俺が勝たせてやんよ!(プロポーズ)
「アルベド、あとでシズに連絡して“蒼の薔薇”用にダンジョンを調整させておいてくれ」
「はい、承りました。細かなご要望はございますか? 必要ならば追い込みますが……」
「基本は普段通りで構わん。ただ、レベル30……は、荷が重いな。レベル25チーム用エリアまで当たらせて、それより上は引かせておけ。途中で撤退されてはかなわん」
「はい。では、レベル25チーム用エリアを抜けたところで、エントマと
「うむ。……いや、待てよ。その前に、
「畏まりました。ではそのように……」
◆
「さて、まずエントマの装備だが――」
アインズはエントマの姿を見回す。和風メイド服というこだわりの逸品だ。某氏曰く、会心作であるとのことだ。
「エントマよ、お前のその装備は、創造主である源次郎さんが、お前のために用意したもの。お前の特性に合わせて、その効果が最大限引き出されるように設計されている」
「はいっ!」
エントマが嬉しそうに返事する。やはり創造主の話となると食いつきが違う。
「このナザリックには、私の仲間たちが作った
ユグドラシルとはそういうところだ。万能の装備など存在しない。あくまで自分の強みを活かす、あるいは弱点を補うよう、選んでカスタマイズするのが基本だ。
「よって、大幅な装備変更はしない」
「はい。了解ですぅ」
勝手にデザインを変えるのも忍びないしな、とアインズは付け加える。エントマも誇らしそうだ。
「ただし、補助効果のある指輪2つ分だけは換えさせてもらうぞ。これは最低限必要だ」
「装備枠」という概念は、この世界でも生きているらしい。同じ指輪スロットに、マジックアイテムを重ねて付けることはできない。アインズのように課金していなければ、左右の手に1つずつだ。
外す指輪は、ひとつは支援系魔法詠唱時の効果増大、もうひとつは精神系魔法への耐性強化だ。源次郎が装備させたのだろうか。汎用的で手堅いチョイスだが、今回の戦闘に限って言えば、外してもさほど影響はない。
「さて、エントマ。お前に装備してもらう指輪のひとつは、これだ。大地系属性への強い耐性を与える
……そう、これが「相手を知る」ということだ。属性特化のエレメンタリストなぞ、結局タネが割れてしまえば対処は
ユグドラシルを長くやっていれば、多種多様な敵への対応を強いられる。ナザリックには、あのクソ運営が出す癖の強いボスに合わせてわざわざ用意した、
なお、大地系属性には宝石、酸、毒、重力も含まれる。実質イビルアイの攻撃手段のほとんどを封じる形だ。
「エントマ、これの良いところはな、奴の魔法が『無効』ではなく、ほぼ『ダメージゼロ』になるところだ。この意味はわかるか?」
「はい。『効いてるフリ』ができる、ということですね?」
「その通りだ」
エントマの答えに、アインズは満足そうに頷く。
かつてのアインズとシャルティアとの戦いは、守護者やプレイアデスの間では語り草となっている。もちろんシャルティアを
「“蒼の薔薇”の情報は既に一通り調べさせている。……有名人とは因果なものだな。装備品はもちろん、今まで人前で使った魔法や
そう言いつつ、アインズは報告書の一つを取り出して、エントマに手渡す。
「それによると、イビルアイで大地系魔法の他に気をつけなければならないのは、第五位階魔法の〈
「もちろんです! やってみせます!」
エントマが元気に答える。というか――
「アインズ様、先ほど『軽減』と
「いや。私の魔法でだな」
「え?」
予想外の回答に、エントマの動きが、はたと止まる。
「エントマ、戦いの直前になったら、私がお前に、ありったけの
「え? ア、アインズ様
「もちろんだとも」
「ふぁっ!?」
意外すぎる展開に、エントマが何やら大変なことになっていた。身体のあちこちがわちゃわちゃしている。大丈夫なのかそれ?
「私も本来はお前と同じ、後衛の支援系
「ふ、ふわあぁぁ~~!!?」
エントマがなんだか地面からちょっと浮いてる。え、それ〈
一方で、向こうで「ガタッ」と音がした。アインズが振り向くと、アルベドがわなわなと震えていた。
「あ、アインズ様! 私にも……その、強化魔法を……!」
「……アルベド。お前の何を、いつ強化するというのだ……?」
アインズが呆れたように言う。
「くっ!? わ、私、今から侵入者の排除に行ってきます! ですから!」
「落ち着け! オーバーキル過ぎるわ!」
「でしたら弱体化魔法ですね!? さあどうぞ!」
「落ち着けぇっ!!」
……アルベドは放置しよう。何やら向こうでブツブツと作戦を考えているのが怖いが……。
「……さて、エントマ。その指輪と私の魔法支援、それだけでお前は充分楽に勝てる。他にも
「? なんなりと」
ここにきて「頼み」と言われたことに首を傾げながら、メイドとしての礼を取る。
「“蒼の薔薇”を全員、生かして帰してやってほしい」
「……畏まりました」
エントマが苦もなくペコリと頭を下げる。……忠誠心が高いというのも困りものだ。これでは、本人の意志が、アインズの一言で全て塗り替えられてしまうではないか……。
「まあ聞くのだエントマよ。私は『頼み』と言ったぞ。盲目的に従わせるのは本意ではない。事情を話すから、その上でお前の正直な感想を聞かせてほしい」
そう前置きし、アインズは“蒼の薔薇”が今後の計画の役に立つこと、殺しては勿体無いことを説明する。
「――そういうわけで、なるべく生かしておきたいのだが……」
「……アインズ様、でしたら、私をこの任からお外し下さい。私はあれらとは面識があります。計画の妨げになるわけには参りません」
エントマは、この執務室に来てからついさっきまでの
「そこでだなエントマ。私はお前に、正体を隠して、連中を追い払うことを頼みたい」
「……え?」
エントマがようやく困惑の表情を見せた。
「実は、お前の正体を隠す方法があるのだ。この指輪を付けてみるが良い」
エントマがまた別の指輪を受け取り、指に
「アインズ様、これは……?」
「それは“
“
……しかし、実のところ、レベル80以上ならたいてい用意している程度の看破系の魔法や
アインズもさっき「あれ? 見た目変わらないな」と思ってはたと気づき、自身の
(ふむ……これがフレーバーテキストの『認識阻害』というやつか。面白いな)
ユグドラシルでは再現できなかった感覚が、この世界では再現されているらしい。真っ黒な状態のエントマを見ていると、頭が少しぼんやりして、その大まかな姿でさえなぜか印象に残らない。アインズは
「オホン……デミウルゴス、説明してやってくれるか?」
「お任せを」
今回の作戦の提案者であるデミウルゴスが引き継いで、幾つか細かな説明を加える。
「――まとめますと、エントマ、あなたがこの任務に就くにあたって、『縛り条件』が二つあります。ひとつは、“蒼の薔薇”を殺さないこと。もうひとつは、“蒼の薔薇”に正体を悟られないこと。よろしいですか?」
「はい」
「その指輪を付けるのはもちろんのこと、以前使ったものと同じ……いえ、正確には、
「……んぅ~……できます! お任せ下さいぃ!」
「良い返事です」
既にエントマの中では戦術を立てているらしい。デミウルゴスも満足そうだ。
「あ~と、エントマ、正体をバラすなとは言ったがな――」
一応、アインズは一言付け加える。
「思わぬ事故で、勘付かれてしまうこともあるかもしれない。お前の能力や手腕に関係なく、偶然というのは起こりうるものだからな。万一、連中に気づかれてしまったら、その時は作戦を『皆殺し』に変更する。たとえ連中が死んでも、代わりのプランならいくらでもあるからな。私はどっちに転ぼうが構わんぞ」
ここまでの流れを全部ひっくり返すようで悪いが、もし仮にこの計画が失敗してもエントマが落ち込まないように、アインズは一応の保険をかけておいた。これはアレだ。「何かあっても俺がケツを持ってやる。とりあえずお前のやれるところまでやってみろ」という「理想の上司」像だ。
……ちなみに、アインズは代わりのプランどころか、メインのプランすら知らない。大丈夫、いざとなっても、あの優秀な二人ならきっと何とかしてくれる。……あれ? これむしろ最低の上司じゃね……? ……そんなアインズの
「アインズ様、ご安心下さい! このエントマ、必ず成功させてご覧に入れます!」
「うむ、期待しているぞ。その……すまないな。成功した場合、お前に約束した、あの娘の声をやることはできんが……」
「いいえぇ! それ以上のものをいただいております! 必ずや、このご恩に報いてみせます!」
ええ子や、とアインズは温かな気持ちになった。
ああ、それと最後に――
「大事なことを言い忘れていたな。前回お前を苦しめた、あのイビルアイのオリジナル魔法。名前は確か……〈
「っ…………」
エントマがキュッと身を固くする。おそらくトラウマなのだろう。天敵魔法だしな。
「はっきりと言おう。それを防ぐ手立てはない」
「……分かっております」
ユグドラシルにおいて、種族特性というのは強固なものだ。それは装備や魔法で安易にカバーできるものではない。アインズ自身、スケルトンメイジ系の特性として炎、神聖、そして打撃という弱点があり、多少細工したところで、そのうちの一つを軽減できるくらいが関の山だ。
「私の支援魔法による能力底上げで、相対的に脅威を減らすことはできるかもしれんが、何より、アレを食らった時点で、お前の種族がバレてしまう。そうなると、連中が何か勘付くことは明白だろうな」
「はい」
その通りだ。そしてそれは「作戦失敗」を意味する。
従って、言えることはただ一つ――
「だから、絶対に食らうな」
◆
作戦説明が終わり、一旦第7階層に戻ったデミウルゴスは――
(アインズ様。このデミウルゴス、少しでもご期待に沿うことができたでしょうか?)
――自らを
(私の提案した内容など、当然アインズ様は見越しておられただろう。あの“蒼の薔薇”を生かしつつも、エントマの屈辱を晴らし、我らシモベの
……人知れず涙する
さあ、捏造とオリジナル設定いっぱいですよ~!
ここが受け入れられるかどうかで分かれると思います。
よろしければそのあたり、ご感想お聞かせ下さい。