【超常】は【日常】に
【夢】は【現実】に
それまで物語や幻想の物であった【異能】は【個性】として人々の生活の中へと溶け込んでいった。
何故個性が産まれたのか。
それはいまだに解明されていない。
それでもわかっているのは……
個性があろうと、個性が無かろうと
どんな時代でも
ヒトはヒトであるということだ。
かつて子供が夢を見ていた超常。
若き頃には厨二病などと呼ばれる一種の精神病があった。自分には他と違った特別な力があるのでは……と。
それが現代では実際に起こり得ている。
個性。
言い方を変えれば異能。
かつて人類が夢にまで見た超常の力。
しかし、それを手に入れようとヒトの本質は変わらない。
【第1話これが鬼の日常】
夜明けを迎える頃、ギシギシと床が軋む音が肌寒さを感じる廊下に静かに鳴り渡る。
はぁ、と息を吐けば目の前に白い霧が産まれ口に近づけた掌をほんのりとあたためてくれた。霧が消えるとほぼ同時に両手をさすり、摩擦熱で肌寒さを退けようとする。
そんな行為を数度繰り返して逝くうちに、目的の部屋へと到着した彼はニヤリ、と口角を上げるとゆっくり物音をできる限りたてないように、ドアノブを握りしめると身体全体を押し当てるように扉を開いていく。
スーッとさながらJapanese"ニンジャ"の如く部屋に侵入し素早く所定の位置へと移動する。
所定の位置。それは人であれば決して抗えぬ地。特に廊下で白い息が出る日ならば尚更である。魔境の地といってもいいかもしれない。
そう、オフトゥンだ。
だが、ここは自分の部屋ではない。そもそも彼自身の部屋であればこんなに息を殺して入ってくる必要性はない。時刻は夜明け。であれば通常この部屋の主人がそこで寝ているはずである。
そこで寝ているのは右が白髪、左が赤髪といった左右非対称な少年。
普段のクールな姿とは打って変わり中学三年の、発達途中の幼さ残る寝顔があった。
キヒヒ
と、やや特殊な笑い方をした彼は目の前の少年が寝てるのを確認すると愉快そうに笑みを浮かべ、おもむろに右腕を挙げた。
ここまで入室からおよそ3秒である。
そして………
「隙ありーーー!!!」
「させるかぁ!!!!!」
彼がその腕を振り下ろした瞬間、寝ていたはずの少年は飛び起きると、逆に振り下ろされた腕を取ろうとする……が
「あまい!」
「ごはぁ」
その少年の動きを予想していたかのように彼は掴まれた腕を投げる要領で振る。
掴んでいた少年はその腕を離す間も無く床へと叩きつけられ……
「オラオラオラオラオラァァアアア」
そこから再度叩きつけられの繰り返しである。これ無限生成回帰ともいう。
相手がこちらの腕を掴んだのをいいことに相手が離すまで投げ続ける荒技だが、やられた相手がこちらの腕を離すまで、およそ数秒間の間に十数回は投げれる。
「ちょ、ほ、ほおずき、おまえぇぇええ」
漸く手を離せた少年だがしかし。
投げ途中に離してしまえば当然そのまま投げられ……
ガッシャァァアアアン
豪快な音を立てて壁や窓を壊し外へと放り出される。
言い忘れたがここは二階である。
「ええええぇぇぇぇぇ……」
ジャポーーーン
遠ざかっていく声が聞こえなくなるのと同時に水に落ちた音が聞こえる。狙いは成功。うまい具合に自宅の池に落ちた模様。
いい仕事をしたぜ!
とばかりに腕で額を脱ぐり、ふぅと息をつく。
なにやら外から騒々しい声が聞こえるが気にしない。
こんなの日常茶飯事。
そう、日常茶飯事なのである。
「ほぉれ、お前もいってくるかぁ?」
ドクン、と突如背後から聞こえた声に心音を高め咄嗟に回避行動に移るが……
「あめぇええ!」
「ムギュゥ」
身から出るような声を漏らすと共に先程自身が飛ばした少年と同じように自分も宙へと舞う。
「……ああ、因果応報かな」
彼はキメ顔でそういった。
ドポーーーーーーン
「うまい!白米最高!!」
因果応報か、自身も
愉快そうに白米を頬張るたびにここ最近伸びてきた為ポニーテールの様に後ろで1本に結っている黒髪がゆらゆらと揺れている。
「おかわり!」
そう言って元気よく立ち上がればキラキラとヴァイオレット色の瞳を輝かせながら炊飯器の元へと走っていく。
「……はぁ」
そんな彼を見て、朝早くから
数ヶ月前紆余曲折あり、この大江家に引き取られた焦凍はここに来てから1日たりとも
時には早く起き、時には部屋に罠を仕組み、時には今日の様に寝たフリからの対処に挑んで見たものの結果は芳しくない。
とはいえそれがここのルールでもある。
いや、池ぽちゃがルールではないのだが、この大江家には唯一不変。日常における絶対のルールがあるのだ。
それこそが……
「隙あり!!!」
「させるかぁ!」
突如飛来した箸から守る様に自身のおかずが乗った皿を手に取り避難させる。
「ちぃ、惜しい」
「流石に主菜は渡せませんよ」
そういう焦凍の両手には茶碗と主菜の乗った皿が握られている。
ここ最近最も余裕を持って対処できる様になったのがこの食事時なのは仕方のないことである。
舌打ちを打ちながらも自身の食事へと箸を戻す彼女は自身の義母である。
普通なら義母が飯を奪いにくるなというとこだろう。
だが、ここではこれが普通なのだ。
それがここのルールなのだ。
それこそが……
【日常こそ戦場である】である。
この家の敷地内では、極論後遺症が残る様な事をしなければなにをやっても良いとされている。それがこの家のルールなのだ。
「キヒヒヒヒ、ショートもだいぶうちに慣れてきたね」
そういってポニーテールの少年……
大江鬼灯は茶碗にこれでもかと白米をもって帰ってくる。その頂点にはちょこんと生卵が鎮座していた。
「4ヶ月も過ごしてれば慣れるわ」
「キヒヒヒヒ、いいねぇ。それでこそ家族だよ!」
愉快げに笑う彼に、焦凍は再びため息を吐いてしまう。
これは紆余曲折あり大江家に引き取られた轟焦凍と、その親友である大江鬼灯とが織り成す