ナザリック・ディフェンス   作:犬畜生提督

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<前回のあらすじ>

王大人「“蒼の薔薇”、死亡確認!」



第三章
帝都


『愚かな侵入者よ! ここは譲らんぞ! 〈電撃(ライトニング)〉!』

「やっべ! 〈回避〉!」

 

軽業師(フェンサー)を修めているフェッケヤンは、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の電撃を武技を使ってどうにか(かわ)した。低位の電撃系魔法は速いが直線的だ。放たれる瞬間の予備動作さえ分かれば、回避自体は可能だ。

 

「ふっ!」

 

ミミーニャが弓を引き、特殊技術(スキル)で2本の矢を飛ばす。それらは死者の大魔法使い(エルダーリッチ)に命中し、煙を上げる。(やじり)は純銀製だ。少々お高いがアンデッドに特効がある。

 

『ぐ……〈火球(ファイヤーボール)〉!』

「うわっちっ!」

 

飛んできた火の玉を、ミミーニャは間一髪横っ飛びで回避する。

 

「ぬうんっ!」

 

その隙に、ドヴァービクが聖別されたメイスを振るう。それが死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の防御の薄い脇腹にめり込む。

 

『くそ! まだだ! 〈火球(ファイヤーボール)〉!』

「ぐおぉっ!」

 

ドヴァービクは至近距離からの火の直撃にやられてゴロゴロと転がる。しかし、それほど致命的ではない。このメンバー全員は、今回の戦いの前に一通りの魔法防御をほどこしているからだ。〈火属性防御(プロテクションエナジー・ファイヤー)〉、〈電気属性防御(プロテクションエナジー・エレクトリシティ)〉、〈対悪防御(アンチイービル・プロテクション)〉などだ。加えて前衛職には、〈下級筋力増大(レッサー・ストレングス)〉、〈下級敏捷力増大(レッサー・デクスタリティ)〉もかけている。そう、この戦闘は遭遇戦ではない。あらかじめ死者の大魔法使い(エルダーリッチ)と戦うと知っていたからこその事前準備だ。

 

「〈聖なる光線(ホーリーレイ)〉!」

 

今度は魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるマルシェからの対アンデッド特効魔法が突き刺さる。

 

『煩わしい! 〈電撃(ライトニング)〉!』

()っ!」

 

電撃を受けて、マルシェが片膝をつく。死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の恐ろしいところは、その魔法の連射性能にある。もとより魔法とは回避が困難なものだ。魔法そのものを封じるか、ダメージ軽減の備えがないと厳しい。

 

しかしながら、この4対1という多勢に無勢の状況は、相手の体力の低さという弱点を突く形となった。結果――

 

「これで終わりだっ! 〈双剣斬撃〉!」

 

3人による交互の攻撃の合間に後ろに回り込んだフェッケヤンは、2本の剣により死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の首を刈り取った。

 

ゴトリ、と、敗者の首は無残に地面に落ち、頭を失った本体は倒れ込む。そして、断面から凄まじい勢いで最期の負のエネルギーを消失させてゆく……。

 

しかし、首だけとなったそのアンデッドの顔は、消滅の間際、渾身の叫びを発した。

 

『おのれ! (にっく)き侵入者どもめ! 取らせはせんぞ! 我らが守りし四秘宝! 「どんな強大なアンデッドをも消滅させる剣」! 「死の騎士(デス・ナイト)の軍勢すら意のままに操る宝玉」! 「どんな呪いも解く短杖(ワンド)」! ……あ、あと、「ハゲを治す薬」!』

 

断末魔の形相でそう叫び、その死者の大魔法使い(エルダーリッチ)は消えていった……。

 

 

 

 

「――以上が、お、私達が体験したことです」

 

バハルス帝国帝都アーウィンタール、その皇城の謁見の間で、皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、深く目を閉じ、眉間に手を当てていた……。

 

「…………」

 

ワーカーチーム“ブフォッサイド”のリーダー、フェッケヤンは、何一つ覚えのない皇城での礼儀作法に戸惑いながら、どうにか皇帝陛下へ自らの経験談を語っていた。……それにしても、場違いも良いところだ。4人ともワーカーなりに身なりを整えて一張羅を着込んで来てはいるが、その精一杯頑張った姿がむしろ痛々しい。

 

……そもそも、こんなことになった事の発端は、わりとしょうもない依頼だった――。

 

『帝都の地下水路から妙な(うめ)き声がする。原因を調べてほしい』

 

……という、もはや便利屋以外の何物でもない依頼を受けて、メンバーは糊口(ここう)(しの)ぐためやむなし、と嫌々ながらも調査を開始した。ところが、調査の結果驚くべきことに、地下水路の一角には死者の大魔法使い(エルダーリッチ)が住み着いていたのだ。

 

一同は準備を整え、これをどうにか討伐したところ、先ほどのような意味不明な辞世の句を聞くこととなった、といういきさつだ。まあ一応、依頼主に事の顛末(てんまつ)を報告しつつ、自分達も話のタネにと酒場で吹聴して回っていたところ、ある日突然、皇帝の使者を名乗る役人がやってきた。それで「皇帝が直に会って話を聞くことを望んでいる」などと眉唾なことを言われ、見たこともない豪華な馬車に乗せられて、あっという間に今に至るのである。現皇帝は「鮮血帝」の二つ名にふさわしく苛烈で実利主義だとは聞いていたが、まさかここまで破天荒だとは……と、“ブフォッサイド”の一行も面食らっていた。

 

「……すまないが、もう一度言ってくれるか? 特にその、四秘宝とやらのところを」

「アッハイ」

 

半ば挙動不審で、フェッケヤンは再度記憶をなぞる。

 

「えっと……確かこう言ったんです。『取らせはせんぞ! 我らが守りし四秘宝! 「どんな強大なアンデッドをも消滅させる剣」! 「死の騎士(デス・ナイト)の軍勢すら意のままに操る宝玉」! 「どんな呪いも解く短杖(ワンド)」! ……あ、あと、「ハゲを治す薬」!』」

 

「……………………」

 

ジルクニフは額に手を当てて、眉間の皺を更に深くした。

 

「……情報提供ご苦労だった。褒美を取らすから、もう帰っていいぞ」

「は、はぁ……」

 

機嫌の悪そうな皇帝の言葉に怯えつつ、どうにも腑に落ちないフェッケヤンは、そんな気の抜けた返事を返してしまう。それがまたジルクニフを不機嫌にさせる。

 

「おい、客人がお帰りだ。案内してやれ」

「ハッ」

「えっ? あ……」

 

近衛兵を促してとっとと退散させる。正直、さっきの四秘宝とやらの話で「……あ、あと」の部分まできっちり繰り返したのにはイラッとした。ぶっちゃけもう顔も見たくない。だいたいなんだ、そのうっかり発言で無礼討ちされそうな地雷ヅラは。名前ふざけてんのか殺すぞ。

 

「……ふぅ」

 

ジルクニフは椅子に沈み込むと、深い溜息をついた。

 

彼の現在の立場は、魔導国属国であるバハルス帝国を預かる元首でしかない。しかし、そのまま「帝国」の「皇帝」を名乗り、在位し続けることは許された。まるで、そんな人間の国の些事など意に介さないとばかりに……。

 

(馬鹿にしてるのか、あの骨!!)

 

思わず心の中で悪態をついた。

 

「あの噂、本当に出処(でどころ)あったんですかい」

 

傍らに控えていた帝国三騎士――以前は四騎士だった――の一人、「雷光」のバジウッド・ペシュメルは、呑気にそう言った。

 

「まあ、実際にただの噂話だけでは済まん調査結果も出ているしな」

 

ジルクニフがそう返す。

 

「……と、言いますと?」

「騎士達に、例の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)が出た辺りを調べさせた。すると、そこから地下へと続く隠し階段が見つかって、その下は未知の大迷宮が広がっていたそうだ。アンデッド付きでな……」

「へっ?」

 

バジウッドが間抜けな声を発する。

 

「ほ、本当ですか陛下? しかし、そんなこと、今まで誰も……」

 

三騎士のもう一人、「激風」のニンブル・アーク・デイル・アノックは、信じられないという表情を見せた。

 

「そうだ。帝都の民も誰一人として知らなかった。普通に考えてありえん」

 

帝国の歴史は浅く、建国から200年も経っていない。この帝都についても、魔神が暴れた後の更地に実質一から建設したようなものであり、都市計画の図面もしっかりと保管されている。当然ながら、そこにそのような地下迷宮の情報など存在しない。もしそんなものがはじめからあれば、地下水路を建設する時に気づかないわけがない。そもそも――

 

「我々の足元に地下迷宮だと? アンデッドが蔓延(はびこ)っているだと? 馬鹿も休み休み言え! ゴホン……と、なるな」

 

少しだけ気持ちが入り過ぎたジルクニフは、軽く咳払いして調子を取り戻す。

 

「で、でも、現にあるんですわよね、迷宮が! でしたら、その四秘宝とやらも……」

 

思わず焦り気味に口を挟んだのは、三騎士の最後の一人、「重爆」のレイナース・ロックブルズである。

 

「レイナース、お前がなぜ必死なのか分かるぞ。少しは隠せ」

「今更隠すことなどありませんわ。だって――」

「まあ聞け」

 

ジルクニフはレイナースを皇帝の威厳で(さえぎ)る。

 

「レイナース、ひとつ良い事を教えてやろう。他人を思い通りに動かすための、一番効果的な方法は何だと思う? それはな、そいつが一番欲しいものを、一番欲しい時にぶら下げてやることだ」

「ぅ…………」

 

色々と思い当たるところがありすぎるレイナースは、思わず沈黙する。

 

「……つまり陛下は、こう思われているわけですね? その四秘宝とやらも、よく分かりませんが迷宮とやらも、あの魔導王陛下のわ……お戯れである、と」

「……それしか考えられんだろう。何だこの……魔導王陛下に危険が及びそうなラインナップは」

 

ニンブルは、「罠」と言いかけて言い直した。返すジルクニフは、本音である「自分に都合の良すぎるラインナップ」を言い換えた。

 

……実のところ、今となってはこの謁見の間にいる全員が、帝都皇城は魔導王の配下の者に監視されていると踏んでいる。この会話もきっと聞かれているはずだ。不用意な言葉には注意だ。叛意(はんい)は重罪、悪口陰口は御法度(ごはっと)である。

 

……かと言って、何もしなければいいというものではない。自分達が優秀であることを証明してみせなくてはならない。「無能なニンゲンどもめ。お前ら全員の首を、我が直属の配下にすげ替えてくれる」……などと言い渡されないためにも……。

 

「陛下。他はともかく、3番目の『どんな呪いも解く短杖(ワンド)』というのは、危険ではありませんわ。探す価値があるのではありませんこと?」

「ふ……(わら)にも(すが)る思い、というやつだな。そんな調子だと、相手の思うつぼだぞレイナース」

 

もともとレイナースはそのあたり明け透けだったが、帝国が属国化してからというもの、随分と露骨に吹っ切れた気がする。だからこそ、ジルクニフは()(いさ)めた。

 

「……にしても陛下、この帝都の地下に迷宮を作るなんてこたあ、いかに魔導王陛下であってもできますかね? 俺らの真下ですぜ。んなとこでカンコン建設してたってんですかね? 一体いつから?」

「む……」

 

バジウッドの言葉に少し詰まる。それについては、ジルクニフも疑問に思っていた。調査隊の話によると、地下のそれは大迷宮とも呼ぶべき奥深さであると推測できるらしい。基本石造りの素材は、不思議な魔法の力で加工の年代すら読めず、ところどころに精緻な装飾まで施されているそうだ。

 

そんなものを短期間で、地上の誰にも気づかれることなく作ることなどできるだろうか? 何かを創造するというのは、破壊するのとはまるでわけが違う。人手が要り、時間が要り、資材が要り、道具が要り、頻繁な運び入れと運び出しが要る。それを誰にも気づかれずに成し遂げることなど、人間の常識では不可能だ。

 

(あのナザリック地下大墳墓にいた異形どもと、アインズ・ウール・ゴウンのとんでもなく高度な未知の魔法があれば、可能なのだろうか?)

 

ジルクニフ思案する。こういうとき、今までならフールーダが相談に乗ってくれた。だが、あの爺は帝国が属国化するやいなや、魔導王に弟子入りしたことを(はばか)らず公言し、しれっと研究を続けている。全くもって腹立たしい。なまじ帝国最強であるがゆえに、(ちゅう)することなど叶わぬところが余計に。

 

「陛下、もし仮に、ですよ? その迷宮と四秘宝とやらが、魔導王陛下と全く関係なく、もとからこの帝都地下に眠っていたのだとしたら……?」

 

ニンブルが仮定の話を持ち出す。

 

「…………」

 

ジルクニフは、ありえないと思いつつも想像してみた。

 

この帝都の地下には、どういう仕組みでか誰にも知られることなく、本当に秘宝が眠っていた、と仮定しよう。それは、ともすればあの死の騎士(デス・ナイト)軍団の支配権を奪い、そしてあの不死の王、アインズ・ウール・ゴウンを滅することができたかも知れない、究極の対魔導国用兵器だ。このようなこと、ただの偶然などでは説明がつかない。それはあたかも、神がこの未来を完璧に見越して、人類のために(あつら)えたかのような奇跡……。しかし、だとすると、皇帝ジルクニフは――人類は、それを手にするどころか存在に気付くことすらなく、今こうして後塵(こうじん)を拝している、ということになる。

 

(なんだそれは? どんな神のいたずらだ!? あれか、私の信心が足りなかったとでも言うのか?)

 

確かにジルクニフは、今まで信仰などという益体(やくたい)のないものに頼らず、自らの力で人事を尽くしてきた。しかし、その結果の神の采配がこれでは、あんまりではないか。

 

(……いや、待てよ? 今からでも遅くはない……か)

 

……そうだ。属国と成り果て、奴に(こうべ)を垂れている今だからこそ、あの魔導王の油断を誘えるのではないか? よく物語にもあるではないか。圧倒的な力を持った魔物を、味方のふりをして気持ちよく酒に酔わせ、討ち取ったという逸話が。我ら帝国がどうにかして先んじてその秘宝を手にし、機会を窺って、その神の剣とやらをあの澄ました骨野郎の喉笛に……!

 

……と、そこまで考えて、ジルクニフは(かぶり)を振った。

 

(……馬鹿か私は。何を考えているのだ。こんなもの、ただの願望から出た妄想だ。そもそも、この話も奴に筒抜けなはずではないか……)

 

ジルクニフは再度「ふぅ」と小さく溜息をつき――

 

「いずれにせよ、その内容が魔導王陛下を(おびや)かす要素を含むのなら、我らの忠誠を示すためにも、素直に報告すべきであろう。その死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の話と地下迷宮の調査結果をまとめて、魔導国に報告するとしよう」

 

――現状で最善と思われる対応、すなわち安全策を取ることを決めた。

 

(夢を見るのはよせジルクニフ。どうせ奴の悪趣味な悪戯(いたずら)に決まっている。狙いはこちらの叛心(はんしん)を揺さぶることか? だとしたら浅はかだぞアインズ・ウール・ゴウン。あまり人間を舐めてくれるな!)

 

希望を捨てたジルクニフは、冷静だった。

 

……しかし、本人の意志とは無関係に、一度浮かんでしまった「もしかしたら……」という想いは、後ろ髪の先で静かに(くすぶ)り続けるのだった……。

 

なお、4番目の秘宝について言及した者は誰もいない。

 




?「茶番だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

ごめんなさいごめんなさい。
違うんですアンチ・ヘイトとかじゃないんです。
オリキャラ考えるのが苦手なだけなんです。
フォーサイト大好きなんで2Pキャラとして使いたかっただけなんです……。
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