「誰に許可なく艦娘が遊んでんだよ」
「お前らはヘイキなんだから隔離されなきゃならないんだろ」
「この街から出ていけ」
この街に来て、最初の出来事だった。私は転校したての学校の上級生に呼び出され、暴力を振るわれていた。艦娘である私からしたらあまりにも非力な一撃ではあったが、私は今までにないほど『人と艦娘は違う』と心に響いていた。
「ライダーキック!!」
いきなり上級生に向かって勢いよくドロップキックをかました少年。彼は確か同い年で同じクラスの……
「3人束になっていじめとか何処の戦闘員ですかこのヤロー」
「お前!不意打ちとかサイテーだろ。けんちゃん伸びちまってるよ」
「年下の癖に生意気だぞ!!」
ドロップキックを浴びせた1人を除いて、男の子達の視線は少年に集まる。
「俺のダチを泣かせる奴はゼッテーユルサネェェッ!」
戦果報告
戦術的勝利B
年上の男の子と少年の戦いは少年が勝利した。正直開幕ドロップキックでガキ大将を倒せたことが大きかったのであろう。倒れた少年に私は声をかけた。
「アンタ何やってんのよ」
「お隣さんのピンチに駆けつけないヒーローはいないよきっと」
近所に住んでる?あまり気にしてなかったが、少年は近所に住んでいるパッとしない少年だった。
「バカみたい…アンタ体ぼろぼろになってるわよ」
「誰かを助けるのには犠牲が必要なんだよ。艦娘ならわかるだろ?」
やはり『人と艦娘は違う』のか…
「まあ、艦娘だろうがなんだろうが…俺には関係ないよ。お前はお前…俺は俺…みんな違うし、全く同じな奴なんていない」
何かに察したのか少年は8歳にしてはあまりに気を使った大人な対応をした。
「アンタ、本当に8歳なの?」
「おばあちゃんが言ってた。人の成長は誰にも止められないって………でも本質は誰にも変えられないから……だから自分の強く信じるものを信じろって」
「ふふふ、全く答えになってないんだけど……」
でも、それなら…私も信じてみようかな……
「なあ、お「大井」は?」
艦娘としての私は少年をどうとも思えない……でも人として尊敬はできる気がしていた。
「私のことは大井でいいわ。貴方は私の適正じゃ無いけど、提督として認めてあげる」
私はそう言って手を差し伸べた。
例え、私が提督をみつけたとしても…この気持ちが変わろうとも……
「軽巡洋艦、大井です。どうぞ、よろしくお願い致しますね」
8歳の頃に出会った少年が私のはじめての提督(仮)なのだと………
私には7年付き合いがある幼馴染がいる。
「叔母さまおはようございます。提督いますか?」
「おーちゃんいつも悪いわね…ほら、おーちゃんが迎えに来てるわよ」
いつも通りの朝、いつも通りの叔母さまとの挨拶。
私は球磨型4番艦 大井の艦娘。訳あって艦娘があまり認知されていないこの街に引っ越して来たのは7年前のこと…
最初は艦娘だからと言って怖がられたり、いじめられたりしたが、
「…お、大井おはよ〜」
この間抜けズラの少年により私が街に受け入れられるのには時間はかからなかった。
「おはようございます提督。休日中に進路は決めたの?」
「ん〜どうせ地元の高校に通うよ…朝起きるのも面倒だし……一人暮らしとか寮とか面倒いし………」
中学3年の夏…高校入学に向けて進路を決める時期。中学生の子どもにとってそれはあまりにパッとしない人生初めての分岐点である。
「大井は決めた?お前なら頭いいしどこでも受かるんだろうけど…」
「まあ、私もいくつかは目星はつけてるけど…」
そんな素っ気ない返事を返した私を見て、提督は少し寂しそうな顔をしていたような気がした。
この時期からであっただろうか…私が提督を見る目が変わってきたのは…
私の進路については2つに絞られていた。学力には自信があるし、艦娘という枠には入るものの運動もそこそこできる。私にはそれなりに優遇な条件で高校の特待が届いている。しかし、人間関係がリセットされ場所によってはこの街や親元を離れて寮での生活になる。私個人としては昔のトラウマからそれは避けたいと思い、辞退した。
選択から親元もこの街からも離れることもない地元の高校に通うことと…以前住んでいた『艦夢守市』の専門学校に通うこと。
『艦夢守市』は以前住んでいただけで、物心ついて間もない頃に引っ越した為、人間関係がリセットされるに等しいが、『艦夢守市』には艦娘や提督が多く集まると言われて降り、艦娘に対しての差別もなければ、提督をみつけることもできるかもしれない。両親も賛成してくれるだろう。でも…
でも…何故か寂しそうな提督の顔が浮かぶ。
なんで、そんな悲しい顔をするんだろうと言わんばかりに……
凄く不安になるにつれて私は眠れなくなっていた。
「0200…お母さん?お父さん?寝たかしら。…これはチャンスだわ」
街も人も寝静まった夜更けに私は、何かに導かれるように提督の家に向かっていた。
「提督のところに行かなくては…きっと困ってるに決まってるの!提督ゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
こんなにも提督のことが頭から離れないのは初めてだった。
こんなに自分が自分で無くなるような感覚は初めてだった。
ただ提督の寂しそうな顔が心配になって…ただ提督が何か悩んでいるんじゃないかって心配で……
そんなことを考えているうちに提督の家についた。いつもと違い、とても静かで…いつもと違い、とても暗い。
まあ、当然だろう。寝ているんだろうし……
いつもの私なら絶対にしないであろう家の合鍵を利用しての不法侵入を躊躇なく行うと、真っ先に提督の部屋へ向かった。
「提督……提督は無事見たいね。良かった……」
提督の安心して眠るような寝顔を見ていると少しずつ安心していく自分がいた。
しかし、それと同時に自分がしてしまった事を後悔する自分もいた。話題を切り替えるように私は部屋を見渡した。
提督の部屋は一見すると男子中学生にしては綺麗にしてある。漫画やライトノベルは彼のこだわりなのだろうか…ジャンル、レーベルごとに綺麗に分けられて降り、それ以外にも戦艦の図鑑やら書籍やらが入れられる。
正直言って違和感だらけである。
ファンタジー物や勧善懲悪のヒーロー物のグッズや本が多いのに対して、模型とかではなく、ミリタリー系の戦艦の専門誌(表紙有)をいくつか持っている。
提督の性格からして、理想を語って現実しかない戦争やそれに準ずるものを好きではない。さらに言えば提督のこだわりは部屋全体から浮き出るかのように表現されている為、本棚のそのスペースにだけ違和感があった。
「もしかして……」
私は提督のトレジャーを目にする覚悟で情報誌を開いた。
『艦娘は適正のある提督以外とは恋愛をすることはない』
ページに折り目がつくほど開かれていたところの一行目にはそう書かれていた。気持ち文字が何かで滲んでるようにも見えた。
そしてその記事を読んで…
私はその時はっきりと気がついた。
私の提督は彼で彼に私は恋い焦がれていることを……
嬉しかった。私は提督をこんなに早く見つけることができたことに…
嬉しかった。私を最初に認めてくれた彼が提督出会ったことが…
嬉しかった。今までの自分の気持ちが真っ赤な嘘ではなかったと思えたことが…
「私をこんなにした提督が悪いんですよ。だから…」
私の想いは既に多寡が外れていた。
「重雷装艦として生まれ変わった大井です。私の…私だけの提督」
パタン
キスする3センチくらいのところで表紙に隠れた何かが落ちた。その音で理性を呼び戻したが、
『感帯これくしょん』
小冊子のようなそれには艦娘のセクシーアイドルによる卑猥な写真が……いわゆるエロ本の袋とじ。
それを見て私はミリタリーゾーンを捜索した。
『KM型姉妹丼』
『〇〇〇魚雷大好き従順O井』
『K神×o井 魚雷の正しい使い方』
表紙ありの冊子より見つかった物を見て、正直引いてしまった。
自分で言うのも恥ずかしいのであえて言わないでおこう。嬉しいけど恥ずかしいし、、、嫉妬すら覚えている。他の大井に対して。
捨ててやろうかとも考えたが、提督も男の子。いつか、来る時の為にもこれらのものに対しては…敢えて捨てないで今後は理解あるふりをしよう。
↓
理解するためにも見ないことには…
↓
こっそり借りていこう。
私は結論を導き出し部屋を出た。AVを持って。
中学を卒業し、私は地元の高校に進学した。もちろん提督と一緒に…いつもの日課のように提督の家に行っては挨拶をしていつも通りの生活を送る。時間あるときは提督を見守り、提督に群がる邪魔な子は排除する。
湧き上がる艦娘としての本能を抑え、成人した暁にはケッコン(ガチ)をする為にも勉強を惜しまず、私の日常は流れていく。
余談ですが最近、私の家の近所では夜中になると奇声が聞こえてくるらしく、提督の家では度々提督の私物がなくなるという不可解な事件が起きてるとか……
キャラ紹介
提督
雷巡適正提督。一応この作品の世界観では1号。通称人脈の1号。
現在日本でも有数な艦娘に対するサポート環境を持つベンチャー企業『鎮守府』を起業し、代表取締役。人脈は幅広く、富豪からクソ野郎までいる。
大井
軽巡→雷巡に艦種が変わったことにより提督と結ばれる。
鎮守府の秘書をやっているが、最近の悩みは提督に悪い虫がつくことらしい。