提督と艦娘   作:オーブの祈り

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どこかの公園…

「誰に許可なく艦娘が遊んでんだよ」

「お前らはヘイキなんだから隔離されなきゃならないんだろ」

「この街から出ていけ」

10歳ぐらいの男の子達が1人の8歳ぐらいの女の子を囲っていじめていた。

「ライダーキック!!」

いじめていた男の子にいきなりドロップキックをかます俺……

「3人束になっていじめとか何処の戦闘員ですかこのヤロー」

「お前!不意打ちとかサイテーだろ。けんちゃん伸びちまってるよ」

「年下の癖に生意気だぞ!!」

ドロップキックを浴びせた1人を除いて、男の子達の視線は俺に集まる。

「俺のダチを泣かせる奴はゼッテーユルサネェェッ!」

戦果報告

戦術的勝利B


年上の男の子との戦いは一様勝利した。正直開幕ドロップキックでガキ大将を倒せたことが大きかった。

「アンタ何やってんのよ」

いじめられていた女の子が声をかけてきた。

「お隣さんのピンチに駆けつけないヒーローはいないよきっと」

「バカみたい…アンタ体ぼろぼろになってるわよ」

「誰かを助けるのには犠牲が必要なんだよ。艦娘ならわかるだろ?」

女の子の表情は艦娘のワードを聞いた瞬間に悲しげな表情に変わっていく。

「まあ、艦娘だろうがなんだろうが…俺には関係ないよ。お前はお前…俺は俺…みんな違うし、全く同じな奴なんていない」

「アンタ、本当に8歳なの?」

「おばあちゃんが言ってた。人の成長は誰にも止められないって………でも本質は誰にも変えられないから……だから自分の強く信じるものを信じろって」

「ふふふ、全く答えになってないんだけど……」

「なあ、お「大井」は?」

俺が女の子の名前を呼ぼうとした時、女の子は口を挟んだ。

「私のことは大井でいいわ。貴方は私の適正じゃ無いけど、提督として認めてあげる」

女の子はそう言って俺に手を差し伸べた。

「軽巡洋艦、大井です。どうぞ、よろしくお願い致しますね」

8歳の頃、俺のお隣に同い年の艦娘がやってきた。


軽巡大井と提督
彼女の為に俺ができること


 

 

 

 

俺には10年付き合いがある幼馴染がいる。

 

「叔母さまおはようございます。提督いますか?」

 

「おーちゃんいつも悪いわね…ほら、おーちゃんが迎えに来てるわよ」

 

彼女は大井。球磨型4番艦の艦娘である。

お隣さんの孫に当たり、親の仕事の関係で8歳に『艦夢守市』からこっちに引っ越してきた。

提督と呼ばれてはいるが、俺には彼女に対しての適正はなく、彼女の名前を教えてもらった日に彼女自身からの信頼の証として呼ばれている。

 

「おはようございます…提督は休日中に進路とか決めたの?」

 

「まあ、具体的には決まってないけど…働くんじゃないか?」

 

俺たちが出会って10年…

 

時間は経って高校卒業まであと半年…

 

今まで隣にいてくれたこいつとこの通学路を歩くのも残りわずか………

 

わかっていたからこそ霧が晴れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『艦娘は適正のある提督以外とは恋愛をすることはない』

 

全てはこの一言が発端だった。

 

艦娘である大井との交際は凡人である俺には不可能に等しかった。

 

書籍によれば、艦娘には提督に対して艦娘としての名を呼んでほしいという感情があるらしく、艦娘が名を名乗り、提督から名前で呼んでもらうことを艦娘の契りというらしい。

 

しかし、普通は契りを交わす時は艦娘自身の本能が強く出る時…つまり提督をみつけた時らしく、大井と俺のような関係で艦娘の名前を教えるのは一般ではレアケース。

 

それに、書籍にはこう記されていた。

 

基本的には艦娘としての記憶もあいまって、普通の人間と変わらない安定した精神感情を持って生活をしているが、常に心のどこかで何か足りないと思っている。

 

何か足りない、というのが『提督』

 

大井自身、最近浮かない顔ばかりしているような気がする。

 

本当の提督をみつけたら、大井は笑顔になるのだろうか…幸せになれるのだろうか。

 

艦娘に対してサポートができている艦夢守市と比べ、俺の地元は艦娘を差別している奴らもいた。こんな環境で彼女は本当に幸せにできるのだろうか。

 

昔から知っている俺だからこそ、一番幸せにしたい人だからこそ……俺は彼女の事をキッパリ諦めるために、軽巡もしくは球磨型適正の提督を探し始めた。

 

 

 

 

結果、進路のことなんてこれっぽっちも考えないであっという間に12月。

 

先生には呆れられながら安易な就職先、進学先が提示され、両親からは毒を吐かれ、周囲の内定が決まる中、1人落ち込む毎日…

 

提督探しも一向に進まず、軽巡適正や球磨型適正の人物をみつけても、他の大井と巡り合っていたり、そもそも人間としてダメだったりな奴もいた……

 

現実って本当に大っ嫌いだ。

 

 

 

ある日のこと、腐れている俺を叱咤するためか部屋に大井がやってきた。

 

「提督……何やってるんですか?このままだと卒業すら危ぶまれますよ」

 

「お前も進路の事かよ…大井」

 

最近寝た記憶がない。言われ放題言われて、思うように物事が進まない。俺ってこんなダメな奴だっけ……大井の為に大井の為に大井の為に大井の為に大井の為に大井の為に…俺は彼女の事を思ってやってるのにどうしてお前は…俺を褒めてくれないんだ…どうして周りと同じ事をするんだ。

 

俺の中で何かの多寡が外れた

 

「俺はお前の提督じゃない。俺はお前の提督にはなれない。俺はお前が心配なんだよ。本当の提督でないにしろ、お前と過ごした時間は俺の中で……俺の中で……」

 

感極まって涙が溢れた。

 

「見苦しいよな…俺、お前のことが好きだったんだ……でも艦娘は提督としか結ばれないなんて聞いて………好きな人の為にって思って」

 

色々漏れる俺の口を塞ぐかのように大井は俺を抱きしめる。

 

「提督…もういいんですよ。私も実は前から知ってましたよ。本能を押さえつけるのに必死だったんですから……貴方はどんなことがあろうと私の『提督』です」

 

その一言に俺に衝撃が走る。

 

「えっ⁉︎どういう事?俺にはお前の適正はないんじゃ…」

 

腰が抜けた俺に大井はあの時のように手を差し伸べた。

 

「では改めて…重雷装艦として生まれ変わった大井です。これからもどうぞよろしくお願いしますね提督…ふふふ」

 

本来の艦娘の契りを交わした。

 

 

 

 

余談であるが、艦種に関する資料や艦娘に関する書籍を確認してみたところ、『第ニ次艦娘変わり』と呼ばれる現象が出会って10年の間に大井には起こっており、艦種が軽巡から雷巡に変わってしまったらしい。これにより、『軽巡適正』の無い俺が提督に選ばれたのだ。

 

さらに詳しく確認すると艦種適正持ちとしては雷巡適正の提督は希少…というより肝心の雷巡の艦娘が少ないこともあり、発見が難しく、正式に発表された雷巡適正提督としては1人目になってしまった。

艦種が変わる艦娘が少ないことや、適正のある提督と巡り会う確率を考えても、俺と大井のようなケースは提督や艦娘が多く住み、町をあげて協力的な艦夢守市でも極々稀にしかないらしい。

 

 

 




後日談、俺はなんとか高校を卒業。同時に大井と結婚し、今まで大井の提督探しで築いてきた人脈を活かして『艦夢守市』以外にいる艦娘やその周囲の人にもサポートを行えるようネットでベンチャー企業を立ち上げ生活している。

「提督?この手はなんですか?何かの演習ですか?」

「い、いや、流石に3日連続はちょっと……」

「私、砲雷撃戦って聞くと…燃えちゃいます。今夜こそ私に被弾させてくださいね。」

「無理無理!今夜くらい休ませて」

「あら?私が頑張れば良いのね?ふふ、ふふ…うっ?! は、鼻血が? あははは」

今夜も俺と大井の長い夜が始まる。
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