ナザリック・ディフェンス   作:犬畜生提督

11 / 26
<前回のあらすじ>

お邪魔するわよ~。



接戦

「オオォォオオォッ!!」

「んなろぉっ! 〈要塞〉!!」

 

「ギィンッ!」と、ガガーランは刺突戦槌(ウォーピック)、“鉄砕き(フェルアイアン)”で、フランベルジュの剣戟(けんげき)(かろ)うじて受け止める。対するは骸骨の騎士。

 

洞窟を進んだ先の少し広い空間。前人未到の深層を進む“蒼の薔薇”に、まるでボスのように立ちはだかったのは、波打つ剣と巨大なタワーシールドを装備し、赤黒く脈打つような邪悪なオーラを(まと)った、巨体のアンデッド。その強さは、これまでの敵とは比べ物にならない。彼女達は素早く強敵1体向けのフォーメーションを取り、これに挑んだ。

 

こういう時、ガガーランは“蒼の薔薇”の盾役(タンク)となる。敵の真正面に立ち、注意を引き付け、味方の攻撃の機会を作る。しかし――

 

「っ!? ふっ!!」

 

(わず)かな前動作で繰り出された横薙(よこな)ぎの一閃を、ガガーランは刺突戦槌(ウォーピック)を立てて(つか)で受けて止める。いい武器でなければ(つか)ごと持っていかれていた。

 

「っ()ねえな……」

 

神官戦士であるラキュースからの強化魔法(バフ)を受け、魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるイビルアイから敵への弱体化魔法(デバフ)が決まり、なおかつ武技を発動してすら、ガガーランは圧倒されかけていた。このままでは、そう遠くないうちに押し潰される。

 

……しかし、こちらには強みがある。そう、1対5という強みが。

 

「射出!!」

 

ラキュースが浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)を打ち出す。本来なら、骸骨の騎士に真正面から撃ち込んでも、あの巨大な盾であっさり防がれるであろう。しかしラキュースは、骸骨の騎士がガガーランに向けて剣を振るおうとする隙を狙い、そこに滑り込ませるようにして刃を通す。斬撃ダメージなので骸骨(スケルトン)系相手には若干効果が下がるが、注意を()らすという恩恵は大きい。

 

「こっちも隙アリ!」

 

機会を(うかが)っているのはティナも同様。骸骨の騎士の横から回り込み、奴がガガーランに注意を向けた隙を狙って、聖属性を付加したモーニングスターを叩き込む。この武器は今回のアンデッド対策に用意したものだ。ティナの本来の武装は生き物の暗殺に特化しているため、アンデッドとは相性が悪い。

 

「おまけ!」

 

ヒットアンドアウェイで離れ際、ティナが武器を投擲(とうてき)する。投げたのはこの洞窟で見つかった、変わった形状の投擲(とうてき)用刃物で、“スリケン”と言うらしい。ティナはなぜか早々に使いこなしていた。

 

「ガガーラン少し下がって(バック)! 爆炎陣!!」

 

骸骨の騎士が踏み込んだちょうどその位置から爆発が起こり、炎が吹き上がる。それはそのまま敵その巨体を包み込んだ。ガガーランはティアとの阿吽(あうん)の呼吸で効果範囲から飛び退()いている。

 

忍術で作り出した炎はすぐに晴れる。しかし、骸骨の騎士は健在。アンデッドのわりに、弱点のはずのあの炎でも致命傷とはいかなかったらしい。しかし、ダメージはそれなりにあったのだろう。骸骨の騎士は、死角にいるティアへ憎悪の視線を向ける。

 

「ナイスだぜティア! ガラ空きだデカブツ! オラァ! 〈剛撃〉!!」

 

その機を逃さず、今度はガガーランが“鉄砕き(フェルアイアン)”を叩き付ける。

 

ガガーランが守りに徹することで、敵の隙を突いて3人が攻撃する。敵の注意が3人のどれかに向いたところで、ガガーランが攻撃を加えてまた注意を引き戻す。敵は強い。誰かに攻撃を集中されたら、すぐに落とされる。そんな綱渡りの戦いである。しかし、アダマンタイト級チームの名に恥じない、彼女らの流れるような連携は、その綱渡りを可能とした。そして、力量的に上のはずの骸骨の騎士を効果的に翻弄(ほんろう)していた。敵の硬い防御の隙間から、じわじわと負のエネルギーを削っていく手応えがある。この勢いなら勝てる。

 

「一斉攻撃! 今!!」

 

ラキュースの号令と同時に、今度は4人で同時に攻撃を叩き込む。骸骨の騎士は、一番危険と判断したガガーランの刺突戦槌(ウォーピック)を真正面から防ぐ。そしてその代償として、他3人からの攻撃を無防備に受ける。

 

「オオオァァァアアアア!!」

 

おそらく()れたのだろう。骸骨の騎士は怒りに雄叫(おたけ)びを上げ、「何はともあれ目の前の邪魔な筋肉だ」とばかりに、防御を捨て、巨大なフランベルジュを大上段に振り上げる。

 

――しかし、それこそが“蒼の薔薇”の狙いだ。

 

「ティナ、今よ!」

「不動金剛盾の術!」

「来いやオラァ! 〈要塞〉!!」

 

防御ごと叩き潰すつもりで、恐るべき勢いで振り下ろされた剣は、しかしまず七色の盾に阻まれる。即席のガラス質の盾は砕けたが、剣は勢いを殺された後、その先で硬質な「ギィィィン」という音に阻まれる。ティナの忍術の支援を受けて、ガガーランが受けきったのだ。そしてすかさず――

 

「不動金縛りの術!」

 

ティアが骸骨の騎士の巨躯(きょく)を、剣を振り下ろした姿勢のまま縫い付ける。

 

「イビルアイ、お願い!」

「みんなよくやった! とっておきのをくれてやる! 〈魔法最強化(マキシマイズマジック)水晶騎士槍(クリスタルランス)〉!!」

 

その背後、完全な死角から、魔法の水晶の槍が飛来する。それは骸骨の騎士のひときわ太い背骨を正確に貫いた。

 

骸骨の騎士は「ビクンッ」と大きく痙攣(けいれん)したあと、沈黙した。

 

「……ふぃ~、やばかったぁ……。やったなイビルアイ! 美味しいとこ持っていきやがってこのヤロウ!」

 

「…………」

「…………」

 

ガガーランの「(ひと)仕事終えた!」といった感じの軽口に、いつもなら乗っかるはずのティアとティナ。しかし、元イジャニーヤの二人は油断しない。

 

「ガガーランまだ早い。コイツまだ――」

「オオオァァァォォォオオオ!!」

「っ!?」

 

突然暴れ出した骸骨の騎士は、面食らったガガーランよりも、最後に致命傷を与えたイビルアイに対象(ターゲット)を絞ったらしく、後ろを振り向く。そこへ――

 

「みんな退()きなさいっ! 超技! 暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)ォォオ!!」

 

ラキュースが縦に振り下ろした“魔剣キリネイラム”から、漆黒の奔流(ほんりゅう)が骸骨の騎士の身体へ到達し、爆発を起こす。吹き荒れる無属性エネルギーは、骸骨の騎士から最後の負のエネルギーを刈り尽くし、大きな骸骨の騎士は、灰になって消滅した。

 

 

 

 

「ガガーラン、おつかれ」

「よくやった脳筋」

「このくらい余裕だぜ!」

 

ガガーランとティア、ティナが陽気に拳を交わし合う。

 

「どうやらブランクはないようだな。いい動きだったぞお前達」

 

イビルアイが、小さな体でそんな偉そうな言葉を吐く。しかし、これがイビルアイのポジションだ。

 

イビルアイは、先ほどの連携のようなものにはあまり積極的には関わらない。力量差がありすぎて、どうしてもバランスが(かたよ)ってしまうからだ。とあるいきさつから、この弱小パーティー――イビルアイ視点でだが――に入った彼女のポジションは、単独遊撃部隊である。時に切り込み隊長として、相手の力量を真っ先に測り、時に殿(しんがり)として、味方の逃走を幇助(ほうじょ)する。そして、数百年分の豊富な知識と経験を元に、彼女らにアドバイスを与える。いつの間にかそんな指南役のようなポジションに落ち着いたが、イビルアイなりに皆対等な仲間として大事に思っている。それはメンバーからイビルアイへについても同様だ。

 

(何が起ころうと、私が守る! あの時のようにはさせない!)

 

それがイビルアイの決意である。

 

なお、先ほどの死闘も、実はイビルアイ単体でも別に勝てた。これについては分かってても誰も何も言わない。

 

……ところで、そんな中、ラキュースはちょっと酔いしれていた。

 

(き、気持ちいい……)

 

強敵を大技で仕留められた(よろこ)びに、じ~んと打ち震えていた。どこか遠くで「魔力の無駄遣い……」と思った何者かがいたことは、ここにいる誰もが知らない。

 

「それにしても、あんなすげえ大物初めて見たぜ! なんてアンデッドか知ってるかイビルアイ?」

「……死の騎士(デス・ナイト)だ」

「……は?」

「え?」

「……マジ?」

「うそ……」

 

4人は一斉に唖然(あぜん)として、イビルアイを見つめる。

 

死の騎士(デス・ナイト)って、あの……?」

「ああ、魔導王とやらの、アレだ」

「…………」

 

一同は絶句する。話には聞いていた。死の騎士(デス・ナイト)と呼ばれる、途轍(とてつ)もなく強いアンデッドのことを。かの魔導王アインズ・ウール・ゴウンが、先の戦争で引き連れていたという。そして今もなお、魔導国となったエ・ランテルには、同じものが闊歩(かっぽ)しているという……。

 

「嘘だろ……? こんなに強いのかよ……」

 

強い強いと言われていても、一兵卒から見た話だろ、と(たか)(くく)っていたガガーランは青褪(あおざ)める。まさかアダマンタイト級全員でかかって、1体がやっとだとは……。

 

「あんなのが……何百体も……?」

 

……そう、ウヨウヨいるらしいのだ。もはや太刀打ちできるどころの話ではない。

 

「あ~もうどうなってやがんだこの世の中は!? 大悪魔は出るわガイコツ魔王は出るわ! 聞いたこともねえ極悪魔法に見たこともねえ桁違いの召喚魔物(モンスター)! かと思や、俺らじゃ足元にも及ばねえ大英雄も出てくるし、おまけにこの謎の洞窟だ! 王国はもっと平和だったはずだろ!?」

 

ガガーランが頭をガシガシと掻きながらそんな愚痴を垂れる。「人類の守り手」アダマンタイト級冒険者も、これでは形無(かたな)しだ。

 

「そういえば、エ・ランテルにも謎の遺跡が見つかったらしい。そっちも中の敵が強くて、誰も奥まで辿り着けてないとか」

「うん。そんな情報あった。今はもう行けないけど……」

 

さすがに魔導国のお膝元では無理がある。人の行き来は普通にできるという(うわさ)だが、かと言って“蒼の薔薇”が訪ねては大事(おおごと)になるだろう。

 

「確かに、ここ最近は異常だ。こんなこと、ここ数十年、いや、百年単位でなかった……」

 

イビルアイが実感を込めて言う。彼女が言うと真実味がある。しかし、どことなく興奮が見え隠れするのは、その「異常」の中に、大英雄モモンが入っているからか……。

 

「……因果が集結してる。やはり、『時は来た』、ということね」

 

ラキュースは、“魔剣キリネイラム”を地面につき立て、風に髪をなびかせながら遠くを見つめていた。風どっから来た?

 

 

 

 

「なんにしても、さっきのヤツがこの洞窟のボスで間違いないだろ! んじゃあお宝でも拝みに行くとするか!」

 

ガガーランは陽気に全員を(うなが)す。

 

「まだ分からない。油断大敵」

 

一応ティアが釘を刺すが、緊張感が(やわ)らいでいるのは否めない。

 

「……いよいよね。いよいよ『その時』が来るのね」

 

ラキュースも乗り気だ(?)。一同は先の通路を進む。

 

狭い通路を抜けると、その先には大きな空間が広がっていた。天井は洞窟の中と思えないほど高く、上手く扱えば〈飛行(フライ)〉さえ戦術に組み込めそうだ。

 

その中央。そこに――

 

「ヨク来タナ。待ッテイタゾ」

 

声は、少女のよう。しかし、硬質な、底冷えのするような殺気を孕んでいる。姿は、一見して小柄。しかし、全身が闇のように黒く、おまけにぼんやりと黒い(もや)までかかっている。輪郭(りんかく)すらぼやけており、姿形(すがたかたち)がはっきりとしない。そんな……

 

――正体不明の、何かが、いた。

 




次、ナザリック視点に変わります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。