言うが、あの伝説のアリス・キテラに関わった男はみんな死んでいるし。

 そもそも殺す殺さないが無かったとしても彼女は男癖も良くない。あの部下はとてもいい子なのであまり虐められては困るのだ。特にあの部下は初心過ぎるし。どれくらい初心かと言うと薬瓶を手渡す際にちょっと手が触れただけでキョドって落としかけるくらいには初心。

 彼女の態度にため息を付いてから時計を見ると、午後5時を周り日も落ち始めてきたところだった。

 アリスに確認するとテオ君と一緒に飯を食ってから帰るとのことだったので今日の晩ごはんはにぎやかになりそうだ。

 食材の買い出しは予めユウに頼んでおり、既に今日の献立の下ごしらえは済んでいるとの事。私がアリスと話している間も働いていたのだからありがたい。本当なら今日の当番は私なのに。

 丁度、トモがテオ君と一緒に帰ってきたので、私はユウと交代して台所に立つ。休憩がてらテオ君と話して居たらどうだと一言添えて。

 台所では、下茹でがされたキャベツの葉と肉餡が広がっていた。どうやら私が作る予定だったロールキャベツをそのまま引き継いで作ろうとしてくれていたらしい。本当に出来た使い魔だ。

 トモといいユウといい、自慢したくなるくらいいい子に育ってくれて嬉しい。私はキャベツの葉で肉餡を包みながらそう心の中で感嘆した。

 

 

 

 

―魔女の感嘆― 

        了






ざっくりしたキャラ紹介

薬師魔女
「薬師院 ○○(38)」
 名前は決まってるけど、出すタイミングがない。わざわざ出さなくて良いんじゃないかなと思いつつある。名字は作中でも出たように薬師院。
 代々、薬師の魔女が継いでいる世襲制のような名字。

薬師魔女の息子
「薬師院 友(15)」
 薬師魔女に拾われた子供。容姿端麗で、勉強も出来るためとってもモテるが本人は薬のことにしか興味がない。アリスの弟子であるテオと仲が良い。

薬師魔女の使い魔
「ユウ(???)」
 薬師院の名前は継いでいないため、名前は「ユウ」のみ。年齢は一応アリスよりは若い。メイド服をこよなく愛し、メイド服しか着ない。


元キルケニーの魔女
「アリス・キテル(???)」
 若作りの天才。最近はギャルの格好しかしていない。男癖が悪く、飲みに出ると大体男をひっかけている。現在の住処はイギリスだが彼女の転移術に国境なんてものは無い。

アリスの弟子
「テオ・キテル(20)」
 アリスの拾った人間。現在は人を辞め魔術師になっている。アルビノであり色白、銀髪に紫の瞳を持っている。見目麗しいが、同時に気味悪がられやすいため、アイドル(偶像)的なモテ方をする。

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