「…………こう」
洞窟の突き当たり。ティアは横にある出っ張りを用心深く掴み、反時計回りに
「……どうやら情報通りのようね」
アダマンタイト級冒険者チーム“蒼の薔薇”は、王都の冒険者組合で得た情報を元に、王都西の洞窟の隠し扉を操作していた。
隠し扉は一定時間過ぎるとまた閉まるが、反対側にも同じような仕掛けがあり、閉じ込められる心配はないらしい。一応、ティナが先に入って、そっちの方も確認する。
「しかし、こりゃあ……予想以上だな」
ガガーランが、開いた空間の先を見て、唾を飲み込む。隠し扉の向こうは、雰囲気がガラッと変わっていた。そこまではただの岩の洞穴だったのに、その先の床は平らで、左右は白っぽい土壁。暗褐色の木の枠組みが、規則的に並んでアクセントを付けている。そこに等間隔にランタンが配置され、通路全体を〈
「随分としっかりした造りだな。いつ作られたものだ?」
イビルアイが
「……わからないけど、とりあえず
ラキュースが音頭を取り、先に入って安全確認を済ませていたティナの元へ、他の全員で慎重に扉をくぐる。
「っ!?」
と、そのとき、イビルアイが奇妙な抵抗を覚えた。
(この感覚には覚えがある。これと同じものを、つい最近感じたはずだ。あれは確か……そうだ、あの時、大悪魔ヤルダバオトの放った、ある一つの魔法、あの感覚……)
当時の恐怖まで思い出して、イビルアイが気付かれないように小さく震える。
「ラキュース、気をつけてくれ。この中、転移阻害の効果が掛かっている」
「えっ?」
一同が緊張気味にイビルアイの方を振り返る。もともと転移なんてイビルアイ自身以外はできないので、転移阻害などなくとも、いざ撤退となれば、どのみち皆でバタバタ逃走することになるのだが、ここが
「……そう。どうやら、ただの洞窟ではないようね」
ラキュースが警戒レベルを引き上げる。
「……おい、見な。確かにこりゃ妙だぜ。ただの洞窟じゃねえ」
そう言いながら、ガガーランは
「……みんな、用心していきましょ」
チーム一同は、歩を進めていく。そうほどなくして、通路の向こうからガシャガシャと音が聞こえてくる。
「始めはスケルトン。たとえ倒しても、次に来る時はまた湧いてくる……か。これも情報通り」
全員、慣れた手つきで武器を構える。この調子ならどうやら、情報がある地点までは
…………。
あっさりとスケルトンを退治して景気を付けた“蒼の薔薇”は、それでも慎重に進んでいく。心のどこかで、なにか人智の及ばぬものに対する、不気味さのようなものを感じながら……。
◆
「こっちは仕留めたぜ。そっちは?」
「余裕」
「……それにしても、
「あれも洞窟の主じゃなかった。意外……」
「ここまでの戦利品は?」
「手甲、反り返った短剣、あと指輪、薬瓶、なんか模様の描かれた紙……。どれも鑑定が必要」
「……なんだか変わったものばかりね」
手に入ったアイテムの幾つかは……なんと言うか、異国情緒に
「あ、あと刀と弓。持ち運びが厄介だから置いてきたやつ。帰りに忘れずに拾う」
「刀、か。ブレイン・アングラウスが使っていたものと同じ種類の武器だな。かなり貴重らしいぞ」
「アイツ、ここに連れてくれば喜ぶんじゃねえか?」
「そうね。彼が戦士長を継ぐつもりなら、
なんとなく休憩ムードになった一行は、現状確認のため情報を交わしつつ、水と行動食を取り出して
「ティア、そのヘンテコな紙、あのキモ蟲メイドが魔法使う時に使ってたやつに似てねえか?」
「……似てると言えば似てるけど、たぶん関係ない」
「ガガーラン、お前ちょっとトラウマになってないか?」
「な、なってねえよ!」
ガガーランは強がっている。……まあ無理もない。印象に強く残っているのは当然だ。なにせ、殺される前に真っ当に戦った強敵なのだから。
「……やはりこの洞窟、妙だな」
イビルアイがぼそっと呟く。
「妙って、そりゃ妙だろ。何から何まで」
「そうじゃないガガーラン。妙と言ったのは、作為的、と言ったらいいのか……。どこか
「イビルアイに同感。ここのアンデッド達は、動きが綺麗過ぎる。アンデッドはもっと、生者にがむしゃらに襲いかかるもの」
「うん、ティナ良いこと言った。動きに統制が感じられる。これはまるで――」
――兵士のようだ、と。
「つまり、指揮を取ってる奴がいるってことか?」
「〈
「この数をか?」
これらを操る存在がいるとしたら、それはもう正に、軍隊を持つに等しい。
「大量のアンデッドを召喚して使役する魔法ならあるぞ。英雄の更に上の領域だがな」
そんな中、イビルアイは平然と言い放つ。
「しかし、仮にそうだとすると、別の疑問が出てくる。あれらのアンデッドを自由に動かせる存在がいたとすると、行動があまりに不自然だ。
「うん」
「そうか? 奴ら結構イイ仕事してたぜ」
「ガガーラン、例えばお前が……そうだな、仮に、この洞窟の主だったとして、侵入者を殺したいとする。お前ならどうする?」
「んなもん、コイツでぶん殴る」
ガガーランが
「脳筋」
「あぁ!?」
「確実に殺すためなら、普通、奥に引き込んで、退路を断って、罠にかける」
「そうだ。軍隊と軍隊のぶつかり合いじゃあるまいし、弱い駒から順に当てて削る、なんて律儀な真似はしない」
「これじゃまるで、『いつでも逃げて下さい』と言っているようなもの」
「ありがてえ話じゃねえか」
「ガガーランお前……。……いや、でも、そうだな……そう考えるほうがしっくり来るか……」
イビルアイがう~んと
「おそらくだが、このアンデッド達は、何らかのマジックアイテム、もしくはこの洞窟そのものの魔法的な仕掛けにより、半自動的に動いていると見るのが妥当だろう。そしてその目的は、侵入者を確実に殺すことではなく、単に侵入者が来たら迎撃する、という単純なもの。弱い敵から順に配置しているのは、この洞窟を設計した者の『逃げるなら逃げろ』という配慮、ということか……」
イビルアイが推論を述べた。
「大盤振る舞いのダンジョン」
「都合良すぎ」
ティナとティアが、やはり当然と思える感想を伝える。
「……そう……やはり、そういうことなのね……」
さっきから深刻な顔で無言を貫いていたラキュースが、ここに来て、なにやら独り言のようにブツブツと
「つまりこれは……『試練』、ということね……。私が『そこ』へ至るための……。そして、その先にいるのはおそらく、『あの方々』……。私に『奴』を倒せと……そのための
ラキュースは、我を忘れたかのように
「ラキュース、何か心当たりがあるのか?」
イビルアイが心配顔で尋ねる。
「……今は、私の口から言えることは何もないわ。いずれ分かるわ……いずれね……。ふふ……」
ラキュースは、まるで何かを悟ったかのように、そんな意味ありげな言葉を差し向けた。なんだろう……なにかぞわぞわする……。
このダンジョンに入ってからというもの、どうも時々ラキュースの様子がおかしい。やはりここには何かがあるようだ。メンバー一同は、更に気を引き締めて進むことを決意した。
いざ進めや