ナザリック・ディフェンス   作:犬畜生提督

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原作7巻終了時点あたりです。



第一章
発見


「金が、()()()()()、だと?」

「はい。そのようです」

 

――ナザリック地下大墳墓、第10階層、玉座の間。大墳墓の(あるじ)ことアインズは、守護統括者アルベドから、あるプロジェクトに関する報告を受けていた。

 

そのプロジェクトとは、先日のナザリックへの侵入者に関連したものである。ナザリックの頭脳たるアルベドとデミウルゴスが発案した「とある計画」により、帝国から数十人の愚かなワーカーをあえて呼び込み、その身の全てをナザリックの(にえ)としたのは、つい先刻のこと。現在はその一連の顛末(てんまつ)、防衛設備の稼働状況、かかった経費等についてまとめたものを、アルベドがアインズへ報告している最中であった。

 

「『金』とは、ナザリックの運営資金、つまりユグドラシル通貨のことで間違いないな?」

「はい。本来であれば、シモベの召喚や防衛設備の使用などで差し引かれるはずの口座のものです」

「ふむ……妙だな」

 

ギルド:アインズ・ウール・ゴウンでは、拠点の運営経費等で差っ引かれる用の「口座」を作って管理している。ここには、特に何もなければ、放っておいてもあと千年はゆうにナザリックが維持できるだけの資金がプールされている。

 

もちろん、その背後にある「ギルド共有資金」は、それと比較にならないほど莫大だ。ギルドメンバー41人の幾年にも渡る蓄積は伊達(だて)ではない。しかし、アインズはその資金に手をつける気はなかった。そこには、引退したメンバーの全資金が上乗せされている。アインズの中ではそれらは、「みんなが戻ってくるまで預かっている」状態なのだ。

 

そのため、ナザリックの金の出入りは全て、このフロントの口座で(まかな)われている。ここにはアインズ……いや、モモンガが、ユグドラシル晩年にソロで稼いだ資金が大量に投入されている。(せん)だってシャルティアの復活に使った金貨5億枚も、実質アインズの稼ぎからの拠出(きょしゅつ)である。

 

そのプールは、異世界転移後は目減(めべ)りする一方であった。そう、つい先ほどまでは――。

 

アインズは報告書の収支に目を通しつつ、マスターソースのコンソールを開く。ゲームの名残からか、本来なら金庫に収まりきらないほど膨大な枚数の金貨は、通帳のような無味乾燥な数値として表示される。もちろん、やろうと思えば、アイテムストレージのようにいつでも金貨として取り出すことができるが。

 

「……これは……驚きだな……」

 

そこに表れた数字は、確かに一連の侵入劇の前よりも増えていた。いくつかの課金トラップが発動したにも関わらずだ。

 

……いや、増えていた、などという軽いものではない。かなり悪くない収入だ。具体的には、先日のゲヘナで王都から奪った物資を、仮に全てエクスチェンジボックスに投げ込んだとしても、これに届くかどうか、といったところだ。

 

こちらの世界に転移した今現在、ユグドラシル通貨の獲得方法は非常に限られている。その最も有力なものが、エクスチェンジボックスだ。これならば、どんなものでも放り込めば勝手に資金になってくれる。ただし、その換金効率は(いちじる)しく悪い。調査の結果そのことが分かった時、アインズは大いに落胆し、思い悩んだ。どうすれば今後安定した収入を得られるか? アンデッドを使って、麦や芋のようなものを大量生産して放り込むか? それとも、鉱山を掘って、鉱石を片っ端から運び入れるか……?

 

……しかし、それらよりももっと優れた回答が、もしかしたら今目の前にぶら下がっているのかもしれない。

 

「アルベドよ、此度(こたび)の発見、もしかすると、この報告書の最たる成果かもしれんぞ」

「そうなのですかっ!?」

 

表情を持たないアインズの、しかしどこか興奮を抑えたような声に、アルベドの背中の羽がフサッと揺らめく。アルベドには分かる。愛しの我が君が喜んでおられる。ただ一つ、本来の自分の計画にはない、全く偶然の発見だったことだけは不本意といえば不本意だが、アインズの役に立てたことに比べれば、そんなのは些細(ささい)なことのように思えた。

 

「アルベド! この資金が増えた原因について早急に調査したい。優先事項だ。頼めるか?」

「はい! お任せ下さい、アインズ様!」

 

ナザリック地下大墳墓の新たな運営方針が一つ、誕生しようとしていた――。

 




実験するぞ実験するぞ実験するぞ

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