「うん………ここはどこ?」
私は目覚めると見覚えのない場所に居り
いつもと違う布団で寝ていた
記憶があるのは師が今まで秘していた技を見せてくれたこと
そして、その魔剣の前になす術も無く、無様に敗北したこと
これは私の突きと言う技の構造上の欠陥による敗北だった
いや、私の攻撃の剣機が師の目を騙す事が出来なかった未熟による敗北
今は不思議と清々しい晴れやかな気持ちだ
今まで感じた事のないほどの清々しい敗北感
起きると、枕元には私が昔着ていた着物があった
物持ちのいい、もとい物をなかなか捨てられない彼らしい
(あの人は学園へ行ったのだろうか?)
そんなことを考えると 不意に冷静になってしまった
微かにだが彼の気配がするような気がする
あの人の気配はそばに行けばそばに居るほど稀薄になる
彼を知らない人間は確実に彼の気配に気付かない
私ですら漸く漠然と分かるようになったばかりである
私は着替えてそこへ行こうとする
着替えている途中にチラリと視界に三枚の写真が入った
一枚は彼と彼女が一緒写った写真
もう一枚は九鬼揚羽、八代夜叉、八重祭など八流派の人間
そして、彼の母方の実家のご当主様など普段表に出ない大物
などが写った写真
そして最後の一枚は私と師匠二人の写った写真
あの写真嫌いな師匠の写真が三枚もこんな所にある
それを見たら少し ほっこり とした気分になった
そうして着替え終わると師匠がこちらへ来た
相変わらず毎回違うリズムで歩く人だと思う
スーっと音もなくふすまが開いた
その手にはお盆に食事が乗っていた
「起きたんだ、早いなぁ…これ食いな、腹減ってんだろ」
そう言ってそれを渡された
私はそれをいただく
朝の師とは別人だった、と言うよりもこちらが師の素である
師は食事を置くとまたどこかへ行ってしまう
八坂Vision
(相変わらず元気そうで何よりだ)
(それにしても強くなったなぁ)
そんな事を思いながら八坂は袴をチラリと見やる
一見糊がピシリときいた上質なものに見える
しかし精査すると一ヶ所だけ針で突いた様な小さなホツレがあった
八坂は刀を入れた金庫開ける
その中に白鞘に入った一刀があった
八坂は刀に一礼し刀身を検める
八坂は刀身を柄から抜き用意していた拵に収めた
刃長二尺三寸八分 反りは鳥居反りで約五分
波紋は荒沸出来の皆焼刃だが異様なほど刃が眠い
元先はそれ程差はない定幅 重ねも普通である
銘は”表 八雲八坂無垢丸鍛作 花月”
”裏 乾辰巳 八坂流皆伝”
これは八坂が彼女に皆伝の証にくれてやるつもりで彼女が
八坂に弟子入りした時に打ち上げた作である
三年前のあの日全ての蔵刀、鍛冶道具を失った
それでも、数振りの刀とこの一刀だけはあの燃え盛る火焔の地獄から持ち出した
そして、漸くあの日の八坂の役目が一つ終わった
辰巳Vision
師匠は相川らず適当な所のある人だ
(これも相変わらず味の薄い味噌汁だなぁ)
むしろ前よりも薄くなっているような気がする
そんなくだらないことより師匠 何してるんだろう
あ、また足音が変わった
また、スー とふすまが開く 師のその手には一振りの大刀が握られていた
鞘の長さから定寸の範囲内だろう
「師匠、その刀は?」
師匠はチラリとその刀を見る
すると師匠は表情こそ変わらないものの、どこかムッとして
袴をグイッとこちらに見せてくる
「お前の刃が俺の袴を掠めたんだ」
「でしたら、それは私の負けではないですか?」
「辰巳、お前は暈けたのかい?」
「暈けたなんてひどい、泣きますよ?」
「くだらないことはやめろ。お前、自分で昔言ったじゃないか、服に掠っても私の勝にしろって…」
師匠は段々と声が小さくなって行き最後には黙ってしまった
ただその体は駆動し続ける
師匠は何も言わずに刀を私の前に差し出した
そして、私もまた何も言わずにその一刀を受け取った
気づけば頬を一筋の涙が伝った…
私の胸中に一つの思いが湧き上がった
「先生、私はもう一度貴方の門下に入りたい」
「もう一度か………」
「君はいつ私の門を去ったんだい?」
そう師は言った
「部屋を空けておく、辞表を出してまた戻ってこい」
「俺は学園へ行ってくる」
師はそういって弁当を二つ持って行く
「あぁ、紙はこれ使って」
そう言って懐から紙とペンを取り出す
相変わらず何でも出てくる懐だ
青いロボットや背中からバットの高校生を連想させる
そして、八坂は次こそ学園へ行った
これで、当麻家への恩は返したはずだ
それにあの家は必ずしも忠義心で成り立っているわけではない
彼の最後の忠義の椿井家とは違う
だから、私は師匠の周りにいるあの人たちの様に
忠義と一人の人間としてあの人に惚れた女としてあの人につきたい
だから私はあの人のため、いや、私の為にのみこの辞表を書く
そして、書こうとした その時不意に気配を感じそちらを向いた
鯉口を切る間もなく
パス パス パス
と三度音がした
体を見ると何かが刺さっていた
「あなたは、当麻家の…」
そこから先は口が動かなかった そして 猛烈な睡魔に襲われる
記念すべき本日二度目の失神だ
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